小国の王太子。~優秀だが口煩いからと婚約破棄された超大国の大貴族チート令嬢を妻に迎え、彼女の力を借りて乱世での生存を目指します。

モモ

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第3部 序章

ラジェル軍議前日(下)

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 では、何のためかと言うと、外交儀礼と言うのもあるが、フリーランスの安定がリューベック王国が得られる交易収入の安定に繋がり、それで親リューベック政権であればリューベック本国を西側からの攻撃を防ぐ防波堤ともなるのでリューベック王国の防波堤になりうるためである。
 そして、フィリベルト政権は現状リューベック王国の支援がなければ政権維持するのはかなり難しくなる以上、リューベック王国とは現状対立する事が出来ない。
 そういう事情がある以上、アルベルトがフィリベルト……と言うよりフィリベルト政権の安定を気にするのは政略上当然と言えるわけである。ここで万が一反リューベック政権などが樹立されでもしたら困るのだから……

「そういう事であれば、『摂政殿下』のおんため、出来る限り早くヘルダー王国戦を終わらせる方向でいきましょうか?」
 フィリベルトがそう口にするとアルベルトは
「お気つがい頂きありがとうございます。」
 と述べた後
「では……」
 と早速本題に入る。
 これ以上、外交儀礼に則った雑談を続けて万が一ボロを出したくもないと言うのもあったが、それ以上にリューベック王国に負い目がある話を続けたくなかったからである。

「私個人としては威力偵察と言う名目でヘルダー王国本土に侵攻し、ヘルダー王国軍が野外決戦を仕掛けてくるようであればこれと決戦し、敵が何もしないようであれば略奪等して挑発し、それで動きがなければ一旦撤退と考えております。」

 アルベルトの提案を聞いたフィリベルトは首を傾げながら
「威力偵察と言う名目とは重要な所なのでしょうか?」
 と尋ねる。

「我がリューベック王国軍にとって重要です。まあ、お恥ずかしながらリューベック本国にも此度の遠征を面白く思っていない勢力もあり、それらとの関係でそういう名目もどうしても必要となってくるのです。私も陸軍もラッスル会戦で発言力をだいぶ失っていると言う事情もありますし……」

 アルベルトの答えにフィリベルトは
「成程。」
 ときながらも
(まあ、遠征に反対勢力がいるのはおかしくないし、それらの勢力に配慮が必要と言うのも理解できる……アルベルト王子も色々としがらみがあるものだな……)
 と心の中で呟く。

「解りました。とりあえず、アルベルト王子の案で大まかなには宜しいと思いますが……」
 フィリベルトは一息ついて
「ヘルダー王国に動かなければどうするのです?」
 と尋ねる。
 これは普通に考えて頭に思い浮かぶ疑問であろう。
 リューベック王国軍が長期間遠征軍を維持しないのであれば、ヘルダー王国軍が万が一逆侵攻を企てた場合フリーランスは軍事的に一気に不利となる。ヘルダー王国軍もそれなりに戦力を消耗しているだろうが、フリーランス軍はそれ以上に戦力を消耗しているからである。
 そうである以上、兵力で劣るフリーランスはリューベックに再び援軍を要請しなければならなくなる。
 リューベックからすれば再び軍を動員せざるを得ず二度手間にならざるを得なくなる。いや、二度手間になるぐらいであれば良いが、農繫期の間諸侯が兵力の供出に応じるのかと言う問題もある。
 もっとも農繫期にヘルダー王国軍が大軍を動かす可能性は極めて低いのであるが……
 しかし、万が一と言う可能性のもありえる以上、フィリベルトもそれは指摘せざるを得ないのである。
 まあ、フィリベルトにはアルベルトの回答は予測出来ており、案の定フリーランスの王太子の予想は当たっていた。

「ヘルダー王国が略奪等の挑発を受け特に対応しないようであればやりようもあるのではないでしょうか?」

 アルベルトの言葉にフィリベルトは内心で
(やはりな)
 と頷きながらも
「どういう事です?」
 と首を傾げながら尋ねて見せる。
『ヘルダー王国に動かなければどうするのです?』と事前に尋ねているのに加え、愚策を提案されない限りアルベルトのご機嫌をとっていた方が良いと判断したためである。


 無論、アルベルトもそれには半ば感づいているが、それを口にする事なく相手に合わせるように
「侵攻を受け、しかも略奪を受けても王宮が動きを見せなければ臣下、特に東部に領地を持つ諸侯は大きく動揺するでしょう。であれば、調略で切り崩していく事もそう難しくないのではありませんか?」
 と答える。

 アルベルトの答えにフィリベルトは
「成程……」
 と頷いてみせる。
 諸侯とは基本的に領地を保証してくれるから従うものである。それが、実際侵攻を受け略奪までされて動かなければヘルダー王国東部諸侯のヘルダー王国王家の信用は大きく失墜する事となり調略で切り崩す事はそう難しくなくなる。これは昔からよく使われており、陳腐化された手の一つではある。
 ちなみに、それはフリーランス東部にて焦土作戦に擬態してリューベック王国軍を分散させて略奪が出来る状況を作り出した上でアルベルトがいるリューベック王国軍本隊に集中攻撃を仕掛けると言う作戦を立てたフィリベルトにも当てはまり、現に一部東部諸侯等の反感を買っている状況である。決してフリーランスの王太子にとっても他人事ではない。
 そのため、彼も本来の自分の派閥に加えリューベックに侵攻する前は半ば対立していたメイツ侯等を懐柔して取り込んでいたりする。

「確かにその通りですな。しかし、万が一アストゥリウ王国が介入してくれば厄介な事になりますが……」
 フィリベルトの言葉にアルベルトは同意するように頷きながら
「フィリベルト王子のご懸念はごもっともです。その時は帝国からアストゥリウ王国を牽制してもらうしかないでしょうな。外務省に帝国との交渉を急がせましょう。」
 と続ける。

「その辺りは摂政殿下にお任せするとして……」
 とフィリベルトは答えて、二人の王子はワインや夕食を楽しみながら細部の協議に入っていた。
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