世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

しおじろう

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救出作戦

戦いの講義

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石毛が斧を構えジリジリと雪丸に近づく
獲物を所持した事により彼は冷静さを取り戻し
自分が優位になったと思ったからだ。
側から見ると一際大きい体躯にプロレスラーを
想像させる、丸みのある筋肉は打撃の衝撃にも
強そうだ、雪丸も体躯は良いが石毛に比べると
一回り小さく見えるが彼の精担な顔立ちに
無駄の無い筋肉は実に彼とは対照的である。

脂肪の無い筋肉は打撃に弱く内臓に衝撃をそのまま
伝わる、雪丸は無駄ないスピードで勝負と初見の
観客達は想定していたが……今までの戦いを知る
多くの観客達はそうは思わなかった。

石毛「一撃でも当たれば俺の勝ちだ」
その思いに相応しく雪丸の周りを野生動物が獲物を
品定めするかの様にゆっくりと円を描く様に
薄ら笑いで近づいて行く、リングなど無い人垣の
囲みと廃棄された車で覆われたその戦いの場所

だが雪丸は石毛の顔を見る事もなく静かに俯き、
鎖で繋がれた腕で構えながら静かに
そしてただその場を動かずに居た。

雪丸の左横に位置した時、石毛が満を喫して
斧を振り回し襲いかかる、
一撃目は顔目掛け斧の重さを象徴するかの様な
鈍い風切り音を立て空気を切り裂いた、
立て続けに振り切った斧を返す様に二撃目は腹部
目掛け振り抜く、だが渾身の力が込められた
その攻撃は派手な空気音を奏でるも
虚しく空を舞うばかりだった。

石毛「グハハ怖いか!逃げるばかりでは俺には
勝てんぞ!歪んだ顔をしろ!土下座でワシに
命乞いをし、王者の座を引き渡せ」

だが満足そうに捕食者の立場から弱気者を
見下ろすかの様に薄ら笑いの石毛を見る雪丸が
石毛に聞こえる位の小さな独り言を呟く。

雪丸「武器を持った事が強くなる訳では無い、
その用途、目的、使い方を知らねば、それはただの
動きを単純化させる荷物に成り果てる、
今まさに私にとっての鎖同様、お前に取って
その自慢の斧はただの枷としかならない」

石毛「はぁ?負け惜しみか!笑わすな、
お前の自由を奪っている忌まわしき鎖と
この破壊の象徴の俺の持つ斧が?
一撃でも当てれば、お前の腕なんか俺の自慢の
豪腕で吹き飛ばしてくれる!」

興奮した彼の攻撃は立て続けに雪丸を襲った。
一撃、二撃、恐怖で攻撃が出来無いと信じている
石毛は反撃のない雪丸をひたすら攻撃し続けた。
反撃のしない雪丸、それは確かではあったが
その華麗な足運びは決して彼との距離を詰めさせる
甘さは無かった、斧が空を切る度に彼の長い髪が
緩やかに、そして舞う度に美しくなびいていく姿に
美しさを感じる石毛は心の中での己の醜さに嫉妬が
湧き上がる、観客も見ていてもその粗暴な暴力に
自らがリングに立った時を想像し背筋を凍らせる。

だがどの攻撃の際も、彼は下を向き石毛に顔すら
向ける事はなく、最小限の避ける間合いは
どんな攻撃もピタリと測った様に斧の攻撃を
5センチ足らずでかわしていた。

石毛「ハァハァ……くそ当たらねぇ!
それどころか後一歩の所で距離が詰められねぇ
どうなってんだ……」

血を見ない状況に時間が経つにつれ
観客から野次が飛びはじめ、瓶や食べ物が次々と
彼等の戦うリングとは言えない戦いの場に
放り投げられるのだった。

石毛「テメェら!ウルセェぞ!足場が悪くなる
物を投げるんじやねぇ殺すぞ!」

観客「俺達に八つ当たりすんじゃねぇ!お前だって
試合の度に酒瓶投げて気にいらねぇ選手に
投げつけてやがったじゃねぇか!」

此処では武器となる物を選手に向けて投げる以外
何でも許された、賭け事の対象となる選手を不利に
する行為なども許されていた、それ故の選手と
観客が一体となるレイダーらしい闘技場であった。

ハク「敵の足の運びで距離を換算、この場合、
石毛の地面との接地点、つまり支えとなる左脚から
踏み込んだ右足の下ろした左と右脚の長さを
測ってるね、後は腕の長さと斧の長さ、
彼の腕の伸びもプラスだけど大振りに力任せだけの
攻撃だから伸びは殆ど無いね……当てるだけで充分
効果は発揮されるのに単純さがそのまま攻撃に
出てる、その中でも中心で見る部位
僕と同じだ、腰の挙動範囲で見てる……」

相葉「言ってる事がわからん……腰を見て距離が
わかるのか?」

ハク「足と腰の動きを見て、足はその体が
元の位置よりどれ位動いたか正確にわかるし
自分も同じ距離を離れれば後は上半身の攻撃範囲
それには腰は捻を見ると左右どちらから来るか
解る、どれくらい捻っているかで腕の伸びも
測れるからね」

「優位性と思う斧の危険な範囲は斧を持つ
右手に重さのある鉄部分に限られる、
たった30センチの破壊力以外は怖くは無いからね
特に彼の様なタイプは攻撃方法も斧に
固執して単純、後は心の問題だけ」

相葉「心の問題って……何だ?」
ハク「うーん、相葉さんは攻撃をされた時
何を考える?」
相葉「そりゃ怖いから痛いの嫌だから身を屈めたり
無意識に腕で防御するか……」
ハク「そうだね、でも大概の場合、相手が殴る
拳とか動きを見てる?見て無い様であっても大概
その避ける状況は視野には入ってるけど恐怖が
邪魔になり反応する行動が単純化するんだ」

相葉「……見て無い様で見てるか
確かに腕を振り上げられたら顔を防御するのが
自然に行えてるな……全く見無い時は体を
すぼめたりするけど」

ハク「恐怖心による防御反応は本能、その反応の
速さと瞬時にでも視界に入れば割と正確なんだ
どう避けるか受け方などは訓練次第だけど
基礎は生物には既に備わってるんだ。
野生に生きる物はそれに長けていると言うよりも
命をかけて生きる訓練の長さが違う
各々が進化しその体の形態に合わせ日々生きる為に
訓練された賜物と言って良い、つまりテンポで
いうと1で行動できる」

「人はそれが無い事や脳が発達した分あれやこれや
考えすぎてしまう分、本能VS知能が脳内で
ゴチャゴチャしてる分どうしても反応が遅れて
1で反応しながらも2で考える、そこに恐怖心やら
迷いが入るもんだから2でも行動できない
行動に決定する第3の決定する決断が必要なんだ。
そして2の心が負けすぎると見ることすら
拒否してしまうんだ。
例えば道に幅30センチの白い線を書くのに
似てるかな……相葉さんの足元にその線があれば
その上をはみ出さず歩ける?」
相葉「そんなの簡単だろう」
ハク「じゃ、それが地上50メートルの
上だとどう?」

相葉「……」

ハク「要はそれ、攻撃は当たれば致命的には
なるけど当たらなければどんな強い攻撃も『無』と
同じだからね、今までは全体の動き
蹴りや拳含め複数の危険場所が存在してたけど
彼は斧を持った瞬間、それに固執している
使い方を知らないとそうなるよね、斧が当たる
軌道は至極単純、その線だけを避ければ動きも
最小限で済むし状況をまず理解する、そして分析、
恐怖は適正距離以上の距離を生む」

「それは無駄な体力と反撃のタイミングを
失う事になる、でも相当の経験と観察力がないと
出来ない芸当だけど」

「恐怖を感じる事は大切、だけどそれは警戒に止め
あくまでも倒す事を前提にコントロールするんだ」

誠「斧でなければ受けても致命傷にならない攻撃は
俺なら突っ込むけどな、1受けようが100で返す
さっきの攻撃なら一撃を振り終わると同時に一気に
距離を詰めるな、躊躇らわず突っ込めば、
振り返しが早かろうが、たかだが30センチの斧だ、
間合いを外し内に入る此方の方が確実に早い」

ハク「それもまた一つの方法だね、誠らしい攻撃、
恐怖はフェイントすら反応する、まぁフェイント
だからそれが目的ではあるけど、誠には通じないね
フェイントであろうが無かろうが当たっても問題の
無い攻撃に怯む事の無い誠の判断は早い、
先に倒す程の力のない攻撃には必ず隙が出る
そもそも人間の四肢の一つが無駄になってるから
これも恐怖心の無い誠らしい反撃方法、
故に一歩出遅れるのは攻撃した側の敵の方だ」

誠「難しい事はわからねぇよ、だが恐怖心が
邪魔なのは体で覚えてるからな、当たっても
問題ないと判断すればそれは俺に取ってチャンス
としか思わねぇからな」

クリス「馬鹿は恐ろしい……お前まさか以前の
熊相手でもそれしてねぇだろうな」

誠「  ……」
クリス「……怖っコイツ」

誠「んだよ、オメーならどうすんだよ」

クリス「そうだな……誰かと違って知能がある分、
奴の様にまずは適正距離を測るな、だが奴と違う
点は斧の初撃を避けた時、俺はその隙に確実に
倒してるがな雑魚だろが油断はしない、
何が起こるかわからないならチャンスは逃さない、
無いなら相手が隙を見せるまで待つか、
策でそれを誘発させるか……まぁ場合によるが」

誠「まぁ!面倒臭いクリスちゃんにピッタリ」
クリス「あ?やんのかテメェ」
誠「んだよ絡んできたのオメェが先だろうが」

睨み合う2人の間にハクが割り込んだ。

ハク「そうだね戦闘は何が起こるか、誠やクリスの
様にタイプが違う相手を瞬時に判断する事は難しい
まぁ……石毛さんは単純そうだけど」

相葉「ならハク、君ならどうする」
ハク「逃げる」
相葉「……」

誠「なら最強と言われたアイツがしてる事は
怠慢……か?」
クリス「遊んでいるのか格下相手に」

ハク「……」
「違うね恐らく、彼はこの状況にあっても
常にそれを修行のチャンスと思っていると思う」

相葉「修行?チャンス?馬鹿か、やれる時に
行動しなきゃチャンスは早々やってこないぞ
それはビジネスでも同じだ」

ハク「慣れは怖いから、常に鍛えないとイザって
時にそれを発動する事は難しい、僕も出来るだけ
同じ手は使わない様にしてる、そういう事に
近い感じじゃないかな、そして来るチャンスを
逃さない為じゃなく、チャンスそのものが無くても
自ら幾つも生み出す為の訓練だと思う」

「使える技や知恵は徹底的に磨き、他は惰性に心が
囚われた時、他に何も出来なくなるから
応用力て言うのかな……それを錆びさぬ様、
その為に常に変えるってのが僕のやり方」

「それに彼は自尊心や傲慢で自らを落とす事は
しないタイプだと思う、
過ちを認められる人だったから」

誠「記憶が戻ったのか!」
ハク「断片的だけど少しだけ……」
誠「おぉぉ!やはり沖高先生の言った通りだな
縁のある者を辿るのも治療の一つか」

そして試合は続く

司会「凄いぞ!雪丸!斧相手でも全く恐怖は感じて
いない様だ!さて石毛選手はどう出るのか」

石毛は攻め続けるも一向に状況は良くならない
それどころか明らかに呼吸も荒くなり、次第に
大振りの斧にも力が入らない攻撃も増えてきた。

石毛「テメェ……ハァハァ」
雪丸「息使いが荒い、さっき教えた事を学んで
今此処で更に強くなり私の修行の糧となれ」

石毛は怒りに任せ斧を雪丸に投げつけた、
右手で渾身の力を込めたフォームに対し雪丸は
緩やかに左へと移動する。
斧の矛先は雪丸に当たる所か後の観客の頭を
カチ割り1人のレイダーが倒れた、それを見て更に
観客が盛り上がりを見せたのだった。

誠「狂ってやがるな……」

雪丸は観客の頭に刺さった斧を引き抜くと石毛に
向かいそれを優しく投げたのだった。

雪丸「当てる自信もないお前が己が武器を
投げるなど愚か者と言わざるを得ない……
投げる軌道はその腕側に避けるのが定石
手首の返しにさえ気を付ければ、その軌道の線状
意外に危険は無い、腕の振りが縦なら縦線状、
斜めなら斜め線状、頭を使え、単純な力任せの
攻撃では俺は倒せんぞ」

「当てる自信が無いのなら重いものを胸に置き
体の内から外へ放つ様に投げろ……アメリカの
護身術でも習う初心者向けの投げ方だ
腕と手を相手に向け放つと関節が動か無い分
正確に当てる事が出来る、フリスビーの要領だ
後は腰の回転を使い威力を増せ」

石毛「なんだと……俺様に講釈か!
この野郎、なめやがって、殺す、必ず殺してやる」
斧を手に取り、怒りで頭の血管が蜘蛛の巣の様に
額に浮き出る程の殺意を向ける。

雪丸「私が刃物を所持していたら、お前のその太い
血管を数センチ切るだけでお前は絶命する
……怒りは全ての勝てるチャンスを逃す
怒りの力がお前の原動力ならば内で燃やし
外には出すな」

石毛はいちいち説明する雪丸に最早、殺人鬼の
様な形相で彼を睨み付け続けた。

石毛「コロス……」
斧を頭上に高々と挙げ怒涛の突進、間合いが一気に
石毛の射程内に入り猛々しい斧をふりおろそうと
動きを止めた瞬間、雪丸もまた彼に向いただ一歩
素早く踏み込んだ。
石毛からは一瞬で雪丸が消えたかの様に見えた
瞬時に躊躇するもその挙動は止まらず
斧を振り下ろす彼の二の腕部分に掌を添える様に
当てたかと思うと石毛の斧が振り下ろされた

振り下ろす力+重力が加わり+斧の重さが
雪丸の置いた二の腕を支点に一気に加わった。

『バキッ!』

石毛の腕はそれに耐えられなくなり折れた。

石毛「ぎゃあああ!」

クリス「うまいな……雪丸が手を添える事により
支点が作られ、自らの後先考え無い力任せの
振り下ろした力で腕の筋が伸びきった状態になった
あぁなったら自慢の筋肉は役立たねぇ、
それどころか奴は自ら自爆したにすぎねぇ」

相葉「支点なら肘じゃ無いのか?」
誠「肘に当てても筋肉の張った曲げた状態を
無理やり曲げるには相当な力がいる、
仮に肘に手を当てれば勢いの乗った石丸が雪丸の
手に肘打ちする感じになるだけだ」

クリス「そこで二の腕だ、肩からの振り下ろし
回転の力は最小、雪丸にはダメージもない
なんせただでさえ鍛えてもあの挙動では
二の腕裏は力を入れても土台、入れなくても
土台にしかならない部分だからな」

叫び転がり続ける石毛を他所に雪丸は落ちた斧を
手に取り石毛の元へゆっくりと歩みよるのだった。

石毛「お、俺の負けだ!もう許してくれ!」

司会「おっと!ここでギブアップ!しかし此処は
そんなに甘くない、殺るか殺られるか!それ故の
生活の保護に多額の賞金てわけだ!」

雪丸は足元に転がる石を見る様に石毛を見つめ
囁いた。

「お前は過去、どれだけの人を……弱き者の許しを
受け入れた……此処のルールは自分には
適用されない強者だと勘違いしたか、
お前は今その弱き者の心を学ぶ時なのだ」

石毛「んだよ!それ!弱い者が悪いんだろうが!
奪われるものが悪いんだろううが!辱められるのも
殺されるのも奪われるのも弱い者が鍛えなかった
からだろうが!」

雪丸「腕力だけが力と言うか……
なら今まさにその弱き者とはお前だ」

石毛「……そんなぁ」

雪丸「全てに学びはある、今日が最初のその日だ
恵まれた体躯に甘んじ暴力と言う名の力のみを求め
暴力には弱き者達のみ相手をしてきたのだろう……
良かろう弱き者の心と斧の使い方を教えてやろう」

大きく振りかぶった雪丸の腕には斧が握られていた
その斧を力無く脱力し振り下ろした。

石毛は両腕を交差させ振り下ろされる斧から頭を
抱き抱える様に庇った。

当たる瞬間、雪丸は刃の方を後ろにし斧の
ジョイント部分である場所で石毛の腕に
振り下ろした、鈍い音を立て石毛の腕は赤く
腫れ上がった。

雪丸「これが先ず第一、力は重力と肘を支点にした
振り下ろしだ、力が入ればその分威力は弱まる」

石毛は半泣きになりながらも赤子の様に腕を
十字にしながらも必死で頭部を守ってる、
腕の隙間から雪丸を子犬の様な目で見ていた、
最早、先程の猛々しい姿はカケラもない。

雪丸「次だ……」
ワザと石毛から振り下ろす腕が見える角度で
斧を打ち下ろす、それに対し石毛は対処しようと
手を前に突っぱねる様に防御しようとしたが
石毛から見えるのは雪丸の肘のみだった。

石毛「ヒィィィ、お、斧が見えない!」
雪丸「力はまだ要らぬ、肘を支点に斧も隠せる、
軌道を相手にわざわざ見せる必要がどこにある
全ての無駄をお前は無駄な力で、醜い欲望や怒りで
振り下ろすのみだった、持久戦に置いてもお前は
100の力で私は1の労力のみでお前を倒せる」

肘から斧が見えた瞬間、既に避ける事の出来無い
距離と予測のできない場所から下された斧の衝撃が
石毛の腕に容赦無く何度も振り下ろされた。

石毛「もももうやめてくれ!腕が腕がイテェ」
雪丸「どこに当たるか解らないだろう……次だ」

今度は振り下ろす斧を肘の支点を使わず石毛に
見せる様に振り下ろすのに対し石毛には斧の
軌道が見えやすくなった。

石毛はその軌道上に腕で防御に入るがその腕を
すり抜ける様に再び顔面に斧の衝撃を受けた。

石毛からは突然軌道が変わる打撃に理解が出来ず
最早恐怖で身が萎んでいく。

雪丸「斧だけでなく私の全体をよく見ろ……
私は体を少し拗らせて振り下ろしている」
石毛「イテェ!」
雪丸「次だ……次は肘を少し曲げたぞ……」
石毛の額は割れ出血するも容赦無く続く
「次は人差し指を斧から外して振り下ろすぞ」

言葉が出るたびに斧の振り下ろされる軌道は
変わっていった、渾身の力は全ての動きを単純化
させる、無駄な動きはその威力をも自ら殺し
敵に軌道を安易に教えている事を石毛に伝えながら
無慈悲な攻撃は更に続けられた。

雪丸「お前の自慢の腕力は此処からが使い所だ
身をもって覚えよ」

脱力した斧が先程と同じ様に石毛に振り下ろされる
だが当たる瞬間雪丸の太い腕に力が入った。

『バキ!』

再び嫌な音を立て石毛の左腕が折れる音が辺りに
響き渡った……

「あギャァあああ!」

雪丸「どうだ、先ほどに比べ威力が格段と
増しただろう、これは斧に限らず全ての打撃、
投げ関節技に通ずる、無駄な力は全てをマイナス
にするが使い方次第でそれは爆発的な力となる」

それから執拗に泣き叫ぶ石毛に向け斧は振り
下ろされた……幾度も彼の左腕に集中し当たる度に
骨が折れる嫌な音が辺りに木霊するのだった……
失禁し叫ぶ姿は最早この場所での
彼の威厳を完全に無くすには従分な姿を曝け出した

やがて痛みによる気絶により戦闘不可能となり
彼は自分の失禁した小便の上に倒れた……

相葉「ひでぇ……あそこまでやらなくても」

司会が倒れた石毛に近づき雪丸に向かい指差す。

司会「勝者雪丸選手ぅぅうう!殺るか殺られるか
もしくは四肢が完全に破壊されねば気絶しようが
試合は続行されますが石毛選手の左腕は最早使い物
にはならない状態だ!」

「故に特別ルールに乗っ取り勝者が決まった!
尚、石毛選手は左腕が使い物にならない状態に
なり今後はこの施設での重労働者送りとなり
一生こき使われるかグリーンマンの餌食と
なりっまっす!」

クリス「殺さなかったか……こういう場所で
殺さないのは後々自分への遺恨を残すことになる」

誠「だろうな……大きいとはいえ施設内にいたら
いつ復讐されるか解らねぇからな、だが奴の
温情なんだろ?きっと、こんな場所じゃ温情と
言えるかは解らねぇがな」

ハク「……」
誠「どうした?」
ハク「大体理解した」
クリス「何がだ?」

ハク「彼の目を見てた、試合前は瞳孔が開きぱなし
な感じだったけど試合が始まれば彼の目は
綺麗だった……」

誠「……それがどうした?」

ハク「希望を持たない人間は物事や視界に
入るのもをしっかり見ないんだ……
故に瞳孔が開く故に濁った様に見えるんだ……」

相葉「なるほど……サラリー時代に年配になると
魚の腐った様な目が多いと思った事がある
毎日同じ作業に繰り返されるパワハラにモラハラ
生活に追われ希望なんか学生時と違って想像すら
しなかったかもしれ無いな」

ハク「子供が綺麗な目をしているのも生きるために
全ての情報を得るためにしっかり見ているからも
あるね、心が病んでる人もこの様な現象が起きる
アニメとかで絵の表現も目はボカしたりするでしょ
故に彼はまだ何かに諦めて無い
それに手錠だ……誰かを守って何かをしたんでしょ」
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