世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

救出作戦

裕太戦 15

その時隣の会場からハクが彼に問いかけたーー
「君はそれでいいのか？」
ボルダ「……」
ハク「君が友と呼んだ裕太の存在はそこらへんに居る生命体なのか」
「もう生きる意味は知った……」
ハク「知った所で意味はない」
ボルダ「……」
「どう言う意味だ」
ハク「闘いの中で何を知った」
「意味をだ」
ハク「お前は自分で考え向き合い知った意味を理解したから知った
と言った、だけど意味に意味はない」
「……我を愚弄するか、その言葉の意味は我と戦った貴様の友である
者も侮辱すると解釈する」
ハク「知った意味は行動にする事で初めて意味を成す、そのくだら
ないプライドや責任感とお前が闘い、感じ、知った意味はどちらが
尊い」
「……」
ハク「たった生命体である一つの人生を賭けた闘いに貴方は何を賭
けた、裕太は何を賭けお前は何を賭けた」
「……」
ハク「その拳を振り下ろす事でお前は闘い気づいた物を全て壊し意
味の無い意味を抱えその生涯を終える」
「引けと？」
ハク「答えなんて自分で出すものだ」
グリマンは振り上げた拳のまま暫し動かず居た、裕太もまた目を閉
じその行末の運命に従うのだった。

そして静かに呟いた……
グリマン「聞こえているか……独り言だ、黙って聞け、貴殿に感謝
する、何度でも言おう、星に降り立ち置いて行かれた我は最早弱っ
た人類の侵略に絶望しか無かった……戦いの中で生きた我の人生は
全て終わったと思った、幾つ魂を巡ろうが肉体を交換しその体を巡
り巡らそうが弱りきった人類をただ破壊する虚しい感情にただ怒り
ただ生きるのみであった、生きている実感は無かった……そんな混
沌の世界しかもう無いと思い込んでいた、だがどうだ、この世界を
知ってしまったからにはそう表現するしか表現しようがない、我に
力を与え我もまた主に力を与える、終わりなき力の創作、発見、孤
独、生きる事の純粋さが溢れ出るこの世界をお前は与えてくれた。

裕太「僕も同じだよ、同じ世界で2人で居たからわかるよね……」
ボルダ「あぁわかるさ」
瞳輝く2人の目は混沌の殺戮だけに見えた闘いの本質を変えた。
ボルダ「これが戦いか……いや闘いと言うべきだな」
裕太「争い戦う事だけが戦いじゃない、人は……いや生命はそう
やって生きながらえてきた、いや長らえたという事ではなく進化の
勝利の争い上に成り立つ『今』だと僕も思っていた」
ボルダ「理解した……」
「それは退化の証、争い戦わず闘う、それは己に対してかも知れぬ
他人とこうやって闘うには意味がある、だが戦いに於いて悪意は戦
う者同士は本来なき物であり、戦いの中で憎悪は生まれ、その憎悪
は主である者や組織、国の政治の意思により植え付けられ意思なき
戦いは悪意として意味を生み出し、そして増幅していく中で生まれ
育っていく、だが闘いは己の中の尊厳や譲れぬものの為に闘い、
そして昇華して行き育むものが闘い、前者は迷いを生みあらゆる複
合する意味は広がり様々な言い訳を生み最後は命を心をも破壊する
だが後者は迷いを取り去り意味は迷う選択を明確に明瞭に少なくし
ていき最後は心を生かす」
裕太「決して意思なき国や星同士が争う戦争と言う暴力が前提とす
る戦いとは似て非なるものなんだね」
再び目を閉じると裕太も最後に呟いた。
裕太「……君の選択を僕は尊重する」
　暫し目を閉じるボルダの眉が苦痛に歪み静かに振り上げた拳に力
を込めたのだった。
ボルダ「……すまぬ」
裕太「いいんだ」
ハクの口からもう言葉が出る事はなかった。

　啜り泣く声が辺りから聞こえ始めると同時に少し以前より吹き始
めた風が強く音を立て始めた。

　純衣の頬に涙が滴り落ち、誠が純衣の肩に手を優しく添えると会
場を背にその場を離れたのだった、ヒロはじっと会場を見つめヌク
もその場を見る事もなく姿を消したのだった。