小国の王太子。~優秀だが口煩いからと婚約破棄された超大国の大貴族チート令嬢を妻に迎え、彼女の力を借りて乱世での生存を目指します。

モモ

文字の大きさ
上 下
34 / 140
第1部 第2章

王太子、選帝公令嬢に尋ねる(中)

しおりを挟む
「半常備兵……ですか?」
 アルベルトが首を傾げながら尋ねると、アリシアは相変わらず綺麗な声で答える。
「はい。簡単に言えば非主流になりつつある2圃式農業を応用した物です。1年ごとに麦等の栽培をするのは変わりませんが休閑中には軍にて訓練、当然戦になった場合は戦に出てもらいます。ただし、この半常備兵になれば税は免除みたいな大きな特典が必要になりますが、それでも軍事力の上昇と言う大きな益をリューベック王国は得る事になります」
 確かに訓練された常備兵の戦場での強さはアストゥリウ王国が証明していた。
 そして、黒旗軍のような大規模常備軍には従来の軍隊より強い以外にも戦略的優位点が二つある。
 一つは物資を備蓄し補給体制が万全であれば軍の動員時間を省いて即時に軍を動かせる事だ。例えば今回の場合、フリーランスが軍の動員を開始したとしても、相手の動員が終える前に侵攻し優位な状況で戦う事も可能となってくる。

 二つ目は農繁期になっても軍事行動が可能となる事。この時代の軍の主力は徴兵された農民兵である以上、農繁期が近づけば軍事行動が大幅に制限される。しかし、常備軍にそんな枷は当然ない。

 しかし、大規模な常備軍を維持するとなれば当然高い費用が発生する。財政に余裕があるリューベック王国でも2千程度。海軍予算をだいぶ削っても3千程度が限界である。

 簒奪王が作り出した大規模常備軍と言う概念は軍事革命と呼んで良い物だとアルベルトは思う。流石にこのまま各国が取り入れられるものではないが、これを応用した軍がいずれ各国の主力となり、徴兵軍が主力となる時代はもうすぐで終わりを迎えるだろう。

 そして、アリシアの提案はフェリオルが産んだ大規模常備軍の問題点をリューベックの国情に合わせて潰した発想である。確かに練度は黒旗軍よりは若干劣るかも知れないが、当然徴兵軍よりははるかに高い練度は期待出来る。維持費も初期投資を除けば黒旗軍みたいな完全常備軍より遥かに安上がりだ。
 問題があるとすれば、税収が下がる事であるが、スラムに住む人間の税収等なくなってもリューベック王国は全く支障はない。むしろ、スラムに住む貧困層がいなくなってくれた方が王都の治安の面で助かると言うのが本音ですらあった。
(アリシア嬢の案は内務省と陸軍からも好意的に受け入れられるだろう。)とアルベルトは心の中で絶賛した。
 だが、この軍事システムを軌道に乗せるのは長い時間を必要とするのは間違いなかった。
(まあリューベック王国が完全に出遅れる事はないだろう。大規模常備軍の優位点を正確に気づけている国が多いとは思えないし、気づいている国も試行錯誤の末進めるしかないからだ。)
 とアルベルトは心の中で結論を出す。

「ありがとうございます。流石に今は無理ですが、フリーランス王国との戦争が終えれば内務省や軍部と協議してみたいと思います。アリシア嬢と早く出会えなかった事が悔やまれますね」
 アルベルトはアリシアへ素直に礼を言うとピルイン公御令嬢は少し頬を赤くしながら尋ねてくる。
「いえ、それ程でも。しかし、殿下は素直に認められるんですね?」

「当然でしょう。何であれ素晴らしいと思えば評価し、場合によっては讃え、それを実施していく事は為政者として当然の事ですから……」
 とアルベルトは口で言うが彼の本音は
(もっと早く婚約等して知り合っていれば彼女の知見をリューベックの国政に活かせて、さらに俺も楽出来たかも知れないのに。)
 である。彼の従者が聞いたら間違いなく嫌味を言われているだろう。
「しかし、貧民を多数抱える王都とその近郊はともかく、諸侯はこの方策はほぼ取れませんね」
 諸侯の領地は王都と違って多数の貧民を抱えている訳ではなく、また大きな収入があるわけではないため、アリシアの方策を採用する事は難しい。農地を耕す農民にこれをしてしまえば諸侯の収入は大幅に減少してしまうからだ。

「諸侯軍の事まで考えていた訳ではありませんから。まあ、真似られるならどうぞと言う話ですね。フェリオル王には遅れを取るでしょうが、周辺国に遅れを取られなければこれは問題ないですから」
 アリシアの答えを聞いてアルベルトは少し疑問に思う。
(アリシア嬢の言う通り、周辺国に遅れを取らなければ問題は……うん、フェリオル王に遅れを取る? 取ったの間違いだよね?)
 それを聞こうとした時、馬車が止まり、ドアが開かれ、一人の男が現れる。
「談笑中失礼いたします、殿下」
 その男はこの護衛部隊の指揮官である。その彼が恭しく頭を下げた後、続ける。
「摂政殿下、今より15分程小休止を取りたいと思いますが宜しいでしょうか?」
「ああ。構わないよ」
 アルベルトが許可するとその男は再び恭しく頭を下げると離れていった。

「急に話題が変わって申し訳ありませんがが、相談したい事が一つあるのですが宜しいですか?」
 アルベルトのこの言葉にアリシアは表情を真剣な物に変え
「私ごとぎがどこまでお役に立てるかは解りませんが、まずお伺いいたしましょう」
 と答える。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...