世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

しおじろう

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evil

クリス19改造

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黒兵「きっ来ました!」

イルガ「撃て!」

マシンガンの銃口が一斉に火を吹いた。
だが蜥蜴の動きは素早く人間と違い壁の側面や
天井を縦横無尽に走り回る、その3Dの動きに対処
した事がない彼等の動きは蜥蜴を捉える事は
やはり叶わなかった……

黒兵「当れ!当れ!当れ!」

線の銃痕が壁に幾何学模様の様に塗られて行く

イルガ「落ち着け!先行予測出来る範囲の射撃でも
追い付かん!銃弾で囲むんだ!俺は左、お前は右
側面の壁から中心に向かい撃て!」

黒兵「りっ了解!」

幅5メートル範囲の狭い場所ならではの囲い射撃に
蜥蜴型に銃弾が当たり始めるも装甲で覆われた
身体に致命傷は与えられず近づく事を抑えるのに
精一杯の彼等に時が迫る。

イルガ「時間だ!銃を寄越せ!お前は配線を
繋ぐ事に集中しろ!」

黒兵「了解です!」

イルガに銃を投げると配線の準備に取り掛かる

黒兵「カウント開始」

「5」
「4」
イルガ「マガジン交換の暇が無い!」

2丁マシンガンの片側の弾が切れる、トリガーを
引くも虚しく空を切る音が響いたーー

その隙を狙いイルガの脇を通り過ぎ、配線を準備
する黒兵目掛け走る蜥蜴型、

瞬時にタックルの様に身体事受け止めた黒兵
だったが体躯の大きい蜥蜴に勢いは負け繋げる筈の
配線の繋ぎ目の先が蜥蜴の指に絡み付き
引きちぎった。

□送電線と送電線の間は10センチ程開き最早
修理の時間も無い□

ありったけの力で蜥蜴を押さえ込む黒兵が叫ぶ

「はっ配線繋げられません!隊長!」
手袋をラルに渡し高圧に触れる事が出来無いイルガ
手袋を渡す事も身体で蜥蜴を受け止めている黒兵も
出来ず万事休すの時が迫る。

黒兵「2」

イルガは素早く近くの地面に落ちていた作業用の
スパナを拾い上げると送電線に向け投げ入れた。

「1」

声と同時にスパナは配線と配線を繋ぐ様に
ぶち当たった、一瞬火花が散り、高圧の電流が
一気に流れたと思えばすのスパナは跳ね返る様に
天井へと弾き飛ばされた……

その火花のフラッシュの一瞬、イルガの腰は
高速回転をする、大きくうねる腰の筋肉はやがて
廻された足に威力を伝え体重の載った見事な
後回し蹴りが蜥蜴型の脇腹を捉えその身を
吹き飛ばした。

イルガ「……」
黒兵 「……」

コードは無事送信されたのだろうか……
それが脱出への鍵だった、固唾を飲んで蜥蜴型と
対面しながらも2人は聴き耳を立て様子を伺う

『ブォォ……ン』

微かに起動音がし、徐々に空調から排気音がしたと
思えば冷気が一気に流れ始める、破裂したダクト
から漏れ出したその様はまるでドライアイスの
様に辺りから下への視界を奪う程であった。

その瞬間、一瞬である
僅かな隙に爬虫類がけたたましく動き回る、
蠅を捉える捕食の時の動きの如く
一瞬の内にイルガ達の視界から消えた、

イルガ「なっ!」

瞬きをする一瞬がスローにも見えた光景に映った
のは部下である黒兵に向け冷気で視界の悪い床から
這い出る様に飛び出した蜥蜴型が
彼を襲った姿だった……

勢いに突き飛ばされた黒兵にまるで密着するが
如く同時に弾け飛ぶ黒兵、そして蜥蜴の体。

次の瞬間蜥蜴型の身体中から無数のシルブァが持つ
剣の様な物がハリネズミの様に身体を覆い
黒兵の身体を刺し貫いていた。

防弾ベストすら刺し貫くその刃に腹は勿論
口の頬からも刺し貫く程の太いモノから細いモノ
無数の形はバラバラな歪な針や剣。

近接過ぎる黒兵と蜥蜴にマシンガンを撃つことも
叶わず針の様に飛び出た剣にイルガは触る事も
出来無い銃を構えるもどうする事も出来なかった。

が冷気の下を潜り飛び出した蜥蜴型の動きに変化
が見られたのだった。

元々爬虫類は寒さに弱い、動きに大きく鈍りを
自身に感じた蜥蜴は再び冷気漂う床に潜ったかと
思うと姿をイルガ達の前から消し去った……

イルガ「大丈夫か!」
駆け寄るイルガは部下である黒兵の傷を見て
俯くしか出来なかった。

黒兵「隊長……行って下さい」
イルガ「あぁ……そうだな」

抱き抱える様に彼の身体を起こすも吐血する彼

黒兵「酒飲め無いな……折角隊長が
奢ってくれるのに……穴だらけで漏れちまう」

イルガ「……最後に伝えたい事はあるか」

黒兵はユックリとポケットに手を入れペンダント
を取り出し隊長の手に潜り込ませた。

「はは……ありきたりですかね?
コレ母に渡して下さいケホケホ……」

そのペンダントの中に貼られた写真は幼き日に
母に抱かれ後に父と幸せそうに笑っている
家族の写真だった……

イルガ「ありきたりなモノか、人は最後には大事な
モノを思い起こさせそして行動する、
ありきたりでは無く必然の行動だ」

黒兵「で……ですよね、すいません任務に
持ち込んではイケないモノを持ってました」

イルガ「……気にするな」

イルガもまたポケットから写真を取り出した。
「見ろ、私の別れた女房と子供だ……
私も持っている、規則より大事な物が人にはある
その大事なモノの為、人は人生を戦う事が
出来るのだ、出なければ軍隊など人殺し集団に
他なら無いだろう?故に規則より家族の写真を
大事に懐に仕舞い込んでたお前こそが立派な国を
背負う兵士だったぞ」

「見ろ、幼きお前に負けず可愛いだろう……」

黒兵「……へぇ隊長に似なくて良かったですね
可愛いや……それに隊長に褒められるなんて
初めてかも知れません……もう行って下さい」

イルガ「……そうだな、私は行く、
短銃は置いていく、後の人生はお前が決めろ」

黒兵「ははっ……行って下さい
この地球の未来、愛する家族の住む地球を……」

『頼みます』

そしてイルガは優しく彼を壁にもたれさせ右手に
銃を持たせ振り返る事なく静かにその場を後にした

『ピチョン……ピチョン……』

水滴が等間隔で落ちる音が通路に響く……

1人薄暗く狭い通路に美観もなく時折り遠くに
聞こえて来るゾンビの呻き声が彼の
レクリエムだった。

やがて血は流れ激痛が無くなり傷口が冷たく
感じてくる、手足の痺れも消え視界が薄らと
白くなって行く……

黒兵「……痛くも無くなってきた、
短銃も必要ない……な」

狭まる視界にふと足元に目がいく、其処には
半分身体が切れ痩せたゾンビがまるでネズミの様に
彼の足に噛み付き肉をほうばっていた……

黒兵「……」

「チッ……静かに逝ける事も出来無いか」

力無く短銃を痩せ細ったゾンビの後頭部目掛け
撃った、力無く倒れるゾンビに黒兵の握力も
尽き短銃を落とすのだった。

「さ……寒い』

感覚の消えかけた彼だったが転がるよに身を捻らせ
落ちた拳銃を拾い挙げるとそれを見つめた。

噛まれ数分後には変異してしまう事を彼は恐れた
守るべくして戦ってきた仲間を自らが襲う結末を

天井を見上げ彼は呟く……

「お母さん……お父さん」

手を光が差すはずのない天井へと向けた。
だが彼の視力は既に消えかけ幻想という光が
彼の間の前に少しずつ大きく拡がっていった……

(父さん……あの時わがまま言って傷つけたね
ゴメンね……)

(母さんあの時の言葉は本当の気持ちじゃ
なかったんだ……ちゃんと謝りたかった)

何気無い生活で誰もが経験する些細な出来事が
脳を巡る……後悔や感謝が湧き水の様に彼の
心から溢れ出していた。

(言わなきゃ……生ある今、伝わらなくても……)

「あ、愛してる……これからも」

突然大声で叫ぶ、呼吸が出来なくなった
彼の最後の叫び

『母さーーんンンン!』

『パン!』

そして彼の天井に挙げられた手から力が抜かれ
血だらけの床へと落ちた……

衝撃に血が弾け飛ぶ……

跳ねた血の一つが彼の目にかかり赤い血が悲しげな
彼の涙にも見えた……

彼の経歴
国の為にと自ら軍へ志願した、其処からは
家族の為、努力を重ね特殊部隊に任命されるまで
時間は掛からなかった。
28の時、紛争により恋人を失うも軍を抜ける
事なく精進した。

そして29歳の時特殊部隊の配属が決まる、
断る事も出来た、受けてしまえば後戻りが
出来ない事も承知の上の部隊であった。
家族にも任務は口外してはならない。
それは特殊任務ならどの国もある守秘義務である。
誰かがやらねばという使命感からそれを受諾。

ありふれた彼の経歴だが彼の人生の心の経験や
考えはそんな『ありふれた』一つで片付けられる
モノではない……
誰にも物語はある、努力した者には数多くの
努力しない者にも物語はある。

血の吐く様な訓練の上、今彼は此処に居て……

       そして終える……
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