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第3部 序章
アストゥリウ王国老将の誓約
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ナーロッパ歴1057年2月24日午後15時。
アストゥリウ王国軍本営にて、教皇庁陣営諸国軍主力をカヨム会戦で打ち破ったアストゥリウ王国軍の諸将が集まり祝勝会が開かれていた。
しかし、その場に実質アストゥリウ王国の実質ナンバー2にあたるカリウス・オブラエン将軍は見当たらなかったのだが……
「この大会戦に当たり諸将の奮励努力の様、このフェリオルとても感じ入った。まずは戦勝を祝いたい。」
とアストゥリウ王国国王フェリオルがと告げると
「勝利、おめでとうございます。」
クラナタ王国の将軍マクサン・ズイールのがまず祝いの言葉を発し、その後に
「おめでとうございます。」
と他の諸将が続く。
トレド王国軍の将軍が
「まずは祝杯を上げましょうぞ。」
と声を上げるとザマー教諸国らの将軍らが同調の声を上げる。
しかし、フェリオルは微笑を浮かべながら首を横に振る。
「勝利を祝って宴を開きたいがそういう訳にもいかぬ。我らに味方してくれた諸国が孤立状態にある以上、まず彼らの領土の救出を最優先としたい。」
カヨム会戦にて教皇庁からアストゥリウ王国に寝返ったトスカナ王国とべネッチクの本土が孤立し、主力軍も留守である以上、その救出は宗主国としての急務と言えた。
「レオナルド・アルデンヌ王子。」
「はっ」
椅子よりトスカナの王太子レオナルド・アルデンヌは立ち上がる。
「貴国の加勢がなければここまでの大勝利は望めなかったであろう。心から御礼申し上げる。」
「滅相もございません。過日、我らトスカナ王国軍が心ならずも貴国の国境の城塞や砦の攻撃に参加したる事、心からお詫び申し上げます。」
レオナルドが頭を下げるとフェリオルは柔らかな笑みを浮かべて頷く。
「此度の武功、その罪を補って余りある。遺恨は一切ない事をこの場で誓おう。」
「過分なお計らい、有難き幸せにございます。」
レオナルドの返事に頷いたフェリオルは
「しかし、このような大勝利で宴を開かぬと言うのも無粋と言うものだな。明日の出陣に障りがない程度にこの大勝利を祝おうではないか。」
と述べた後、補佐官の方を向いて
「全将兵にもいつもより豪華な夕食と明日に酔いが残らない程度の酒をふるまってやれ。」
と命じるとフェリオルの補佐官が「御意」と頷くと簒奪王の傍を離れていった。
明日の出陣の障りにならない程度の宴会を終えたフェリオルはギニアスの遺体が安置されている陣幕に向かうとアストゥリウ王国の老将にしてギニアスの父カリウス・オブラエン将軍が彼の傍に座っていた。
フェリオルは無言でカリウスや永眠している親友ギニアスのもとに歩み寄る。
「陛下……挨拶をせず申し上げ……」
「構わぬ。」
フェリオルは自分の傅役を務めてくれた老将の言葉を遮って続ける。
「此度はすまなかった。まさか、ああいう手段で我の首を狙う者がいるとは思いもしなかった……からな。」
フェリオルの謝罪の言葉にカリウスは首を横に振る。
「いえ。こういう事態に備えるために近衛隊がおり、ギニアスは近衛隊長として立派におのが責務を果たしたのです。褒めなければならない事は解っているのですが……何故か褒めようと言う気が起きぬのです。」
「そうか。それは我もだ。奴の忠義には感謝しているが、友としては本心から褒めるとなると抵抗がある。しかしギニアスの死を我は無駄にはせぬ。カリウス、我は決めたぞ。」
「何をでございましょう。」
赤くした目をフェリオルに向けながらアストゥリウ王国の老将は尋ねる。
「我は必ずナーロッパに統一帝国を築く。幼い時奴と一緒に夢見た帝国をだ。そして、その帝国を築いた最大の功労者はギニアスであると歴史書に記させる。例えその戦いの中で何十万、何百万の死者が出るとしても……悪魔に魂を売る事になろとも……ナーロッパを必ず手中に収めて見せる。」
フェリオルの紫色の瞳に強い野心の色が混じった。
「我はナーロッパの統一事業をより一層強く進めるがオブラエン将軍……いや先生はどうする?」
フェリオルは幼い時に用いていた敬称を用いてカリウスに尋ねる。
フェリオルの問いにカリウスは沈黙して思考に耽る。
フェリオルは急かす事なく、カリウスの答えを待った。
数分が経過した時、カリウスは口を開く。
「隠居して生まれてくる孫を見ながら余生を送ろうと考えていましたが、陛下が息子のために戦われる以上まだ私が隠居する訳にはいきませぬな。」
カリウスは座り直し、フェリオルに片膝をつき、臣下の礼を取った。
「私のこの命が果てるその時まで陛下の覇業の成就に尽力する事を誓約致します。」
「これからも頼むぞ。」
アストゥリウ王国の老将の言葉にフェリオルは短い言葉で答えた。
これよりカリウス・オブラエン将軍はアストゥリウ王国とリューベック王国を盟主とするハンザ同盟諸国軍との戦いにて討ち取られるその時までアストゥリウの悪魔を精力的に支えていく事となるのである。
アストゥリウ王国軍本営にて、教皇庁陣営諸国軍主力をカヨム会戦で打ち破ったアストゥリウ王国軍の諸将が集まり祝勝会が開かれていた。
しかし、その場に実質アストゥリウ王国の実質ナンバー2にあたるカリウス・オブラエン将軍は見当たらなかったのだが……
「この大会戦に当たり諸将の奮励努力の様、このフェリオルとても感じ入った。まずは戦勝を祝いたい。」
とアストゥリウ王国国王フェリオルがと告げると
「勝利、おめでとうございます。」
クラナタ王国の将軍マクサン・ズイールのがまず祝いの言葉を発し、その後に
「おめでとうございます。」
と他の諸将が続く。
トレド王国軍の将軍が
「まずは祝杯を上げましょうぞ。」
と声を上げるとザマー教諸国らの将軍らが同調の声を上げる。
しかし、フェリオルは微笑を浮かべながら首を横に振る。
「勝利を祝って宴を開きたいがそういう訳にもいかぬ。我らに味方してくれた諸国が孤立状態にある以上、まず彼らの領土の救出を最優先としたい。」
カヨム会戦にて教皇庁からアストゥリウ王国に寝返ったトスカナ王国とべネッチクの本土が孤立し、主力軍も留守である以上、その救出は宗主国としての急務と言えた。
「レオナルド・アルデンヌ王子。」
「はっ」
椅子よりトスカナの王太子レオナルド・アルデンヌは立ち上がる。
「貴国の加勢がなければここまでの大勝利は望めなかったであろう。心から御礼申し上げる。」
「滅相もございません。過日、我らトスカナ王国軍が心ならずも貴国の国境の城塞や砦の攻撃に参加したる事、心からお詫び申し上げます。」
レオナルドが頭を下げるとフェリオルは柔らかな笑みを浮かべて頷く。
「此度の武功、その罪を補って余りある。遺恨は一切ない事をこの場で誓おう。」
「過分なお計らい、有難き幸せにございます。」
レオナルドの返事に頷いたフェリオルは
「しかし、このような大勝利で宴を開かぬと言うのも無粋と言うものだな。明日の出陣に障りがない程度にこの大勝利を祝おうではないか。」
と述べた後、補佐官の方を向いて
「全将兵にもいつもより豪華な夕食と明日に酔いが残らない程度の酒をふるまってやれ。」
と命じるとフェリオルの補佐官が「御意」と頷くと簒奪王の傍を離れていった。
明日の出陣の障りにならない程度の宴会を終えたフェリオルはギニアスの遺体が安置されている陣幕に向かうとアストゥリウ王国の老将にしてギニアスの父カリウス・オブラエン将軍が彼の傍に座っていた。
フェリオルは無言でカリウスや永眠している親友ギニアスのもとに歩み寄る。
「陛下……挨拶をせず申し上げ……」
「構わぬ。」
フェリオルは自分の傅役を務めてくれた老将の言葉を遮って続ける。
「此度はすまなかった。まさか、ああいう手段で我の首を狙う者がいるとは思いもしなかった……からな。」
フェリオルの謝罪の言葉にカリウスは首を横に振る。
「いえ。こういう事態に備えるために近衛隊がおり、ギニアスは近衛隊長として立派におのが責務を果たしたのです。褒めなければならない事は解っているのですが……何故か褒めようと言う気が起きぬのです。」
「そうか。それは我もだ。奴の忠義には感謝しているが、友としては本心から褒めるとなると抵抗がある。しかしギニアスの死を我は無駄にはせぬ。カリウス、我は決めたぞ。」
「何をでございましょう。」
赤くした目をフェリオルに向けながらアストゥリウ王国の老将は尋ねる。
「我は必ずナーロッパに統一帝国を築く。幼い時奴と一緒に夢見た帝国をだ。そして、その帝国を築いた最大の功労者はギニアスであると歴史書に記させる。例えその戦いの中で何十万、何百万の死者が出るとしても……悪魔に魂を売る事になろとも……ナーロッパを必ず手中に収めて見せる。」
フェリオルの紫色の瞳に強い野心の色が混じった。
「我はナーロッパの統一事業をより一層強く進めるがオブラエン将軍……いや先生はどうする?」
フェリオルは幼い時に用いていた敬称を用いてカリウスに尋ねる。
フェリオルの問いにカリウスは沈黙して思考に耽る。
フェリオルは急かす事なく、カリウスの答えを待った。
数分が経過した時、カリウスは口を開く。
「隠居して生まれてくる孫を見ながら余生を送ろうと考えていましたが、陛下が息子のために戦われる以上まだ私が隠居する訳にはいきませぬな。」
カリウスは座り直し、フェリオルに片膝をつき、臣下の礼を取った。
「私のこの命が果てるその時まで陛下の覇業の成就に尽力する事を誓約致します。」
「これからも頼むぞ。」
アストゥリウ王国の老将の言葉にフェリオルは短い言葉で答えた。
これよりカリウス・オブラエン将軍はアストゥリウ王国とリューベック王国を盟主とするハンザ同盟諸国軍との戦いにて討ち取られるその時までアストゥリウの悪魔を精力的に支えていく事となるのである。
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