小国の王太子。~優秀だが口煩いからと婚約破棄された超大国の大貴族チート令嬢を妻に迎え、彼女の力を借りて乱世での生存を目指します。

モモ

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第2部 第1章

簒奪王の誤算(中)

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 無論、戦後外交的に彼らを優遇したり、恩賞を出さねばならないが、フェリオルからすれば有力諸侯どもがこの戦で手柄を立てすぎて発言力を取り戻すよりはるかにマシである。

「それは嬉しい申し出だ。グラナダ王国、バダボス王国、トレド王国、サラゴッサ王国、セビリア王国、デニア王国の6カ国の戦力も当てにさせていただこう。」

 フェリオルの言葉にパエス伯は
「有難き幸せ。陛下の御期待に副えるようバダボス王国、トレド王国、サラゴッサ王国、セビリア王国、デニア王国、グラナダ王国の6カ国は粉骨砕身の御奉公致します。」
 と言いながら頭を下げる。

「期待している。」
 と言いながらフェリオルはザキ伯の方に視線を向ける。
 流石にフェリオルもナサラ王国の使者は予想出来ていなかったため、若干警戒していた。もっともそれを全く面に出さない辺り武人だけではなく外交官としての才幹も持ちあわせているとも言えるのであるが……

 フェリオルの視線を受けたザキ伯は口を開く。
「此度の戦はイスラン半島の同胞の信仰を守るための戦でございます。我らも兵糧や武具等の軍需物資を提供する事で陛下のお手伝いをしたいと考えております。その目録はこちらにございます。」

 ザキ伯から目録を受け取ったフェリオルはそれに目を通す。
 ナサラ王国が提供してくれると言う軍需物資の量は悪くない、いやむしろ良い方である。
 この提供量は明らかに外交儀礼のための物ではない。

 だからこそ、フェリオルは警戒を強める。
 戦略的に言えばフェリオルが勝とうが教皇庁が勝とうがナサラ王国は大きな影響を受けない。イスラン半島に再び影響力を持ちたいなら話は別だが……
 しかし、そうなればナサラからすれば教皇庁が勝ってくれた方が都合が良いと言う事となる。

「これは我らからすれば有難い話だが、ナサラ王国と卿の主であるアブー王子は何を望んでいるのかな?」
 フェリオルは苦笑を浮かべながら尋ねるとザキ伯は微笑を浮かべて答える。
「アストゥリウ王国と我らナサラ王国の永遠の友情でございます、陛下。」

「永遠の友情か……それはまた大きく出たな」
 フェリオルの苦笑は冷笑に変わる。

「その友情を構築するために我らから提案がございます。」

「それはどのような物かな?」
 フェリオルは冷笑を浮かべながらも、その目には興味の光が宿っていた。
「はっ。ナサラ王国第7王女ナトラ王女殿下を陛下の妃として差し上げたいと考えております。陛下の御意はいかがでございましょうか?」

 フェリオルは一瞬表情を曇らせるが、すぐ微笑を浮かべる。
「成程……これは意外な申し込みであり正直驚かせられた。しかし、両国の友好を築く事を考えれば素晴らしい案だと考える。」
 フェリオルはそう答えながらも
「しかし」
 と時間稼ぎのために続ける。この婚姻によって得られるメリットとデメリットを計算するために……
「我は敬虔たるテンプレ教徒であり、ナトラ姫は敬虔たるザマー教徒であろう。その辺りはどう考えているのかな?」


「聡明なるフェリオル陛下らしからぬお言葉かと。」
 ナサラ王国の使者であるザキ伯は微笑を浮かべながら続ける。
「ザマー教に本来テンプレ教に敵対しなければならないとは聖典には書かれておりませんし、テンプレ教も同様でございましょう。都合が悪ければナトラ王女殿下を改宗させても我々は異を唱えませんが、ザマー教のままであった方が陛下に利は大きいでしょう。教皇庁を下した後なのであれば尚更……」

 フェリオルは頷き、ザキ伯の言葉を軽く流しながら思考を進めていた。

 この婚姻のフェリオルが得るメリットとしては第1にイスラン半島のザマー教諸国に影響力を持っているナサラ王国と婚姻同盟が成立すればかの国からイスラン半島が脅かされる可能性がほぼ消滅する事から、後は属国群を完全に従わせる事が出来れば安心して東進政策を取れるようになる。言い変えればフェリオルもナサラ王国に手を出しにくくなると言う事になるが、南大陸に侵攻する意志がない簒奪王にはどうでも良い事である。

 第2にザマー教徒の姫君を娶ればザマー教諸国の心象も良くなる。これにより通商等もしやすくなるし、イスラン半島のザマー教諸国等との関係改善もよりやりやすくなる事であろう。特に幅広くザマー教諸国と交易出来るようになれば、異教徒の珍しい物品はテンプレ教異端が強く、また珍しい物が好きなナーロッパ北方の人々に売れるだろうし、その逆もしかりだ。利益を上げれば、その分軍備等に使える予算も増やす事が可能となる。
 ただ、それを実行するならば、北方交易の要となるリュベルを王都に持つリューベック王国と通商条約を締結しなければならないが、交易で稼いでいるリューベックにも利益が出る可能性が高い以上、彼らが通商を受けいれる可能性も大きい。ただし、本格的に交易出来るのはアストゥリウ王国とロアーヌ帝国が本格的に対立するまでの期間と言う条件はついてしまうが……
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