小国の王太子。~優秀だが口煩いからと婚約破棄された超大国の大貴族チート令嬢を妻に迎え、彼女の力を借りて乱世での生存を目指します。

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第2部 第2章

フリーランス王国軍の思惑

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 リューベック迎撃軍の本営が置かれているアルンの市役所、そこに執務室を構えていたフリーランス王国の王太子フィリベルトは椅子に座り、黙って目をつぶっていると、突如ドアがノックされる。

「入れ」
 とフィリベルトが答えると、メイツ侯が一礼して部屋に入っていた。
 それを見たフィリベルトは
「食いついたか?」
 と確認する。

「はっ。殿下の立てた作戦通りに戦況は動いております。」

 フィリベルトが立てた作戦構造は以下の通りである。
 初期段階で国境近くの軍の部隊や住人を焦土作戦を取っていると擬態して撤収させる一方で西の隣国であるヘルダー王国にこの戦に介入すると言う宣言だけを出してもらうよう交渉し、偽情報を流す準備も整える。

 ちなみに焦土作戦と誤認してくれてリューベック王国軍が撤退してくれれば良いなとは思っていたがフリーランス王国の王太子もそれはそこまで期待してはいなかった。

 物資を現地調達できずともリューベック王国の経済力を考えればリューベック本国から必要な物資を送る事は十分可能であるし、例えリューベック王国が財政的に苦しくなっても勝ち馬に乗ろうとする商人や商会が金を貸すのは目に見えている。
 フリーランス王国にはランド金山があり、その利権が得られるとなればとてつもない利益を生むし、リュベルを治めるナガコト王家に恩を売っておけば今後役に立つ時が来るかも知れないからだ。

 焦土作戦を取られたとリューベック王国軍が判断した場合、撤退か、最終的にフリーランス王国中枢への侵攻するの2つしか選択肢はない。後は強いて言うならば和平交渉があるが、意気揚々と逆侵攻してきたリューベック王国軍がフリーランス侵攻戦で何の戦果も挙げていないのに自分達の側から和睦を提案する事等許す訳がない。それを許せば軍の面子が潰れるし、さらに下級将校や兵士達の中にオレオ会戦後に戦勝後の略奪と言う褒賞が与えられていないと言う不満が当然くすぶっており、軍としてはそれを発散させてやらなければならないと言う事情もあるからだ。
 いくら王太子であり、遠征軍の総大将であるアルベルト王子が内心で反対であったとしても軍の要求を抑える事は出来ないだろう。
 である以上リューベック軍がフリーランス中枢侵攻を計画し、そのためにフリーランス王国軍に補給線を脅かされる事等も考慮して、補給体制を強固な物にするべく、警備を強化しつつ補給線を増やそうと考える事は簡単に予想出来る。

 となると陸路で本国から補給を受けているリューベック王国軍が補給線を増やそうとすれば次は海路を用いるのは用兵学を学んでいれば誰でも読める。フリーランス王国海軍ではリューベック王国海軍に勝ち目はないのであれば尚更である。
 であれば、フリーランス王国東部最大の港街であるハルリンゲをまず攻略し、そこに船で軍需物質を運び集積し、補給拠点の1つとするだろう。
 このタイミングでヘルダー王国が介入すると言う報が入ればリューベック軍は3つの選択肢しかない。

 1つ目は撤退であるが、軍が許さない以上、それは選べない。

 2つ目は、リューベックも他国に援軍を要請する事であるが、これを実現するにはかなりの時間を要する事からこれは現実的ではない。

 3つ目はヘルダー王国が介入してくる前にフリーランス王国中枢に侵攻して短期間に決着をつける事。これをリューベック軍は選択するとフィリベルトは踏み、それに合わせフリーランス軍は準備を整えてきた。

 リューベック軍はルエヌ近郊に駐留しているアルベルト王子率いる本隊とハルリンゲを攻略しそのまま駐留している別動隊がいる。なのでリューベック軍はそのままこの2拠点から2つの軍を進発させ、フリーランス軍の本営が置かれているアルンの近辺で合流する分進合撃策を取るだろう。これにより、行軍効率が上げられるし、フリーランス主力軍に戦力分散していると思わせて攻撃を誘う餌ともなり得るからだ。

 これに合わせフリーランス軍も餌を用意した。国境近辺ではできなかった略奪が可能な状況と言う餌を。
 オレオ会戦勝利後に勝利の報償となる略奪が出来ていないリューベック軍将兵が食い付くとフィリベルトは確信していたが、フリーランス王国王太子の想定通り彼らは略奪に走っていた。
 これにより、ハルリンゲから進発した別動隊をアルベルト王子が率いる本隊をフリーランス軍が叩く間は無力化出来る。
 そして、リューベック軍本隊の方にも、翌日の朝ぐらいからリューベック王国軍本隊の部隊が略奪に動くように餌を用意している。これで当面リューベック軍本隊の戦力もかなりの部分は無力化出来るはずである。
 その頃には避難していない住人がいると言う報とハルリンゲからの報がリューベック軍本営に伝わり、フリーランス王国軍の本意をリューベック王国軍本営は気づくであろうが、その時はもう遅い。

 現状フィリベルトの作戦通りに戦況は動いているが、フリーランス王国王太子の表情は優れなかった。
 その事を疑問に思ったメイツ侯は
「顔色が優れませんがいかがされましたか?」
 と尋ねる。

「民を犠牲にして勝利をもぎ取ると言う作戦しか立てられなかった自分が不甲斐ないと思ってな。今リューベック軍に凌辱を受けている民の事を考えると尚更……」

 フィリベルトの言葉にメイツ侯は沈痛な面持ちとなって答えた。
「侵略者により祖国が凌辱を受けているのはフリーランス王国の武人として情けない限りですが、戦力で侵略者が勝る以上やむを得ないでしょう。略奪を受ける民もこれが必要な犠牲といずれ解ってくれるはずです」
 そもそもメイツ侯を含む強硬派がリューベック侵攻を企てて大敗したから戦力差が開いているのであるが、フィリベルトはその事を口にはしなかった。
 今は一致団結しなければならない時であるし、メイツ侯は有力諸侯の1人であり、彼を味方につけておけば戦後も色々やりやすくなるからだ。

「今は勝つ事に集中すべきだな。この戦に勝たねばが犠牲になった将兵や民が報われぬ」
 フィリベルトはそう言って立ち上がり、メイツ侯に命じた。

「今夜出陣する。アルベルト王子は極力捕らえるようにと全軍に徹底させよ。他の将兵は好きにして構わない」

「御意」
 命を受けたメイツ侯は恭しく頭を下げる。

 しかし、彼らはまだ知らなかった。フリーランス王国王都レーワルが現在攻撃を受けている事に……
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