世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

しおじろう

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救出作戦

裕太戦 ⑤

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その頃、来栖達も時を同じくして行動に出ていた。
来栖「中馬お前が指揮を取れ、時間は奴が稼いでくれている、部隊
を分けこの施設を包囲しろ、合流次第合図を送れ、南は当初通り私
が指揮する、いいな時間が無い、この作戦が失敗すれば関西はおろ
か関東は壊滅する」

 ここに来て置き去られる為の彼等の拠点として巨大戦艦を地中に
埋め込みそこから張り巡らされた地下通路は関西、関東、東北、中
部に完成されていた、他の通路は未だ建設中ではあったがリニアの
ような高速鉄道が地下深く繋がっている、巨大戦艦の動力は予め抜
かれ彼等が宇宙へと飛び立てられない様に出来ていた、その少ない
とは言えテクノロジーが進んだ動力源は地球上で彼等が星を制覇す
る位の動力は残されていた、そしてその陣頭指揮が頭脳タイプであ
る数少ないポルキの様な者であったが謀反を防ぐ為に本体が移動後
彼等のようなタイプは長く存続できない様に体力共に免疫が遺伝子
レベルから低く生産されていたのだった、

計画は先立って関東ルートを遮断する事が彼等部隊の目的である。

 クリスを筆頭に内部に策を講じ脱出させる事がハク達の目的、そ
こを利用したのである、人間が関わり合いのある唯一の施設の下に
基地は作られている、一つ一つの枝別れした通路を防ぐには時間と
労力、それに敵はグリマン、空からの支援も異星間での連合軍、機
械文明に特化した空中浮遊型巨大戦艦からの監視により上空の制空
権は完全に掌握され受け入れることが出来ない人類は手をこまねい
ていた、海側からはキメラと呼ばれる生態系に特化した文明の支配
下にあり放たれたUMAにより制限があった、だが唯一の地上以外
の世界への通路はまだ海側からとなるがこれもまた実現の確率は低
い事から内部と繋がる者との繋がり、つまりポルキの存在が彼等の
救いである、内部を知り、さらに指揮系統等情報を持った彼の存在
は大きい、だが攫い自白させようにも彼等はそれには応じる可能性
が極めて低いと判断した来栖はハクを利用する事にしたのだった。

 だがそれは思いがけない収穫でもあった、噂に違わぬ行動力と予
知出来ぬ彼等の働きに無謀と思えた作戦に光明が見えたのだ。

 内部にクリスを中心とした工作員は内部ルート検索と確保、その
情報を元に敵の交通手段の発見と封鎖に動き出したが作戦のタイミ
ングはほぼ同時に行わねばならなかった、先にどちらが動いても警
戒されればグリマンによって計画は失敗は明白、更に共に動きの読
めない台風が鍵を握るからだ、だがその繊細な時間の中で困難な作
戦を完遂させるには不可能と思われた。

来栖『正直無謀だと思った、だがやるしかなかった……感謝する、
迫るくる時間の無さ、そしていつ来るか分からぬ時間の余白、どれ
をとっても不可能な策、それを見事に奴は今成し遂げようとしてい
る……まさか戦いながら時間までも合わせてくるとは、更にアイツ
の行動、欲張りな奴だ、捉えどころのない所は兄弟の中でもアイツ
そっくりだ、今はまだ燻ってるがいつか奴に引き合わせたいもんだ
な……』

笠田陣営ーー

秘書「負けは無いと思いますが未だ勝ちは確定しておりません」
笠田「……まさかここまで粘るとは」
秘書「ハク戦の護衛に人員も取られております」
笠田「何名だ」
秘書「奴隷は使えない状況ですので設営部隊に50名程かと、その
内30名の人員は既に行動に移してありますがこれ以上内部の人間
を使うと後日の奴隷の作業に支障が出ます」
笠田「傭兵である野盗は」
秘書「……純衣戦でのハクの乱闘で大半は使い物になりません、そ
して先程指示待ちをしていた人員約50名の行方が知れません、そ
れだけではありません各所々に配備した部隊の連絡が途絶えている
所も少なくありません」
笠田「……チッ騒ぎに乗じて動き出したか」
秘書「どうしますか」
笠田「人員が足らなさすぎる、裕太戦にいる人員を他に回す、その
為には早く試合を終わらせる必要がある、武器を許可しろ抽選だ」
秘書「……そう来るかと準備はしておりましたがグリマン側が許可
しませんでした、プライドが許さぬと」
笠田「人間風情に武器は使わぬと」
秘書「……」

試合会場ーー

 一撃、そして一撃その連打に駆け引き等欠片も無い敵を打ち砕く
全力の拳が裕太を襲う、風圧に舞う空気の層は彼らの戦いを美しく
彩どると同時に風圧に翻弄されるがままの裕太は一撃が来る度に体
勢維持できず攻め込む事ままならなかった、グリマンから見れば人
間など大柄の裕太であろうが小さき人間に見える中、辛うじて直撃
は避けているものの圧は次第に強くなって行った、人ならば疲れで
攻撃は次第に弱まるのであろうが彼等種族は戦闘民族、人で言うア
ドレナリンが攻撃すればする程分泌されているのか疲れよりも興奮
が優先に立っているように思える程の止まらない連打であった。

グリマン「羽虫のようにちょこまかと!」
裕太『羽虫……』
 裕太は逆、蓄積された疲労に避け切れぬ怒涛の連打は次第にグリ
マンの放たれた拳を避けても長い腕に体が持っていかれ始める、其
れは動く丸太に体を弾かれるようなもの、動く電車に側面から当た
るのと同じ様に怪我では済まされないダメージが加わり始めた。

裕太『このままじゃいずれ捕まる』
グリマン「避けるだけでは勝つこと叶わず、お前の体の肉を引き裂
き内臓、骨のみならず体液をぶちまけ存在ごと粉砕するがいい!」

 戦い慣れたグリマンの猛攻に終わりは感じない、全力で殴りつけ
る猛攻の先に未だ疲れは見えない、対し此方は止まれば終わる、
過酷な戦争が生業の彼達故の培われた無尽蔵と思える力の前に人間
は仕事が主体、それは戦いにおいて人間の限界なのか……

次第に追い詰められたコーナー、リングポストの影に隠れる裕太。
グリマン「笑止!粉砕!」
 叫ぶグリマンの拳はコーナーポストの脇からフック状の一撃を障
害物があろうが一際躊躇う事なく振り切った、その凄まじき衝撃が
コーナーポストにかかると瞬時に固いはずの物体は捻じ曲がるばか
りか根本ごと引き抜かれ外れた、身を隠す裕太ごと二つの物体が宙
に大きく弾き飛ばされたのだった。

 そのとどめを刺す様な一撃をコーナーポストで衝撃を緩和させ両
掌で柔らかく包む様に受けはしたが上空を舞うコーナーポストと大
きく後方へ弾き飛ばされる裕太に重戦車の追い込みは止まらない。
「フハハ!耐えたか!良い良いぞ!」

 その表情は恍惚の表情を浮かべたが裏には悪鬼羅刹を宿し倒れる
裕太を全体重をかけ振り下ろされる拳が襲う、転がりながら避ける
も衝撃にリングは凹みその衝撃と風圧は避けた裕太の体を更に一際
遠く弾き飛ばした。

 拳の皮が異常に厚いグリマンではあったがその頑丈な拳から滴る
彼の緑の血はこの戦いの壮絶さを物語った。
グリマン「どうした!戦士よ、我はまだ満足せぬぞ、貴様の身はま
だ稼働するではないか!動くなら戦え!我と共に血の尽き果てるま
で」

裕太『……まるでトラックだ』
『羽虫……力の差』

 一方ハクは檻の天井で呑気に食料を食べて横になっていたのだっ
た、隣に直ぐ見える会場の熱とは正反対、座し沈黙を保つ雪丸の上
は春の兆しを見るような穏やかな空気が流れていた、一向に試合が
進まない雪丸戦に設置前と同じ状況に当然会場はブーイングの嵐が
巻き起こる、それはグリマン側すら同じであった、「殺せ!」など
の怒号の中、挑発するかの様な穏やかな表情のハクに会場特有であ
るルールに棒やゴミ、飲みかけの酒瓶等がハクめがけ投げつけた。

 殺伐とした会場に苛立ちを隠せないのは何も会場の奴らばかりで
はない、純衣も顔を高揚させながら周りのハクへの言動や仕打ちに
耐え切れず観客の方を睨むと棒を持ち駆け出そうとしたがその動き
を止めたのは側にいたヌクであった。
ヌク「落ち着きなさい、騒ぎになればなったで気にする男か?」
純衣「だってアイツら!」
ヌク「この戦いは至極繊細だ、彼を信用するのも愛の形と言えるの
ではないか?」
純衣「……信用」
そう呟くと拍子抜けするくらい素直に座る純衣であった。
ヌク「面白い彼女じゃホホホ、お前の特性はその素直さと純粋さ
じゃの」
誠「ハクに関する事になればコイツの素直さは類を見ねぇからな」
ヒロ「……なんと羨ましい、ハクさんが憎たらしいぃぃい!」
誠「心の気持ちが声に出てるぞ、お前の特性もある意味素直に口出
す素直さだな……」
 ハッとした表情で口を塞ぐヒロを横目で睨む純衣に腰が抜けそう
なヒロだった。
ヒロ「……はわわ」
ヌク『ハク、お前の特性は先読みでも何でもない、常に変化する状
況に合わせ変化には変化で対応する柔軟さと発想力だ、それが戦い
であろうが武器を構えずともあらゆるもの事にあらゆる方向から対
応する力、その力こそが本来文明が……人が進むべき得るべき平和
への力とも言える』




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