84 / 139
第2部 第2章
フリーランス王国軍降伏を決意する(上)
しおりを挟む
本営に入ったメイツ侯は一応一礼し、すぐにフリーランス王国軍の総大将フィリベルトに鋭い声を投げかけた。
「どういう事でありますか!?ここまで来て降伏などと!?」
メイツ侯の両脇にも数名の貴族出身の将校がおり、彼らの表情を見るに暴発する一歩手前と言う感じであった。
フリーランス王国の王太子にして同軍の総大将であるフィリベルトは肩をすくめながら答える
「伝令を送ったはずだが?」
「伝令は確かに来ましたが……しかし、王都レーワルがヘルダー王国軍の攻撃を受けて陥落したなど……にわかには信じられませぬ」
メイツ侯の言葉に彼についてきた将校達も同調する。
「左様。リューベック王国軍が流した偽情報の可能性もあります。」
「成程。卿らの言う事も一理ある。しかし、この報をもたらしたのはアルンの留守を任せたスヘンデル子爵だ。スヘンデル子爵をアルン留守に任じたのは2日前。例えリューベック王国の諜者が優秀であったとしても流石に2日でアルンの留守が誰である事は把握できまい。」
「それは……」
フィリベルトの冷静な反論で降伏に反対する貴族達の大半の勢いが削がれるが、一部の貴族がなお反論する。
「恐れながらスヘンデル子爵がリューベックに内通して偽の情報も流している可能性もありますが……」
「成程、確かに内通している可能性も0ではない。しかし、スヘンデル子爵が内通していると言う証拠は何一つないし、それに伝騎が持って来たフェリーネの書状にも同じ事が書かれていた。」
「フェリーネ王女殿下の……?」
流石に貴族達はそれ以上は言えない。王族相手に証拠もなく敵に通じていると口にすればそれは王家に対して不敬としかとられないからである。
ちなみにフェリーネはフィリベルトの異母妹に当たるが、フリーランス王国の王太子と仲は良かった。彼女はかろうじてフリーランス王国王都レーワルを脱出し、アルンに逃れれたらしい。
「解りました。しかし、王都がヘルダー王国軍の攻撃を受けて陥落していたとしてもリューベック王国軍に降伏する必要はありますまい。」
抗戦派の他の将校が沈黙していく中メイツ侯が口を開く。
「では、この危機にメイツ侯はどう対処すれば良いと考える?」
「畏れながら申し上げます。王都が陥落した今資金も物資の調達が難しいと言う懸念があって殿下は降伏と言う苦渋を選択されたのだと思われますが、このままリューベック王国軍を撃破すれば、物資を奪えます。アルンに備蓄されている物資にリューベック王国軍を奪う物資を加えればそれなりの期間は戦えるでしょう。後は戦を交えヘルダー王国軍を撃退すれば良いかと愚考致します」
メイツ侯の提案に儀礼的になる程と頷いた後「しかし」と続ける。
「アルベルト王子率いる本隊をこのまま撃破してもリューベック王国軍はそれなりの戦力が残っている。ヘルダー王国軍と対陣中に彼らから背後を脅かされたら手の打ちようがなかろう。」
「それはそうですが……」
メイツ侯は頷かざるを得なかった。
リューベック王国軍を罠等で分散させた後、リューベック王国軍本隊に集中攻撃を仕掛けると言うのがフリーランス王国軍の基本戦略であり、それは上手く行って勝利する目前と言う状況に持ち込んだ。
しかし、それは言い換えればリューベック王国軍の戦力のかなりの部分が無傷で残っている事を意味する。
本隊を撃破したとしてもリューベック王国軍を無力化出来る訳ではない。
ただ、本隊を撃破されたとなればリューベック王国軍の士気は下がるし、アルベルトを捕らえたととなれば彼を交渉カードにすれば無力化出来る。
しかし、フィリベルトがリューベック王国に降伏を決めたのはそう言う次元の理由ではなかったが……
「しかし、リューベック王国軍の本隊を撃破されたとなれば、リューベック軍の士気は低下いたしますし、アルベルト王子を捕らえれば外交で当面抑えられられるでしょう。」
「アルベルト王子を捕らえるのに失敗し、彼がリューベック王国軍の残存部隊を糾合し継戦する可能性がある。そして、その頃になるとリューベック王国軍は我らの王都がヘルダー王国軍の攻撃によって落とされている事に気づくぞ」
経済力があるリューベック王国にも諜報機関は当然あるし、リューベック王国軍も斥候等を放っているのは間違いはなく、彼らの報告でフリーランス王国の王都が陥落しているとバレるのは時間の問題であり、その知らせがリューベック王国軍の首脳陣に届くのはかかっても数日であろう。
フリーランス王国軍の将校達に沈黙が漂る中、フィリベルトは続ける。
「もっとも降伏を決めたのはそういう理由ではない。もっと大局的な観点からだ。」
「どういう事でありますか?」
将校の1人がフィリベルトが尋ねる。
「ヘルダー王国は我々と同じ旧フラリン王国の同盟国だ。それが突如侵攻してきたと言う事は当然大国が背後に控えている可能性が高い。」
同盟国を大儀名分もなく突如侵攻するとなれば当然外交的信用を大きく失い、後々までそれが大きなダメージとして残りかねない暴挙であるし、下手すれば周辺国から袋叩きにされる可能性もある。
しかし、誰もが逆らえない大国を後ろ盾にしていれば話は変わる。
外交的信用を失ってもその大国についていけば、その大国とその同盟国と言う名の属国等と外交関係は持てるし、危なくなればその大国から支援も受けられるからだ。
「どういう事でありますか!?ここまで来て降伏などと!?」
メイツ侯の両脇にも数名の貴族出身の将校がおり、彼らの表情を見るに暴発する一歩手前と言う感じであった。
フリーランス王国の王太子にして同軍の総大将であるフィリベルトは肩をすくめながら答える
「伝令を送ったはずだが?」
「伝令は確かに来ましたが……しかし、王都レーワルがヘルダー王国軍の攻撃を受けて陥落したなど……にわかには信じられませぬ」
メイツ侯の言葉に彼についてきた将校達も同調する。
「左様。リューベック王国軍が流した偽情報の可能性もあります。」
「成程。卿らの言う事も一理ある。しかし、この報をもたらしたのはアルンの留守を任せたスヘンデル子爵だ。スヘンデル子爵をアルン留守に任じたのは2日前。例えリューベック王国の諜者が優秀であったとしても流石に2日でアルンの留守が誰である事は把握できまい。」
「それは……」
フィリベルトの冷静な反論で降伏に反対する貴族達の大半の勢いが削がれるが、一部の貴族がなお反論する。
「恐れながらスヘンデル子爵がリューベックに内通して偽の情報も流している可能性もありますが……」
「成程、確かに内通している可能性も0ではない。しかし、スヘンデル子爵が内通していると言う証拠は何一つないし、それに伝騎が持って来たフェリーネの書状にも同じ事が書かれていた。」
「フェリーネ王女殿下の……?」
流石に貴族達はそれ以上は言えない。王族相手に証拠もなく敵に通じていると口にすればそれは王家に対して不敬としかとられないからである。
ちなみにフェリーネはフィリベルトの異母妹に当たるが、フリーランス王国の王太子と仲は良かった。彼女はかろうじてフリーランス王国王都レーワルを脱出し、アルンに逃れれたらしい。
「解りました。しかし、王都がヘルダー王国軍の攻撃を受けて陥落していたとしてもリューベック王国軍に降伏する必要はありますまい。」
抗戦派の他の将校が沈黙していく中メイツ侯が口を開く。
「では、この危機にメイツ侯はどう対処すれば良いと考える?」
「畏れながら申し上げます。王都が陥落した今資金も物資の調達が難しいと言う懸念があって殿下は降伏と言う苦渋を選択されたのだと思われますが、このままリューベック王国軍を撃破すれば、物資を奪えます。アルンに備蓄されている物資にリューベック王国軍を奪う物資を加えればそれなりの期間は戦えるでしょう。後は戦を交えヘルダー王国軍を撃退すれば良いかと愚考致します」
メイツ侯の提案に儀礼的になる程と頷いた後「しかし」と続ける。
「アルベルト王子率いる本隊をこのまま撃破してもリューベック王国軍はそれなりの戦力が残っている。ヘルダー王国軍と対陣中に彼らから背後を脅かされたら手の打ちようがなかろう。」
「それはそうですが……」
メイツ侯は頷かざるを得なかった。
リューベック王国軍を罠等で分散させた後、リューベック王国軍本隊に集中攻撃を仕掛けると言うのがフリーランス王国軍の基本戦略であり、それは上手く行って勝利する目前と言う状況に持ち込んだ。
しかし、それは言い換えればリューベック王国軍の戦力のかなりの部分が無傷で残っている事を意味する。
本隊を撃破したとしてもリューベック王国軍を無力化出来る訳ではない。
ただ、本隊を撃破されたとなればリューベック王国軍の士気は下がるし、アルベルトを捕らえたととなれば彼を交渉カードにすれば無力化出来る。
しかし、フィリベルトがリューベック王国に降伏を決めたのはそう言う次元の理由ではなかったが……
「しかし、リューベック王国軍の本隊を撃破されたとなれば、リューベック軍の士気は低下いたしますし、アルベルト王子を捕らえれば外交で当面抑えられられるでしょう。」
「アルベルト王子を捕らえるのに失敗し、彼がリューベック王国軍の残存部隊を糾合し継戦する可能性がある。そして、その頃になるとリューベック王国軍は我らの王都がヘルダー王国軍の攻撃によって落とされている事に気づくぞ」
経済力があるリューベック王国にも諜報機関は当然あるし、リューベック王国軍も斥候等を放っているのは間違いはなく、彼らの報告でフリーランス王国の王都が陥落しているとバレるのは時間の問題であり、その知らせがリューベック王国軍の首脳陣に届くのはかかっても数日であろう。
フリーランス王国軍の将校達に沈黙が漂る中、フィリベルトは続ける。
「もっとも降伏を決めたのはそういう理由ではない。もっと大局的な観点からだ。」
「どういう事でありますか?」
将校の1人がフィリベルトが尋ねる。
「ヘルダー王国は我々と同じ旧フラリン王国の同盟国だ。それが突如侵攻してきたと言う事は当然大国が背後に控えている可能性が高い。」
同盟国を大儀名分もなく突如侵攻するとなれば当然外交的信用を大きく失い、後々までそれが大きなダメージとして残りかねない暴挙であるし、下手すれば周辺国から袋叩きにされる可能性もある。
しかし、誰もが逆らえない大国を後ろ盾にしていれば話は変わる。
外交的信用を失ってもその大国についていけば、その大国とその同盟国と言う名の属国等と外交関係は持てるし、危なくなればその大国から支援も受けられるからだ。
97
お気に入りに追加
1,412
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる