貴方が呼んでくれるから

ツナコ

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 目が覚めたらそこは白い部屋だった。

 キョロキョロと目だけ動かして観察すると、俺以外の気配は感じない。 

 白いベッド、仕切りのカーテン、多分病院…かな…。

 「う……」あ、なんか頭が少し痛い。

 起きあがろうとすると、ドアが開き医師らしき男性、看護師達がワラワラと入ってきた。

 「目が覚めましたね、河合さん」

 医師達が俺の体を隅々までチェックしていく。

 次にいろいろと質問されてから、少し時間を置いてまた先ほどの医師、そしてその後ろにスーツを着た男性がいた。

 がっしりとした体のその男性が誰か分からなかったが、医師とその男は病室の椅子に座り、医師が話しはじめる。

 「河合 律さん、あなたはビルの階段から足を踏み外し転げ落ちたようです。
 この病院に運びこまれたのが昨日でした。
 踏み外したことは記憶にありますか?」

 「…いいえ」

 全く覚えていない。

 「河合さん、驚かずに聞いて欲しいのですが、あなたの記憶は18歳から22歳の4年間分、失われているようです。
 今、あなたは22歳なのです」

 「は?!」

 医師の言った通り、鏡を見ると明らかに18の頃より年をとった顔があった。

 そして、俺の記憶も18歳で養護施設を出た後の記憶がない。

 記憶障害は脳への衝撃などが原因らしいが、医師は短期で思い出すこともあるので、と励ました。

 その他もっと詳しく調べるので、3日ほど検査入院することになった。

 「…それで、ご家族の方へ連絡を、と思ったのですが、河合さん、ご家族は…」

 「…家族はいません。
 児童養護施設にいたので…」

 「なるほど。それでは…」

 「私が彼の身元引受人になります」

 ん?見ればさっきのスーツの男だ。

 「よろしいのですか?」

 「はい、…私は彼のパートナーなので、全て面倒をみます。
 …彼は今は思い出せないでしょうが」

 パートナー??

 それを聞いて医師は
 「そ、そうですか。
 看護師には聞いておりましたが、では今後のことは…、ええと…」

 「藤田と申します」
 
 その男と医師が話し始めるのを聞きながら、俺の頭は混乱していた。

 誰?

 俺のパートナーって?

 パートナーって、その、恋人みたいな?

 嘘、確かに俺は女より男に興味はあったけど、実際につきあった経験はなかった。

 この4年で何があった俺?

    それも…俺はチラッとその 藤田という男を見た。

    かなり背が高くガタイがいい。

     顔は恐ろしく整っていて、黒髪をオールバックにし出来る大人の男、という感じだ。

 でも、少なくとも俺のタイプじゃないんだよな…、俺のタイプは茶髪のふわっとした感じの甘い端正な顔だ。

 22歳の俺はこういう男が好きなのか。

 どうやって知り合ったんだろ…、などとモヤモヤと考えていると、やがて2人は立ち上がり、彼は俺を見やって、

 「明日は来れないから明後日また来るぞ。
 …じゃあな、律」

 と去っていった。

 検査入院ということで3日間の入院となったが、何故か1人用の立派な個室に移動する。

 お金が心配だったが看護師はもう支払い済みだと言う。

 あの男が支払った?

 心電図や超音波検査などを進めながら、なんとか6年間の記憶を取り戻そうとしたがダメだった。

 何も思い出せない。。。



 次の日は1人病室のベッドで横になっていた。

 あの男以外誰も訪ねてこないか。

 そうだよな、俺に友達なんて…。

 俺は捨て子で、両親の顔を知らず養護施設で育った。

 苗字は俺が見つかった地区の河合、名前は施設長がつけてくれた。

 律、意味はよく分からない。

 施設自体は歳の近い子も多く、それは良かったが、施設の職員に目をつけられた。

 俺は色素の薄い茶色の髪と目で、体も細く可愛いくて女の子みたいって言われてた。

 今じゃ180くらいまで背は伸びたけど細いのは変わらない。

 中学生くらいになって、急に女の子からモテ始めた、施設の女からも。 

 中1の時、平日風邪を引いて休んだ2日目、日中に施設の女が部屋に来て、女の体に興味があるか、と俺の前で裸になってのしかかられた。

 俺はただただ怖かった。

 女の口淫で初めて精通してしまい、それからは俺が1人の時を狙いやってきて、ついに俺は童貞を奪われてしまった。。

 うちの施設の職員は女ばかりで、年寄りの施設長と用務員だけが男。

 拒否すると、施設の子供達にバラすと言われて、周りにどんな目で見られるが怖くてたまらなくて、ずるずると高校に入ってからもその行為は続いた。

 自分がすごく汚らしい生き物に思えて、俺は周りの友達からも距離を置くようになって、高校を卒業してすぐに飛び出すように施設を出た…。

 そこまでは覚えているのだが、その後の記憶がぷっつりと途切れてる。

 …俺は何をしてて、どうやってあの男とパートナーに?

 そして階段から落ちたってなんで??

 疑問が頭の中を駆け巡り、なかなか眠りに落ちることができなかった。
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