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【本編の…】百年先の遠いどこかで
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最近やっと雪がとけて、その下から小さい草や花が出てきた。寒がりのおれからしたら、まだ寒くてしかたがないけど、草たちからしたらもう春になったらしい。
父さんが、もう少ししたら短い夏がくるよ、そうしたらお前は十になるから、いっしょに森へかりに行こう、ってこないだ言ってた。とてもうれしい。大きなイノシシをかる父さんはすごくかっこいい。おれもおとなになったら父さんみたいになりたい。
草原の、よく日のあたるところに行って、開いたばかりの小さな花をいっぱいつむ。花かんむりを作って、母さんにあげるためだ。母さんのおなかの中には今おれの弟か妹がいるんだって。おれと同じ、夏にうまれるんだって。たのしみでわくわくする。おなかの赤ちゃんが元気にそだつように、母さんにはたくさん食べてゆっくり休んでねっておれは父さんといっしょに毎日母さんにお願いするんだ。
いっぱいつんだ花を持って、かわいた草の上におれはすわった。花のくきにくるくるって、別のくきをまいて、かんむりをあむ。父さんと母さんにはいつもすごく上手だってほめられる。最近はあみ物も教えてもらってて、いつかあみ物屋さんもしたい。
「花冠を編んでいるのか?」
花をあむのに夢中になっていたら、急に知らないだれかに声をかけられてすごくビックリした。うわん!って変な声を出しちゃった。
びくびくしながらその人を見上げたら、すごく背が高くてキレイな人がいた。村の人はおれもふくめて、ほとんどが赤いかみの毛なのに、その人はすごくよくみがいた鉄みたいな色のかみの毛をしていた。
その人はおれの目の前に片方のヒザをついてしゃがんで、「驚かせてすまない」ってあやまってくれた。きっと、やさしい人だ。
「…えっと、あの…これ、花かんむりにして母さんにあげるの」
「そうか。とても上手だ。きっと将来は良い編み手になるだろう」
あみて、がよくわからなかったけど、ほめられたのはわかった。うれしくてほっぺたがぽかぽかした。
知らない人はこわいけど、この人はやさしい話し方でなんだか好きだ。
「んふふ。ありがとう。あの、お兄さんすごくかっこいいね……王子さまみたい」
「いや。私は王子ではなく騎士だ」
きしさまはわかる。おひめさまを守って戦う人だ。じゃあ、このお兄さんはやっぱり、やさしくてかっこいい人だ。
「…王子さまよりかっこいい」
「ありがとう。その花が編み終わるまで見ていていいか?」
「…ん。いいよ。えっと、お兄さんも花が好き?」
キレイなお兄さんは、「うん」とも「ううん」とも言わないで、ちょっとだけやさしく笑っておれのとなりにすわった。
「君はこの近くに住んでいるのか?」
「…うん。お兄さんはどこから来たの?」
「遠くの国からだ。ここよりはだいぶ暖かい」
「そっか、いいな。あのね、おれね、寒いのきらいなんだ。あの…お兄さんも寒いのきらい?おれのエリマキ使う?」
かんむりをいったんヒザの上に置いてエリマキを外そうとすると、やんわりお兄さんに止められた。
「寒いなら、こっちにおいで」
お兄さんが、あぐらをかいた自分のヒザをたたいた。父さんがたまにやってくれるやつだ。
知らない人の足に乗るのはよくないかなって、少しだけ思ったけど、お兄さんはやさしい人だからいいかって思ってそーっとおしりを移動させた。
「んふふ。あったかいね」
「ああ。温かい」
背中もおしりもあったかい。おなかの前にお兄さんの手が組まれてるから、おなかの下の方もあったかい。すごく快適に花かんむりがあめた。
できあがった花かんむりを空にかかげて見る。去年作ったやつよりずっとキレイにできた。
花かんむりが完成したから、お兄さんは帰っちゃうかなと思ったけど、お兄さんはそのままおれのイスでいてくれた。安心しきったおれは、お兄さんにくったりとよりかかる。
「お兄さんはここに何しに来たの?」
「捜しものをしていた」
「さがし物?何をなくしたの?」
「とても大切なものだ」
頭の上から聞こえるお兄さんの声が悲しそうだ。元気になってほしくて、おれがカゼをひいた時よく母さんがしてくれるみたいに、お兄さんの手を両手でよしよしって撫でる。
「さがし物って、おれも手伝える?」
首を後ろにひねってお兄さんを見たら、お兄さんは答える代わりに楽しそうに声を出して笑って、ぎゅってだきしめてくれた。
「君は花が好きか?」
「うん。好き」
「では、君にはこれをあげよう。受け取ってくれるか?」
キレイなお兄さんは、カバンからビンを出しておれにくれた。ビンはおれの手のひらより少し小さくて、中には、いっぱいうすい黄色い花が入ってた。花は、おし花みたいにカラカラにかわいてるみたいで、ビンの中でふわふわとゆれてかわいい。
「ありがとう。これってバラ?小さくてかわいいね」
「そう。木香薔薇だ。枯れないように加工してある。君が指輪を受け取れる歳になるまでは、代わりにこれを持っていてくれ」
お兄さんはとてもやさしく笑ってビンを持ったおれの手をぎゅっとにぎってくれた。大きくてかたい手だった。なんでかうれしくて、心がほわほわする。
「お兄さん、もうどこか行っちゃう?」
「いや。捜しものが見つかったからな。しばらくここにいるよ」
さがし物、見つかってたのか。よかった。おれが手伝うまでもなかったのは、ちょっとさみしいけど。
「明日もいる?その次もいる?おれと遊んでくれる?」
「もちろんだ」
「そっか」
明日もこの優しいお兄さんといっしょにいられる。すごくすごくうれしくて、おれはもらった花といっしょにお兄さんの手をぎゅってした。
「これからもずっと一緒だよ、私の──」
やさしい声とあったかい手がおれだけのものみたいで、とても幸せな気持ちでいっぱいになった。
─────────────────────
木香薔薇の花言葉は「純潔」「初恋」「幼いころの幸せな時間」「素朴な美」「あなたにふさわしい人」です。まだ幼くて手に触れられない愛おしい人への、彼からのメッセージだったりします。
百年後の二人の年の差はお好きにご想像くださいませ。執着の強い彼は早熟なので、見た目程年の差はないかもしれません。
父さんが、もう少ししたら短い夏がくるよ、そうしたらお前は十になるから、いっしょに森へかりに行こう、ってこないだ言ってた。とてもうれしい。大きなイノシシをかる父さんはすごくかっこいい。おれもおとなになったら父さんみたいになりたい。
草原の、よく日のあたるところに行って、開いたばかりの小さな花をいっぱいつむ。花かんむりを作って、母さんにあげるためだ。母さんのおなかの中には今おれの弟か妹がいるんだって。おれと同じ、夏にうまれるんだって。たのしみでわくわくする。おなかの赤ちゃんが元気にそだつように、母さんにはたくさん食べてゆっくり休んでねっておれは父さんといっしょに毎日母さんにお願いするんだ。
いっぱいつんだ花を持って、かわいた草の上におれはすわった。花のくきにくるくるって、別のくきをまいて、かんむりをあむ。父さんと母さんにはいつもすごく上手だってほめられる。最近はあみ物も教えてもらってて、いつかあみ物屋さんもしたい。
「花冠を編んでいるのか?」
花をあむのに夢中になっていたら、急に知らないだれかに声をかけられてすごくビックリした。うわん!って変な声を出しちゃった。
びくびくしながらその人を見上げたら、すごく背が高くてキレイな人がいた。村の人はおれもふくめて、ほとんどが赤いかみの毛なのに、その人はすごくよくみがいた鉄みたいな色のかみの毛をしていた。
その人はおれの目の前に片方のヒザをついてしゃがんで、「驚かせてすまない」ってあやまってくれた。きっと、やさしい人だ。
「…えっと、あの…これ、花かんむりにして母さんにあげるの」
「そうか。とても上手だ。きっと将来は良い編み手になるだろう」
あみて、がよくわからなかったけど、ほめられたのはわかった。うれしくてほっぺたがぽかぽかした。
知らない人はこわいけど、この人はやさしい話し方でなんだか好きだ。
「んふふ。ありがとう。あの、お兄さんすごくかっこいいね……王子さまみたい」
「いや。私は王子ではなく騎士だ」
きしさまはわかる。おひめさまを守って戦う人だ。じゃあ、このお兄さんはやっぱり、やさしくてかっこいい人だ。
「…王子さまよりかっこいい」
「ありがとう。その花が編み終わるまで見ていていいか?」
「…ん。いいよ。えっと、お兄さんも花が好き?」
キレイなお兄さんは、「うん」とも「ううん」とも言わないで、ちょっとだけやさしく笑っておれのとなりにすわった。
「君はこの近くに住んでいるのか?」
「…うん。お兄さんはどこから来たの?」
「遠くの国からだ。ここよりはだいぶ暖かい」
「そっか、いいな。あのね、おれね、寒いのきらいなんだ。あの…お兄さんも寒いのきらい?おれのエリマキ使う?」
かんむりをいったんヒザの上に置いてエリマキを外そうとすると、やんわりお兄さんに止められた。
「寒いなら、こっちにおいで」
お兄さんが、あぐらをかいた自分のヒザをたたいた。父さんがたまにやってくれるやつだ。
知らない人の足に乗るのはよくないかなって、少しだけ思ったけど、お兄さんはやさしい人だからいいかって思ってそーっとおしりを移動させた。
「んふふ。あったかいね」
「ああ。温かい」
背中もおしりもあったかい。おなかの前にお兄さんの手が組まれてるから、おなかの下の方もあったかい。すごく快適に花かんむりがあめた。
できあがった花かんむりを空にかかげて見る。去年作ったやつよりずっとキレイにできた。
花かんむりが完成したから、お兄さんは帰っちゃうかなと思ったけど、お兄さんはそのままおれのイスでいてくれた。安心しきったおれは、お兄さんにくったりとよりかかる。
「お兄さんはここに何しに来たの?」
「捜しものをしていた」
「さがし物?何をなくしたの?」
「とても大切なものだ」
頭の上から聞こえるお兄さんの声が悲しそうだ。元気になってほしくて、おれがカゼをひいた時よく母さんがしてくれるみたいに、お兄さんの手を両手でよしよしって撫でる。
「さがし物って、おれも手伝える?」
首を後ろにひねってお兄さんを見たら、お兄さんは答える代わりに楽しそうに声を出して笑って、ぎゅってだきしめてくれた。
「君は花が好きか?」
「うん。好き」
「では、君にはこれをあげよう。受け取ってくれるか?」
キレイなお兄さんは、カバンからビンを出しておれにくれた。ビンはおれの手のひらより少し小さくて、中には、いっぱいうすい黄色い花が入ってた。花は、おし花みたいにカラカラにかわいてるみたいで、ビンの中でふわふわとゆれてかわいい。
「ありがとう。これってバラ?小さくてかわいいね」
「そう。木香薔薇だ。枯れないように加工してある。君が指輪を受け取れる歳になるまでは、代わりにこれを持っていてくれ」
お兄さんはとてもやさしく笑ってビンを持ったおれの手をぎゅっとにぎってくれた。大きくてかたい手だった。なんでかうれしくて、心がほわほわする。
「お兄さん、もうどこか行っちゃう?」
「いや。捜しものが見つかったからな。しばらくここにいるよ」
さがし物、見つかってたのか。よかった。おれが手伝うまでもなかったのは、ちょっとさみしいけど。
「明日もいる?その次もいる?おれと遊んでくれる?」
「もちろんだ」
「そっか」
明日もこの優しいお兄さんといっしょにいられる。すごくすごくうれしくて、おれはもらった花といっしょにお兄さんの手をぎゅってした。
「これからもずっと一緒だよ、私の──」
やさしい声とあったかい手がおれだけのものみたいで、とても幸せな気持ちでいっぱいになった。
─────────────────────
木香薔薇の花言葉は「純潔」「初恋」「幼いころの幸せな時間」「素朴な美」「あなたにふさわしい人」です。まだ幼くて手に触れられない愛おしい人への、彼からのメッセージだったりします。
百年後の二人の年の差はお好きにご想像くださいませ。執着の強い彼は早熟なので、見た目程年の差はないかもしれません。
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