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竜騎士を目指すと伝えると怒り出した幼馴染が固まったのだが?(上)
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邪神の力により魔王の誕生し、人類と魔族が開戦して15年。
魔王軍と連合(人類)軍の国境近くの港湾都市リュベル。ここは連合軍の1つの前線を支える重要な補給拠点でもあった。
そこのリュベル駐留軍指令部で、ある男が駐留軍司令官に呼び出されていた。
その男の名はラトム。平民出身のため、姓はない。
当然、階級も高くなく本来指令部に呼び出される事はあり得ない。
「ラトム君、考え直してくれないか?出来る限りの便宜を図るから」
駐留軍の司令官は必死に土下座しそうな表情で頼み込む。
「しかし、せっかく竜騎士候補生試験に受かりましたし……出来れば竜騎士になって出世したいですよ」
ラトムが困ったように言うと
「君がいなくなれば誰がヴェルサルユス様が怒り出した時に宥めるんだ。頼む、思いとどまってくれ。前線任務から外し、階級も出来る限り上げるよう指令部も最大限努力する」
司令官は頭を下げる。
ヴェルサルユス、簡単に説明するとめちゃくちゃ強い竜である。竜は普段は生息しているレーベル山脈意外の地域では竜騎士と契約しない限り、力はかなり制限される。しかし、たまに化物がいるのだ。力が制限されても圧倒的に強い竜が。
そう言う竜は竜騎士が駐留する程重要ではない拠点に配備されている。
そして、ヴェルサルユスは大抵の者からすればかなりめんどくさい竜なのだ。
どうしようと悩んでいたラトムであったが、ドアが開かれ、兵士の1人か敬礼して入ってくる。
「失礼します、サイラス将軍」
「どうした?今重要な話をしている所だが」
司令官サイラスの言葉を兵士は慌てて遮る。
「急用であります。至急、ラトム殿を評議会にお連れしろと。これは市長の命令です。」
サイラスはまたかと呆れたようにため息をついた。
「ベルン要塞が陥落。これでさらに前線が押し込まれたわね。あそこには竜騎士と契約した竜が8騎以上いたはずだけど、何やっていたのかしらね」
ヴェルサルユスが呆れたように言う。
ヴェルサルユスは普段人化しており、戦場で必要があれば竜化するぐらいだ。
「恐れながらヴェルサルユス様。要塞守備軍も命がけて戦ってくれましたし、そこまで悪く言うのはどうかと。それに魔王軍は邪神が作り出した魔神と組んでいますし」
市長は青ざめながらも言う。
「魔神ごときいくらでも倒せるけど、まあ良いわ。それにしても退屈よね。都市の守備なんて飽きてきたわ。たまにはどこかに出かけたい気分よね」
その言葉を聞き市長の老婆が焦りを覚える。
ヴェルサルユスはただ1人の男を除いて人間や竜、そして連合がどうなろうと心底どうでも良いと思っているのを知っているからだ。
リュベルを3日も留守にされるのは都市全体の危険を高める。何としても彼らは何としても彼女の迂闊な行動は止めさせなけらばいけない。
老婆は念のために他の者に目で合図して、焦ったように言う。
「お、お待ちくだされ。今はどこも戦時中でございます。このリュベルに留まり気を休められては如何でしょうか?貴方様が居なくなると街の者も寂しがります」
「寂しがる奴なんて居たっけ?この都市の安全と保身の為でしょ」
「とんでもございませぬ。このリュベルの者達は皆ヴェルサルユス様を慕っております。新しく出来た歓楽街にでも行かれてはどうでしょうか。美味しい料理や新商品の衣服なども揃えてありますのでお楽しみいただけるかと」
「都市の中だけじゃ退屈じゃないのっ!3日くらいなら留守にしても大丈夫よ。それくらいなら前線を突破した魔王軍の部隊が攻めてきても何百人か死ぬだけ済むわよ」
「そ、そのような事を仰らずに。どうかこの街の為と思って我慢してくだされ」
人間の命を何とも思っていないその言葉に老婆も必死で少女の外遊を止めようとしている。
都市の評議会でも高い地位にいる老婆は都市の為に何とかして少女を引き止めねばならないのだ。
「嫌よ。十分このリュベルの為に尽くしてるでしょ。守ってもらうのが当然の権利だと思ってないかしら?善意を権利だと履き違えてるバカって結構居るものよねぇ」
その言葉に会議室にいる老若男女全てがこれはマズイと感じ始めていた。少女が不機嫌になり始めているのが分かるからである。
老婆は己の発言でこの状況を作り上げてしまった事に内心気が気でないのだ。一体全体どうしたものかと焦りを覚え始めていたが、ドアをノックする音が聞こえた。
どうやら彼らの救世主が現れたようだった。
「失礼します。お呼びとの事でしたがどうされましたか?」
「ベルン要塞が陥落したと言う事だから魔王軍に対する対策を皆で議論していた所なのだが」
老婆がラトムに説明する。
「成る程。でもコイツが居れば大丈夫ですよ」
ラトムはそう言いながらヴェルサルユスの肩を叩く。
そのラトムの行動に彼を知らぬ一部の議員は肝が冷えた。リュベルのお偉いさん達でさえ迂闊な発言はタブーとされているヴェルサルユスをコイツ呼ばわりし、肩を親しい友人のように叩いたのだ。
「それがヴェルサルユス様はお出かけなさるそうで3日ほど都市を留守になさるそうだ。それでこれからどうするのか皆で考えている」
市長の言葉にラトムは頷く。
「成る程。まあ、出かけるのは残念ですけど、ずっとリュベルにいてもストレス溜まりますよね。それで、ヴェルサルユスはどこに出かけるんだ?仕事の都合上なるべく早く帰って来て欲しいんだけど」
ラトムはヴェルサルユスの方を向き、友人のように気安く話かけられる。
ああ、終わった……
一部の議員がそう思ったのだが帰ってきたのは意外な答えであった。
「え、あ、そうね……べ、別にラトムが困るなら旅行は延期しても良いけど。私が出ていったら困る?」
長くて綺麗な金髪を指で弄りながらヴェルサルユスは訪ねる。
「ん?困るって程じゃないけど出来ればお前に居てもらいたいな。少しの間とは言え寂しくなりそうだし。あ、旅行するならお土産も宜しく」
「ええと、その……ラトムが困るなら一緒に居てあげるわ。暇なら歓楽街でも行きましょ。たまには夕飯おごってあげるわ」
そのヴェルサルユスの言葉に半ば絶望した議員が驚愕したのだ。
あのヴェルサルユスが1人の男の言葉であっさりと考えを変えたのだから。
「なら決まりだ。ラトムはヴェルサルユス様と歓楽街で暇を潰してきなさい」
市長の側に立つ老婆が安心したように言う。
「仕事中なんですが……」
「そんなもの、評議会のほうで軍に言って何とかしておく。1週間くらい遊んでおいで。無論、ヴェルサルユス様もご一緒にお連れしてな」
市長がそう言いはなった後、ラトムとヴェルサルユスは議場を追い出される。
ラトムはどうしたものかと頭をかき、ヴェルサルユスの方はどこか落ち着きが無くおどおどしていた。
ヴェルサルユスの機嫌が直って市長と議員が安堵していた。
ある議員は
「ラトム君をヴェルサルユス様の担当に回してみては」
と嬉しいそうに言う程だ。
「それは妙案だ。軍部に要請を出そうではないか?」
そう、議員が笑いあってくると、評議会に駐留軍司令官が現れ、報告する。ラトムが竜騎士候補生試験を受けて合格している事を。
場所は変わって歓楽街の食堂。
「ベルン要塞の陥落ってマズいんじゃないか?」
「西部戦線は厳しいでしょうね。やっぱり不安なの?」
ラトムとヴェルサルユスの二人は険しい表情で話をしていた。
金色の美しい長髪を靡かせながら端整な顔を微笑ませているヴェルサルユスは他の男性客から熱い視線を送られているが本人はどうでも良いとばかりに無視している。
「私が居ればあなただけは安全よ。まあ、西部戦線は下手すれば崩れていくでしょうけどね」
深刻な内容な事をヴェルサルユスは軽く言う。
まあ、ヴェルサルユスからすれば、目の前にいる少年以外はさして重要ではないから当然なのだが……
「そうだった。ヴェルにも報告しないといけない事があったんだ」
ラトムが笑いながら彼だけに赦されたあだ名を用いて言うとヴェルサルユスも苦笑を浮かべながら、半ば冗談で返す。
「何?まさか、結婚とか言わないでしょうね?」
「相手がいねえよ」
ラトムも苦笑を浮かべて、後を続ける。
「何と俺、竜騎士候補生試験受かったぜ。来月からからリュベルを離れる事になったよ」
ヴェルサルユスの顔から表情が消えた。
そして、「ラトム、少し話があるんだけど――場所変えて良いかしら?」
と続けた。
魔王軍と連合(人類)軍の国境近くの港湾都市リュベル。ここは連合軍の1つの前線を支える重要な補給拠点でもあった。
そこのリュベル駐留軍指令部で、ある男が駐留軍司令官に呼び出されていた。
その男の名はラトム。平民出身のため、姓はない。
当然、階級も高くなく本来指令部に呼び出される事はあり得ない。
「ラトム君、考え直してくれないか?出来る限りの便宜を図るから」
駐留軍の司令官は必死に土下座しそうな表情で頼み込む。
「しかし、せっかく竜騎士候補生試験に受かりましたし……出来れば竜騎士になって出世したいですよ」
ラトムが困ったように言うと
「君がいなくなれば誰がヴェルサルユス様が怒り出した時に宥めるんだ。頼む、思いとどまってくれ。前線任務から外し、階級も出来る限り上げるよう指令部も最大限努力する」
司令官は頭を下げる。
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そう言う竜は竜騎士が駐留する程重要ではない拠点に配備されている。
そして、ヴェルサルユスは大抵の者からすればかなりめんどくさい竜なのだ。
どうしようと悩んでいたラトムであったが、ドアが開かれ、兵士の1人か敬礼して入ってくる。
「失礼します、サイラス将軍」
「どうした?今重要な話をしている所だが」
司令官サイラスの言葉を兵士は慌てて遮る。
「急用であります。至急、ラトム殿を評議会にお連れしろと。これは市長の命令です。」
サイラスはまたかと呆れたようにため息をついた。
「ベルン要塞が陥落。これでさらに前線が押し込まれたわね。あそこには竜騎士と契約した竜が8騎以上いたはずだけど、何やっていたのかしらね」
ヴェルサルユスが呆れたように言う。
ヴェルサルユスは普段人化しており、戦場で必要があれば竜化するぐらいだ。
「恐れながらヴェルサルユス様。要塞守備軍も命がけて戦ってくれましたし、そこまで悪く言うのはどうかと。それに魔王軍は邪神が作り出した魔神と組んでいますし」
市長は青ざめながらも言う。
「魔神ごときいくらでも倒せるけど、まあ良いわ。それにしても退屈よね。都市の守備なんて飽きてきたわ。たまにはどこかに出かけたい気分よね」
その言葉を聞き市長の老婆が焦りを覚える。
ヴェルサルユスはただ1人の男を除いて人間や竜、そして連合がどうなろうと心底どうでも良いと思っているのを知っているからだ。
リュベルを3日も留守にされるのは都市全体の危険を高める。何としても彼らは何としても彼女の迂闊な行動は止めさせなけらばいけない。
老婆は念のために他の者に目で合図して、焦ったように言う。
「お、お待ちくだされ。今はどこも戦時中でございます。このリュベルに留まり気を休められては如何でしょうか?貴方様が居なくなると街の者も寂しがります」
「寂しがる奴なんて居たっけ?この都市の安全と保身の為でしょ」
「とんでもございませぬ。このリュベルの者達は皆ヴェルサルユス様を慕っております。新しく出来た歓楽街にでも行かれてはどうでしょうか。美味しい料理や新商品の衣服なども揃えてありますのでお楽しみいただけるかと」
「都市の中だけじゃ退屈じゃないのっ!3日くらいなら留守にしても大丈夫よ。それくらいなら前線を突破した魔王軍の部隊が攻めてきても何百人か死ぬだけ済むわよ」
「そ、そのような事を仰らずに。どうかこの街の為と思って我慢してくだされ」
人間の命を何とも思っていないその言葉に老婆も必死で少女の外遊を止めようとしている。
都市の評議会でも高い地位にいる老婆は都市の為に何とかして少女を引き止めねばならないのだ。
「嫌よ。十分このリュベルの為に尽くしてるでしょ。守ってもらうのが当然の権利だと思ってないかしら?善意を権利だと履き違えてるバカって結構居るものよねぇ」
その言葉に会議室にいる老若男女全てがこれはマズイと感じ始めていた。少女が不機嫌になり始めているのが分かるからである。
老婆は己の発言でこの状況を作り上げてしまった事に内心気が気でないのだ。一体全体どうしたものかと焦りを覚え始めていたが、ドアをノックする音が聞こえた。
どうやら彼らの救世主が現れたようだった。
「失礼します。お呼びとの事でしたがどうされましたか?」
「ベルン要塞が陥落したと言う事だから魔王軍に対する対策を皆で議論していた所なのだが」
老婆がラトムに説明する。
「成る程。でもコイツが居れば大丈夫ですよ」
ラトムはそう言いながらヴェルサルユスの肩を叩く。
そのラトムの行動に彼を知らぬ一部の議員は肝が冷えた。リュベルのお偉いさん達でさえ迂闊な発言はタブーとされているヴェルサルユスをコイツ呼ばわりし、肩を親しい友人のように叩いたのだ。
「それがヴェルサルユス様はお出かけなさるそうで3日ほど都市を留守になさるそうだ。それでこれからどうするのか皆で考えている」
市長の言葉にラトムは頷く。
「成る程。まあ、出かけるのは残念ですけど、ずっとリュベルにいてもストレス溜まりますよね。それで、ヴェルサルユスはどこに出かけるんだ?仕事の都合上なるべく早く帰って来て欲しいんだけど」
ラトムはヴェルサルユスの方を向き、友人のように気安く話かけられる。
ああ、終わった……
一部の議員がそう思ったのだが帰ってきたのは意外な答えであった。
「え、あ、そうね……べ、別にラトムが困るなら旅行は延期しても良いけど。私が出ていったら困る?」
長くて綺麗な金髪を指で弄りながらヴェルサルユスは訪ねる。
「ん?困るって程じゃないけど出来ればお前に居てもらいたいな。少しの間とは言え寂しくなりそうだし。あ、旅行するならお土産も宜しく」
「ええと、その……ラトムが困るなら一緒に居てあげるわ。暇なら歓楽街でも行きましょ。たまには夕飯おごってあげるわ」
そのヴェルサルユスの言葉に半ば絶望した議員が驚愕したのだ。
あのヴェルサルユスが1人の男の言葉であっさりと考えを変えたのだから。
「なら決まりだ。ラトムはヴェルサルユス様と歓楽街で暇を潰してきなさい」
市長の側に立つ老婆が安心したように言う。
「仕事中なんですが……」
「そんなもの、評議会のほうで軍に言って何とかしておく。1週間くらい遊んでおいで。無論、ヴェルサルユス様もご一緒にお連れしてな」
市長がそう言いはなった後、ラトムとヴェルサルユスは議場を追い出される。
ラトムはどうしたものかと頭をかき、ヴェルサルユスの方はどこか落ち着きが無くおどおどしていた。
ヴェルサルユスの機嫌が直って市長と議員が安堵していた。
ある議員は
「ラトム君をヴェルサルユス様の担当に回してみては」
と嬉しいそうに言う程だ。
「それは妙案だ。軍部に要請を出そうではないか?」
そう、議員が笑いあってくると、評議会に駐留軍司令官が現れ、報告する。ラトムが竜騎士候補生試験を受けて合格している事を。
場所は変わって歓楽街の食堂。
「ベルン要塞の陥落ってマズいんじゃないか?」
「西部戦線は厳しいでしょうね。やっぱり不安なの?」
ラトムとヴェルサルユスの二人は険しい表情で話をしていた。
金色の美しい長髪を靡かせながら端整な顔を微笑ませているヴェルサルユスは他の男性客から熱い視線を送られているが本人はどうでも良いとばかりに無視している。
「私が居ればあなただけは安全よ。まあ、西部戦線は下手すれば崩れていくでしょうけどね」
深刻な内容な事をヴェルサルユスは軽く言う。
まあ、ヴェルサルユスからすれば、目の前にいる少年以外はさして重要ではないから当然なのだが……
「そうだった。ヴェルにも報告しないといけない事があったんだ」
ラトムが笑いながら彼だけに赦されたあだ名を用いて言うとヴェルサルユスも苦笑を浮かべながら、半ば冗談で返す。
「何?まさか、結婚とか言わないでしょうね?」
「相手がいねえよ」
ラトムも苦笑を浮かべて、後を続ける。
「何と俺、竜騎士候補生試験受かったぜ。来月からからリュベルを離れる事になったよ」
ヴェルサルユスの顔から表情が消えた。
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