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VS熊

満身創痍

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クリスはひたすらアクセルを回した。
加速するバイクの風で呼吸がし難い程に
アスファルトが走るバイクの速度でノイズの様に
映り時を短縮して行く、

下を向き風が呼吸を邪魔しない所で一呼吸し
再び息を止め、また上を向き走り駆ける。
まるで水泳選手の様に

視界がスピードで狭まる……

道路状況は決して良くは無い、通常このスピードで
走れば数センチの段差で車体は弾き飛ばされ、
クリスの命は無い。

だが彼は駆けた、記憶を頼りに舗装の程度が
いい所をひたすらに……


だが次々と試練が舞い降りる
前方に熊が2匹が姿を現したのだった。

クリス「今は誠だ!通り過ぎさせてもらう」
が熊も獲物を逃そうとはしない、二頭は道を
塞ぐ様に横向きへと体勢を変え塞いだ。

クリス「クソぉぉお!」

車体を倒し滑る様に転け落ちるクリス
体を丸め横にコケながらも速のついたバイクと
並走するかの様に滑る。

バイクを倒す際、クリスも体躯のデカイ方の
熊目掛けバイクの方向を調整しながらの転倒だった

勢いの乗ったバイクの車体金属とアスファルトの
摩擦でガリガリと音を立て火花を散らしながら
1匹のクマの横っ腹目掛け弾丸の様に激突

熊とバイクはまるで派手なアクション映画の様に
弧を描き弾け吹き飛んだ。

クリス、バイク、一頭の熊は動かない……
腹にバイクを受けた熊は口から血を流し
息絶えていた。

そしてクリスはよろめきながらも立ち上がった。

クリス「……満身創痍ってこう言う事いうんだ」

もう一頭の熊が威嚇する様に立ち上がり
大きなうねり声のような咆哮を彼に浴びせる、

栗栖は即座に胸に複数装備した投げナイフを熊に
投げた、熊胴体部心臓に刺さるも脂肪の
厚い熊には微塵も効いた様子も無いが警戒した
様子で彼の周りを円を描く様に歩きだす。

右手にボウガンを構え、射撃のブレを無くす為に
左腕を曲げ、土台支える様に持った。

その左手にサバイバルナイフを持ちながら
にじり寄る……


□□集会所□□

相葉「御堂さん!このまま奴等の自由にさせて
いいのかよ?」

御堂「……」

困惑する御堂、自分の子供の反発に……
子供を守っているという自負もあり
何を基準に行動するべきかに悩んだ。

御堂母「あんた、何してるの、早く追い出してよ
うちの子に何かしたんでしょ!アイツら」

ヒステリー気味に突っかかる奥さんに囃立てる周り
思い込みに拍車がかかる、今ハク達の味方をすれば
集会所にいる者の敵となる。

御堂「俺は……父として」

御堂母「何ブツクサ言ってんのよ!」

近藤「御堂さん!アイツらの仲間の前(ハク)に
クソババァや……その言いづらいんですけどお宅の
お子さん達も……その立て篭もって」

御堂「うちの子が……」
御堂母「ちょっと!仲間って高熱だして寝てる
人でしょ、うちの子に病気がうつりでもしたら
どうすんのさ!あの子に何かあったら私……」

泣き崩れる奥さんの肩を抱く御堂父は困惑
しながらも説いた。

御堂「アイツらの仲間は隔離した状態の部屋だ、
もし病気だとしても感染率は低いと沖高先生も
言ってたじゃないか……」

御堂母「あのヤブ医者なんか信じられないわ!」

御堂父「医者だぞあの先生、しかも伝染病の専門医
だった話だ」

相葉「うちの子も居るって話だぞ!御堂さん!
どうしてくれんだ!アンタの子供がウチの子を
たぶらかしたって話じゃないか!」

相葉母「あんな逆らう子に育てたつもりは
無かったのに……何でも与えて、苦労はさせない様
可愛がって来たのに」

相葉の言った言葉に感情が昂ぶる御堂

御堂父「うちの子がたぶらかした?あぁ?誰に
モノをいってんだ!」

御堂父が相葉父の胸ぐら掴んで威嚇するも集会所の
雰囲気に最早御堂のご機嫌を伺う必要などなかった
ついで自分の子に被害が及ぶ事を恐れる相葉も
また引く事はしない。

相葉父「事実じゃないか!あの子に何かあったら
お前が出て行け!」

呼応するかの様に近藤、山田も御堂に噛み付く
複数人に腕や服を引っ張られた御堂父、中には
彼等の母親も居た。

御堂父「……」

今まで手下の様に扱って来た仲間が掌を返す
多勢に無勢、責任を擦りつけ合う者達……
そして今度は自分達に向けられた怒りと迫害

怒りがハクに向かう、『アイツらさえ来なければ』

側にあるナタを手に相葉達にソレを向け言い放つ

御堂父「俺が行く、子供や年寄りが集まった所で
どうにでもなる、俺は子供を守る為に
何でもしてやるさ……あぁ何でも」

(今は嫌われても後々俺に感謝するさ健も……)

その決意とナタを向けられた恐怖に相葉達も
たじろぎ道を開けた……

□□子供達□□

健「いいか?皆んなでハクさんを守るんだ」

太郎「俺やだよう……親が怖いもん」
怖気付く太郎に優しく声を掛ける健

健「皆んな聞いてくれ、僕は物資を探しに行った
その時、外にいるクリスさんと誠さんに
助けられたんだ、そして僕は見たんだ……」

「残念ながら畑の二つはもう熊に荒らされてた
後だった……このまま熊を野放しにしたら、
もうご飯なんて無いんだよ?」

「ソレに沖高先生も言ってたじゃ無いか、
ハクさんただの風邪だけど体力がほとんどなくて
過労から来る高熱で目を覚さないだけって!
太郎も風邪引くだろ?そんなものでハクさん
追い出していいのか?」

未来「私達は子供だよ?大人の言う事聞かなきゃ
いけないんだよ?」

健は未来を見て照子さん達を見渡した。
健「おばぁちゃん達も大人だ」

未来「そうだけどさ……」

健「僕と一緒にハクさん守りたい奴だけ来て
無理強いはしないよ」

康太「……ほっとけばいーじゃん、僕には
関係ないから行かないよ」

健「うん、それでいい、でも関係ない人間は
誰一人として此処には居ないよ、大人、子供なんて
関係は無い今は……いやいつだってそうだ」

照子さんが子供が集まる部屋へと入って来た。

照子「アンタ達……気持ちは嬉しいけど
皆んな念の為お父さん達の所へ行っといで」

心配そうな目で子供達を見る照子さんに健は言った

「照子さん僕は僕の意思でここに居る、
そして今のお父さんや他の大人達が正しいとは
思えないんだ……大人だろうが子供だろうが
正しいと思う事は何も変わらないと思うんだ、
僕は退かないよ」

照子さん「……」

「しかし何かあったら……」

健「何かあったらそれは自分の責任だ!」

そこにナタを持つ御堂父が現れた。

御堂父「健、今すぐ皆んなの所へ帰れ」

健「いやだ!」

御堂「なんでわからないんだ!俺はお前達を
守ってんだぞ!お前達の為に!」

健「クリスさん誠さんは『皆んな』の為に今、
戦ってる!」

御堂「……は?奴等も所詮、此処に居たいからだ、
此処に居る仲間の為に戦ってるに過ぎない、
お前は子供だから解らないんだ」

「じゃあ何故僕を助けてくれたんだよ!
ほっといた方が事を上手く運べたじゃないか!」

御堂「……それは」

健「自分の為に友達のハクさんを助けて?それで
僕も助け?今も皆の為にも戦ってる?自分の命が
危ないのに?自分の為にだけ?
矛盾だらけじゃないか!
そんなの子供だってわかる」

「……お父さん僕はお父さんの事大好きだよ
でも……でも」

健「お父さん、今のお父さんはカッコよくない!」

聞きたくない我が息子の言動に咄嗟に怒りが
御堂の体を突き動かす、
平手打ちをするも健はそれに絶えた。

周りの子供達にも緊迫した空気の中どうしていいか
解らず右往左往するばかり……

「僕はお父さんを尊敬したい……」

口から血を流す健に御堂も正気を取り戻した。

それでも動かない健を見てクリスの言った言葉が
脳裏に浮かぶ。

『感情で手を出せば俺が黙ってはいない』

健の口に付いた血をハンカチで優しく拭く
照子さんが言った。

「本当に強い子だねぇ、そして優しい……
御堂さんアンタ、いい子供持ったね」

平手打ちをした手を見つめ押し黙る御堂

(俺は今まで感情で叩いてたかも知れない……
俺も父によく殴られた)

照子「大人になると融通が効きにくくなるもんだ
誰も叱ってくれなくなるからね……
でもね正しい事は心で理解するもんなんだよ」

「してはいけない事は法律や教育なんかじゃ無い
優しさは心で伝えるもんだ」

「今アンタに教えて叱ってくれてるのは誰でもない
アンタの自慢の息子さんだよ?」

「守っているのも守られているのも……
守ってるつもりが守られて、守られてるつもりが
守って……」

「親が子を守り、子がまた親を守ってる
もんなんだよ……」

「子供はね余計な知識や力がない分、
心で動くもの何だよ……
しかし考えてみておくれ、
その純粋なる強さは今アンタが失っているモノ
なんじゃないかね?」

冷静な目で健を見る御堂

目に涙を溢れんばかりに溜め、唇を噛み締め痛みに
絶えながらも1人の男として、1人の息子として
お父さんを尊敬したい息子の気持ちが溢れて見えた

御堂「……」

「……子供に教えられるとはなぁ」

照子「人間は幾つになっても学びだよ……
アンタも10年前はどうだった?その時は全てが
自分が正しいと思ってたろ?そして5年も経てば
その正しさも間違いだと気付く時もあったろーて」

「人は成長する、が神様ではないんだよ、全てが
正しい決断を出来る人間なんかこの世にはおらん」

「大人は子供に教えられ、子供は大人から
教わるもんだ」

「アンタはこの子にどんな子に育って欲しい?
今のアンタの様にかい?子は親の背中を見て
成長するもんだよ?」

御堂「俺には……健の様な強さは無い」
「俺は……健、お前を失う事が怖いんだ」

健「お父さん!僕もだよ、そしてお父さんには
カッコよく居て欲しい!僕の……僕のたった1人の
お父さんとして誇れるお父さんであって欲しいよ」

声を荒げ、咳き込みながら父の胸で泣く健だった。

「健……すまん間違ってた父さん、お前の
カッコいい父さんになれるかな?」

「い……今からでも」

健「父さんはかっこいいんだ!今でも」

その言葉が胸に刺さる……

「と……父さんなにしたらお前の
自慢になれるかなぁ」

父と子抱きしめ合う光景は周りにいる子供達に
伝染する。

太郎「俺もやるよ……」
未来「私も……」

1人の人間の行動が、そしてそれに応える人間が
やがて周りを変えて行く……

照子「……あの子達が来てから確かに
変わったね色々と」

誠、クリスを思い浮かべて照子は微笑む

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