小国の王太子。~優秀だが口煩いからと婚約破棄された超大国の大貴族チート令嬢を妻に迎え、彼女の力を借りて乱世での生存を目指します。

モモ

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第2部 最終章

エピローグ

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 ファレッリ司教が剣を振り下ろそうとしたまさにその時、フェリオルの体は横から突き飛ばされた。
 突き飛ばしたのはフェリオルの近衛隊長ギニアスであった。
 しかし、フェリオルを突き飛ばすのに精いっぱいであったため、ギニアスはほぼ無防備の状態で斬られる。
 しかしギニアスは倒れる事なく剣の柄に手を当てて半ば剣を抜くが、ファレッリ司教の2撃目が早く、下から切り上げられる。
 ギニアスは後ろに倒れたが、ファレッリ司教も駆けつけて来た他の近衛兵から滅多斬りにされていた。

「他にも陛下のお命を狙う不届き者がいるかも知れぬ。警戒を厳しくせよ!」
「軍医を呼べ。隊長が陛下を庇われ、深手を負われている!」

 近衛騎士達は叫び、警戒を厳重にするが、それらの声はフェリオルの耳に入っていなかった。
 簒奪王の目と耳は、彼の生命を救ってくれた親友だけに向けられていた。
 フェリオルは立ち上がり、自分をかばってくれた親友にして腹心の傍にゆっくりと歩み寄った。
「フェリオル……様」
 ギニアスは掠れた声でフェリオルに声をかける。
「どうした?」
 フェリオルはギニアスの口に耳を近づけた。
「私は……どうやらこれまでのようです。」

「バカな事を言うな。貴様は結婚し、子も産まれるのであろう。そなたが守らずにどうするのだ。それに我はお前との約束を果たしておらぬ。あの時約束したであろう。俺が王位を簒奪してナーロッパに統一帝国を築いたらお前に爵位を与えて宰相の位につけてやると。俺を嘘つきにするつもりか!?」

 母が半ば王妃どもにいびり殺された後、復讐のため、そしてこれ以上自分の大切な者を奪われないためにフェリオルが王位を奪おうと決意した時にフェリオルに従者として仕えていた親友と交わした約束を簒奪王は口にした。
「申し訳……ございません……どうやらその約束は……果たしてもらう事が……出来そうに……ありません」
 ギニアスはうっすらと苦笑を浮かべて謝罪した後、最後の力を振り絞ってギニアスは自分の最後の願いを口にする。
「フェリオル様……フィリシアに伝えください……お前……達の幸せを願っていると……そしてフェリオル様……どうか私の分まで……」
 言い終わる前にギニアスは息絶えてしまった。
 その瞬間フェリオルは今まで自分を支えてくれた親友……いや血の繋がらない兄弟を失った事を悟り、一時呆然としていたが、やがてフェリオルの心を襲ったのは、神、いや運命に対する激しい怒りだった。
(母上を奪い、ジルを奪い、その上ギニアスまで俺から奪うのか。それがナーロッパの覇権を求めた代償とでもいうつもりか。ならば俺も奪ってやる。ナーロッパを……例え悪魔に魂を売る事になろうと必ずな)

 フェリオルは意を決し、立ち上がり剣を抜いた。
 そして、自分の前にその剣を掲げる。
「我はギニアスに誓う。我は必ずナーロッパの覇者となり、お前の墓前にナーロッパの覇権と言う花を添えてみせる、どのような手を使ってでも必ず。そして、お前は命を捨てて未来のナーロッパの覇者を誕生させた忠臣だと歴史書に残させよう」
 テンプレ神に誓うと言う不退転の決意を表明する文言があるのであるが、フェリオルは不退転の決意を表明するに際して誓う先をテンプレ神ではなく、ギニアスとした。テンプレ神より血の繋がらない『兄弟』の方が簒奪王にとってはるかに重かったからである。


 一瞬、フラリン王国王女ジルや第2王子のアランの顔がフェリオルの頭に思い浮かぶが、それをかき消すように目をつぶって首を振る。
 そして、フェリオルが目を開くと彼の目にはナーロッパの地図が広がっており、その全土は炎で包まれていた。戦火と言う炎が……
 しかし、フェリオルはナーロッパ全土が戦火に包まれる事になろうとも全く意に介さない。彼にとって唯一残された物はナーロッパの覇権と言う野心だけであるからだ。
(ギニアス、俺はもう迷わない。例えナーロッパ全土を灰にしても、ジルを完全に失う事になろうとも、俺は突き進む。引き返せる道は今日この時をもってなくなった)
 フェリオルは心の中でそうギニアスに告げると、今後の指示を出していく。
 彼の顔には涙はなく、あるのはいつもの覇気と自信、そして退路を断たれた者だけが持つ覚悟の光が宿った瞳であった。

 こうして、能力だけはある小悪党が魔王の皮を被り、ナーロッパ西側と中部は後にフェリオル戦争と呼ばれる大戦と言う戦火に包まれていく事となる。




☆☆☆☆☆☆☆


 ナーロッパ歴1057年2月25日10時頃
 旧フラリン王国北方の海を抜けた島国アルピオン王国のとある農村。
 そこにフラリン王国第2王子アランがいた。
(臭い)
 家畜小屋のような悪臭が鼻について、顔をしかめた瞬間、肩に強い痛みと衝撃を感じる。
 男が鞭で打ってきたのである。
(無礼な。我はフッテンボルク王家の第2王子だぞ)
 と言いかけてやめた。自分の身分を告げては何か取り返しのつかない事になってしまいそうな気がしたのだ。
 幸か不幸か、アラン達を捕らえた山賊とおぼしき男達は、一行の身ぐるみを剥ぐと、大した身元の詮議もせずにそのまま奴隷商人に売り払った。同行していた騎士達も、それからアラン自身も、身分については沈黙を守り、そのままここに流れてきていた。
 かわりに、アランは男を睨みつけた。

 しかし、男はアランの態度にさらに怒りを感じる。
「何故土下座しない? 我はそなたを買った男だぞ。奴隷風情が何故主人に頭を下げぬ」
 そして、男は次々と鞭を振るった。
 全身に痛みが走り、皮膚が裂けて血が流れるが、それでもアランは頭を下げなかった。
 いかに身分を隠そうとも、フッテンボルク家の男子が、誰とも知れぬ男に頭を下げるなど、あってはならない。
 そんな誇りがアランを支えていたが、それがかえってアランを追い詰める事となった。
「この間抜けな奴隷はまだ自分の立場が分からぬと見える」
 男は鞭を投げ捨て、他の男達に押さえつけるように命じる。

「そうだ。お前も雄牛のようにその薄汚い性器を切りとってやればちょっとは家畜のように忠実になるやもしれんな」
 この言葉を聞いてアランは初めて表情を歪めて抵抗しようとしたが、体の痛みと他の奴隷に抑えつけられて動けなかった。

 その間にナイフが熱されて、アランの陰部にそれが当てられる。
「やめてくれ」
 とアランは叫ぶが、当然ながらそれが聞き入れられる事はなかった。
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