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第1部 完結記念
シャルロット王女、ロアーヌ帝国の新年の儀に招待される(上)
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ナーロッパ歴1057年1月1日
リューベック王国の姫君シャルロット・ナガコトは12月27日よりロアーヌ帝国帝都シュバインフルトにあるリューベック王国大使館に滞在していた。1月1日に開かれるロアーヌ帝国の新年の儀に賓客として招待されていたためである。
流石にリューベック王国本国からシャルロットの補佐としてついてきた外務省の高級官僚のブール男爵が付いていく訳にも行かず、アルベルトと婚約しているアリシアにエスコートを頼んだのである。
アリシアもそれを承諾し、現在彼女達はロアーヌ帝国のフェンブルク宮の待合室にいた。
新年の儀と言っても単なる夜会である。通常爵位の低い人間から入場するので、来賓で招待されているリューベック王家であるナガコト家は最後の方に入場する。
(しかし、緊張しますわ)
シャルロットが初めての他国での外交行事と言うので体を固くしていると正面に座るアリシアが
「大丈夫ですわ。これは新年の式典みたいな物ですから美味しい物を食べて適当に話を合わせておくだけです」
と優しい笑みを浮かべて励ました。
「しかし、万が一粗相でもしたら……」
「そのための私がいるのですよ。それに話をするのは我が家に近しい貴族達が中心となるはずですからどうとでもなります。」
事実上ナガコト家のバックにはピルイン公がおり、彼女に近づく貴族はピルイン公か彼と組んでいるハーベンブルク公の影響下にある貴族が大半である。これが次期国王であるアルベルト王子となるとシュタデーン家等も食らいついてくる可能性はあったが、シャルロットであるとそこまで食いつかないであろうとアリシアは読んでいた。
理由は単純で、彼女とは関係を築いてもリューベックに影響力をそこまで及ぼせる訳ではないからである。
まあ、アルベルトに不満を持つ家臣を煽って彼女を担がせると言った手段は理論上ありはするが、リューベック王国の旨味はリューベックが安定しているからもたらせるのであって、内戦を起こさせてまで強行する価値は現状ない。
アリシアが緊張で震えているシャルロットの頭を優しくなでているとノックがなり、帝国の役人が入場の時間だと教えてくれた。
「本日は我がザーリア家の新年会に参加してもらい感謝する。挨拶はこれぐらいして、新年の始まりである今日を楽しんでくれ。新年に乾杯!」
ロアーヌ帝国皇帝ハインリヒ3世・ザーリアの口上が終わると会場が賑やかになる。
最初にアリシアの案内でシャルロットは皇帝陛下に挨拶に向かう。
「ご機嫌麗しゅうございます、皇帝陛下。」
アリシアが皇帝に挨拶すると、皇帝もニコニコしながら
「久しぶりだな、アリシア嬢。今回良い嫁ぎ先が決まって良かったのう。」
「はっ。これも皇帝陛下の御威光の賜物でございます」
シャルロットに皇帝が視線を移すと
「うむ。所でそちらの御令嬢は?もしかすると……」
「陛下の御賢察の通りにございます。改めて紹介させて頂きますが、このお方はシャルロット・ナガコト王女殿下にございます。」
「皇帝陛下、初にお目にかかります。私はリューベック王国国王ブディブォイ・ナガゴトの娘シャルロットと申します。本日はお招きいただき誠にありがとうございます。」
「こちらこそ、わざわざ遠路遥々訪れて下さり感謝する。この帝都はシャルロット嬢にはどう写ったかな?」
「流石はナーロッパ中央最大の大国の帝都だと感服いたしました。我が国の王都とは比べ物にならない程の賑わいにございます。」
「ほう。あの北方最大の交易都市を王都に持つリューベック王国より賑わっていると。これは光栄な話だ」
皇帝とシャルロットは数回話のやり取りを済ませると、皇帝への次の挨拶者が来た事もあり、次に向かう。
一通り帝国有力諸侯への挨拶周りを済ませ、シャルロットの元に挨拶に来た帝国の中堅諸侯らをさばくと、シャルロットはため息をつく。
所所で詰まる事はあったがその度にアリシアがフォローしてくれたため、特に問題なく過ごす事が出来た。
「お疲れ様でした、シャルロット殿下。」
「ありがとうございます、アリシア様。アリシア様は私の義姉になられるのですからシャルロットとお呼びください。」
「そういう訳には行きません。正式に婚姻を結んだ訳ではございませんので……」
プライベートならともかく流石にこういう公の場ではそれは出来ない。それをしてしまえば、他の貴族から非常識と思われてしまい、それが元で足を引っ張られる可能性があるからだ。
シャルロットと一緒に食事を取っていたアリシアの表情が突如固い物に変わる。
「シャルロット王女殿下、申し訳ござまいません。少しお側を離れます。」
「えっ」
戸惑うシャルロットにアリシアは申し訳なさそうに続ける。
「所用が出来ました。直ぐに戻ります。」
アリシアは周りを見渡して
「ダーフィト。」
と呼んだ。
「何でございましょうか?姉上。」
ダーフィトと呼ばれた男がアリシアに尋ねる。
シャルロットにも見覚えがある男であった。
「弟のダーフィトでございます……ダーフィト、王女殿下の事頼んだわよ。」
リューベック王国の姫君シャルロット・ナガコトは12月27日よりロアーヌ帝国帝都シュバインフルトにあるリューベック王国大使館に滞在していた。1月1日に開かれるロアーヌ帝国の新年の儀に賓客として招待されていたためである。
流石にリューベック王国本国からシャルロットの補佐としてついてきた外務省の高級官僚のブール男爵が付いていく訳にも行かず、アルベルトと婚約しているアリシアにエスコートを頼んだのである。
アリシアもそれを承諾し、現在彼女達はロアーヌ帝国のフェンブルク宮の待合室にいた。
新年の儀と言っても単なる夜会である。通常爵位の低い人間から入場するので、来賓で招待されているリューベック王家であるナガコト家は最後の方に入場する。
(しかし、緊張しますわ)
シャルロットが初めての他国での外交行事と言うので体を固くしていると正面に座るアリシアが
「大丈夫ですわ。これは新年の式典みたいな物ですから美味しい物を食べて適当に話を合わせておくだけです」
と優しい笑みを浮かべて励ました。
「しかし、万が一粗相でもしたら……」
「そのための私がいるのですよ。それに話をするのは我が家に近しい貴族達が中心となるはずですからどうとでもなります。」
事実上ナガコト家のバックにはピルイン公がおり、彼女に近づく貴族はピルイン公か彼と組んでいるハーベンブルク公の影響下にある貴族が大半である。これが次期国王であるアルベルト王子となるとシュタデーン家等も食らいついてくる可能性はあったが、シャルロットであるとそこまで食いつかないであろうとアリシアは読んでいた。
理由は単純で、彼女とは関係を築いてもリューベックに影響力をそこまで及ぼせる訳ではないからである。
まあ、アルベルトに不満を持つ家臣を煽って彼女を担がせると言った手段は理論上ありはするが、リューベック王国の旨味はリューベックが安定しているからもたらせるのであって、内戦を起こさせてまで強行する価値は現状ない。
アリシアが緊張で震えているシャルロットの頭を優しくなでているとノックがなり、帝国の役人が入場の時間だと教えてくれた。
「本日は我がザーリア家の新年会に参加してもらい感謝する。挨拶はこれぐらいして、新年の始まりである今日を楽しんでくれ。新年に乾杯!」
ロアーヌ帝国皇帝ハインリヒ3世・ザーリアの口上が終わると会場が賑やかになる。
最初にアリシアの案内でシャルロットは皇帝陛下に挨拶に向かう。
「ご機嫌麗しゅうございます、皇帝陛下。」
アリシアが皇帝に挨拶すると、皇帝もニコニコしながら
「久しぶりだな、アリシア嬢。今回良い嫁ぎ先が決まって良かったのう。」
「はっ。これも皇帝陛下の御威光の賜物でございます」
シャルロットに皇帝が視線を移すと
「うむ。所でそちらの御令嬢は?もしかすると……」
「陛下の御賢察の通りにございます。改めて紹介させて頂きますが、このお方はシャルロット・ナガコト王女殿下にございます。」
「皇帝陛下、初にお目にかかります。私はリューベック王国国王ブディブォイ・ナガゴトの娘シャルロットと申します。本日はお招きいただき誠にありがとうございます。」
「こちらこそ、わざわざ遠路遥々訪れて下さり感謝する。この帝都はシャルロット嬢にはどう写ったかな?」
「流石はナーロッパ中央最大の大国の帝都だと感服いたしました。我が国の王都とは比べ物にならない程の賑わいにございます。」
「ほう。あの北方最大の交易都市を王都に持つリューベック王国より賑わっていると。これは光栄な話だ」
皇帝とシャルロットは数回話のやり取りを済ませると、皇帝への次の挨拶者が来た事もあり、次に向かう。
一通り帝国有力諸侯への挨拶周りを済ませ、シャルロットの元に挨拶に来た帝国の中堅諸侯らをさばくと、シャルロットはため息をつく。
所所で詰まる事はあったがその度にアリシアがフォローしてくれたため、特に問題なく過ごす事が出来た。
「お疲れ様でした、シャルロット殿下。」
「ありがとうございます、アリシア様。アリシア様は私の義姉になられるのですからシャルロットとお呼びください。」
「そういう訳には行きません。正式に婚姻を結んだ訳ではございませんので……」
プライベートならともかく流石にこういう公の場ではそれは出来ない。それをしてしまえば、他の貴族から非常識と思われてしまい、それが元で足を引っ張られる可能性があるからだ。
シャルロットと一緒に食事を取っていたアリシアの表情が突如固い物に変わる。
「シャルロット王女殿下、申し訳ござまいません。少しお側を離れます。」
「えっ」
戸惑うシャルロットにアリシアは申し訳なさそうに続ける。
「所用が出来ました。直ぐに戻ります。」
アリシアは周りを見渡して
「ダーフィト。」
と呼んだ。
「何でございましょうか?姉上。」
ダーフィトと呼ばれた男がアリシアに尋ねる。
シャルロットにも見覚えがある男であった。
「弟のダーフィトでございます……ダーフィト、王女殿下の事頼んだわよ。」
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