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救出作戦
昴
しおりを挟む子供を落ちる寸前に抱きかかえて落ちる誠は
瓦礫と共に3階部分へと……
誠「大丈夫か?」
子供の名は昴、泣きじゃくる彼を抱きしめ
辺りを見回す、埃やコンクリートの粉が舞い
脇の窓から光が差している、抱き抱える際に
獲物を手から離した誠はその鋭い目で警戒をするも
一度崩れ始めた上の階からトタンや瓦礫の落下が
初回よりは大きくは無いものの視界をしばらく
その粉末の埃やコンクリート粉で塞いでいた……
誠(落ちた人数は5人だった筈だ……
どうする……こうも視界が悪いと安易には動けない
瞬時の判断を一つでも間違えれば
すぐに押し込まれて終わりだ)
焦る気持ちが額から汗となり地面へと落ちる。
子供の泣く声が更に集中力を削いで手にも汗が
滲み何度も汗を拭こうとするも、
その一瞬が危険を呼ぶ可能性がある……
多人数戦では手数の数だけでも10の手の動きを
2の手で捌く必要がある、足も含めれば20を4でだ、
無論全てを一度に攻撃は無理だが圧倒的不利は
変わらない、訓練された連携となれば、
その襲いくる数は増えるばかりだ。
誠「おいおいそんな大きい声で泣いたら……」
泣きじゃくる子供にどう対処していいかわからず
戯けた顔や仕草で落ち着かそうとするも泣き止まず
昴は誠の顔を見る、状況は理解はするものの、
言葉にして言われると余計不安が高まり
子供らしく自我を抑えることができず恐怖に
更に声をあげて泣きじゃくるのだった。
誠「位置がバレ始めてる……よな」
煙の向こうに視界が見えないが確かに複数の
気配と足を引きずる音が聞こえてくる……
泣き叫ぶ子供に汗、見えない位置からの地面を靴が
這いずる音が少しずつ近づいているのを感じる……
前に後ろ両面からの見えない圧力が誠を焦らせたが
少し下を向いたかと思えば少し笑った顔をした。
「こりゃ無理だな、絶体絶命ってか……
ククク……だがこんな時アイツなら笑うんだろうな、
状況は最悪だが……」
目を閉じハクの体が俺ならどうするか感じる……
誠「アイツらしく行きますか、バカだからな俺は
考える事が苦手なら底辺まで落ちてみる……か」
そう言うと誠は意外な言葉をかけた。
誠「昴と言ったな、怖いんだな、そりゃそうだ
じゃぁ……さ」
警戒する顔から笑顔になった誠を昴は泣きながらも
キョトンとした顔で見ている……
「思いっきり『泣け!』
その恐怖が吹き飛ぶまで、後に引き摺らない位
全力で大声で!泣いて叫んでやれ!」
泣けと言われた昴はその言葉をキッカケに
言われた様に凄まじい声で泣き叫んだ。
『状況が悪いなら、とことん悪くし最善の答えへの
道標を狭くする事により厳選、
それの意図は迷わないように分かり易く
一点突破に全ての力を集結させる』
数ある選択肢、どれが正解か不正解なのか
それはわからない、一見正解に見えるダミーも
存在するだろう、考えれば考えるほど不正解が
正解に見えてくる、考える事が苦手なら
考えなくて良いように選択を減らす手を取る
ハクらしい臨機応変の考えを自身に取り入れた。
考えてる暇はない、事の流れは既に始まっている
故に追い込み、数ある選択肢を潰し、迷う事なく
突き進む為の覚悟ある一択を炙り出したのだった。
背後を取られないように警戒しながら背中を
壁側に寄るとその端を選び、間に子供を挟む……
誠(何処から襲ってくるかわからねぇ……
まず昴を守るには攻めて来る範囲を狭める)
出口がわからない彼の判断は苦し紛れであった
逃げ場のない背後は逆に攻め込まれる側からすれば
コーナーに追い詰められたボクサーのようだ
だが360度範囲を壁だけでは180度、
更に角地に陣を置き90度前後にする彼の判断は
『誠だからこそ』の正解でもあった、
其処には過去の話がある
青葉大でのサバ部での会合や実戦形式の
シュミレーション中、ハクが何故いつも中心に
いるのか、それは彼の考え方が他と違う方向性を
常にしていたからだ、常識という壁の範囲は
『己のみならず敵も同じ主観を持つ』からだ
これでは意外性は生まれず、単純に力の強い方が
優位性を持つ、それは個々の力、人数の力
知識の力、その枠組みに勝てる非常識さが必要だ。
ーハクの考え方をベースに独自のスタイルをー
それは仲間の皆が自然と実践していた。
晴には晴、純衣には純衣、裕太には裕太、誠には誠
それぞれが持つ個性に進化させていった。
誠には気性の荒さから引く意思は無い、
故に神経を前方に傾け全ての攻撃を受ける事も
いとは無い精神力を持ち合わせている彼には
其処から現状を打破する実力もあった、
迷いは動きを鈍らせ心と体の反する行動が
隙を生む、彼の土壇場での判断はそれに見合った
今までの戦闘スタイルが見事に合致する、
常に鍛錬を重ねたと言っていい過去の経験と
生き方がそれを物語っていた。
誠「……」
煙の向こうに視界が見えない
瓦礫の落ちる音や壁の軋みの邪魔する中
迷いの無い集中力は聞きたい音だけを拾う事に
集中した、彼の周りの音が一つ……そして一つ
頭の中でかき消されていく
昴の泣く音は次第に遠くで聞こえるように感じ
彼の聞きたい、非常に小さな音が次第に厳選され
今彼の耳に届いてく……
気配……そして足を引きずる音が聞こえてくる。
心は一つに、体は状況を見極める手段
既に昴の音は消された、だが集中する彼の声は
昴の音が聞こえずとも会話をする
記憶と共に作業として……
誠「泣け!お前の中から声と同時に
恐怖も外へ吐き出しやがれ!」
昴は意味もわからず更に声を挙げて
泣き叫んだ、その瞬間、位置を確認した敵の1人が
煙の中から飛び出してきた、
その姿を誠も捉え、凄まじい反射速度で同時に
一歩前に素早く飛び出した誠の腕が敵の持つ斧の
柄部分に密着した、瞬時に敵の腹に膝蹴りが飛ぶ
苦痛に顔を歪め、その体は吹き飛び
再び2人の視界の外へと姿を消した……
誠「へへっ、もーらい」
斧をくるっと一回転させ手に握ると再び構える
静かに目を細め、再び深い集中に入った
静かに、そしてその身はピクリとも動かない……
更に大きい声で泣く子供に対し、静かに構える誠
既に他の敵に此方の位置はバレてるだろう……
今度は棍棒が投げ込まれ、煙の中から忽然と
姿を現すも当たらないと判断した誠の動きは
実に冷静に微動だにせず止まったままだった。
その棍棒は壁に大きな音を立てたかと思うと
壁を抉り取り地面へと転がった、
その大きな音に子供は更に恐怖に泣き叫び、
喉が痛くならないのだろうか?と思う程であった。
誠(場所はバレてるが詳細な位置は把握は
出来て無いからこその様子見の棍棒って所か……)
転がった棍棒を自らの足元に引き寄せる。
痺れを切らせた隠密が3人同時に粉塵の中から
視界の中に一気に飛び込んできた。
足元の棍棒を最初に飛び込んできた隠密の
走行を瞬時に見極める、右足、左足、次右……
サッカーボールを蹴る様に右足が地面へ着く寸前
蹴られた棍棒に隠密の足は取られ大きく転倒、
2人目、上から飛びながら襲い振り上げられる
マチェットを斧の刃で受け止めるも直ぐに脱力し
隠密の飛び込んできた勢いを利用し反対側の手で
服を掴んだ誠の手で方向を変え隠密はすぐ側の
背後のコンクリートに顔面を打ち付け倒れた。
敵から見て誠の体勢は背後となる、
後の残り1人は誠のすぐ傍、体勢は既に背後をとる
位置まで来ていた、背中を敵に無防備に晒す
その背中にナイフで勢い良く刺そうと腕を
引き勢いを増す為の動作時を感じ
間髪入れず誠は背中越しのまま
敵にもたれ掛かるようにタックルを喰らわす
子供の視界からは一緒に粉塵の中に姿を消した。
不安げな昴の視界外で2人が争う音だけが聞こえる
だが状況はわからない……
その間に最初に飛び込んで転んだ隠密が
鼻から血を流し立ち上がったのだ……
ギロリと睨むような視線を昴に向けると
不気味な笑いをした隠密だったが
粉塵の中から空気の切り裂く音が聞こえたかと
感じた瞬間音の方を振り向くと
額に斧がめり込むように刺さりながら男は倒れた。
煙は次第に薄くなり、昴も声が枯れ、驚きと恐怖に
ヒックヒックと呼吸を荒げ周りを見渡すも
血だらけで倒れる隠密の姿を見た不安に
胸が押し潰されそうになった前の視界の中から
悠然と現れた誠に気づくと、心のままに駆け出し
その広い逞しい胸に飛び込んだのだった。
誠「思う存分泣いたか?」
昴「うぅ……ごべんなざい」
誠「なら笑え」
昴「う、ん……」
誠「じゃ次はシーだ?いいか、怖いのは分かる、
がその行動が仲間や、お前の大切な人を傷つける
結果になることもある」
昴「……」
誠「泣くなとは言わない、悲しい時は泣け、
悔しい時も泣け、だがな……
恐怖に泣く男には決してなるんじゃねぇぞ」
昴は誠の胸に顔を押し込む様に声を抑え
最後の涙を止めるように拭いた
その小さな手が誠の服を懸命に握る姿に
誠もまた優しく頭を撫でたのであった。
だがまたも背後に人の気配を感じる……
誠「……追加注文した覚えはないがな」
背後にレイダーが3人、更に隠密が3人立っていた
誠「昴、俺の後から離れるなよ」
昴は頷き、また涙を瞳一杯に溢れさせながらも
自身の服を両手で力一杯握りしめ声を出すのを
抑えていた。
隠密「まぁそう言うなって、現実はそんなに
甘かねぇし、都合のいいヒーローがヒーローで
居られる世の中でも無ぇんだよ
それにな人の為なんてもんは損しかしねぇてのを
教えてやるぜ」
そういうとレイダーの1人がからかう様に
子供に狙いをつけ手に持つナイフを投げつけた、
誠は持った斧を捨て、すかさず近くに落ちていた
鉄パイプをバットの様に持ち替えると
飛来するナイフを投げたレイダーに向かい
ピッチャー返しのように打ち返したが
横に居るレイダーが持つ大きな盾木板に
ナイフが突き刺さった。
誠「どういうつもりだテメェ……
子供を連れ去るのが目的じゃねぇのか」
隠密「持ち帰らなきゃ行けないよな、確かに
まぁ何人か持ちされば問題は無ぇし、
お前は簡単には渡してくれ無ぇだろぉ?
だから仕方ねぇじゃん」
誠「どういう意味だ」
隠密「子供を渡せば良し、渡さなければ子供を
的にしてれば勝手に傷ついてくれる、
お前自身を傷つけるのも良しって事かな、
お前がどんなに強くても自らの理念で生み出した
枷がお前を自ら傷つける行為となるって事だ」
そう彼等の目的は二つ、子供を攫う事の他、
誠を試合で不利に導く、つまり傷つける事にもある
隠密「さてと……野球が得意な様だが
この人数に対し全てを防ぎ切れるかな?」
レイダーが動こうとするが側にいた隠密が
その行動を抑止した。
隠密「動くな、アイツは強い、まるで虎だ
下手すりゃ全滅させられるほどにな……
奴が攻めてきたら隙を見て子供を殺せ」
その言葉を聞いた誠の額から汗が滴り落ちる……
隠密「其処らにある板や瓦礫を拾い
子供だけ狙い打て、いいか決して近づくなよ」
誠「分かった、俺が目的なんだろ……
好きにしていいから子供には手を出すな」
隠密「いや暴れてもらっても良いんだぜぇ?
まぁ子供は犠牲になるだろうけどな」
言った隠密が誠に近づく……
「俺を人質にとっても良いんだぜ?おい、やれよ」
誠は押し黙り握りしめた棒を手から離した。
転がるパイプを隠密が拾いあげ手下に渡すと
顔を誠に近づけるとニタニタと笑った。
『バチン』
強烈な平手打ちの一撃を誠の頬に叩き込むも
誠は微動だにせずそれを受け止めた
が、頬は赤く口から血が流れていく……
隠密「お前立場わかってるよな」
そういうと連続で平手打ちをすると高揚感に
次第に拳を固め殴る蹴るを叩き込む。
誠は地面へと這いつくばり乱れたセットした
髪が頬に張り付く。
隠密「いいか痛みつけろ、腕や足は折るなよ
観客にバレると裏工作がバレる
胴体を中心に痛みつけろ、まともな試合が出来ねぇ
様にしっかりな、それと3人は背後に待機、
決して近づくな、距離を保ち妙な真似したら
子供を離れた場所から狙え」
誠「ボスの命令か、肝の小セぇボスだな……おい」
腹に蹴りをぶち込む隠密の足を掴んだ昴の体を
子犬でも持ち上げるかのように背中の服ごと
持ち上げると性格の悪い顔をしながら顔を近づけ
ニタニタと笑った。
誠「やめろ……」
隠密「良い事思いついたぞ、子供は助けてやろう」
ホッとした表情の誠を嘲笑うかのように
「お前が我慢できる間だけなヒャヒヤー!」
誠「なん……だそりゃ」
隠密「良いのか?なんなら今ここで殺しても
良いんだぜ?お前の目の前で、ありがたく思いな
お前が倒れず生きてればその分だけ子供は
捉えもせず安全に此処に居られるんだぜ?
お前次第だ、がんばれ!」
誠「気持ちの良いほど腐ってやがんな……」
隠密「黙れ……そう言うなら提案だ、
なら子供を渡せ、お前の口から堂々とだ、
どちらにしろ渡す結果になるのは理解出来るだろう
ならお前の口からそう言えば、
お前の事は見過ごしてやらんでもない、
(言えばこういうタイプの人間は心が壊れる
言わなくても肉体的損傷は与えれる、
どちらにしろ任務達成でこいつはもう終わりだ……)
言わない誠に対しての暴行はしつこい程に続く
隠密「はよ言えや!」
レイダー「子供を救ってるつもりか?どちらししろ
結果は同じで、殴られるだけ損するのによ
頭悪いねえ、俺は馬鹿にはなりたくねーな!」
昴はその姿を見て再び泣こうとするも、
誠に言われた恐怖に泣くなの言葉を守り
懸命に涙を堪えていた……
その姿を見た1人のレイダーが昴に近づいていく
レイダー「坊っちゃん、泣かないの?お利口だねぇ
足蹴りを子供の顔の横の壁に当てるように蹴り
大きな音が昴の耳に響く……
レイダー「泣けよ、おら、怖いんだろ?
子供は素直に泣くもんだ、泣いて自らの弱さを
心に焼き付け、学び、弱者として生きていけ、
それがお前が生を全うできる唯一の道だ」
誠「や……めろ、手出すんじゃねぇよ
お前の短い足が子供に当たったらどうする」
隠密「まだ喋れるか?恐ろしくタフだな、
だが手は出してねぇぞ、お前も約束は守れや」
昴は誠を見た……口から血を流し、
懸命に自分の為に痛みに耐える誠の姿を
そしてレイダーや隠密を見た、
人を脅し、狡猾でいた彼等に悪魔を見た……
下を向き昴は耐えていた感情を再び
表すかのように一気に泣き出した、
『うわわわーん!あーん!あーん!」
一際大きい鳴き声にレイダーも耳を塞ぐ位に
更に天を仰ぎ声を振り絞り泣く……
レイダー「オワッ!ウルセェ!」
隠密「ヒャハハ!泣きやがった!
これでこのガキの心も折れた」
誠「……昴」
隠密「どうだ?泣いたぞ?お前がさっき言った
言葉の意味を知って感情を抑えれず泣いたぞ?
何が恐怖に泣くな、だ
お前の言葉はこのガキには通じない
これが人間だ、感情のまま生きる、
それは誰かを犠牲にしても抑えられない欲望や
感情が自然だ、よく分かったろ?お前も同じだ、
このガキの心が折れ、今こいつは奴隷らしく
進化した、お前も裏切られた、
もうこのガキに対し意地を張る必要も
無くなったって訳だ、
今一度聞こう、子供を渡せ……」
誠「……お前何か勘違いしてねぇか?」
隠密「どう言うことだ」
誠「仮に昴が今ここで折れたとしても俺に何か
関係があるのかって言ってんだ……ケホ」
隠密「あ?」
誠「俺がやりテェからそうしてるのがわからねぇか
見返りを期待して俺は生きてる訳でも無ぇ
俺は俺がそうしたいからそうしたまでだ
それ以外に理由は無ぇって言ってんだ」
隠密「……馬鹿は治らねぇか」
傷だらけでも立ち上がり髪を震える手で掻き上げ
悠然と立つ誠に追撃のボディブローが放たれた。
だが誠は倒れる事なく立ち続けた……
隠密「しつこいねぇ」
背後では更に大きな声で叫ぶ昴、
それは鬼気迫った声だった……
誠「弱い拳だなお前ら……んなパンチ何発受けても
痛くも痒くもないねぇ……」
隠密「まだ強がるか、おい、もっと痛みつけろ」
だが誠は耐えた、痛みを感じさせないその風貌は
威風堂々という言葉が似合っていた程に。
それでも泣き叫ぶ昴に心配をかけまいとする誠の
意地は逆に昴の鳴き声を更に大きくしていった。
隠密「ウルセェ!ガキ」
その大きな鳴き声に苛立ちが出始めた
隠密が昴の近くに寄るとその腹めがけ
蹴りを入れようとした足を誠が咄嗟に間に入り
手で受け止めるも力の弱った誠の腕を振り解く様に
誠の腹に当たりよろめき倒れそうになるも
尚踏ん張ったのだった。
誠「い、痛グネェ……痛くねぇぞ」
か細い声で意地を張る誠の背後で更に大きい声で
泣く昴だった……
隠密「もういいわ……頭痛くなってきたぜ」
ハンマーを手に持った隠密が誠に近づいた時
隠密の背後で叫び声が部屋に響き渡った
視界の悪い状況で目を凝らして背後を凝視すると
隠密1人とレイダー3人が何やら足掻きながら
床を転げ回る、次第に煙幕のような塵は薄れ
ハク、そしてヒロが塵の中から
姿を現したのだった。
誠「……ハクか?」
ヒロが2人に駆け寄り残りの隠密2人から守べく
手にマチェットを持ち構えに入る。
ヒロ「遅くなりました……場所が分からないのと
この粉塵で安易に飛び込めなくて」
誠は小さな手で自身にしがみつく昴に目をやった
その小さな手は震え、だが鳴いていた時も涙は
流さずにいた違和感を思い出したのだった。
誠「……そうか、お前ハク達に居場所を教える為に
しかも言われた事、ちゃんと守って……その中で
更に自分に出来る事を……お前も男だな」
その懸命な姿に誠は子供をしっかりと抱きしめた。
誠「ありがとうな……俺を守ってくれてたんだな
あのオッサンの言ってた意味が少し分かったよ
無垢で純真、そしてその小さな手は俺に力を
与えてくれる……」
残りの隠密は盾を持つ1人、そしてハンマーを持つ
その2人を怒りの形相で睨みつけるハクがいた。
ハク「声は聞こえていた……」
隠密「はぁ?そうですかぁ、お前みたいなんが
睨んだって怖かねぇぞ?助けに来たのも2人
しかも互いにどう見ても強そうじゃねぇな
俺ら隠密舐めてんのか?ヤンキーは戦闘出来る
状態でも無い、お前らが俺らに敵うとでも?
烏合の衆がたかが2人来ようが意味ねぇな」
ハク「……糞相手は俺だけで充分、誠は強い
俺よりも遥かにな、彼の出番は必要ない」
誠「ヒロ、助けに行け!ハクは狭い場所じゃ
その真価を発揮できねぇ、アイツは自由に動ける
外や場所でしか」
ヒロ「……来るなと言われました」
誠「……本当か?」
ヒロ「はい」
誠「……ならいい」
そう言うと腰を下ろしため息を吐きながら体を
休める誠。
誠「相当怒ってんなアイツ」
ヒロ「でしょうね、今までと雰囲気が違います」
隠密は2人1組で付かず離れず動いてハクに近づく
ハクは手に武器は持っていない様だった。
隠密「素手で俺達に逆らうとは」
だが不用意に近づけない理由、それは転がって
今も掻き転げ回る仲間の姿を見たからだ。
(出血量は大した事無ぇ、だがこのもがき様は
なんだ……手を見ても刃物は持ってねぇ
殴られたとてやり返す事は可能な筈……)
ハク「お前ら許さないよ……誠にした仕打ち
それに、そのやり方、俺の嫌いな人間そのものだ」
隠密「そりゃそうかいありがとな嫌ってくれて!」
そういうとハンマーをハクの頭向かい振り回した
ハク(腰の位置は俺から1メートルハンマーの長さ
同じく1メートル、予測に30センチ足して……
ハンマーの振りは一見、力を入れる振り初めは
遅く感じるが脱力次第で後半加速する
だが軌道は極めて予測しやすい、重い分軌道の
変化があるとすれば下側のみ)
敵の振り始めの腕に力が入る筋の張り具合を見極め
振ると同時に避け動作に入るハク
これは予測が可能にする実拳、動きを読むといった
方法だ。
素早くバックステップで難なく躱すとハンマーの
先は壁へとめりこんだ、重い分、次の動作に腕は
再び筋肉が張り詰める一呼吸が必要だ、
筋肉が張り詰める事のないハンマーを瞬時に
動かそうとしても重力に負け振り切ることも出来ず
威力はほとんどゼロだ、
筋肉が張り詰める瞬間を見過ごさないハクは
敵の懐へと飛び込むと手の袖に隠し持った鉛筆を
勢いよく隠密の腕に突き刺したのだった、
同時にそれを瞬時に折ると冷静に一歩下がる。
隠密「ぎゃぁ!痛ぇ!」
刺さった先を見ると鉛筆は折れ、慌て抜こうとする
が、刺さったシンガリは小さく掻きむしる様に
取ろうとも取れはしなかった、その動きに合わせ
ハクは追撃に足に一本、そして反対側の腕にも
刺し、そして同じく折ったのだった。
ハク「芋虫か、お前?動けよ……」
隠密は動こうにも肉体の中に異物、
まして異物としては大きい鉛筆の半分が体内に
入った事で腕を少し動かすだけで肉の中に入った
異物に神経は逆撫でされ筋繊維は傷つき
肉は広がり痛みは脳へ突き刺さる。
それを見たもう1人の隠密、盾持ちが突進、
ハクは咄嗟に側にある重い瓦礫を持つと予め用意
したであろう左手に持ったチューブを
瓦礫の金属部分に貼り付け、フッと息を吹きかける
隠密「瓦礫で防御か!そのままペシャンコだぜ!」
そのまま挟むように盾持ちはタックルし
ハクを壁際に押し込み、ハクの体を盾と彼の持つ
瓦礫ごと押し込んで行く
隠密「苦しいか!」
ハク「ブツブツ……」
隠密「?」
ハク「5……6、7、8」
隠密「何だ……」
ニタリと笑うハクは露出する足にヌクから託された
棒を押し当てると瞬時に電気が流れ、盾持ちは
驚きその場を咄嗟に引いた。
ビリボ君と同じ効果を発揮するスタンガン式棒
だが電流をわざわざ最小に抑えた行動に出たハク
盾持ちは再び構えに入ろうとするも盾が異常に重い
盾を見ると先程ハクが構えた瓦礫が張り付いていた
その場所は板と板を繋ぎ合わせた金属部分に
くっついていた。
盾持ち「なんだこりゃ」
ハク「重いだろ、予め用意した接着剤に穴を
開けてすぐに接着出来る様に用意してたのさ」
盾持ち「瞬間接着剤……」
ハク「今の接着剤は優秀でね、
しかも取れたとしても粘り気が凄いからね、
簡単には取れない」
警戒する盾持ち、盾の重さに簡単には
動く事のできなくなった盾持ちは攻撃に思案する
考える盾持ちをよそに瓦礫から板を拾い上げるハク
見ると無数に釘が剥がれ露出する板を複数地面に
置き一気に足で踏み込んだ
合わさった板を抱え、不用心に敵に近づくと
警戒に敵は重いながらも盾を構えた、それを見た
ハクは一気に板を前に掲げ一気に盾向けて板を
押し当てるようにタックルするのだった。
隠密「く……重い」
更にハクが近づく、盾持ちは重い盾を懸命に上げて
防御体制になるも重くて持ち上がらない、
それでもゆっくり歩くハクの時間があって
何とかそれを挙げ防御するも盾持ちが持つ盾に
今度はまた拾い上げた鉄屑などを貼り付ける。
隠密は重さにその場を離れようとするが
既に動きの止めていた時、拾い上げる瓦礫と共に
敵の足元に接着剤を撒いていた事により敵の靴に
染み込んだ接着剤が効果し始め動くことも出来なく
されていたのだった。
ハク「ほら、お前と同じくゴミだ、好きだろ」
盾持ち「グッ……重い」
盾を持ち上げようとするも上がらず次第に盾は
下がり敵から正面に立つハクの顔が見えた
再び鉛筆を握ったハクは露出した盾持ちの肩に
鉛筆を刺すとそれを折った……
盾持ち「いてぇ!腕が……肩が……上がらねぇ
力入れたら……痛ぇぇ」
ハク「その痛みにも耐えれないか?誠は耐えた」
盾持ち「もう許して……ください」
ハクは懇願する盾持ちの太腿に鉛筆を刺した。
ハク「怖いか……この子は恐怖の中で誠を守った
お前はその恐怖にも勝てずただ保身の為に
先程の行動とは逆の言葉を口に出す」
盾持ち「……痛い」
ハク「なんだ?お前?お前は何がしたい?
先程の勢いはどうした?口だけか、
この子は違ったぞ……誠は違ったぞ、どんな立場に
置かれようとその信念は変わらない、
お前達が奴隷にしようとしてるこの子の強さに
お前は負けた、いや負ける事が当然であり必然だ、
お前の持つ人を傷つける武器よりこの小さな鉛筆
1ダースよりお前は弱いんだよ、お前の強さは
鉛筆にも劣る……」
そして肩に腕に刺すと無情にもそれを折った……
誠「もういい、やめとけ」
ハク「……」
ハクは誠の言葉を聞いた瞬間、その行為を止めた。
ヒロ「ハクさん……」
誠「ははは、そんな怖い顔すんな、アイツ怒ったら
やることはエグいが命まで取ろうとはしない
上にいるおっさん医者なんだろ?ヌクさんだっけ
後はあのおっさんが鉛筆除去してくれる事
見込んでの行動なんだよ、したたかだからなハク」
ヒロ「そうか、ですよね……最初降りてきた時
上に文房具屋さんがあって鉛筆で対抗しようと
言い出した時は何を言い出すかと思いました
まさか鉛筆でこうも簡単に人を動けなくする事が
出来るなんて思いもしませんでした」
誠「アイツの近くになんかあると
全て利用しちまうからな……
アイツにとってこの世にあるもの全てが
アイツの味方なんじゃないか、て思うほどにな」
誠「だがまだ終わりじゃねぇみたいだ」
更に追加される敵に対し誠は言った
誠「この場は俺に任せて行ってくれ、
ハク、昴の事任せた、俺はコイツら倒してから
直ぐに試合に向かう」
ヒロ「そんな体で無理です!」
誠「馬鹿野郎、俺の限界をお前が決めんな」
そう言うとヒロのオデコにデコピンを当て笑う誠に
今度は昴がしっかりと誠を離さずしがみついた。
誠「よく頑張ったな、俺は大丈夫だ、
お前が頑張ったお陰で気合が入ったぜ」
昴「いやだ……離さない」
誠「お前は男だろ、なら戦え、上には女の子や
年寄りがまだお前の助けを必要としてる、
ならお前のやる事は何だ?そして俺も男だ」
昴「……」
誠「頼むぞ……昴」
昴はしがみつく手をゆっくり、名残惜しそうに
手放した……
ハクが昴の手を取るとビリボ君を誠に渡すと
誠はそれを受け取らずハクの手に戻した。
ハク「誠……らしいね」
誠「行け」
総勢が並ぶ敵の前に立ちはだかる誠
その後ろを駆けハク、ヒロ、昴は四階への道を
進んだ……
誠「……じゃやろうか?今の俺は強ぇぞ?」
レイダー「かかれ!」
下の階から激しい音が鳴り響き戦闘は始まった
ハク「急ごう……」
ヒロ「はい……」
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さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・
シュール系宇宙人ノベル。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
滅亡後の世界で目覚めた魔女、過去へ跳ぶ
kuma3
SF
滅びた世界の未来を変えるため、少女は過去へ跳ぶ。
かつて魔法が存在した世界。しかし、科学技術の発展と共に魔法は衰退し、やがて人類は自らの過ちで滅びを迎えた──。
眠りから目覚めたセレスティア・アークライトは、かつての世界に戻り、未来を変える旅に出る。
彼女を導くのは、お茶目な妖精・クロノ。
魔法を封じた科学至上主義者、そして隠された陰謀。
セレスティアは、この世界の運命を変えられるのか──。
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『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』
姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!
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どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。
化茶ぬき
ホラー
十月十四日
地球へと降り注いだ流星群によって人類は滅亡したかと思われた――
しかし、翌日にベッドから起き上がった戎崎零士の目に映ったのは流星群が落ちたとは思えないいつも通りの光景だった。
だが、それ以外の何もかもが違っていた。
獣のように襲い掛かってくる人間
なぜ自分が生き残ったのか
ゾンビ化した原因はなんなのか
世界がゾンビに侵されることを望んでいた戎崎零士が
世界に起きた原因を探るために動き出す――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
空腹のドナウ〜欲望が基準の世界で楓正樹は何を望む〜
ゴシ
SF
宗教団体の創始者の息子である楓正樹。
家族と仲良く暮らして美味しいものだけ食べれればいい正樹が、ある男との出会いを境に状況が大きく変化する。
神機と言われる神の機体が存在し、傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰の欲望が隣り合わせの世界で正樹は戦う。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
適者生存 ~ゾンビ蔓延る世界で~
7 HIRO 7
ホラー
ゾンビ病の蔓延により生きる屍が溢れ返った街で、必死に生き抜く主人公たち。同じ環境下にある者達と、時には対立し、時には手を取り合って生存への道を模索していく。極限状態の中、果たして主人公は この世界で生きるに相応しい〝適者〟となれるのだろうか――
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