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evil
クリス22 デジャブー
しおりを挟む弾丸の雨が豪雨の様にゾンビ達に向かい
そして次々と倒れるも弾の消費は湯水が如く
消えて行く……
シルブァ「とりこぼしたゾンビの処理を頼みます」
か細い声で囁く様に告げた……
冷静に見えるシルブァの告げた言葉に
切迫した状況だと改めて気付かされる一同
中央で戦うボルドに負担が増えない様
以前よりも増して激しく戦うシルブァであった。
シルブァ(……私は何故、彼の為に残りの
体力を考えず戦うのだ?先程みた光景に感化されて
いるのか?……この私が?)
その思いを裏付ける様に激しく舞う、そよ風の様な
華麗だった攻撃が嵐に変わったと例えるのが
一番わかりやすいだろう。
イルガ「いいか!俺達は改造ゾンビに向けて撃て!
奴の防御体制を解かしてはならん!
クリス!お前は思う通り行動しろ!その方が
お前の能力は高い!」
左からゾンビが破損した窓ガラスを破り
シルブァの腕にかぶりつく、ガラスで切れた指は
血を流しその手からぶら下がり醜い憎悪の顔に
表情を変えず冷静に、そしてかつ大胆に
ゾンビの脳に目掛け剣のような腕で
突き刺し弾き飛ばした。
戦いの中に葛藤が大きく渦巻く
(私にとってドロア教授は父……故に替えがある
私が命令には命をかけるが当然、ボルドも同じく、
だが……彼等の肉体は一つ)
黒兵「背後からもゾンビ接近!」
イルガ「……こんな時に!仕方無い!改造タイプは
シルブァに任せ、彼等及び我等に
近づくノーマルを尽く倒せ!」
モス「クソ!ドームと同じじゃねぇか!
イルガ!後方は俺とラルで何とかする!」
イルガ「了解だ!」
援護射撃が通路前後から襲い来るノーマルに
変わり自身に向かう銃弾が減った事を理解した
改造ゾンビが不気味にユックリと両腕の
防御態勢を解き立ち上がる……
そして遂にシルブァの前に立ちはだかった。
その野生溢れる肉体に対しシルブァの身体が
小さく見える程である。
腕はボルドの倍はあり、引き締まる太い腕は
贅肉のカケラも無い、それは美と言う言葉にも
置き換えられる程のものだった。
改造ゾンビは両腕を上げながら唸り声を高々と
挙げたかと思えば、援護をすり抜け走り寄る
ノーマルゾンビを背後から
無造作に頭を掴む。
溢れんばかりの生命力に満ちたその身体から
発せられる殺気が矢のようにシルブァ後方にいる
クリス達にも伝わった。
クリス「シルブァが改造ゾンビと戦闘体制に入った
イルガ!俺は奴の応援に行く」
イルガ「無理だ……この状況で1人でも抜ければ
後は背後から雪崩のように押し込まれ全滅する」
確かにその通りだった、だがクリスは人間とは
言えない彼等の心配が体を鈍らせる。
クリス「チッ……」
だがその時、後方の気を察知し
シルブァが背中越しに高々と拳を握った手を挙げ
まるでクリスの心配を解くように
更に力強く拳を握ったのだった。
クリス「ハハッ、彼奴……やる気か、
熱いねぇ……了解だ!シルブァ!
前が駄目でも全滅だ!俺達の命運お前に託す!
俺は俺の仕事をする背後は気にするな!
俺達に任せろ!」
モス「ありゃりゃシルブァにも負けず、
普段クールなクリスが珍しく熱くなってんねぇ……
これもボルドのお陰かもな」
そして今度はラルの死角から飛び出し襲い来る
ゾンビにボルドの力任せに放った拳がメリメリと
音をたてゾンビの顔面を捉え、吹き飛ばした。
ラル「いい子だ!腕ぶっ壊れても俺達を守れよ!」
彼等の弾の残りが少なくなり狙う的に緊張感を持ち
一体一体急ぎながらも正確に撃ちゾンビの陣を崩す
ーーシルブァVS改造ゾンビーー
シルブァは巨軀のゾンビに手こずっていた。
巨軀のゾンビは群がるゾンビをその尋常では無い
握力と腕力で掴み、其れをシルブァに
向けて投げつけていたのである、接近する事も
容易では無い状況に苦しむ。
『ヌォォ』時間が経てば疲労するその身体はゾンビ
では無くシルブァに襲いはじめた……
身体が温まり始めた改造ゾンビのパワーが更に
増して行く、次々とノーマルを左手で掴んでは
投げ右手にも掴み間髪入れず飛び交うノーマル
ゾンビ達。
パワーが上がり始めた改造ゾンビはその有り余る
力を発揮、ノーマルゾンビの頭を握り潰し
投げつける程になっていた……
ある時は身体を真っ二つに千切り
血の雨と共に肉塊がシルブァに飛ぶ。
ゾンビと言えど体重は50キロ以上ある物が
飛んで来る恐怖心は凄まじきものだ、
だがシルブァもまた恐怖心を持たない存在であった
黒兵「倒れろ!倒れろ!倒れやがれっ!」
黒兵やイルガも前方、両サイドに分かれシルブァを
援護するも弾丸が身体にめり込むだけで
効いた気が全くしない。
黒兵「くそ!どうなってんだ!もう弾が少ない」
シルブァの疲労の一つは避ければ後方で戦う彼等に
背後から向かい飛ぶゾンビの危険から全ての
ノーマルを切り落としているからだった。
徐々に疲労が溜まりシルブァの動きが鈍って行く
斬り落とした肉片を避けれなくなって来ていたのだ
身体に当たる肉片の衝撃で次の挙動が遅れ始め
そしてそれは時間が経てば経つほど遅れた挙動を
補う為に彼の最大の武器である足に負担が蓄積
して行くのだった。
二つにブチ切られたゾンビにも変化が出て来た。
リミッターの切れたゾンビは身体が千切られ
投げつけられながらも牙を剥き始めたのだ。
チラチラと前方のシルブァに目がいくクリス
「……」
避けるシルブァの肩に避け切れないゾンビの
上半身が、そして腕がぶち当たり
体勢が崩れそうになる。
シルブァ「……」
(私は何故先程、拳を挙げて彼等を安心させた?
援護に来てもらった方が我の生存確率は上がる筈
だが確率はそれでも低いままだが)
だが上半身に当たったゾンビはそれで終わりでは
無くなっていたシルブァの肩にぶら下がるように
噛み付いたのだ。
クリス「イルガ……やはり俺は前へ行く、
此処もギリだ、だから交代だ、黒兵!変われ!」
イルガ「待て!陣が崩れる!」
クリス「オッサン信用してるぜ?」
そう言うとクリスは駆け出し、黒兵に手持ちの
マシンガンを放り投げ渡すと交代する
様に入れ替わった。
イルガ「その甘さ……命取りになるぞ、だが今は
期待する、黒兵!お前は後方のクリスの穴を
埋めろ、前方は俺とクリス、シルブァで
何とかする!」
シルブァの足にも千切られ地面を這うゾンビが
また一体、醜悪な牙の様な歯を美しい足を抉る様に
噛み付いた……
2体のゾンビの体重に堪らずシルブァも遂に
膝を落とし絶体絶命の時を迎える。
『ヌォォオオ!』
獲物が弱った事を確信した改造ゾンビが
更に追い討ちをかけるが如く渾身の力で
ノーマルゾンビを投げつける。
今まで聞いたことがない様な不気味な風切り音を
奏でとどめの追撃、そう、絶望が今シルブァの前へ
飛来したその時ーー
クリス「待たせたな……」
シルブァ「!」
シルブァの前にクリスは悠然と立った。
静かに目を閉じ息を整える……
再び目を開けたクリス目掛け飛来中のゾンビの下に
彼は潜り込む様に素早く体勢を低くし
腰を落とした瞬間両手に持ったナイフを
突き上げる様に、威力に逆らわない様に
両足を踏みしめながら突き上げるように
身体ごと一気に立ち上がった。
ゾンビの飛来する方向が巴投げの原理により
弧を描き上部後方へ変わり、シルブァとクリスの
頭上へと通過して行く。
ラル「オワッ!背後からゾンビが飛んできたぞ!
テメエ!クリス、コッチも手が一杯なんだ!
余計な仕事増やすんじゃねぇ!」
そう言うとラルとモスは未だ動くゾンビの
頭目掛け短銃の弾を喰らわした。
クリス「すまないな……まだまだ飛ぶから
気を付けてな」
ラル「は?」
モス「……諦めろラル」
クリス「なぁシルブァ、お前が居なきゃ此処までも
来れなかった、いい加減で良いんだよ、
全て背負おうとするな、ほっといたってゾンビが
飛んで来れば勝手に仲間が始末するさ」
シルブァ「何故、私を守って……
人はそんな存在ではなかった筈」
クリス「そうかもな……俺もその人間の内の1人だ
油断してるとお前を背後から襲うかも知れねぇな」
彼の言動は矛盾していた、それはシルブァにも
充分理解していた、なら何故私を助ける必要が
あったのか……
頭で思考が目まぐるしく駆け巡って行く
(今此処で私が倒れれば彼等の生存に関わる
からか?……現状ではそれが最も自然だ……が)
(だがボルドに対する配置には理解が出来ない
彼の戦闘能力は著しく低下している、あの場面で
後方や前方に贄として行動させていれば、
倒されても餌として囮に使う事が最も
効率的だった筈だ)
確かにボルドの片腕は使い物にはなっては
居なかった、折れた左腕の機能は殆ど失われ、
元の腕の大きさに萎縮、右手との重量バランスも
崩れ、最早ドーム時同様足手纏い
と言うしか無かった。
クリス「おい、休憩はそろそろ終わって貰っても
良いか?ちとコイツは1人だとキツイんでな」
その言葉に我を取り戻すシルブァの前にクリスの
手が差し伸べられていた。
シルブァ「………」
つい先程まで人間を拒絶していたシルブァの手が
自然とクリスの差し伸べられた手を掴む、その
行為に一番驚いたのはシルブァ自身だった。
シルブァは自らを助ける為に差し出された手に
人の暖かさを感じた気がした。
シルブァ「……」
クリス「さて、いきましょうや」
飛んで来るゾンビを2人でいなしながら
シルブァは言った。
「私も元は人間だった……」
クリス「へぇ……そうかい、どうだっていいがな」
その言葉の意味を語り出すシルブァだった。
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