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第2部 最終章

カヨム会戦(下)

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 サルレノ王国国王ジャン・ヴィスコンティの元に急報がもたらされたのは13時を過ぎた事であった。
 1騎の騎兵がトスカナ軍が攻め寄せてくると言う事を知らせてきたからだ。
 ジャンは怒りを露にしながら
「おのれ!後方のデッラ伯の部隊を迎撃に回し、教皇軍本営に援軍を要請せよ」
 と後方の予備部隊にトスカナ王国軍の迎撃を命じながら正面の方にも指示を出す。
「正面も守りを固めよ。正面の敵も全力攻撃を仕掛けて来るぞ」


 トスカナ王国軍が押し寄せてくる前に迎撃態勢を整えたのはデッラ伯指揮下のサルレノ王国軍部隊とルッカ軍の一部合わせて3000程度の戦力であった。
 トスカナ王国軍の先鋒部隊とサルレノ王国・ルッカ連合軍の迎撃部隊が激突するが、当初はトスカナ王国軍の攻撃を防ぐのに成功する。しかし、トスカナ王国軍の裏切りはさらなる裏切りを呼びべネッチク軍が突然サルレノ・ルッカ連合軍迎撃部隊の側面をついたのだ。流石に彼らはそれを支えきる事が出来ず、その迎撃部隊は崩壊する。
 その後、サルレノ王国・ルッカ連合軍主力はアストゥリウ王国軍とトスカナ王国軍の挟撃を受け壊走状態に陥り、トスカナ軍騎兵部隊がそれを追撃した。
 サルレノ王国国王ジャン・ヴィスコンティはトスカナ軍の追撃を受け負傷し、敵の手にかかるぐらいならと自決し、教皇軍右翼は崩壊した。





 教皇軍右翼崩壊の報が教皇軍中央主力を務めるザルテノ王国軍に伝わり、ザルテノ王国国王カルロ・サボイアは退却を決意し、撤退を開始する。
 この撤退が教皇陣営諸国全軍総崩れを起こす引き金となったが、やむを得ないだろう。ここが負ければザルテノ王国が近いうちに戦場となるのは避けられない。であれば1兵でも多く兵を本国に帰国させなければならないのだ。抵抗するにしろ、有利な条件で降伏するにしても戦力は多い方が良いのは自明の理である。
 しかし、黒旗軍も易々と退却を許す程のお人よしではなく、オブラエン軍団がザルテノ王国軍を追撃しつつ、ロンメル軍団は教皇庁直属軍本営の攻撃に向かった。


 教皇軍左翼はアストゥリウ王国右翼と一進一退の激闘を繰り広げていたが、トスカナ王国軍の裏切りとザルテノ王国軍の逃亡にて総崩れを起こしていた。しかし、アプリア王国国王ロベルト6世・オートブィルは戦意を失ってはいなかった。
「悪魔の下僕である異教徒相手に逃げるな!逃げて生き恥をさらすな!これはショセキカ(テンプレ教での聖戦の呼び方)なのだぞ!!テンプレ教徒がショセキカを前に逃げるとは何事か!?」
 とロベルト6世は怒号し、逃げようとする兵に剣を振り回して何とか将兵達の潰走を止めようとした。しかし、将兵達はそれを聞く訳がなく、壊走は止まらない。
 アプリア王国の徴兵された歩兵達は味方を捨て、ひたすら敵のいない方角に向かって走っていく。
 アプリア王ロベルト6世もやがて側近達に止められ、彼も逃亡し再起を図る事となった。

 教皇軍本営にもアストゥリウ軍の将兵が迫っていた。

「もはやこれまでか。」
 教皇軍の総大将セッティ司教は諦めたように続ける。
「ファレッリ司教、卿の策を実施する時が来たぞ」

「私の策……何の事ですかな?」

「隠すな。俺の首を持って簒奪王の元に向かえ。そして、隙を見て奴を討ってくれ。もはや、それしか教会が救われる道はない。俺よりは卿の方が成功する可能性があろう」
 武術の腕ではセッティ司教よりファレッリ司教の方が上である以上、簒奪王を討てる可能性はファレッリ司教の方がまだあった。

「すまぬ。」
 ファレッリ司教は謝った後、セッティ司教の首をはねる。
 その後、彼の遺体に聖職者として弔いの祈りを捧げた後、用意していたアストゥリウの黒旗軍の鎧を着ていく。

 その10分後ぐらいに「教皇軍総大将セッティ司教、討ち取ったり!」と言う声が戦場に響いた。
 これにより、なおも抵抗していた教皇直属軍の将兵も戦意を失い、逃亡に移った。
 彼らを逃がすまいと背後からアストゥリウ軍の将兵が襲いかかる。
 両軍合わせて十数万の大兵力が集まった大会戦は7時間程で終結した。

 14時半頃
「御味方勝利」
 とアストゥリウ軍の本営では歓声が上がっていたが、簒奪王の顔は若干暗かった。
 彼の予想よりはるかに早く大勝利を収めたとは言え、トスカナ王国に大きな借りを作った以上戦後それなりの配慮をトスカナ王国に行わなければならない。
 とは言え、勝利を早く収められたと言う事はその分損害も少ないと言う事である。今後テラン半島北部をどう運営していくかが重要かと思考を切り替えようとした時に、馬に乗った騎士が本営に入ってきた。近衛兵も伝令かと思い黙って通し、山の頂上まで通したのだ。
 頂上の近くまで来たその騎士は馬を下り、
「フェリオル陛下に御意を得たい。陛下はいずこにおわすか?」
 とフェリオルを探すように視線が左右にさまよわせる。

「我がフェリオルではないか。そなたはこの我を知らぬ……」
 と苦笑を浮かべながら例の騎士に近づいたが、少しして違和感に気づく。
 黒旗軍の将校がフェリオルの顔を知らぬ訳がないと言う事に……
「貴様何者だ!?」
 フェリオルは強い声で尋ねる。
 フェリオルの感じた違和感は正しかった。その騎士は教皇庁の将軍であるファレッリ司教であったからだ。
 ファレッリ司教も失敗を悟り、セッティ司教の生首をフェリオルに投げつける。
 フェリオルはとっさに右腕でその首を払いのけた。
 しかし、その間にファレッリ司教はフェリオルに肉薄しており、簒奪王に剣を抜く暇が与えなかった。
「簒奪王、その首もらいうける!!」
 ファレッリ司教はフェリオルの体目掛けて剣を振り下ろした。
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