82 / 140
第2部 第2章
ラッスル会戦(上)
しおりを挟む
フリーランス王国軍はリューベック王国軍の300メートル近くまで前進し、歩兵の突撃を支援すべく弓兵による準備射撃を開始した。
リューベック王国軍も弩兵と弓兵が応射し、射撃戦が開始される。
しかし、時間をあまりかけたくないフリーランス王国軍は3度程射撃すると、大楯を捨てて突撃に入る。
一方のリューベック王国軍の弓兵は薄い鎧や鎧を付けていない下級兵士を重点的に狙った本格的な防御射撃を開始した。
フリーランス王国軍の下級兵士が次々と倒れていく中、フリーランス王国軍の突撃は続く。
そして、100メートルまでフリーランス王国軍が接近するとリューベック王国軍の弩兵がフリーランス王国軍の甲冑を着て騎乗している小隊長らを重点的に潰していく。
重装備の騎兵は殺す事は出来なくても馬から落として倒してさえしまえば良い。何故なら倒れてしまえば重い甲冑を着ている以上立ち上がるのは中々難しいからだ。
だが、一方で甲冑を着た重装備の騎兵を弓兵が1本や2本の矢で倒すのは難しいと言う事情もある。重い鎧を着た騎士は当たり所が良くないと倒すのは難しく、馬にもある程度の鎧が着けられているからだ。そのため、甲冑を着た騎士を弓兵が倒そうとすれば集中的にその騎士を狙うしかない。
しかし、クロスボウを装備した弩兵となると話は変わってくる。クロスボウ(弩)なら重い鎧もほぼ貫通するため、当たれば死には至らなくとも深手を負う事も多く、またあまりの威力に落馬する者も多く出る。
そのため、弩兵と弓兵を用いたリューベック王国軍の防御射撃にフリーランス王国軍前衛は大きな被害を出していく事になるが、フリーランス王国軍上層部はリューベック王国軍の弩兵も用いた防御射撃戦術も当然対策を練ってはある。
それはオレオ会戦でも実施したが、後続部隊を次々と投入して、力攻めで押し切るである。要するに射撃戦の時間を極力短くして白兵戦に早急に持ち込めばそこまで問題ないと言う計算であった。
フリーランス王国軍はここでの出血は無視して力押しで攻めたかいもあり、フリーランス王国軍の波はついにリューベック王国軍第1陣に押し寄せ、歩兵部隊同士の白兵戦に移る。
各地で真っ赤な血しぶきが上がり、リューベック軍本営が置かれている丘陵近辺は両軍の怒声や悲鳴等で包まれていった。
会戦が始まり30分程経過するとフリーランス王国王太子フィリベルトは訝しげに
「リューベック王国軍め……意外と奮戦しているな」
と呟いていた。
フィリベルトの想定よりフリーランス王国軍の攻撃の進捗が遅い。
フリーランス王国軍は徐々にリューベック王国軍を押し込んではいるが、それでもフィリベルトの計画からすれば遅かった。
リューベック王国軍は本来フリーランス王国軍より兵力が多いと言うのに、互角以下の兵力で決戦を強いられている。しかも、ここにいない友軍の多数は略奪と言うお楽しみの真最中か、それを慌てて終えようとしている状況である。
そのような状況でリューベック王国軍将兵の士気が高い訳がない。
一方フリーランス王国軍はかなりの兵力差がある状況で5分以上の決戦に持ち込んだ事で士気は上がっているし、さらにダメ押しで高い褒賞も約束し、アルベルト王子を捕らえた者には3000ソリドゥスと言う大金も渡すとすら告げている。
何故褒賞に使われる金貨がヒサデイン帝国の物なのか、それにもきちんとした理由がある。
この時代で主に使われる貨幣は銀貨であり、銅貨は補助貨幣であった。金貨等は大物取引や記念硬貨等で使うぐらいで、ナーロッパで使われている金貨はヒサデイン帝国のソリドゥス金貨、崩壊したフラリン王国のリーヴル金貨、ロアーヌ帝国のダカット金貨ぐらいで、後はほんの一部の国家が記念硬貨として発行しているぐらいであった。
そして、大きな国際取引で扱われているのは経済力がナーロッパ最大のヒサデイン帝国のソリドゥス金貨であり、ロアーヌ帝国や旧フラリン王国領内でも交易が盛んな地域ではソリドゥス貨幣が使われていると言う有様であった。そのため、一番信用され使われているソリドゥスをフィリベルトは褒賞として約束したのである。兵士達の士気を最大限まで高めるために。ただ、ソリドゥスを用いる理由もそれだけではなく、王都レーワルに備蓄されている金貨がほぼソリドゥス金貨と言う事情もあるのだが……
とにかく、これらの褒賞でフリーランス王国軍将兵の士気は天井まで高まっているにも関わらず、士気が下がりに下がっているであろうリューベック王国軍の第1陣を未だに抜けないのは何か敵軍が小細工をしているのだろうとフリーランス王国軍総大将であるフィリベルトは判断した。
「恐らく、余程の褒賞を約束したのであろうが……」
フィリベルトは自分の出した結論を口にするが、それはほぼ正解であった。
リューベック王国軍総大将であるアルベルトもフリーランス王国王宮であるルデン宮での略奪をも許可しており、それに欲望が刺激されたリューベック王国軍の将兵も果敢に応戦し、数で勝るフリーランス王国軍にフィリベルトの想像をはるかに上回る抵抗を示したのである。
この事実を見れば後手に回ったとは言え、本来圧倒的に劣勢に追い込まれていた状況を5分近くにまで持ち込んだアルベルトも十分有能である事を示していると言えるだろう。
しかし、フリーランス王国軍もリューベック王国軍の奮戦を称える余裕等あろうはずがない。時間は敵であり、フリーランス王国軍の優勢もリューベック王国軍の援軍が到着するまで間の期間限定の物に過ぎないからだ。リューベック王国の援軍が到着するまでに決着をつけなければ、今度はフリーランス王国軍が圧倒的に不利な状況に追い込まれる。
そのため、フィリベルトは予備戦力の大半を投入して攻撃を強める事を決意し、伝令を務める騎兵を呼ぶ。
リューベック王国軍も弩兵と弓兵が応射し、射撃戦が開始される。
しかし、時間をあまりかけたくないフリーランス王国軍は3度程射撃すると、大楯を捨てて突撃に入る。
一方のリューベック王国軍の弓兵は薄い鎧や鎧を付けていない下級兵士を重点的に狙った本格的な防御射撃を開始した。
フリーランス王国軍の下級兵士が次々と倒れていく中、フリーランス王国軍の突撃は続く。
そして、100メートルまでフリーランス王国軍が接近するとリューベック王国軍の弩兵がフリーランス王国軍の甲冑を着て騎乗している小隊長らを重点的に潰していく。
重装備の騎兵は殺す事は出来なくても馬から落として倒してさえしまえば良い。何故なら倒れてしまえば重い甲冑を着ている以上立ち上がるのは中々難しいからだ。
だが、一方で甲冑を着た重装備の騎兵を弓兵が1本や2本の矢で倒すのは難しいと言う事情もある。重い鎧を着た騎士は当たり所が良くないと倒すのは難しく、馬にもある程度の鎧が着けられているからだ。そのため、甲冑を着た騎士を弓兵が倒そうとすれば集中的にその騎士を狙うしかない。
しかし、クロスボウを装備した弩兵となると話は変わってくる。クロスボウ(弩)なら重い鎧もほぼ貫通するため、当たれば死には至らなくとも深手を負う事も多く、またあまりの威力に落馬する者も多く出る。
そのため、弩兵と弓兵を用いたリューベック王国軍の防御射撃にフリーランス王国軍前衛は大きな被害を出していく事になるが、フリーランス王国軍上層部はリューベック王国軍の弩兵も用いた防御射撃戦術も当然対策を練ってはある。
それはオレオ会戦でも実施したが、後続部隊を次々と投入して、力攻めで押し切るである。要するに射撃戦の時間を極力短くして白兵戦に早急に持ち込めばそこまで問題ないと言う計算であった。
フリーランス王国軍はここでの出血は無視して力押しで攻めたかいもあり、フリーランス王国軍の波はついにリューベック王国軍第1陣に押し寄せ、歩兵部隊同士の白兵戦に移る。
各地で真っ赤な血しぶきが上がり、リューベック軍本営が置かれている丘陵近辺は両軍の怒声や悲鳴等で包まれていった。
会戦が始まり30分程経過するとフリーランス王国王太子フィリベルトは訝しげに
「リューベック王国軍め……意外と奮戦しているな」
と呟いていた。
フィリベルトの想定よりフリーランス王国軍の攻撃の進捗が遅い。
フリーランス王国軍は徐々にリューベック王国軍を押し込んではいるが、それでもフィリベルトの計画からすれば遅かった。
リューベック王国軍は本来フリーランス王国軍より兵力が多いと言うのに、互角以下の兵力で決戦を強いられている。しかも、ここにいない友軍の多数は略奪と言うお楽しみの真最中か、それを慌てて終えようとしている状況である。
そのような状況でリューベック王国軍将兵の士気が高い訳がない。
一方フリーランス王国軍はかなりの兵力差がある状況で5分以上の決戦に持ち込んだ事で士気は上がっているし、さらにダメ押しで高い褒賞も約束し、アルベルト王子を捕らえた者には3000ソリドゥスと言う大金も渡すとすら告げている。
何故褒賞に使われる金貨がヒサデイン帝国の物なのか、それにもきちんとした理由がある。
この時代で主に使われる貨幣は銀貨であり、銅貨は補助貨幣であった。金貨等は大物取引や記念硬貨等で使うぐらいで、ナーロッパで使われている金貨はヒサデイン帝国のソリドゥス金貨、崩壊したフラリン王国のリーヴル金貨、ロアーヌ帝国のダカット金貨ぐらいで、後はほんの一部の国家が記念硬貨として発行しているぐらいであった。
そして、大きな国際取引で扱われているのは経済力がナーロッパ最大のヒサデイン帝国のソリドゥス金貨であり、ロアーヌ帝国や旧フラリン王国領内でも交易が盛んな地域ではソリドゥス貨幣が使われていると言う有様であった。そのため、一番信用され使われているソリドゥスをフィリベルトは褒賞として約束したのである。兵士達の士気を最大限まで高めるために。ただ、ソリドゥスを用いる理由もそれだけではなく、王都レーワルに備蓄されている金貨がほぼソリドゥス金貨と言う事情もあるのだが……
とにかく、これらの褒賞でフリーランス王国軍将兵の士気は天井まで高まっているにも関わらず、士気が下がりに下がっているであろうリューベック王国軍の第1陣を未だに抜けないのは何か敵軍が小細工をしているのだろうとフリーランス王国軍総大将であるフィリベルトは判断した。
「恐らく、余程の褒賞を約束したのであろうが……」
フィリベルトは自分の出した結論を口にするが、それはほぼ正解であった。
リューベック王国軍総大将であるアルベルトもフリーランス王国王宮であるルデン宮での略奪をも許可しており、それに欲望が刺激されたリューベック王国軍の将兵も果敢に応戦し、数で勝るフリーランス王国軍にフィリベルトの想像をはるかに上回る抵抗を示したのである。
この事実を見れば後手に回ったとは言え、本来圧倒的に劣勢に追い込まれていた状況を5分近くにまで持ち込んだアルベルトも十分有能である事を示していると言えるだろう。
しかし、フリーランス王国軍もリューベック王国軍の奮戦を称える余裕等あろうはずがない。時間は敵であり、フリーランス王国軍の優勢もリューベック王国軍の援軍が到着するまで間の期間限定の物に過ぎないからだ。リューベック王国の援軍が到着するまでに決着をつけなければ、今度はフリーランス王国軍が圧倒的に不利な状況に追い込まれる。
そのため、フィリベルトは予備戦力の大半を投入して攻撃を強める事を決意し、伝令を務める騎兵を呼ぶ。
119
お気に入りに追加
1,595
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる