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第3部 序章
ラジェル軍議(下)
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無論、アルベルトとしても自分が経験がない事を自覚しており、外務卿ラーセン侯に内密に相談していた。外務卿から見てもそれが実現できる可能性は十分にあると言う同意も得られた。しかし、オレンボー辺境伯が偽情報を流している可能性があるとして、外務省の権限で諜者をデーン王国にばらまいている。当初、軍務省と内務省が訝しんだが、デーン王国がリューベック王国に万が一侵攻を企てた場合、その兆候を素早く捉える必要があると説明すると軍務省は同意し、内務省も怪しい所はあるが、そう目くじらを立てる程ではないと判断したのか、何も言わなくなった。
「成程。オレンボー辺境伯閣下の提案通りに行けばユグド半島を切り取れる可能性は十分にありますが……」
ロブェネル将軍が真っ先に口を開いた。
「問題が4点程あります。1つはまだこの西部情勢を安定させておらぬ事。まあ、これは平定後に動いていくでしょうから無視して良いとして……」
ロブェネル将軍は一息ついて続ける。
「2つ目はオレンボー辺境伯閣下が偽情報を流している可能性と果たしてそう上手くこちらが望むような状況に持っていけるのか……3つ目はさらに戦を続ける程の軍資金があるのか。4つ目は海戦は専門外ですが、強力なデーン王国海軍をどう抑え込むのか………です」
「我らは大恩あるナガコト王家に偽情報を流すと言う事は致しませぬ。我らの忠誠はすでにエストリズセン家ではなくナガコト家に捧げておりますし、今寝返れと言うのであれば喜んでリューベック王国に寝返ります。信用できぬと言うのであれば私が今すぐ摂政殿下に嫁いでもかまいませんよ」
オレンボー辺境伯令嬢アマンダがロブェネル将軍に反論した。
口調は冷静であったが目は怒っている。
まあ、信用できないと言われて怒る気持ちはアルベルトにとって解らなくもないが、他国の貴族の言う事である以上偽情報に警戒するのは当然であり、ロブェネル将軍の言う事も一理あった。
ただ、アルベルトとしてはエストリズセン家のオレンボー家に対しての仕打ちを見ればオレンボー辺境伯がこちらに裏切ろうとしている事を疑う必要はないと考えてはいる。しかし、警戒が不要とまでは言えず、外務省に諜者を通じて調べてもらっているのも事実であった。
「申し訳ござらん。言葉が足りなかったようです。オレンボー辺境伯閣下が故意に偽情報を流すと言う事ではなく……」
ロブェネル将軍がアマンダに頭を下げながら続ける。
「オレンボー辺境伯閣下もデーン王国中枢から距離を置いておられる以上精度が低い情報等や知らぬ話もあるのではないかと言う話をしたかっただけです。オレンボー辺境伯家を信用できないと言いたい訳ではござらぬ」
「早とちりして申し訳ございません。」
アマンダもロブェネル将軍に対して頭を下げる。
これで、解決したと判断したアルベルトは話を進める。
「ロブェネル将軍の懸念はもっとも。この件に関してはすでに外務卿と内密に話をしておる。ラーセン侯もオレンボー辺境伯が述べている状況に持っていくと言う事は十分に可能であるとの事だった。ただ情報の見落としの可能性等を考慮し、この戦争中にデーン王国が介入してくる可能性があると言う名目で諜者をデーン王国に増員している」
「成程。しかし軍資金は保つのですか?」
ロブェネル将軍の反論は続くが、言っている事は正論だとアルベルトは思う。
すでにリューベック王国はこのフリーランスの戦役に莫大な出費を強いられてはいる。
他国であれば悲鳴を上げる所であるが、リュベルを持つリューベック王国は違う。
借金せざるを得ないのに変わりはないが、リュベルという巨大な交易都市を持つ以上商人達も下手な事は出来ない。もし、怒らせればリュベルでの商売に影響が出る以上『適正』な利息で金を借りれるだろう。
「問題はない。リュベルと言う巨大交易港を持つ我らの足元を見れる商人等存在せぬのだからな。」
「確かにその通りですな。リュベルがある以上商会も資金を出さざるを得ない」
ロブェネル将軍が頷くとバルトルト・チェルハが口を開く。
「外務省が協力してくれるのであれば後は軍務省か内務省の最低どちらかの同意が必要である事……まあ、これに関して一番内務省が支持するでしょうが……後は帝国を引きずり出すための材料をどうするかですね。」
「確かに国内問題は差し置いても帝国との交渉材料は必要となるだろうな。」
バルトルトの言葉にロブェネル将軍が頷いて同意する。
「それに関しては一度ピルイン公と会って話をしてみるつもりだ。どちらにしても事情を会って説明せねばならぬだろうしな。」
手紙なろ使者を送って説明しようかと考えていたが、直接会って説明をした方が良いと外務卿からの助言を受けアルベルトは考えなおした。
流石に王妃となるアリシアを差し置いてアマンダを第2夫人とする前提で性行為を行おうと言うのである。しかも、第2夫人を娶るのもアリシアを娶る時期とほぼ同時期となる可能性もある。
第2夫人を持つのは問題ないが、続けて婚姻を結ぶというのは相手の家に失礼と言う風習がナーロッパにあるため、ビルイン家に対して丁寧な説明と謝罪が必要となる。ビルイン家は超大国であるロアーヌ帝国でも有数の大貴族である以上細心の配慮が必要であるとアルベルトと外務卿は判断したのである。
「解りました。現状この方針で行くのであればヘルダー王国との戦は被害を最小限に抑えて終わらせねばなりませんね」
バルトルトの言葉にアルベルトは頷く。
「出来る限り外交で解決したいと思っている。ヘルダー王国には勿論その背後にいるであろうアストゥリウ王国にも場合によっては交渉を持ちかけてみるつもりだ」
「簒奪王の注意は今テラン半島にあると考えますが……」
バルトルトの言葉にアルベルトは頷く。
「確かに簒奪王は現在北方の小国の争いにたいした関心はないだろう。我らが相手にするのは旧フラリン王国の属国群平定を任されるであろうロドリゲス子爵……もしくは有力諸侯達さ。」
アルベルトの狙いに気づいたロブェネル将軍は頷きながら口を開く。
「成程。それは妙案ですな。簒奪王の政権は現在内務省も外務省もまともに機能しておらず、アストゥリウ王国の諸侯の大半は生き残るために手柄に飢えておりますからな。そして、ロドリゲス子爵ら簒奪王に早く臣従した諸侯もまた……」
フェリオルに早く臣従した諸侯も簒奪王の強力な支持基盤の下級貴族や富民出身の家臣らの台頭に対抗すべく手柄を欲している。
バルトルトとアマンダもロブェネル将軍の言葉を聞いてアルベルトの狙いに気づき成程と頷いた。
「成程。オレンボー辺境伯閣下の提案通りに行けばユグド半島を切り取れる可能性は十分にありますが……」
ロブェネル将軍が真っ先に口を開いた。
「問題が4点程あります。1つはまだこの西部情勢を安定させておらぬ事。まあ、これは平定後に動いていくでしょうから無視して良いとして……」
ロブェネル将軍は一息ついて続ける。
「2つ目はオレンボー辺境伯閣下が偽情報を流している可能性と果たしてそう上手くこちらが望むような状況に持っていけるのか……3つ目はさらに戦を続ける程の軍資金があるのか。4つ目は海戦は専門外ですが、強力なデーン王国海軍をどう抑え込むのか………です」
「我らは大恩あるナガコト王家に偽情報を流すと言う事は致しませぬ。我らの忠誠はすでにエストリズセン家ではなくナガコト家に捧げておりますし、今寝返れと言うのであれば喜んでリューベック王国に寝返ります。信用できぬと言うのであれば私が今すぐ摂政殿下に嫁いでもかまいませんよ」
オレンボー辺境伯令嬢アマンダがロブェネル将軍に反論した。
口調は冷静であったが目は怒っている。
まあ、信用できないと言われて怒る気持ちはアルベルトにとって解らなくもないが、他国の貴族の言う事である以上偽情報に警戒するのは当然であり、ロブェネル将軍の言う事も一理あった。
ただ、アルベルトとしてはエストリズセン家のオレンボー家に対しての仕打ちを見ればオレンボー辺境伯がこちらに裏切ろうとしている事を疑う必要はないと考えてはいる。しかし、警戒が不要とまでは言えず、外務省に諜者を通じて調べてもらっているのも事実であった。
「申し訳ござらん。言葉が足りなかったようです。オレンボー辺境伯閣下が故意に偽情報を流すと言う事ではなく……」
ロブェネル将軍がアマンダに頭を下げながら続ける。
「オレンボー辺境伯閣下もデーン王国中枢から距離を置いておられる以上精度が低い情報等や知らぬ話もあるのではないかと言う話をしたかっただけです。オレンボー辺境伯家を信用できないと言いたい訳ではござらぬ」
「早とちりして申し訳ございません。」
アマンダもロブェネル将軍に対して頭を下げる。
これで、解決したと判断したアルベルトは話を進める。
「ロブェネル将軍の懸念はもっとも。この件に関してはすでに外務卿と内密に話をしておる。ラーセン侯もオレンボー辺境伯が述べている状況に持っていくと言う事は十分に可能であるとの事だった。ただ情報の見落としの可能性等を考慮し、この戦争中にデーン王国が介入してくる可能性があると言う名目で諜者をデーン王国に増員している」
「成程。しかし軍資金は保つのですか?」
ロブェネル将軍の反論は続くが、言っている事は正論だとアルベルトは思う。
すでにリューベック王国はこのフリーランスの戦役に莫大な出費を強いられてはいる。
他国であれば悲鳴を上げる所であるが、リュベルを持つリューベック王国は違う。
借金せざるを得ないのに変わりはないが、リュベルという巨大な交易都市を持つ以上商人達も下手な事は出来ない。もし、怒らせればリュベルでの商売に影響が出る以上『適正』な利息で金を借りれるだろう。
「問題はない。リュベルと言う巨大交易港を持つ我らの足元を見れる商人等存在せぬのだからな。」
「確かにその通りですな。リュベルがある以上商会も資金を出さざるを得ない」
ロブェネル将軍が頷くとバルトルト・チェルハが口を開く。
「外務省が協力してくれるのであれば後は軍務省か内務省の最低どちらかの同意が必要である事……まあ、これに関して一番内務省が支持するでしょうが……後は帝国を引きずり出すための材料をどうするかですね。」
「確かに国内問題は差し置いても帝国との交渉材料は必要となるだろうな。」
バルトルトの言葉にロブェネル将軍が頷いて同意する。
「それに関しては一度ピルイン公と会って話をしてみるつもりだ。どちらにしても事情を会って説明せねばならぬだろうしな。」
手紙なろ使者を送って説明しようかと考えていたが、直接会って説明をした方が良いと外務卿からの助言を受けアルベルトは考えなおした。
流石に王妃となるアリシアを差し置いてアマンダを第2夫人とする前提で性行為を行おうと言うのである。しかも、第2夫人を娶るのもアリシアを娶る時期とほぼ同時期となる可能性もある。
第2夫人を持つのは問題ないが、続けて婚姻を結ぶというのは相手の家に失礼と言う風習がナーロッパにあるため、ビルイン家に対して丁寧な説明と謝罪が必要となる。ビルイン家は超大国であるロアーヌ帝国でも有数の大貴族である以上細心の配慮が必要であるとアルベルトと外務卿は判断したのである。
「解りました。現状この方針で行くのであればヘルダー王国との戦は被害を最小限に抑えて終わらせねばなりませんね」
バルトルトの言葉にアルベルトは頷く。
「出来る限り外交で解決したいと思っている。ヘルダー王国には勿論その背後にいるであろうアストゥリウ王国にも場合によっては交渉を持ちかけてみるつもりだ」
「簒奪王の注意は今テラン半島にあると考えますが……」
バルトルトの言葉にアルベルトは頷く。
「確かに簒奪王は現在北方の小国の争いにたいした関心はないだろう。我らが相手にするのは旧フラリン王国の属国群平定を任されるであろうロドリゲス子爵……もしくは有力諸侯達さ。」
アルベルトの狙いに気づいたロブェネル将軍は頷きながら口を開く。
「成程。それは妙案ですな。簒奪王の政権は現在内務省も外務省もまともに機能しておらず、アストゥリウ王国の諸侯の大半は生き残るために手柄に飢えておりますからな。そして、ロドリゲス子爵ら簒奪王に早く臣従した諸侯もまた……」
フェリオルに早く臣従した諸侯も簒奪王の強力な支持基盤の下級貴族や富民出身の家臣らの台頭に対抗すべく手柄を欲している。
バルトルトとアマンダもロブェネル将軍の言葉を聞いてアルベルトの狙いに気づき成程と頷いた。
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