20 / 49
第1部
10
しおりを挟む
今日はイーサン様と遠乗りに行く日。
お兄様はアグネス様とデートという事で、イーサン様と2人で行く事になった。
2人でももちろん良いと言ったけど、流石にちょっと緊張するわね……。
髪はサイドだけまとめて、白のブラウスに紺色のパンツを合わせ、乗馬用の黒ブーツに着替えて部屋で待っていると、時間ぴったりにイーサン様の来訪をメイドが告げる。
エントランスに行くと、白いシャツにベージュのベストとパンツに黒のブーツを履いたイーサン様が立っていた。
わぁ、ベストだと逞しい胸筋が際立つわね。素敵だわ。
「……アイシャ、おはよう……では、行こうか」
そう言ってドアに向かったイーサン様の、後ろの毛がピョンと立っている。寝癖?
「ふふっ、イーサン様、髪の毛が……」
イーサン様はさっと後ろを手で押さえて
「ああ……、実は、今日は寝坊してしまって。
バタバタしていたから、その……、昨日、今日の事を考えて緊張して寝れなくなってしまったんだ」と顔を赤くしている。
もう1人お兄様ができたような気がしていたけど、なんだか、イーサン様を可愛いと思ってしまう。
「ふふっ、私も緊張してました。同じですね」 と微笑むと、イーサン様も
「そうか……」と照れ笑いしている。
そして2人それぞれの愛馬に乗って出発。
レーゲンブルクは春の国だが花の咲く時期はそれぞれあって、今日はイーサン様おすすめのネモフィラの花畑まで行ってみることにした。
イクラに乗って小一時間ほど走らせると、眼下に一面が青に染まった花畑が現れた。
「うわあ……、すごく綺麗ね、イクラ」
愛馬から降りてたてがみを撫でながら周りを見渡す。
空の青と溶け合って、本当に美しい。
人は少ないが、やはりネモフィラを見に家族連れなどがチラホラといた。
「前にオリバーと遠乗りした時にこの場所を見つけてね。
オリバーはあまり花に興味がなくてさっさと馬に乗ってしまったんだが、機会があればまた見たいと思っていて…君と来れて良かった」
「まあ、お兄様ったら、この景色を見て何とも思わないのかしら。本当に綺麗ですわ。
連れてきていただいて、ありがとうございます!」
そう言うと、イーサン様は静かに笑った。
2人で花畑を散策していると、服装からして平民かしら、家族連れが来ていて、明らかに前を見ていない男の子が走り回り、イーサン様にぶつかってしまった。
「あっ!」
「ぼうや、大丈夫か?」
イーサン様は屈んで尻餅をついた男の子を起こしてあげる。
「うん、大丈夫!
…うわあ、お兄さん、背が高いねぇ、そのくらい高ければ向こうまでお花が見えるかなあ」
イーサン様は微笑んで、
「どうだろう?見てみるか?」
そう言ってその子の家族に抱っこしてよいか了解をもらってから、男の子を肩車した。
「うわあ!遠くまで見える!
お花畑の先まで見えるよ!」
「そうか、良かったな」
しばらくその子を肩車している間、わたしは男の子の妹が落ちたネモフィラを拾って花束にしているのに気付き、
「綺麗ね。良かったら、花冠を作ってみない?」
と話しかけ、一緒に作ってみた。
花冠を作るのは久しぶりだけど手が覚えていた感じ。
よし、可愛くできた花冠を女の子に被せてあげる。
「うん!すっごく似合う!可愛いわ」
女の子は照れ笑いする。
「お姉ちゃん、作り方、教えて!」
「いいわよ!葉っぱをこうやって…」
女の子は一生懸命作った花冠を、私に被せた。
「お姉ちゃん、きれーい!お姫様みたい!」
「ほんと?ありがとう」
2人で微笑みあっていると、イーサン様達が近づいてきた。
「お姉ちゃん、俺の花嫁になってよ!」
男の子から顔を真っ赤にプロポーズされてしまい、
「え~っ、どうしようかなあ」
とふざけていると、イーサン様はボーっとこちらを見ている。
「イーサン様?」
と声をかけるとイーサン様はハッとして男の子に向き直り、
「あ、ああ、ほら、お父さんお母さんが手招きしてるぞ、戻った方がいい」
と2人に言う。
男の子は渋っていたが、
「じゃあね…お兄ちゃんお姉ちゃん、ありがとう」
女の子も
「ありがとう、バイバイ!」
と手を振りながら両親の元へ行き、両親はこちらにお辞儀をして去って行った。
「…可愛い子達だな」
「ええ、本当に、人懐こくて可愛いですね」
頷きながら、イーサン様は子供が好きなのね、とても優しい目をしてたわ、とイーサン様のちょっと意外な一面をみたような気になった。
それから花畑の近くにあるガゼボで、持参したランチボックスで食事をした。
私はデザートでまた自家製のタルト・タタンを持ってきたので食後のコーヒーとともにいただく。
まだタルト・タタンしか作れないのよね。
イーサン様も喜んでくれるし、もう少しレパートリーを広げよう。
食事の後また少し散策をして、お互いの馬に乗り帰途に着く。
楽しい時間はあっという間ね。
家までご一緒してくれたイーサン様は、私が作ったネモフィラの花冠をくれないかと言う。
少し萎れてきてるけどネモフィラ、好きなのね。
もちろんOKして花冠を差し上げる。
そして帰り際、また出かけよう、今度はカフェでも、と少し照れたように微笑んで、馬に乗り去って行った。
私は別れた後も、イーサン様のはねた髪、子供と遊ぶ柔らかい笑顔を思い浮かべ、1人微笑んでしまった
お兄様はアグネス様とデートという事で、イーサン様と2人で行く事になった。
2人でももちろん良いと言ったけど、流石にちょっと緊張するわね……。
髪はサイドだけまとめて、白のブラウスに紺色のパンツを合わせ、乗馬用の黒ブーツに着替えて部屋で待っていると、時間ぴったりにイーサン様の来訪をメイドが告げる。
エントランスに行くと、白いシャツにベージュのベストとパンツに黒のブーツを履いたイーサン様が立っていた。
わぁ、ベストだと逞しい胸筋が際立つわね。素敵だわ。
「……アイシャ、おはよう……では、行こうか」
そう言ってドアに向かったイーサン様の、後ろの毛がピョンと立っている。寝癖?
「ふふっ、イーサン様、髪の毛が……」
イーサン様はさっと後ろを手で押さえて
「ああ……、実は、今日は寝坊してしまって。
バタバタしていたから、その……、昨日、今日の事を考えて緊張して寝れなくなってしまったんだ」と顔を赤くしている。
もう1人お兄様ができたような気がしていたけど、なんだか、イーサン様を可愛いと思ってしまう。
「ふふっ、私も緊張してました。同じですね」 と微笑むと、イーサン様も
「そうか……」と照れ笑いしている。
そして2人それぞれの愛馬に乗って出発。
レーゲンブルクは春の国だが花の咲く時期はそれぞれあって、今日はイーサン様おすすめのネモフィラの花畑まで行ってみることにした。
イクラに乗って小一時間ほど走らせると、眼下に一面が青に染まった花畑が現れた。
「うわあ……、すごく綺麗ね、イクラ」
愛馬から降りてたてがみを撫でながら周りを見渡す。
空の青と溶け合って、本当に美しい。
人は少ないが、やはりネモフィラを見に家族連れなどがチラホラといた。
「前にオリバーと遠乗りした時にこの場所を見つけてね。
オリバーはあまり花に興味がなくてさっさと馬に乗ってしまったんだが、機会があればまた見たいと思っていて…君と来れて良かった」
「まあ、お兄様ったら、この景色を見て何とも思わないのかしら。本当に綺麗ですわ。
連れてきていただいて、ありがとうございます!」
そう言うと、イーサン様は静かに笑った。
2人で花畑を散策していると、服装からして平民かしら、家族連れが来ていて、明らかに前を見ていない男の子が走り回り、イーサン様にぶつかってしまった。
「あっ!」
「ぼうや、大丈夫か?」
イーサン様は屈んで尻餅をついた男の子を起こしてあげる。
「うん、大丈夫!
…うわあ、お兄さん、背が高いねぇ、そのくらい高ければ向こうまでお花が見えるかなあ」
イーサン様は微笑んで、
「どうだろう?見てみるか?」
そう言ってその子の家族に抱っこしてよいか了解をもらってから、男の子を肩車した。
「うわあ!遠くまで見える!
お花畑の先まで見えるよ!」
「そうか、良かったな」
しばらくその子を肩車している間、わたしは男の子の妹が落ちたネモフィラを拾って花束にしているのに気付き、
「綺麗ね。良かったら、花冠を作ってみない?」
と話しかけ、一緒に作ってみた。
花冠を作るのは久しぶりだけど手が覚えていた感じ。
よし、可愛くできた花冠を女の子に被せてあげる。
「うん!すっごく似合う!可愛いわ」
女の子は照れ笑いする。
「お姉ちゃん、作り方、教えて!」
「いいわよ!葉っぱをこうやって…」
女の子は一生懸命作った花冠を、私に被せた。
「お姉ちゃん、きれーい!お姫様みたい!」
「ほんと?ありがとう」
2人で微笑みあっていると、イーサン様達が近づいてきた。
「お姉ちゃん、俺の花嫁になってよ!」
男の子から顔を真っ赤にプロポーズされてしまい、
「え~っ、どうしようかなあ」
とふざけていると、イーサン様はボーっとこちらを見ている。
「イーサン様?」
と声をかけるとイーサン様はハッとして男の子に向き直り、
「あ、ああ、ほら、お父さんお母さんが手招きしてるぞ、戻った方がいい」
と2人に言う。
男の子は渋っていたが、
「じゃあね…お兄ちゃんお姉ちゃん、ありがとう」
女の子も
「ありがとう、バイバイ!」
と手を振りながら両親の元へ行き、両親はこちらにお辞儀をして去って行った。
「…可愛い子達だな」
「ええ、本当に、人懐こくて可愛いですね」
頷きながら、イーサン様は子供が好きなのね、とても優しい目をしてたわ、とイーサン様のちょっと意外な一面をみたような気になった。
それから花畑の近くにあるガゼボで、持参したランチボックスで食事をした。
私はデザートでまた自家製のタルト・タタンを持ってきたので食後のコーヒーとともにいただく。
まだタルト・タタンしか作れないのよね。
イーサン様も喜んでくれるし、もう少しレパートリーを広げよう。
食事の後また少し散策をして、お互いの馬に乗り帰途に着く。
楽しい時間はあっという間ね。
家までご一緒してくれたイーサン様は、私が作ったネモフィラの花冠をくれないかと言う。
少し萎れてきてるけどネモフィラ、好きなのね。
もちろんOKして花冠を差し上げる。
そして帰り際、また出かけよう、今度はカフェでも、と少し照れたように微笑んで、馬に乗り去って行った。
私は別れた後も、イーサン様のはねた髪、子供と遊ぶ柔らかい笑顔を思い浮かべ、1人微笑んでしまった
29
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる