100 / 140
第2部 最終章
エピローグ
しおりを挟む
ファレッリ司教が剣を振り下ろそうとしたまさにその時、フェリオルの体は横から突き飛ばされた。
突き飛ばしたのはフェリオルの近衛隊長ギニアスであった。
しかし、フェリオルを突き飛ばすのに精いっぱいであったため、ギニアスはほぼ無防備の状態で斬られる。
しかしギニアスは倒れる事なく剣の柄に手を当てて半ば剣を抜くが、ファレッリ司教の2撃目が早く、下から切り上げられる。
ギニアスは後ろに倒れたが、ファレッリ司教も駆けつけて来た他の近衛兵から滅多斬りにされていた。
「他にも陛下のお命を狙う不届き者がいるかも知れぬ。警戒を厳しくせよ!」
「軍医を呼べ。隊長が陛下を庇われ、深手を負われている!」
近衛騎士達は叫び、警戒を厳重にするが、それらの声はフェリオルの耳に入っていなかった。
簒奪王の目と耳は、彼の生命を救ってくれた親友だけに向けられていた。
フェリオルは立ち上がり、自分をかばってくれた親友にして腹心の傍にゆっくりと歩み寄った。
「フェリオル……様」
ギニアスは掠れた声でフェリオルに声をかける。
「どうした?」
フェリオルはギニアスの口に耳を近づけた。
「私は……どうやらこれまでのようです。」
「バカな事を言うな。貴様は結婚し、子も産まれるのであろう。そなたが守らずにどうするのだ。それに我はお前との約束を果たしておらぬ。あの時約束したであろう。俺が王位を簒奪してナーロッパに統一帝国を築いたらお前に爵位を与えて宰相の位につけてやると。俺を嘘つきにするつもりか!?」
母が半ば王妃どもにいびり殺された後、復讐のため、そしてこれ以上自分の大切な者を奪われないためにフェリオルが王位を奪おうと決意した時にフェリオルに従者として仕えていた親友と交わした約束を簒奪王は口にした。
「申し訳……ございません……どうやらその約束は……果たしてもらう事が……出来そうに……ありません」
ギニアスはうっすらと苦笑を浮かべて謝罪した後、最後の力を振り絞ってギニアスは自分の最後の願いを口にする。
「フェリオル様……フィリシアに伝えください……お前……達の幸せを願っていると……そしてフェリオル様……どうか私の分まで……」
言い終わる前にギニアスは息絶えてしまった。
その瞬間フェリオルは今まで自分を支えてくれた親友……いや血の繋がらない兄弟を失った事を悟り、一時呆然としていたが、やがてフェリオルの心を襲ったのは、神、いや運命に対する激しい怒りだった。
(母上を奪い、ジルを奪い、その上ギニアスまで俺から奪うのか。それがナーロッパの覇権を求めた代償とでもいうつもりか。ならば俺も奪ってやる。ナーロッパを……例え悪魔に魂を売る事になろうと必ずな)
フェリオルは意を決し、立ち上がり剣を抜いた。
そして、自分の前にその剣を掲げる。
「我はギニアスに誓う。我は必ずナーロッパの覇者となり、お前の墓前にナーロッパの覇権と言う花を添えてみせる、どのような手を使ってでも必ず。そして、お前は命を捨てて未来のナーロッパの覇者を誕生させた忠臣だと歴史書に残させよう」
テンプレ神に誓うと言う不退転の決意を表明する文言があるのであるが、フェリオルは不退転の決意を表明するに際して誓う先をテンプレ神ではなく、ギニアスとした。テンプレ神より血の繋がらない『兄弟』の方が簒奪王にとってはるかに重かったからである。
一瞬、フラリン王国王女ジルや第2王子のアランの顔がフェリオルの頭に思い浮かぶが、それをかき消すように目をつぶって首を振る。
そして、フェリオルが目を開くと彼の目にはナーロッパの地図が広がっており、その全土は炎で包まれていた。戦火と言う炎が……
しかし、フェリオルはナーロッパ全土が戦火に包まれる事になろうとも全く意に介さない。彼にとって唯一残された物はナーロッパの覇権と言う野心だけであるからだ。
(ギニアス、俺はもう迷わない。例えナーロッパ全土を灰にしても、ジルを完全に失う事になろうとも、俺は突き進む。引き返せる道は今日この時をもってなくなった)
フェリオルは心の中でそうギニアスに告げると、今後の指示を出していく。
彼の顔には涙はなく、あるのはいつもの覇気と自信、そして退路を断たれた者だけが持つ覚悟の光が宿った瞳であった。
こうして、能力だけはある小悪党が魔王の皮を被り、ナーロッパ西側と中部は後にフェリオル戦争と呼ばれる大戦と言う戦火に包まれていく事となる。
☆☆☆☆☆☆☆
ナーロッパ歴1057年2月25日10時頃
旧フラリン王国北方の海を抜けた島国アルピオン王国のとある農村。
そこにフラリン王国第2王子アランがいた。
(臭い)
家畜小屋のような悪臭が鼻について、顔をしかめた瞬間、肩に強い痛みと衝撃を感じる。
男が鞭で打ってきたのである。
(無礼な。我はフッテンボルク王家の第2王子だぞ)
と言いかけてやめた。自分の身分を告げては何か取り返しのつかない事になってしまいそうな気がしたのだ。
幸か不幸か、アラン達を捕らえた山賊とおぼしき男達は、一行の身ぐるみを剥ぐと、大した身元の詮議もせずにそのまま奴隷商人に売り払った。同行していた騎士達も、それからアラン自身も、身分については沈黙を守り、そのままここに流れてきていた。
かわりに、アランは男を睨みつけた。
しかし、男はアランの態度にさらに怒りを感じる。
「何故土下座しない? 我はそなたを買った男だぞ。奴隷風情が何故主人に頭を下げぬ」
そして、男は次々と鞭を振るった。
全身に痛みが走り、皮膚が裂けて血が流れるが、それでもアランは頭を下げなかった。
いかに身分を隠そうとも、フッテンボルク家の男子が、誰とも知れぬ男に頭を下げるなど、あってはならない。
そんな誇りがアランを支えていたが、それがかえってアランを追い詰める事となった。
「この間抜けな奴隷はまだ自分の立場が分からぬと見える」
男は鞭を投げ捨て、他の男達に押さえつけるように命じる。
「そうだ。お前も雄牛のようにその薄汚い性器を切りとってやればちょっとは家畜のように忠実になるやもしれんな」
この言葉を聞いてアランは初めて表情を歪めて抵抗しようとしたが、体の痛みと他の奴隷に抑えつけられて動けなかった。
その間にナイフが熱されて、アランの陰部にそれが当てられる。
「やめてくれ」
とアランは叫ぶが、当然ながらそれが聞き入れられる事はなかった。
突き飛ばしたのはフェリオルの近衛隊長ギニアスであった。
しかし、フェリオルを突き飛ばすのに精いっぱいであったため、ギニアスはほぼ無防備の状態で斬られる。
しかしギニアスは倒れる事なく剣の柄に手を当てて半ば剣を抜くが、ファレッリ司教の2撃目が早く、下から切り上げられる。
ギニアスは後ろに倒れたが、ファレッリ司教も駆けつけて来た他の近衛兵から滅多斬りにされていた。
「他にも陛下のお命を狙う不届き者がいるかも知れぬ。警戒を厳しくせよ!」
「軍医を呼べ。隊長が陛下を庇われ、深手を負われている!」
近衛騎士達は叫び、警戒を厳重にするが、それらの声はフェリオルの耳に入っていなかった。
簒奪王の目と耳は、彼の生命を救ってくれた親友だけに向けられていた。
フェリオルは立ち上がり、自分をかばってくれた親友にして腹心の傍にゆっくりと歩み寄った。
「フェリオル……様」
ギニアスは掠れた声でフェリオルに声をかける。
「どうした?」
フェリオルはギニアスの口に耳を近づけた。
「私は……どうやらこれまでのようです。」
「バカな事を言うな。貴様は結婚し、子も産まれるのであろう。そなたが守らずにどうするのだ。それに我はお前との約束を果たしておらぬ。あの時約束したであろう。俺が王位を簒奪してナーロッパに統一帝国を築いたらお前に爵位を与えて宰相の位につけてやると。俺を嘘つきにするつもりか!?」
母が半ば王妃どもにいびり殺された後、復讐のため、そしてこれ以上自分の大切な者を奪われないためにフェリオルが王位を奪おうと決意した時にフェリオルに従者として仕えていた親友と交わした約束を簒奪王は口にした。
「申し訳……ございません……どうやらその約束は……果たしてもらう事が……出来そうに……ありません」
ギニアスはうっすらと苦笑を浮かべて謝罪した後、最後の力を振り絞ってギニアスは自分の最後の願いを口にする。
「フェリオル様……フィリシアに伝えください……お前……達の幸せを願っていると……そしてフェリオル様……どうか私の分まで……」
言い終わる前にギニアスは息絶えてしまった。
その瞬間フェリオルは今まで自分を支えてくれた親友……いや血の繋がらない兄弟を失った事を悟り、一時呆然としていたが、やがてフェリオルの心を襲ったのは、神、いや運命に対する激しい怒りだった。
(母上を奪い、ジルを奪い、その上ギニアスまで俺から奪うのか。それがナーロッパの覇権を求めた代償とでもいうつもりか。ならば俺も奪ってやる。ナーロッパを……例え悪魔に魂を売る事になろうと必ずな)
フェリオルは意を決し、立ち上がり剣を抜いた。
そして、自分の前にその剣を掲げる。
「我はギニアスに誓う。我は必ずナーロッパの覇者となり、お前の墓前にナーロッパの覇権と言う花を添えてみせる、どのような手を使ってでも必ず。そして、お前は命を捨てて未来のナーロッパの覇者を誕生させた忠臣だと歴史書に残させよう」
テンプレ神に誓うと言う不退転の決意を表明する文言があるのであるが、フェリオルは不退転の決意を表明するに際して誓う先をテンプレ神ではなく、ギニアスとした。テンプレ神より血の繋がらない『兄弟』の方が簒奪王にとってはるかに重かったからである。
一瞬、フラリン王国王女ジルや第2王子のアランの顔がフェリオルの頭に思い浮かぶが、それをかき消すように目をつぶって首を振る。
そして、フェリオルが目を開くと彼の目にはナーロッパの地図が広がっており、その全土は炎で包まれていた。戦火と言う炎が……
しかし、フェリオルはナーロッパ全土が戦火に包まれる事になろうとも全く意に介さない。彼にとって唯一残された物はナーロッパの覇権と言う野心だけであるからだ。
(ギニアス、俺はもう迷わない。例えナーロッパ全土を灰にしても、ジルを完全に失う事になろうとも、俺は突き進む。引き返せる道は今日この時をもってなくなった)
フェリオルは心の中でそうギニアスに告げると、今後の指示を出していく。
彼の顔には涙はなく、あるのはいつもの覇気と自信、そして退路を断たれた者だけが持つ覚悟の光が宿った瞳であった。
こうして、能力だけはある小悪党が魔王の皮を被り、ナーロッパ西側と中部は後にフェリオル戦争と呼ばれる大戦と言う戦火に包まれていく事となる。
☆☆☆☆☆☆☆
ナーロッパ歴1057年2月25日10時頃
旧フラリン王国北方の海を抜けた島国アルピオン王国のとある農村。
そこにフラリン王国第2王子アランがいた。
(臭い)
家畜小屋のような悪臭が鼻について、顔をしかめた瞬間、肩に強い痛みと衝撃を感じる。
男が鞭で打ってきたのである。
(無礼な。我はフッテンボルク王家の第2王子だぞ)
と言いかけてやめた。自分の身分を告げては何か取り返しのつかない事になってしまいそうな気がしたのだ。
幸か不幸か、アラン達を捕らえた山賊とおぼしき男達は、一行の身ぐるみを剥ぐと、大した身元の詮議もせずにそのまま奴隷商人に売り払った。同行していた騎士達も、それからアラン自身も、身分については沈黙を守り、そのままここに流れてきていた。
かわりに、アランは男を睨みつけた。
しかし、男はアランの態度にさらに怒りを感じる。
「何故土下座しない? 我はそなたを買った男だぞ。奴隷風情が何故主人に頭を下げぬ」
そして、男は次々と鞭を振るった。
全身に痛みが走り、皮膚が裂けて血が流れるが、それでもアランは頭を下げなかった。
いかに身分を隠そうとも、フッテンボルク家の男子が、誰とも知れぬ男に頭を下げるなど、あってはならない。
そんな誇りがアランを支えていたが、それがかえってアランを追い詰める事となった。
「この間抜けな奴隷はまだ自分の立場が分からぬと見える」
男は鞭を投げ捨て、他の男達に押さえつけるように命じる。
「そうだ。お前も雄牛のようにその薄汚い性器を切りとってやればちょっとは家畜のように忠実になるやもしれんな」
この言葉を聞いてアランは初めて表情を歪めて抵抗しようとしたが、体の痛みと他の奴隷に抑えつけられて動けなかった。
その間にナイフが熱されて、アランの陰部にそれが当てられる。
「やめてくれ」
とアランは叫ぶが、当然ながらそれが聞き入れられる事はなかった。
99
お気に入りに追加
1,595
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる