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第2部 第2章

フリーランス王国軍降伏を決意する(上)

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 本営に入ったメイツ侯は一応一礼し、すぐにフリーランス王国軍の総大将フィリベルトに鋭い声を投げかけた。
「どういう事でありますか!?ここまで来て降伏などと!?」
 メイツ侯の両脇にも数名の貴族出身の将校がおり、彼らの表情を見るに暴発する一歩手前と言う感じであった。

 フリーランス王国の王太子にして同軍の総大将であるフィリベルトは肩をすくめながら答える
「伝令を送ったはずだが?」

「伝令は確かに来ましたが……しかし、王都レーワルがヘルダー王国軍の攻撃を受けて陥落したなど……にわかには信じられませぬ」
 メイツ侯の言葉に彼についてきた将校達も同調する。
「左様。リューベック王国軍が流した偽情報の可能性もあります。」

「成程。卿らの言う事も一理ある。しかし、この報をもたらしたのはアルンの留守を任せたスヘンデル子爵だ。スヘンデル子爵をアルン留守に任じたのは2日前。例えリューベック王国の諜者が優秀であったとしても流石に2日でアルンの留守が誰である事は把握できまい。」

「それは……」
 フィリベルトの冷静な反論で降伏に反対する貴族達の大半の勢いが削がれるが、一部の貴族がなお反論する。
「恐れながらスヘンデル子爵がリューベックに内通して偽の情報も流している可能性もありますが……」

「成程、確かに内通している可能性も0ではない。しかし、スヘンデル子爵が内通していると言う証拠は何一つないし、それに伝騎が持って来たフェリーネの書状にも同じ事が書かれていた。」

「フェリーネ王女殿下の……?」
 流石に貴族達はそれ以上は言えない。王族相手に証拠もなく敵に通じていると口にすればそれは王家に対して不敬としかとられないからである。

 ちなみにフェリーネはフィリベルトの異母妹に当たるが、フリーランス王国の王太子と仲は良かった。彼女はかろうじてフリーランス王国王都レーワルを脱出し、アルンに逃れれたらしい。

「解りました。しかし、王都がヘルダー王国軍の攻撃を受けて陥落していたとしてもリューベック王国軍に降伏する必要はありますまい。」
 抗戦派の他の将校が沈黙していく中メイツ侯が口を開く。

「では、この危機にメイツ侯はどう対処すれば良いと考える?」

「畏れながら申し上げます。王都が陥落した今資金も物資の調達が難しいと言う懸念があって殿下は降伏と言う苦渋を選択されたのだと思われますが、このままリューベック王国軍を撃破すれば、物資を奪えます。アルンに備蓄されている物資にリューベック王国軍を奪う物資を加えればそれなりの期間は戦えるでしょう。後は戦を交えヘルダー王国軍を撃退すれば良いかと愚考致します」

 メイツ侯の提案に儀礼的になる程と頷いた後「しかし」と続ける。
「アルベルト王子率いる本隊をこのまま撃破してもリューベック王国軍はそれなりの戦力が残っている。ヘルダー王国軍と対陣中に彼らから背後を脅かされたら手の打ちようがなかろう。」

「それはそうですが……」
 メイツ侯は頷かざるを得なかった。
 リューベック王国軍を罠等で分散させた後、リューベック王国軍本隊に集中攻撃を仕掛けると言うのがフリーランス王国軍の基本戦略であり、それは上手く行って勝利する目前と言う状況に持ち込んだ。
 しかし、それは言い換えればリューベック王国軍の戦力のかなりの部分が無傷で残っている事を意味する。
 本隊を撃破したとしてもリューベック王国軍を無力化出来る訳ではない。
 ただ、本隊を撃破されたとなればリューベック王国軍の士気は下がるし、アルベルトを捕らえたととなれば彼を交渉カードにすれば無力化出来る。
 しかし、フィリベルトがリューベック王国に降伏を決めたのはそう言う次元の理由ではなかったが……

「しかし、リューベック王国軍の本隊を撃破されたとなれば、リューベック軍の士気は低下いたしますし、アルベルト王子を捕らえれば外交で当面抑えられられるでしょう。」

「アルベルト王子を捕らえるのに失敗し、彼がリューベック王国軍の残存部隊を糾合し継戦する可能性がある。そして、その頃になるとリューベック王国軍は我らの王都がヘルダー王国軍の攻撃によって落とされている事に気づくぞ」
 経済力があるリューベック王国にも諜報機関は当然あるし、リューベック王国軍も斥候等を放っているのは間違いはなく、彼らの報告でフリーランス王国の王都が陥落しているとバレるのは時間の問題であり、その知らせがリューベック王国軍の首脳陣に届くのはかかっても数日であろう。


 フリーランス王国軍の将校達に沈黙が漂る中、フィリベルトは続ける。
「もっとも降伏を決めたのはそういう理由ではない。もっと大局的な観点からだ。」

「どういう事でありますか?」
 将校の1人がフィリベルトが尋ねる。

「ヘルダー王国は我々と同じ旧フラリン王国の同盟国だ。それが突如侵攻してきたと言う事は当然大国が背後に控えている可能性が高い。」
 同盟国を大儀名分もなく突如侵攻するとなれば当然外交的信用を大きく失い、後々までそれが大きなダメージとして残りかねない暴挙であるし、下手すれば周辺国から袋叩きにされる可能性もある。
 しかし、誰もが逆らえない大国を後ろ盾にしていれば話は変わる。
 外交的信用を失ってもその大国についていけば、その大国とその同盟国と言う名の属国等と外交関係は持てるし、危なくなればその大国から支援も受けられるからだ。
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