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第1部 最終章
オレオ会戦(下)1
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「マンコダ様をお守りせよ」
騎士達が叫ぶが、兵士達は突撃してくる騎兵を見て戦意を失っている。
ここに残っているのは百人にも満たない兵力なのだから仕方ないと言える。
「もう、無理だ」
1人の兵士が武器を捨て逃げだした。
それを見た兵士達も次々とそれに倣って戦場を離脱していく。
「逃げて生き恥を晒すな。小娘に恐れて逃げ出すとはそれでもフリーランスの男か」
マンコダが馬に騎乗したまま必死に叫ぶが、逃亡する兵士達は聞く耳を持たず、壊走は止まらない。
「貴様が指揮官だな」
そうこうしているうちにアマンダがマンコダの前に現れる。
「そうだ、小娘。我はマンコダ男爵家当主サイモンなり」
マンコダの名乗りにアマンダも騎士として答える。
「我はオレンボー辺境伯が長女アマンダ。その首もらい受ける」
「図に乗るな、小娘」
槍を持ちアマンダに突進する。
しかし、直ぐにマンコダは女等と侮ってはいけない腕前の敵を相手にしていると思い知らされた
その槍は躱され、槍を持っていた右手を切られたのだ。
痛みで槍を落とし、左手で右手を抑えていると、アマンダは剣を首につきつけられる。
「降伏か、名誉の戦死か。好きな方を選ぶと良い。」
マンコダは一瞬迷うが、顔を痛みと屈辱でゆがめながら
「……降伏する」
と宣言した。
「もう少し……もう少しだ。」
馬の上でラーム将軍はそう呟きながら馬の鞍を叩く。
リューベック中央軍はフリーランス軍の攻撃を受け、さらに後退を強いられている。
中央軍を崩せば、後はリューベック軍の本営を捕捉出来る。
後はアルベルト王子を討ち取るなり、捕らえるさえすればフリーランス軍の勝利だ。
そう、ラーム将軍が勝利の希望が見えた瞬間、フリーランス中央軍西側に大きな土煙が上がったのが見えたのである。
ラーム将軍の表情に絶望が宿る。
ラーム将軍に逃亡と言う言葉が一瞬頭をよぎるが、首を横に振り否定する。
「無能者と後世に名を遺すのはまだ耐えられるが、己が責任を放棄した卑怯者として名を遺すのは耐えきれぬ」
そう呟いたラーム将軍は覚悟を決める。
「中央軍、左翼に撤退命令。予備と我は敵援軍を抑えるぞ」
フリーランス中央軍は右翼の劣勢を知らず攻撃しており、またリューベック中央軍の大半の将兵も左翼が圧倒している事は知らされていなかったため、両軍の将兵は戦うのを忘れ、土煙の方を見つめる。
その土煙を上げているのがリューベック軍か、フリーランス軍か。
もし、フリーランス軍なら押し込まれているリューベック中央軍はとどめをさされるに等しい。
逆にリューベック軍なら押し込まれつつあるリューベック中央軍にとって救いになる。
やがて、軍旗が見えるに当たってフリーランス軍には絶望に混じった叫びが上げられる。
「リューベック軍だ!」
それを聞いたフリーランス軍が大きな声を張り上げるが、何と言っているのかか解らない。
「狼狽えるな!」
「戦はまだ終わっていないぞ」
中隊長や小隊長らは叱咤して統制を回復させようとするが、兵士達は聞こえていない。
兵士達はむしろ浮き足だっていた。
一方のリューベック軍からは歓声が上がっていた。
「援軍だ、援軍が来たぞ」
士気が上がったリューベック軍はじわじわと押し返していく。
「とりあえず勝ったな。だが……」
リューベック本営にて戦場を見渡していたアルベルトがそうつぶやくと、隣に座るロブェネル将軍も頷く。
「勝利は確定しました。しかし、このままだと勝ちすぎる可能性がありますな」
すでにフリーランス中央軍は後詰めを務めていた総予備が引き抜かれ、中央軍の側面をつこうとするリューベック軍左翼に対する手当に使われている。
後詰めを引き抜かれ、また援軍の出現に動揺が走っているだろう中央軍も攻勢に出るなど出来る訳がない。後退が敗走に変わるのは時間の問題である。
(敵援軍に退路を断たれればおしまいだ)
フリーランス中央軍指揮官メイツ侯は側にいる将兵を動揺させないよう内心でつぶやく。
ラーム将軍が率いる予備がリューベックの援軍に当たるようだが、時間稼ぎぐらいにしかならない事はメイツ侯も理解していた。
退路が断たれる前に撤退せねばならないが、それが難事と言えた。
援軍が現れ、士気が上がる軍勢の追撃をどう避けるかを考えねばならないからである。
(一撃を与えて敵を怯ませた上で一気に下がるか、このままじわじわと追撃を受けつつ後退するか……)
メイツ侯から見てフリーランス中央軍は動揺が走ってはいるものの、まだ崩れてはいなかった。
しかし、一撃を与えようにもそれを可能とする予備戦力はメイツ侯の手元には残っていない。
ならば、メイツ侯に取れる手は1つしか残されていなかった。
「じわじわと後退していくしかないか。ダンコ子爵の隊に伝令。30分程遅滞戦闘を開始せよ。その間、各隊後退。サールク子爵は1キロ下がった所で防御陣を張り、ダンコ子爵の隊の後退を援護するように。伝令を急げ」
メイツ侯の命を受けた副官は伝騎を各隊に送るため、側を離れた。
騎士達が叫ぶが、兵士達は突撃してくる騎兵を見て戦意を失っている。
ここに残っているのは百人にも満たない兵力なのだから仕方ないと言える。
「もう、無理だ」
1人の兵士が武器を捨て逃げだした。
それを見た兵士達も次々とそれに倣って戦場を離脱していく。
「逃げて生き恥を晒すな。小娘に恐れて逃げ出すとはそれでもフリーランスの男か」
マンコダが馬に騎乗したまま必死に叫ぶが、逃亡する兵士達は聞く耳を持たず、壊走は止まらない。
「貴様が指揮官だな」
そうこうしているうちにアマンダがマンコダの前に現れる。
「そうだ、小娘。我はマンコダ男爵家当主サイモンなり」
マンコダの名乗りにアマンダも騎士として答える。
「我はオレンボー辺境伯が長女アマンダ。その首もらい受ける」
「図に乗るな、小娘」
槍を持ちアマンダに突進する。
しかし、直ぐにマンコダは女等と侮ってはいけない腕前の敵を相手にしていると思い知らされた
その槍は躱され、槍を持っていた右手を切られたのだ。
痛みで槍を落とし、左手で右手を抑えていると、アマンダは剣を首につきつけられる。
「降伏か、名誉の戦死か。好きな方を選ぶと良い。」
マンコダは一瞬迷うが、顔を痛みと屈辱でゆがめながら
「……降伏する」
と宣言した。
「もう少し……もう少しだ。」
馬の上でラーム将軍はそう呟きながら馬の鞍を叩く。
リューベック中央軍はフリーランス軍の攻撃を受け、さらに後退を強いられている。
中央軍を崩せば、後はリューベック軍の本営を捕捉出来る。
後はアルベルト王子を討ち取るなり、捕らえるさえすればフリーランス軍の勝利だ。
そう、ラーム将軍が勝利の希望が見えた瞬間、フリーランス中央軍西側に大きな土煙が上がったのが見えたのである。
ラーム将軍の表情に絶望が宿る。
ラーム将軍に逃亡と言う言葉が一瞬頭をよぎるが、首を横に振り否定する。
「無能者と後世に名を遺すのはまだ耐えられるが、己が責任を放棄した卑怯者として名を遺すのは耐えきれぬ」
そう呟いたラーム将軍は覚悟を決める。
「中央軍、左翼に撤退命令。予備と我は敵援軍を抑えるぞ」
フリーランス中央軍は右翼の劣勢を知らず攻撃しており、またリューベック中央軍の大半の将兵も左翼が圧倒している事は知らされていなかったため、両軍の将兵は戦うのを忘れ、土煙の方を見つめる。
その土煙を上げているのがリューベック軍か、フリーランス軍か。
もし、フリーランス軍なら押し込まれているリューベック中央軍はとどめをさされるに等しい。
逆にリューベック軍なら押し込まれつつあるリューベック中央軍にとって救いになる。
やがて、軍旗が見えるに当たってフリーランス軍には絶望に混じった叫びが上げられる。
「リューベック軍だ!」
それを聞いたフリーランス軍が大きな声を張り上げるが、何と言っているのかか解らない。
「狼狽えるな!」
「戦はまだ終わっていないぞ」
中隊長や小隊長らは叱咤して統制を回復させようとするが、兵士達は聞こえていない。
兵士達はむしろ浮き足だっていた。
一方のリューベック軍からは歓声が上がっていた。
「援軍だ、援軍が来たぞ」
士気が上がったリューベック軍はじわじわと押し返していく。
「とりあえず勝ったな。だが……」
リューベック本営にて戦場を見渡していたアルベルトがそうつぶやくと、隣に座るロブェネル将軍も頷く。
「勝利は確定しました。しかし、このままだと勝ちすぎる可能性がありますな」
すでにフリーランス中央軍は後詰めを務めていた総予備が引き抜かれ、中央軍の側面をつこうとするリューベック軍左翼に対する手当に使われている。
後詰めを引き抜かれ、また援軍の出現に動揺が走っているだろう中央軍も攻勢に出るなど出来る訳がない。後退が敗走に変わるのは時間の問題である。
(敵援軍に退路を断たれればおしまいだ)
フリーランス中央軍指揮官メイツ侯は側にいる将兵を動揺させないよう内心でつぶやく。
ラーム将軍が率いる予備がリューベックの援軍に当たるようだが、時間稼ぎぐらいにしかならない事はメイツ侯も理解していた。
退路が断たれる前に撤退せねばならないが、それが難事と言えた。
援軍が現れ、士気が上がる軍勢の追撃をどう避けるかを考えねばならないからである。
(一撃を与えて敵を怯ませた上で一気に下がるか、このままじわじわと追撃を受けつつ後退するか……)
メイツ侯から見てフリーランス中央軍は動揺が走ってはいるものの、まだ崩れてはいなかった。
しかし、一撃を与えようにもそれを可能とする予備戦力はメイツ侯の手元には残っていない。
ならば、メイツ侯に取れる手は1つしか残されていなかった。
「じわじわと後退していくしかないか。ダンコ子爵の隊に伝令。30分程遅滞戦闘を開始せよ。その間、各隊後退。サールク子爵は1キロ下がった所で防御陣を張り、ダンコ子爵の隊の後退を援護するように。伝令を急げ」
メイツ侯の命を受けた副官は伝騎を各隊に送るため、側を離れた。
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