小国の王太子。~優秀だが口煩いからと婚約破棄された超大国の大貴族チート令嬢を妻に迎え、彼女の力を借りて乱世での生存を目指します。

モモ

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第2部 第2章

ラッスル会戦(上)

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 フリーランス王国軍はリューベック王国軍の300メートル近くまで前進し、歩兵の突撃を支援すべく弓兵による準備射撃を開始した。
 リューベック王国軍も弩兵と弓兵が応射し、射撃戦が開始される。
 しかし、時間をあまりかけたくないフリーランス王国軍は3度程射撃すると、大楯を捨てて突撃に入る。
 一方のリューベック王国軍の弓兵は薄い鎧や鎧を付けていない下級兵士を重点的に狙った本格的な防御射撃を開始した。
 フリーランス王国軍の下級兵士が次々と倒れていく中、フリーランス王国軍の突撃は続く。
 そして、100メートルまでフリーランス王国軍が接近するとリューベック王国軍の弩兵がフリーランス王国軍の甲冑を着て騎乗している小隊長らを重点的に潰していく。
 
 重装備の騎兵は殺す事は出来なくても馬から落として倒してさえしまえば良い。何故なら倒れてしまえば重い甲冑を着ている以上立ち上がるのは中々難しいからだ。

 だが、一方で甲冑を着た重装備の騎兵を弓兵が1本や2本の矢で倒すのは難しいと言う事情もある。重い鎧を着た騎士は当たり所が良くないと倒すのは難しく、馬にもある程度の鎧が着けられているからだ。そのため、甲冑を着た騎士を弓兵が倒そうとすれば集中的にその騎士を狙うしかない。
 
 しかし、クロスボウを装備した弩兵となると話は変わってくる。クロスボウ(弩)なら重い鎧もほぼ貫通するため、当たれば死には至らなくとも深手を負う事も多く、またあまりの威力に落馬する者も多く出る。
 そのため、弩兵と弓兵を用いたリューベック王国軍の防御射撃にフリーランス王国軍前衛は大きな被害を出していく事になるが、フリーランス王国軍上層部はリューベック王国軍の弩兵も用いた防御射撃戦術も当然対策を練ってはある。
 それはオレオ会戦でも実施したが、後続部隊を次々と投入して、力攻めで押し切るである。要するに射撃戦の時間を極力短くして白兵戦に早急に持ち込めばそこまで問題ないと言う計算であった。
 
 フリーランス王国軍はここでの出血は無視して力押しで攻めたかいもあり、フリーランス王国軍の波はついにリューベック王国軍第1陣に押し寄せ、歩兵部隊同士の白兵戦に移る。
 各地で真っ赤な血しぶきが上がり、リューベック軍本営が置かれている丘陵近辺は両軍の怒声や悲鳴等で包まれていった。

 


 会戦が始まり30分程経過するとフリーランス王国王太子フィリベルトは訝しげに
「リューベック王国軍め……意外と奮戦しているな」
 と呟いていた。
 フィリベルトの想定よりフリーランス王国軍の攻撃の進捗が遅い。
 フリーランス王国軍は徐々にリューベック王国軍を押し込んではいるが、それでもフィリベルトの計画からすれば遅かった。
 リューベック王国軍は本来フリーランス王国軍より兵力が多いと言うのに、互角以下の兵力で決戦を強いられている。しかも、ここにいない友軍の多数は略奪と言うお楽しみの真最中か、それを慌てて終えようとしている状況である。
 そのような状況でリューベック王国軍将兵の士気が高い訳がない。
 一方フリーランス王国軍はかなりの兵力差がある状況で5分以上の決戦に持ち込んだ事で士気は上がっているし、さらにダメ押しで高い褒賞も約束し、アルベルト王子を捕らえた者には3000ソリドゥスと言う大金も渡すとすら告げている。
 何故褒賞に使われる金貨がヒサデイン帝国の物なのか、それにもきちんとした理由がある。
 この時代で主に使われる貨幣は銀貨であり、銅貨は補助貨幣であった。金貨等は大物取引や記念硬貨等で使うぐらいで、ナーロッパで使われている金貨はヒサデイン帝国のソリドゥス金貨、崩壊したフラリン王国のリーヴル金貨、ロアーヌ帝国のダカット金貨ぐらいで、後はほんの一部の国家が記念硬貨として発行しているぐらいであった。
 そして、大きな国際取引で扱われているのは経済力がナーロッパ最大のヒサデイン帝国のソリドゥス金貨であり、ロアーヌ帝国や旧フラリン王国領内でも交易が盛んな地域ではソリドゥス貨幣が使われていると言う有様であった。そのため、一番信用され使われているソリドゥスをフィリベルトは褒賞として約束したのである。兵士達の士気を最大限まで高めるために。ただ、ソリドゥスを用いる理由もそれだけではなく、王都レーワルに備蓄されている金貨がほぼソリドゥス金貨と言う事情もあるのだが……

 とにかく、これらの褒賞でフリーランス王国軍将兵の士気は天井まで高まっているにも関わらず、士気が下がりに下がっているであろうリューベック王国軍の第1陣を未だに抜けないのは何か敵軍が小細工をしているのだろうとフリーランス王国軍総大将であるフィリベルトは判断した。
「恐らく、余程の褒賞を約束したのであろうが……」
 フィリベルトは自分の出した結論を口にするが、それはほぼ正解であった。
 リューベック王国軍総大将であるアルベルトもフリーランス王国王宮であるルデン宮での略奪をも許可しており、それに欲望が刺激されたリューベック王国軍の将兵も果敢に応戦し、数で勝るフリーランス王国軍にフィリベルトの想像をはるかに上回る抵抗を示したのである。
 この事実を見れば後手に回ったとは言え、本来圧倒的に劣勢に追い込まれていた状況を5分近くにまで持ち込んだアルベルトも十分有能である事を示していると言えるだろう。

 しかし、フリーランス王国軍もリューベック王国軍の奮戦を称える余裕等あろうはずがない。時間は敵であり、フリーランス王国軍の優勢もリューベック王国軍の援軍が到着するまで間の期間限定の物に過ぎないからだ。リューベック王国の援軍が到着するまでに決着をつけなければ、今度はフリーランス王国軍が圧倒的に不利な状況に追い込まれる。
 そのため、フィリベルトは予備戦力の大半を投入して攻撃を強める事を決意し、伝令を務める騎兵を呼ぶ。
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