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第2部 第1章
ロアーヌ帝国御前会議(1057年)後編①
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「その件を協議していると私は認識しておりましたが……」
とシュタデーン選帝公は座ったまま嘲笑いながら言う。
帝国宰相である皇太子ルイトポルト皇子はそれに少しイラっとしながらも、それは隠して反論する。
「卿らはロアーヌ帝国が介入しなければこの争い(教皇庁とアストゥリウ王国)は簒奪王が勝つと言う前提で話をしているが、教皇庁が勝った場合も想定した対応策も考えなくてはならないのではないかな?」
皇太子にして帝国宰相の言葉を聞いた御前会議参加者の反応は大きく2つに別れた。
1つは確かにと頷くピルイン選帝公やリトルフィング辺境伯等の参加者達である。
彼らはフェリオルのラーンベルク戦の勝利はマグレ、もしくはフラリン軍が弱かっただけと考えている一派でもあった。
もう1つは今更何を言っているんだと呆れている貴族達である。
彼らは簒奪王のラーンベルク夜襲戦の勝利をマグレだとは思っていない。
確かにフラリン軍も下手を打っているのは事実であったが、フラリン軍の動きに理解をできもなくはないのである。
フェリオル軍の主力はラーンベルクにて包囲され、斥候で探らせても別動隊は確認できず、簒奪王はアストゥリウ王国王都レオンにて震えあがっていると言う噂も聞こえてくる。この状況で略奪に出るフラリン王国軍将兵が出るのも仕方がないだろうと……
こうなるよう簒奪王が狙ってそうなるよう仕向けたのであれば最低でも戦に関しては天才といわざるを得ない。そんな天才に教皇庁と中堅国と小国の連合軍が挑んても勝ち目はほばないだろうと言うのが彼らの見解である。
「皇太子殿下の言う事も一理あると思いますが……」
軍務卿である軍務卿グロート伯が言いにくそうに続ける。
「イスラン半島のザマー教諸国平定戦、アストゥリウ内戦に続きラーンベルク戦で簒奪王とその手勢は常勝を誇り圧倒的な強さを見せております。圧倒的な戦力差が開かない限り教皇庁に勝ち目はないと私は愚考いたします。」
そして、さらに皇帝ハインリヒ3世も軍務卿の言葉に頷く。
「その通りだ。王位を武力で奪った卑しい庶子であるとは言え、戦上手である事は認めざるを得んだろう。教皇陣営に参加する国の戦力で勝てるとは余も思えぬ。」
父の言葉に宰相ルイトポルトは渋々頷いた。いや、頷かざるを得なかった。
息子が沈黙したのを確認した皇帝ハインリヒ3世は
「しかし……」
と続ける。
「別の問題が生じるのではないか。教皇庁を降したアストゥリウ王国……いや簒奪王に果たしてロアーヌ帝国は勝てるのか?こうなって来ると帝国と簒奪王の間に大きな戦力差はないぞ。」
ロアーヌ帝国皇帝ハインリヒ3世・ザーリアの言葉に会議場には沈黙が一瞬支配するが、ピルイン選帝公が口を開く。
「お恐れながら申し上げます。皇帝陛下は簒奪王とその手勢を過大評価し、我ら帝国軍を過小評価してはおられませんか?」
リトルフィング辺境伯もピルイン公に続き
「その通りでございます。簒奪王が破ったのは所詮弱小の異教徒や無能なフラリン王国軍でございます。確かにフラリン王国を併合した事で兵力を大幅に増してはいますが、簒奪王に反発しているアストゥリウ諸侯(旧フラリン王国諸侯も含む)を調略すれば簡単に崩せましょう。」
と発言し、さらに簒奪王を恐れる必要はないと考えている者たちが
「その通り。」
と賛同を示した。
これにはハーベンブルク選帝公は顔をしかめさせ、シュタデーン選帝公は苦笑いを浮かべる。
彼らはいくら何でも簒奪王を侮りすぎだろうと思ったのであるが、しかしそれを口に出す事は出来なかったのである。
無論フェリオルを侮っていない他の帝国諸侯もそれは同じである。
それは何故なのか?
その理由はある意味単純明快である。
それは、簒奪王とその手勢である黒旗軍がロアーヌ帝国軍でも勝てない、もしくは危ないとなればロアーヌ帝国も完全常備軍を採用し、国家や軍の中央統制を強めなければならないが、そんな事になれば諸侯の力は相対的に弱まる。さらに、皇室がそこまで裕福でないロアーヌ帝国が黒旗軍のような完全常備軍を採用するとなれば帝国諸侯も大きな負担も背負される事となろう。
安全保障に大きく関わる事ではあるが、それでも帝国諸侯にとって大きな負担を負ってさらに皇帝の力が強まり相対的に諸侯の力が削がれるなど絶対に認められる事ではなかった。
そうなるぐらいなら簒奪王との戦いで少々被害が増しても現状維持の方が得であると言うのが簒奪王を侮ってない諸侯達の計算であった。
「ピルイン公がそうおっしゃってもフラリン王国軍も大敗し併合されているのですぞ。そう侮るのもいかがな物でしょうか?」
ロアーヌ帝国内務卿マガト候が楽観論を唱えるピルイン選帝公に反論し、軍務卿グロート伯も
「その通りです。簒奪王の軍事的手腕に関してはもう少し警戒すべきだと私も愚考致します。」
とマガト候に続く。
とシュタデーン選帝公は座ったまま嘲笑いながら言う。
帝国宰相である皇太子ルイトポルト皇子はそれに少しイラっとしながらも、それは隠して反論する。
「卿らはロアーヌ帝国が介入しなければこの争い(教皇庁とアストゥリウ王国)は簒奪王が勝つと言う前提で話をしているが、教皇庁が勝った場合も想定した対応策も考えなくてはならないのではないかな?」
皇太子にして帝国宰相の言葉を聞いた御前会議参加者の反応は大きく2つに別れた。
1つは確かにと頷くピルイン選帝公やリトルフィング辺境伯等の参加者達である。
彼らはフェリオルのラーンベルク戦の勝利はマグレ、もしくはフラリン軍が弱かっただけと考えている一派でもあった。
もう1つは今更何を言っているんだと呆れている貴族達である。
彼らは簒奪王のラーンベルク夜襲戦の勝利をマグレだとは思っていない。
確かにフラリン軍も下手を打っているのは事実であったが、フラリン軍の動きに理解をできもなくはないのである。
フェリオル軍の主力はラーンベルクにて包囲され、斥候で探らせても別動隊は確認できず、簒奪王はアストゥリウ王国王都レオンにて震えあがっていると言う噂も聞こえてくる。この状況で略奪に出るフラリン王国軍将兵が出るのも仕方がないだろうと……
こうなるよう簒奪王が狙ってそうなるよう仕向けたのであれば最低でも戦に関しては天才といわざるを得ない。そんな天才に教皇庁と中堅国と小国の連合軍が挑んても勝ち目はほばないだろうと言うのが彼らの見解である。
「皇太子殿下の言う事も一理あると思いますが……」
軍務卿である軍務卿グロート伯が言いにくそうに続ける。
「イスラン半島のザマー教諸国平定戦、アストゥリウ内戦に続きラーンベルク戦で簒奪王とその手勢は常勝を誇り圧倒的な強さを見せております。圧倒的な戦力差が開かない限り教皇庁に勝ち目はないと私は愚考いたします。」
そして、さらに皇帝ハインリヒ3世も軍務卿の言葉に頷く。
「その通りだ。王位を武力で奪った卑しい庶子であるとは言え、戦上手である事は認めざるを得んだろう。教皇陣営に参加する国の戦力で勝てるとは余も思えぬ。」
父の言葉に宰相ルイトポルトは渋々頷いた。いや、頷かざるを得なかった。
息子が沈黙したのを確認した皇帝ハインリヒ3世は
「しかし……」
と続ける。
「別の問題が生じるのではないか。教皇庁を降したアストゥリウ王国……いや簒奪王に果たしてロアーヌ帝国は勝てるのか?こうなって来ると帝国と簒奪王の間に大きな戦力差はないぞ。」
ロアーヌ帝国皇帝ハインリヒ3世・ザーリアの言葉に会議場には沈黙が一瞬支配するが、ピルイン選帝公が口を開く。
「お恐れながら申し上げます。皇帝陛下は簒奪王とその手勢を過大評価し、我ら帝国軍を過小評価してはおられませんか?」
リトルフィング辺境伯もピルイン公に続き
「その通りでございます。簒奪王が破ったのは所詮弱小の異教徒や無能なフラリン王国軍でございます。確かにフラリン王国を併合した事で兵力を大幅に増してはいますが、簒奪王に反発しているアストゥリウ諸侯(旧フラリン王国諸侯も含む)を調略すれば簡単に崩せましょう。」
と発言し、さらに簒奪王を恐れる必要はないと考えている者たちが
「その通り。」
と賛同を示した。
これにはハーベンブルク選帝公は顔をしかめさせ、シュタデーン選帝公は苦笑いを浮かべる。
彼らはいくら何でも簒奪王を侮りすぎだろうと思ったのであるが、しかしそれを口に出す事は出来なかったのである。
無論フェリオルを侮っていない他の帝国諸侯もそれは同じである。
それは何故なのか?
その理由はある意味単純明快である。
それは、簒奪王とその手勢である黒旗軍がロアーヌ帝国軍でも勝てない、もしくは危ないとなればロアーヌ帝国も完全常備軍を採用し、国家や軍の中央統制を強めなければならないが、そんな事になれば諸侯の力は相対的に弱まる。さらに、皇室がそこまで裕福でないロアーヌ帝国が黒旗軍のような完全常備軍を採用するとなれば帝国諸侯も大きな負担も背負される事となろう。
安全保障に大きく関わる事ではあるが、それでも帝国諸侯にとって大きな負担を負ってさらに皇帝の力が強まり相対的に諸侯の力が削がれるなど絶対に認められる事ではなかった。
そうなるぐらいなら簒奪王との戦いで少々被害が増しても現状維持の方が得であると言うのが簒奪王を侮ってない諸侯達の計算であった。
「ピルイン公がそうおっしゃってもフラリン王国軍も大敗し併合されているのですぞ。そう侮るのもいかがな物でしょうか?」
ロアーヌ帝国内務卿マガト候が楽観論を唱えるピルイン選帝公に反論し、軍務卿グロート伯も
「その通りです。簒奪王の軍事的手腕に関してはもう少し警戒すべきだと私も愚考致します。」
とマガト候に続く。
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