小国の王太子。~優秀だが口煩いからと婚約破棄された超大国の大貴族チート令嬢を妻に迎え、彼女の力を借りて乱世での生存を目指します。

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第3部 序章

ロドリゲス子爵(下)①

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「たかが男爵の成り上がり風情が無礼だぞ!」

「その通り!貴様は確かに総大将ではあるが、本来はかろうじて爵位がある中堅貴族だ。身の程をわきまえよ!」
 アストゥリウ王国の有力諸侯らは一斉に反発するが、マルセス候が左手を上げ
「まあ、待て。こやつも一応は代々男爵家ではあったのだ。貴族の端くれの話ぐらいは静かに聞いてやろうではないか?」
 と言って止め、ロドリゲス子爵の方を向き
「戦後の事とは具体的に何を言っておるのだ?我々が勝って恩賞をもらうだけの話であろう」
 と続ける。
「マルセス候の御厚意に感謝いたします。」
 ロドリゲス子爵はまず恭しく頭を下げてマルセス候に礼を言いながらも
(せいぜい今のうちに思いあがっていろ。数年たてば礼を尽くさなければならないのは貴様らになるのだからな。)
 と心の中で呟いて
「畏れながら申し上げます。この対教皇戦の勝利で一番功績を立て一番勢力を増すのはどこの国内勢力となりますかな?」
 と口にした。

「それは……」
 諸侯らは言葉を濁らせながらも伯爵の一人が意を決したのか
「陛下が飼われている黒い猟犬どもであろうな……」
 と忌々しそうに答える。
「その通りでございます。と言う事は我らアストゥリウ諸侯も出来る限り大きな武功を上げねばならないのではないでしょうか?」

「犬どものは確かに強いが……奴らはろくに爵位を持たない下級貴族や卑しい下民の寄せ集め。戦時以外なら恐れる必要はなかろう。」
 と諸侯らが反論するが、ロドリゲス子爵は
(愚かな)
 と心の中で呟く。
 確かに黒旗軍の大半の将校は戦が強いだけの猟犬である事はロドリゲス子爵も認める所であるが、一方で厄介な将校も存在する事も子爵は知っていた。
 それは後にアストゥリウの青狐と呼ばれるロンメルである。彼は戦でも武勲を立ててもいるが、一方で謀略の面でも大きな手柄を立てている。大きい所ではフラリン王国の有力諸侯であるカイエン候を調略してフラリン王国王太子の首を差し出させたばかりではなく、第2王子アラン王子の軍も傭兵らを謀反を起こさせて崩壊させ、フラリン王国とロアーヌ帝国の国境線を守るマジノ要塞をも調略で短期間で陥落させ、旧フラリン王国領の早期平定に大きく貢献している。いずれ、爵位を持つ中堅貴族以上の貴族にとって大きな脅威となっていく可能性は極めて高い。

「確かに黒い猟犬の大半の将校らは戦時以外は脅威とはなりえないとは私もそう思いますが……しかし厄介になる男もおります。もし、そやつが黒旗軍の主導権を握った場合、大きな脅威となりえるのではないでしょうか?」

「ああ。ロンメルか。確かにあやつは中々賢い。それは認める。しかし、あれは所詮他国の人間。生え抜きのアストゥリウ人が黒旗軍内で主導権を握る事を簡単に許すとは思えぬが……」
 と有力諸侯の一人が反論し、他の諸侯も
「その通り。」
 と口に出して同意する者や、言葉にせずとも頷いたりして同意する者も多数おり、ロドリゲス子爵に同意しない貴族がこの場では圧倒的に多数占めた。

 ロドリゲス子爵は大貴族の低能さに内心溜息をつく。
(こやつらは簒奪王や黒い猟犬どもが何故台頭し勝ち続けられているのかを理解しておらぬ。)
 黒旗軍の将兵の大半は大貴族の既得権益を奪って成り上がるために戦っている。だからこそ、彼らは今までの将兵では逃げ崩れるような苦境に陥っても彼らはひるまずに戦いぬく事も可能であった。と言う事は言いかえれば大貴族の既得権益を奪うと言う情熱は凄まじいと言う事であり、その目的のためであれば彼らが他国の人間かなど些事であるとして気にしない事は明白である。
 そして、それが爵位を持たぬ下級貴族や平民出身の下級官僚に広がる可能性も十分にあり、そうなってくると本格的に大貴族が排除されていくと言う流れが出来上がっていくかも知れない。
 普段であればたちが悪い冗談と笑って流せるが統治する王が簒奪王であれば現実味も帯びて来る。現状簒奪王は数々の軍事的勝利で有力諸侯より力を持っている状況であり、諸侯の意向を強く気がけなければならないと言う状況ではないからだ。
 フェリオル王からすれば内心反感を持って面従腹背状態の有力諸侯より下級貴族や平民出身の将校や官僚の方が断然あてになるし、自分の支持基盤に取り込みやすいとなれば、簒奪王がどう動くかは自明の理であろう。

 それらの事情は理解しているロドリゲス子爵はそれらの事を言葉にせず
「しかし、ロンメルは軍団長に抜擢され、武功等を大きく上げておりますが、黒い猟犬どもは割れる気配は見られませぬ。念のために警戒しておくに越した事はないと愚考いたしますが……」
 と必要最小限の事を口にする。

「それは……そうかもしれんが……しかしな」
 諸侯らは不満そうに言葉を濁らせる。
 ロドリゲス子爵の言っている危険性は理解出来たが、それでもその危険性をこの場の大半の有力諸侯は認めたくない事情があった。
 そして、それを察したロドリゲス子爵はこの場の有力諸侯に興味を持たせるための話をすでにこの場で思いついていた。




「それにもう一つ問題もあります。」

「ほう。問題とは?」
ロドリゲス子爵の言葉にマルセス候が興味深そうに反応する。

「もし、ここで日和見を決め込んでいる諸侯や対ロアーヌ帝国戦線を任されている旧フラリン王国諸侯軍の来援を待って敵を撃破したとなれば武勲は彼らに多く奪われる可能性も大きくなります。そうなれば我らの恩賞も無論少なくなりますな。」

ロドリゲス子爵の言葉に沈黙が一瞬流れた後に
「成程。ここで我らの力で敵軍を破れば黒旗軍の次に武勲を立てる事は確実となり、当然我らへの恩賞も大きくなる事は間違いないと言う事だな……」
とマルセス候は頷きながら答えるとロドリゲス子爵が
「御意」
と同意する。

「うむ。ロドリゲス子爵の言には一理あるが、敵軍と比べて我が軍の兵力は劣勢である。現有戦力で敵を粉砕出来るのか?」
と諸侯の一人が疑問を口にするとロドリゲス子爵は自信をみなぎらせながら
「勝算はあります。」
と答える。

「ほう。」
マルセス候や諸侯らは視線で続きを促すとロドリゲス子爵は
「我が軍の兵力は劣勢ではありますが、敵の兵力と比べて決定的な差ではありません。我らは丘陵に布陣し守りも固めているため敵軍が我が軍を攻撃しても撃破するのは難しい。であれば、我が軍に攻撃してもらって大きく消耗した所を逆撃に移れば勝つ事も十分可能ではありませんかな?」
と提案する。

「それはそうだが……しかし、そう都合よく敵が我らを攻撃してくれるのだろうか?」

「ガーナー伯爵閣下。まことに的を得たご意見、流石に長年経験を積まれた方は違うと私は感服いたしました。」
ロドリゲス子爵は皮肉な笑みを浮かべながら
「しかし、敵軍はこちらの狼煙を見ております。これを見てフェリオル王率いるアストゥリウ王国本軍と教皇庁を盟主とするテラン半島諸国連合軍に動きがあったと判断するでしょう。そこで我らが撤退もせず、守りを固めた場合敵はどう考えるでしょうか?」
と続ける。

「成程。テラン半島諸国軍が敗北し、日和見や敵に内通していた諸侯らの援軍を待っているのではと不安に思い攻撃をしかけてくると言う事か……」

「もし、敵軍が撤退を決めても我らが健在なうちは撤退等出来るはずがない。リスクを考えれば無理をしても早めに撃破するしかない。狡猾だな。」


「確かにロドリゲス子爵の作戦であれば勝算は十分にあるな。ロドリゲス子爵、詳しく作戦を説明せよ。」

 十分な勝算が示され、欲望が大きく刺激された諸侯らはロドリゲス子爵の言葉を受け入れていく。
 それを見たロドリゲス子爵は満足と皮肉が混じった笑みを浮かべた後、具体的な作戦の説明を始めた。
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