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籠城 前編

籠城③

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俺の名は栗栖、正式には日本人だが母がロシア人

名前はクリス・キャンベル、ミハイル
ミサイルみたいな名前だ。

ロシアの名前はややこしい

元々、国籍など与えられては居なかった俺の家族に
名前など無用ではあったが……

父の名を明確に表現する事が出来ない事情があった
俺の母は名前を似せて付けたそうだ。

数少ない知り合いはクリスと呼んでいる
母がクリスチャンであったが為であろうアメリカに
多い名前はいつか役に立つと言った意味も含まれて
いると聞いた。

まぁ名前の事は良いだろう、しかし俺は栗栖の名が
嫌いだ、父は母に少しばかりの仕送りはしていた様
だが其れも俺が生まれて5歳の時に途絶えた……

今更ながら日本に呼ばれた意味はわからなかったが
俺は母からよく聞かされていた絵本で見る様な
平和で争いの無い人が人で生きられる自由な
日本に憧れていた。

貧乏な俺にまともな職は就けず、幼き日から過酷な
状況で育った俺は少しばかり危ない仕事でヘマを
した事、暫く姿を消す目的もあったが、チャンスと
ばかり日本で父、栗栖の呼び出しに困惑は
したものの、稼げる日本で母に暮らしを楽に
させる為に来た……

ーーだが……

直ぐにあの日がやって来て今、此の状態にある。

俺はある廃墟で会ったある不思議な男を
見張っている……

いや見張っていると言うのは少し違うか
ただ興味のある人間に出会ったという事だけ
なのかも知れないが

その男の名はハク

スコープを覗く……
ハクをつけてもう何日かなる、奴は今、籠城中だ、
状況は芳しく無い、グリマン襲撃に巻き込まれた、
当然奴を追っている俺も同じ状況だ……

俺は自分の身を余り心配してはいない、当然
喰われる最後は迎えたくは無いがこの世に未練は
無い……恐らく国い居る親も恐らくは……

この世に輝かしい未来が見えてこない俺だからこそ
奴等には興味が湧いた、平和な国に育った
甘ちゃんが『どう最後を迎えるのか』
『裏の本当の姿は』『芳しく無い状況での命乞い』
その全てが見たい……そしてその時俺はこの世の
俺の中の希望って奴を消し去りたい……

いや……希望が見たいのかも知れない

だが大半は前者だ。

兄貴が掲げる思想の上にしか成り立たない人類等
滅びてしまえばいい、なんなら裏で俺が手伝って
やってもいい……

俺は俺を消し去りたいのかも知れない、幼き日に夢
見た平和など、しょせん何処にも存在しない……

その言葉の本当の意味は

「正義」は『偽善』

「希望」は『夢』

「現実」は『絶望』

「あのまま佐々木達とヨロシクやってた方が遥かに
人生楽で楽しかったろうな……」

「だけど何かモヤモヤするこの気持ち」
「酒飲んで女抱いて」
「むかつく奴はぶちのめす」
「欲しいものは奪い取る」

だがそれは……いつ逆転してもおかしく無い

籠城する空を見上げて独り言を呟きながらも銃の
手入れを怠らないクリス

側に置くセーム革で綺麗に磨く……

持っていた携帯燃料を使い、火を起こし沸騰した
お湯を注ぎ優雅にコーヒーを飲む

「熱っち!」

「……どんな世界になろうが人も珈琲の味も
変わらねぇな、コイツは美味がな」

彼がいる場所はハクの町から見える場所の民家
だった、一階はほぼグリマンの破壊により土台が
剥き出しの空間だった。

2階は窓も有り、然程壊されては居ない状況は
一見安全な場所に見えた。

だがハクはどうだ、今にも崩れ落ちて一瞬でも目を
離すと奴はもうこの世には居ないんじゃ無いか?
と思えるほど建物の損害は大きい。

どちらにしろ、クリスもハクも落ちれば終わり
だった、廃墟よりは少ないとは言え、ゾンビに
変化したての彼らの動きは早い、無論手足は脳の
活動域がおかしい為、真剣に走れば生存者の方が
早いが、油断は出来ない程であった。

階下で蠢くゾンビに入れたてのコーヒーを垂らす

「反応は変わらずか……」

人間であるかどうかを試す様なクリスだがゾンビ
と言えど元は人間であった為火傷を負う熱さにも
関わらず痛点は麻痺してるかの様な感じだった。

「……」

「おっと奴はどうしてるかな?」

愛用のライフル、ドラグノフのスコープを覗く、
ロシアではポピュラーで軍でなくても手に入る。

セミオートで緊急時にも対応出来る代物だ、
有効射程は600と言った所か……

「寒そうだな……」カイロも入れてやれば
よかったか?」

「まぁ味方と言うわけでもねぇし」

有効射程内500m程の離れた場所にいたクリス

時折スコープを覗いてはハクの頭に標準を当てて
みては指に力を込めてみる。

「1ミリ……」

「……」

軽く口笛を吹いては

「2ミリ……」

命に向けて軽んじて指に力を込めた。

「俺の指一つでアイツ終わりなんだよなぁ……」

「そんな簡単に終わる命になに時間かけてんだろな
簡単に終わっちまうものに何を期待して……」

自分の言った期待の言葉に何故か腹が立つ
しかし彼の独り言の中に期待と言う言葉が確実に
増えている事をまだ彼自身は気付いてはいなかった

自分でも気付かず笑みを浮かべる事すらも……



























































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