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救出作戦
純衣戦 6 目覚め
しおりを挟む幻影「お前は酷い女だ、幼子に力の無い子に酷い運命をかす」
純衣「否定はしない、だが現実から目を背けて生きる事は出来無い
其れは子供であっても大人であっても同じだ、誰もが人である限り
前へ進まねば、決意の中に強さを見つけなければ終わりの答えは常
に同じだ、社会が他人に干渉する事を忌み嫌い、人、親、友人、他
人、それらが対象の人を人とは認め無い世の中でも、私は……その存
在を1人の人として認め、私は、その子同様、人として助ける」
幻影「人と認めたところでお前が全ての面倒を見る事は出来無いだ
ろう、中途半端な偽善者め」
多くの幻影の影が揺らめき純衣の周りを囲み責め立てた、其れは
社会に多く存在する自己肯定思想からくる歪みの様に感じる……自
分に出来無い事をする人間の思想を否定し、1人がやっても社会は
変わら無い諦めという認識、其れに対し否定する所謂、揚げ足をと
る人間の思想の塊とも言える、その思想の多くは自身を認めてほし
いという願望から生まれると解釈されている、其れが当たり前、そ
うする事で自身を身を守ると言った歪みであろう、常に人は多くの
意見に流され其れを常識と呼び多くの思想は時代や人の流れによっ
て生まれる、そして異端とされる非常識の意見や思想は潰され淘汰
される時代に英雄は生まれる事は無い、人が望む英雄を人自らが殺
し嘆き悲しむのだ……。
純衣「勿論だ、全てを守れるなんて傲慢な答えは出せ無い、だから
こそ強く生きることを教え見守る、それに人は私だけじゃない、こ
の広く狭い地球には大勢の人間がいる、お前たちの言う存在とは違
う人達も大勢いる、いや、そう在らねばならない、人は其処に向か
い生まれ生き、到達すべき存在だからだ」
幻影「歪んだ者も元は求め其処から外れた者達の成れの果てか……
誰もが救いの中に求め差し伸べられぬ現状に……そして行き着く忘
却の中に善を忘れる、偽善者と言う言葉はその対象者の名の元に出
来たのかも知れ無い……差し伸べられた者、忘れ無い存在が多くい
るなら……だが社会はシステムはそうは認め無い」
純衣「そうかも知れ無い、だが社会のシステムをおかしくしている
のも常に人間だ、そして作るのも人間、システムは人の手によって
生まれた物だから、学校は教育を課し、その子達の未来を作り、虐
待から身を守る養護施設団体、会社組織の不正を正す公益通報者保
護制度、あげればキリが無い程に、システムが起動するかどうかは
人によって決まり、其れが機動してなくとも在ると言う事は人の中
に目指すべき先を見失ってい無い証拠だ」
幻影「だがその組織自体が腐り贈賄や汚職にまみれているが現実」
純衣「それをするのも人間で守るのも人間、実行するのも人間、全
ては『個々の人間次第』なんだ、堕落に塗れ、増長し、不平、不満
の中に身を落とす人間もいる、一部とは言え無い、だが人であるべ
き多くの人間を増やすのも減らすのもやはり人間なんだ、全てを救
える個の人間なんて居ない、だが自分の身の回りにいる人間の手を
差し伸べる事はできる、それが私1人で無くなるようにそうやって
紡ぎ繋げていけば、その周りには一杯になる、そして時を越え、紡
がれた思想や行動は命の時を超えて増え続けるんだ……」
幻影「そんな理想など起こりえはしない」
純衣「出来るさ、其処に向かいさえすればゴールは其処しか無いの
だから……」
幻影「……そうなるといいな」
幻影は薄くなり姿を消した……。
枯れた木々の中暗く沈む真っ赤なオドオドしい世界の中、背中の
温もりが強くなるのを純衣は感じた、その背中に寄り添い心でもた
れそっと呟く……。
純衣「ありがとう……その温もりが私を助けてくれた、何かわからな
いその温かい存在に心から感謝します」
虚無の世界を再び見る純衣は靄がかかる意識の中で再び暗い気持
ちに襲われるもその温かさに膝をつき再び泣き崩れた。
純衣「私は本当は弱い……強がっても目の前に広がる世界に気持ち
も負けそうになる、辛く寂しい……」
確固たる信念が崩壊する心を支え、其れでも人は目の前にある苦
難に幾度となく試練が襲い打ち震える、純衣の目に涙が流れた、そ
の涙が頬を伝い、その美しい白い首筋を流れ、胸の膨らみを伝い中
央の谷間の部分で止まる……。
涙が止まる場所、そこは背中に温かみを感じる場所だった、大粒
の涙が幾つも、幾つも流れるもその涙の到達する部分は同じだった
……まるでその哀しみを受け止めるかの様にーー
「泣く必要はないよ……目を開けて」
純衣「いや!怖い……怖いの」
?「胸に僕を感じる事が出来る貴方なら覚えている筈……」
純衣「……『相手が居ても自分が発する言葉は常に同時に自身にも
語りかけている』……そうだねだから私は言った」
?「君が言った言葉は素晴らしく君が行動する動きは常に人に、そ
して僕に勇気をくれる……」
純衣「私もよ……貴方が言った言葉や映る景色は私の全てを変えた、
その全てを愛おしく守りたい、心あるがままに」
?「守りたい僕も……」
純衣「私も……」
『その全てを護りたい』
純衣は幻影の世界で目を開けた……その世界は荒廃した世界の先
程となんら変わらない恐怖の対象物の世界であった……。
?「変わらない?」
純衣「……そうね」
?「フフフ」
純衣「うふふ」
他人から見れば其処は荒廃した世界だった、だが何かが違う。
【それは】
純衣「貴方がいる」
?「君がいる」
純衣「どんな荒廃した世界であったとしても」
?「荒んだ枯れ木の世界が目に映っても」
2人『見る世界は見る人間の思いで変わる』
不思議な空間に枯れた筈の木々から蕾が吹き出した、辺りの地面
からも芽が吹き出したのだった。
純衣は再び目を閉じた……
「今はまだ始まりだ、だがその芽は小さいけれど強く美しい、さぁ
次は未来を見よう!」
純衣「うん!」
再び目を開けると……試合会場の景色が純衣の目に微かに映った。
ゆっくりと目を開ける純衣、その眼は今までより一層美しく輝き
を増していた、心臓は穏やかに、だが一つ一つの鼓動はゆっくりと
今を生きる意識を刻むように強く激しく鼓動する、彼女の周りのオ
ーラが気に満ち溢れ、観衆は皆、生きる生命の源のような清らかな
その存在から目を離せないでいた程に、そしてその背中には常に温
かい温もりを感じるが純衣は真っ直ぐに前だけを強い視線で見つめ
ていた、そう振り向く事も無く……。
黒田・笠田・秘書「何!そんな筈は無い筈だ!あってはなら無い」
黒田「目の光が……闇に落ちた者の目が蘇るなんてあってはなら無
い!だが……何故だ、以前より遥かに強くなっていく」
笠田「どう言う事だ!女の生気が以前よりも増してるではないか」
秘書「そんな馬鹿な……」
純衣の背中から声がする。
「さぁ……始めよう」
幻影の中に幻影でハクが助け彼の目から映る世界が開け……その目
を通してみる世界が今、目覚めたーー
ハク「……遅れてごめんね」
純衣は前を向きむつろなめで敵を見た。
ハク「ここから始めるんだ、僕たちの未来は」
自然と涙が溢れる……。
眼は真っ直ぐに前を向いたまま頷く純衣。
「遅れてごめんね……」
純衣は首を激しく振り言った「ううん大丈夫」
「此処に居て、僕が戦う」
純衣は首を横に振った。
純衣「私が戦う、私は貴方を守りたい、それが出来るのは……いや
その前に一つだけ聞いていい……かな?」
「うん、なんでも言って」
純衣「あの……その」
?『僕は君を愛してる』
力強い声でその愛の言葉は発せられたーー
その言葉は純衣の見る世界を瞬間に大きく変えた、視界は大きく
広がり、狭い視野に移る世界から雲が空が大きくドーム状に見える、
戦いの中?荒廃した世界?命の危険の中でありながら、彼女の心は
今、眩い光の中にいた、どよんだ空気は爽快に、耳から聞こえる観
衆の声とともに聞こえる木々の揺らめきの音、その木に身を委ね囀
る鳥の声、全ては存在する紡ぐ世界の理を心で感じる……それは恋
をしたあの頃の誰もが純粋に人を愛し、心震え、世界が変わったあ
の思いのままだった、それは純粋なほど強く大きく感じ純衣の世界
は今、大きく無限に開かれた。
純衣「う……ん、うん、うん」
『うん!』
「話の続き……私は貴方を守りたい、それが出来るのは『私だけ』
だから!それをさせてもらえるのも『私だけ』だから!だから!」
『私が戦う』
黒田「……愛で俺と戦うというのか?愚かなり」
純衣は跪きながらも眼は黒田を捉えていた、だが彼女の見るその
強き眼差しは先の未来に向けてのものだった。
純衣「アンタに見せてあげるよ、愛の力ってやつをさ」
黒田「世迷言を!いいか生命体は常に戦い、自己を守る為に生命を
壊し続ける運命なのだ!なら俺も見せてやる、お前の言う幻想は人
を巻き込み、その思想の中でお前が言う結果の正反対に苦しむ人間
の憎悪という物を!」
純衣「行くね……温かさから離れるのは辛いけど」
ハク「心の繋がりに距離は無い」
純衣は頷いた、そして背中に添え続けたはくの手を離れ純衣は疾
風の如く未来へと駆け出した。
黒田は先程とは考えられ無いスピードで純衣に襲い掛かった、鋭
いカトラスの連打からの投げナイフ、腰に携えた音速を越えると言
われる鞭を巧みに使い、遠距離にはナイフ、中距離に鞭、近距離か
らのカトラス、隙の無いと思う程の鬼気迫る猛追攻撃を仕掛けた、
自己を否定する、倫理を否定するその信じる力を否定する力に対し、
自らの心を壊させ無い想いは鬼の形相となり今、羅刹となりて襲い
かかる。
黒田「殺せ!殺さねばならぬ!生命はそうやって進化し続けた!愛
等に我の生き様がわかるものか!誰もわからぬのだ、怒りは力、悲
しみは非情、懺悔は破壊により癒され、その贄は常に愛という偶像
の中に隠された裏切りなのだ!愛は人を苦しめ、縛り、常に人を食
い散らかし真の姿を現し消え去るだけの……まやかしだ!」
凄まじい攻撃は避ける度に地面の土を抉り、土柱をたて観客をも
巻き込み辺りを惨劇に導き走る、彼の心の闇は彼から疲れを奪い見
境のない怒りは脳内麻薬により忘れ去られ、ただ殺戮の快感に酔い
更に激しい攻撃へと進化していく、黒いマントを翻し、隠した影か
ら投げナイフが線上に無数に飛び交った、縦、横、斜め、まるでレ
ーザーの如く飛ぶナイフの軌道に逃げる隙が見当たら無いかの様に
見えた。
黒田「馬鹿な……そんな馬鹿な!」
その猛追を苦もなく華麗な美しいステップで純衣はそれらを尽く
交わしていくだけでなく黒田の目に映る純衣の顔は穏やかであり、
瞬時に命を落とす攻撃の中で尚、命輝き微笑んでいた。
黒田「貴様!何だ!苦しみの中で苦悶の顔をしやがれ!ならこれで
どうだ!的が二つ、お前の甘さが弱点だと言った筈だ!」
投げられたナイフはハクに向かい飛ぶ、だが予測したのか純衣の
棍棒はそれらを棒で受け止め刺さった棍棒のまま身をクルリと返し
たかと思うと、側に打ち付けられた杭に当てがうと反動で刺さった
ナイフは自身の持ち主に向かい飛び、黒田の頬を掠め飛んでいった。
黒田「そんな……馬鹿な」
純衣「弱点?なんだそりゃ?2人だから私は今此処に立ちお前を叩
き伏せる事が出来る」
黒田「ならコイツを殺す!」
そう言うと美唯を殺そうと自陣の方を見ると姿が無い、
黒田「チッ闘っている最中に拐ったか!お前か!」
だがハクは座し何やら製作中のようで……
黒田「ならテメェか……さっきから邪魔しやがって」
そして横を見た、その視線に純衣も目をやるとそこには予想外の
男が立っていた。
栗栖「……今気づいたか、やれやれ」
純衣「ほぇ、あんた誰?」
栗栖「説明は後で聞け、今は味方だ、安心しろ」
純衣はハクの顔を見ると頷いている、純衣は来栖の方を向き深々と
頭を下げた。
「礼を言う、守ってくれたのだな……」
来栖「行きずりだ、こっちにも事情があってだ感謝される対象では
ない」
純衣「それでもだ、礼を言う、私の全てを守ってくれた」
余りにも素直な礼に来栖も気恥ずかしそうだった。
来栖「……ま、まぁわかった、礼は受け取っておく、それより敵は
目の前だぞ」
背後から三節棍の先に槍がついたもので純衣に襲い掛かる黒田、
純衣「ほーい」
だがその奇襲ですら軽々と避ける純衣、
黒田「なんだ!当たる気が全くし無い!」
其れどころか身を翻す度に靡く髪は一本一本が美しく百万本の髪
は動きに合わせ波打ち美を奏で流れる風は緩やかに心落ち着く香り
を黒田の周りを取り囲むように流れるのだった、黒田の心が落ち着
くのを防ぐかの様に両手で香りを飛ばし持っていたナイフで自身の
手を刺し憎しみを維持した。
黒田「この痛みはお前のせいだ……」
純衣は回転する棒を止め靡く髪が体を纏い落ちるといった。
純衣「アンタ知ってるかい?人の限界を越える力の一つ、一つは誠
が示した自己の集中力で入るゾーン」
黒田「その感覚は私にもある」
純衣「そう?おめでとう」
黒田「チッ!忌々しい言い方しやがって!」
純衣「更に一つ、この域は私も滅多に無い域……それは簡単に言え
ば何かをしてる時妙にハイテンションになって何もかもがうまくい
く事があるだろう」
黒田「そんな都合のいいものは無い!」
純衣「無いか、無いだろうな、お前は常に1人で戦ってきた、この
ゾーンはな1人で入るのは難しい、何か対象があって求める物が強
い時に出やすい、それは純粋な気持ちが昇華した時に起こる現象だ
今お前の動きは見えるだけじゃない、私の範疇で全て動いている、
お前の全てでそれを、見極めてみろ」
黒田は怒りに狂い、ありとあらゆる隠し武器を駆使してまるで嵐
のように投げ武器や近接、遠距離を使い分け攻めた、側から見れば
隙などあろうはずもないまるで大砲の機関銃を思わせる威力と速さ
だった。だが其れすらも美しく踊るかの様に交わし続ける純衣。
観客「あの女……なんて綺麗なんだ」
観客「目の錯覚なのか……天使に見える」
観客「こんな戦い方あるのか、まるで黒田が踊らされてる様だ、2
人がまるで一緒に楽しく踊っているようにも見える」
純衣「だとさ、さぁ踊ろう!私とハクの為に」
黒田「冗談じゃない!そんな馬鹿な!私が、私が踊らされるなんて」
雪丸「あれは……あの女の入ったゾーンは、くくく、ハハハ!
世の中は広い!面白い!これだから戦いは、武道は楽しい!」
笑う雪丸を初めて見た門下生も困惑する程に雪丸は笑った。
そう全てが今純衣の世界の取り込まれていくーー
盛大な拍手の中舞う2人、全く危険な戦闘だと言うのに、劇場で
楽しむ観客のように皆楽しんだ、一つ間違えば地獄絵図となる攻撃
の中、そうなる事はあり得無いと言った不思議な感覚の中、それほ
どに安心してみられる純衣の戦い方は今美しく人の心に平和な時代
を強く思い起こさせた。
ーー雪丸談ーー
あの女が入ったゾーンについて説明しよう、たまに映画等の表現で
あるが、人には色んな特殊状態に入る事がある、其れをゾーンと呼
んでいる、一つは荒木誠が示したものだ、全ては遅く感じ思考のス
ピードは科学の域を越える、動きの中にもその思考と動きは反映さ
れると言ったものだ。
弟子「あの女が入ったゾーンとは違うのですか?」
雪丸「あのゾーンはその一種と考えていい、其れを昇華させたとで
も言うべきか、言葉にするにはその域が表現に収まるべく言葉が無
い故に表現は難しい、あえて言うなら合気にも似ている、更に天の
力が加わると言った感じか」
弟子「天というのがよくわから無いのですが……」
雪丸「物事、何をやっても上手く転ぶ時があるだろう、だが其れを
意図してやっている訳では無い、外部の何かの力が加わった、とし
か私にも表現しようがない、だがその力が発動すれば彼女の思うが
まま、という訳ではないが思うがまま、といった事となる、相手の
動きが読め、次の動作が予測ではなく彼女の感じた方向に来ると言
った感じか……その効果時間は長く、まさに無敵の力と言わざるを
得無い力だ、これを感じることが出来たものは荒木の其れよりも遥
かに少ないだろうが現実に存在する力だ」
弟子「まさか他にも……」
雪丸「ある」
弟子「……なんか修行しても到達できる気がし無いんですけど」
雪丸「求めるっものには必ず訪れる、あの女が言った通り、求め続
け努力を怠らなければ到達するゴールは一つなれば言い方を変えれ
ば到達するしか無いのだから」
弟子「其れがいつでも出せる様になれば」
雪丸「そうだ無敵だ、その域はおそらく神道に通ずる、仏教や宗教
において六道輪廻からの離脱、つまりそういう存在になると言った
ものかもしれ無いな、武術では仙道、苦行による解脱、瞑想による
昇華、様々な修行により人は目指す場所があるという」
弟子「頭がこんがらがってきました……結論から言うとあの力に対
抗する力はあるのですか?」
雪丸「女の昇華は『動』私は『静』力は常に表裏一体、対抗する力
はある、だが私とてそう簡単に出せるものではない、だが相手がそ
の域に達すれば道を逸れなければ必然に私も入れるだろう、対とは
そう言うものだ」
弟子「勝てるのですね」
雪丸「勝ちか……果たしてそこが到達すべき場所なのか、だが今は
其処が私の到達すべき道だと考えている」
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