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しおりを挟むそこまで記憶を辿ったところで、俺はやっと起き上がりのろのろと歩き始めた。
石原さんからの指名はなくなったけど、俺が「shock」の一番人気なのは変わらなかった。
固定のロング指名がなくなった分新規の客が増え、新しいリピーターも増えていった。
その中の一人、暖くん。
「やっと指名できた。
なかなか予約がとれなくて」
と笑う彼は、キリッとした眉に二重の綺麗な目のかっこいい人だった。
まさに俺の理想のタイプ。
そんな彼が俺をHPで見て
「美人だなぁと思って、凄く会いたかった。実際見てそれ以上。
こんなに白くて綺麗な肌だと思わなかった」と俺に近づいて優しくキスをした。
暖くんはすらっとして背も高くて細くて筋肉質、それも俺の理想通り。
セックスも凄く丁寧で、俺は彼が気に入ったし彼も俺が良かったみたい。
暖くんは大手の自動車会社に勤める26歳の会社員だった。
彼の平社員の給料では店に来れても月二回くらいだったみたいだけど、短い時間でも俺たちは仲を深めていって、3ヶ月くらいしたら俺に
「律、俺の恋人になって」って言ってくれた。
「俺なんかでいいの?」
「律しかいらない。
…俺と一緒に住もう、律。
俺、出世してもっと金貯めるから」
俺も暖くんに正直惚れていたけど、ウリ専の俺には暖くんは勿体ないと思っていた。
だからこの言葉が嬉しくて嬉しくて、俺は暖くんに抱きついてOKしたのだった。
すぐにでも店を辞めようと思ったけど、これしかまとも?な職に就いたことのない俺はなかなか踏ん切りがつかず、少しずつ頻度を減らしながら新しい仕事を探そうと思った。
暖くんは辞めても辞めなくてもどちらでもいいって。
俺はオーナーに渋い顔をされたけど、出勤する日を徐々に減らしていった。
俺が早く上がれる日は、店の前のコンビニで待ってもらって暖くんの家へ行く。
暖くんは土日が休みで、平日は夜遅くまで働いていた。
暖くんはゲイよりのバイだけどゲイばれするのは凄く嫌がっていたので、デートらしいデートはせずたまに二人休みが合うと、ずっと暖くんの家でイチャイチャしていた。
外に出たい時もあったけど、暖くんと一緒にいれるだけで俺は幸せだった。
そんな時、指名客を減らしたせいか、俺に嫌がらせの無言電話がくるようになった。
店や携帯にまで、携帯なんて本当に店の人と暖くんくらいしか知らないと思うのにどこでバレたのか。
俺は慌てて携帯を変えて、後は、まあまだ嫌がらせはあったけど、ほとんど気にせずに暖くんと一緒にいれる幸せを噛み締めていた。
…それが20歳くらいの時で、それから…?
それから先が出てこない。
「あ~っ、なんだよ、もう!」
俺はとぼとぼと歩きながら頭を掻く。
少なくとも2年前、俺には暖くんという恋人がいた。
俺の好みど真ん中の鼻筋の通った端正な美形の彼。
彼の家でくっつきながら映画を見るのが大好きだった。
彼とはその後どうなったのだろうか。
そして、颯真とはいつ出会った?
…というか、本当につきあってた?
もしかして、暖くんが俺のことを探してるかもしれない…?
俺はしばらくその場で立ち尽くし、それでも今は颯真のところに帰るしかない、と足取り重く帰途に着いたのだった。
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