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第1部 第2章
王太子、選帝公令嬢に尋ねる(中)
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「半常備兵……ですか?」
アルベルトが首を傾げながら尋ねると、アリシアは相変わらず綺麗な声で答える。
「はい。簡単に言えば非主流になりつつある2圃式農業を応用した物です。1年ごとに麦等の栽培をするのは変わりませんが休閑中には軍にて訓練、当然戦になった場合は戦に出てもらいます。ただし、この半常備兵になれば税は免除みたいな大きな特典が必要になりますが、それでも軍事力の上昇と言う大きな益をリューベック王国は得る事になります」
確かに訓練された常備兵の戦場での強さはアストゥリウ王国が証明していた。
そして、黒旗軍のような大規模常備軍には従来の軍隊より強い以外にも戦略的優位点が二つある。
一つは物資を備蓄し補給体制が万全であれば軍の動員時間を省いて即時に軍を動かせる事だ。例えば今回の場合、フリーランスが軍の動員を開始したとしても、相手の動員が終える前に侵攻し優位な状況で戦う事も可能となってくる。
二つ目は農繁期になっても軍事行動が可能となる事。この時代の軍の主力は徴兵された農民兵である以上、農繁期が近づけば軍事行動が大幅に制限される。しかし、常備軍にそんな枷は当然ない。
しかし、大規模な常備軍を維持するとなれば当然高い費用が発生する。財政に余裕があるリューベック王国でも2千程度。海軍予算をだいぶ削っても3千程度が限界である。
簒奪王が作り出した大規模常備軍と言う概念は軍事革命と呼んで良い物だとアルベルトは思う。流石にこのまま各国が取り入れられるものではないが、これを応用した軍がいずれ各国の主力となり、徴兵軍が主力となる時代はもうすぐで終わりを迎えるだろう。
そして、アリシアの提案はフェリオルが産んだ大規模常備軍の問題点をリューベックの国情に合わせて潰した発想である。確かに練度は黒旗軍よりは若干劣るかも知れないが、当然徴兵軍よりははるかに高い練度は期待出来る。維持費も初期投資を除けば黒旗軍みたいな完全常備軍より遥かに安上がりだ。
問題があるとすれば、税収が下がる事であるが、スラムに住む人間の税収等なくなってもリューベック王国は全く支障はない。むしろ、スラムに住む貧困層がいなくなってくれた方が王都の治安の面で助かると言うのが本音ですらあった。
(アリシア嬢の案は内務省と陸軍からも好意的に受け入れられるだろう。)とアルベルトは心の中で絶賛した。
だが、この軍事システムを軌道に乗せるのは長い時間を必要とするのは間違いなかった。
(まあリューベック王国が完全に出遅れる事はないだろう。大規模常備軍の優位点を正確に気づけている国が多いとは思えないし、気づいている国も試行錯誤の末進めるしかないからだ。)
とアルベルトは心の中で結論を出す。
「ありがとうございます。流石に今は無理ですが、フリーランス王国との戦争が終えれば内務省や軍部と協議してみたいと思います。アリシア嬢と早く出会えなかった事が悔やまれますね」
アルベルトはアリシアへ素直に礼を言うとピルイン公御令嬢は少し頬を赤くしながら尋ねてくる。
「いえ、それ程でも。しかし、殿下は素直に認められるんですね?」
「当然でしょう。何であれ素晴らしいと思えば評価し、場合によっては讃え、それを実施していく事は為政者として当然の事ですから……」
とアルベルトは口で言うが彼の本音は
(もっと早く婚約等して知り合っていれば彼女の知見をリューベックの国政に活かせて、さらに俺も楽出来たかも知れないのに。)
である。彼の従者が聞いたら間違いなく嫌味を言われているだろう。
「しかし、貧民を多数抱える王都とその近郊はともかく、諸侯はこの方策はほぼ取れませんね」
諸侯の領地は王都と違って多数の貧民を抱えている訳ではなく、また大きな収入があるわけではないため、アリシアの方策を採用する事は難しい。農地を耕す農民にこれをしてしまえば諸侯の収入は大幅に減少してしまうからだ。
「諸侯軍の事まで考えていた訳ではありませんから。まあ、真似られるならどうぞと言う話ですね。フェリオル王には遅れを取るでしょうが、周辺国に遅れを取られなければこれは問題ないですから」
アリシアの答えを聞いてアルベルトは少し疑問に思う。
(アリシア嬢の言う通り、周辺国に遅れを取らなければ問題は……うん、フェリオル王に遅れを取る? 取ったの間違いだよね?)
それを聞こうとした時、馬車が止まり、ドアが開かれ、一人の男が現れる。
「談笑中失礼いたします、殿下」
その男はこの護衛部隊の指揮官である。その彼が恭しく頭を下げた後、続ける。
「摂政殿下、今より15分程小休止を取りたいと思いますが宜しいでしょうか?」
「ああ。構わないよ」
アルベルトが許可するとその男は再び恭しく頭を下げると離れていった。
「急に話題が変わって申し訳ありませんがが、相談したい事が一つあるのですが宜しいですか?」
アルベルトのこの言葉にアリシアは表情を真剣な物に変え
「私ごとぎがどこまでお役に立てるかは解りませんが、まずお伺いいたしましょう」
と答える。
アルベルトが首を傾げながら尋ねると、アリシアは相変わらず綺麗な声で答える。
「はい。簡単に言えば非主流になりつつある2圃式農業を応用した物です。1年ごとに麦等の栽培をするのは変わりませんが休閑中には軍にて訓練、当然戦になった場合は戦に出てもらいます。ただし、この半常備兵になれば税は免除みたいな大きな特典が必要になりますが、それでも軍事力の上昇と言う大きな益をリューベック王国は得る事になります」
確かに訓練された常備兵の戦場での強さはアストゥリウ王国が証明していた。
そして、黒旗軍のような大規模常備軍には従来の軍隊より強い以外にも戦略的優位点が二つある。
一つは物資を備蓄し補給体制が万全であれば軍の動員時間を省いて即時に軍を動かせる事だ。例えば今回の場合、フリーランスが軍の動員を開始したとしても、相手の動員が終える前に侵攻し優位な状況で戦う事も可能となってくる。
二つ目は農繁期になっても軍事行動が可能となる事。この時代の軍の主力は徴兵された農民兵である以上、農繁期が近づけば軍事行動が大幅に制限される。しかし、常備軍にそんな枷は当然ない。
しかし、大規模な常備軍を維持するとなれば当然高い費用が発生する。財政に余裕があるリューベック王国でも2千程度。海軍予算をだいぶ削っても3千程度が限界である。
簒奪王が作り出した大規模常備軍と言う概念は軍事革命と呼んで良い物だとアルベルトは思う。流石にこのまま各国が取り入れられるものではないが、これを応用した軍がいずれ各国の主力となり、徴兵軍が主力となる時代はもうすぐで終わりを迎えるだろう。
そして、アリシアの提案はフェリオルが産んだ大規模常備軍の問題点をリューベックの国情に合わせて潰した発想である。確かに練度は黒旗軍よりは若干劣るかも知れないが、当然徴兵軍よりははるかに高い練度は期待出来る。維持費も初期投資を除けば黒旗軍みたいな完全常備軍より遥かに安上がりだ。
問題があるとすれば、税収が下がる事であるが、スラムに住む人間の税収等なくなってもリューベック王国は全く支障はない。むしろ、スラムに住む貧困層がいなくなってくれた方が王都の治安の面で助かると言うのが本音ですらあった。
(アリシア嬢の案は内務省と陸軍からも好意的に受け入れられるだろう。)とアルベルトは心の中で絶賛した。
だが、この軍事システムを軌道に乗せるのは長い時間を必要とするのは間違いなかった。
(まあリューベック王国が完全に出遅れる事はないだろう。大規模常備軍の優位点を正確に気づけている国が多いとは思えないし、気づいている国も試行錯誤の末進めるしかないからだ。)
とアルベルトは心の中で結論を出す。
「ありがとうございます。流石に今は無理ですが、フリーランス王国との戦争が終えれば内務省や軍部と協議してみたいと思います。アリシア嬢と早く出会えなかった事が悔やまれますね」
アルベルトはアリシアへ素直に礼を言うとピルイン公御令嬢は少し頬を赤くしながら尋ねてくる。
「いえ、それ程でも。しかし、殿下は素直に認められるんですね?」
「当然でしょう。何であれ素晴らしいと思えば評価し、場合によっては讃え、それを実施していく事は為政者として当然の事ですから……」
とアルベルトは口で言うが彼の本音は
(もっと早く婚約等して知り合っていれば彼女の知見をリューベックの国政に活かせて、さらに俺も楽出来たかも知れないのに。)
である。彼の従者が聞いたら間違いなく嫌味を言われているだろう。
「しかし、貧民を多数抱える王都とその近郊はともかく、諸侯はこの方策はほぼ取れませんね」
諸侯の領地は王都と違って多数の貧民を抱えている訳ではなく、また大きな収入があるわけではないため、アリシアの方策を採用する事は難しい。農地を耕す農民にこれをしてしまえば諸侯の収入は大幅に減少してしまうからだ。
「諸侯軍の事まで考えていた訳ではありませんから。まあ、真似られるならどうぞと言う話ですね。フェリオル王には遅れを取るでしょうが、周辺国に遅れを取られなければこれは問題ないですから」
アリシアの答えを聞いてアルベルトは少し疑問に思う。
(アリシア嬢の言う通り、周辺国に遅れを取らなければ問題は……うん、フェリオル王に遅れを取る? 取ったの間違いだよね?)
それを聞こうとした時、馬車が止まり、ドアが開かれ、一人の男が現れる。
「談笑中失礼いたします、殿下」
その男はこの護衛部隊の指揮官である。その彼が恭しく頭を下げた後、続ける。
「摂政殿下、今より15分程小休止を取りたいと思いますが宜しいでしょうか?」
「ああ。構わないよ」
アルベルトが許可するとその男は再び恭しく頭を下げると離れていった。
「急に話題が変わって申し訳ありませんがが、相談したい事が一つあるのですが宜しいですか?」
アルベルトのこの言葉にアリシアは表情を真剣な物に変え
「私ごとぎがどこまでお役に立てるかは解りませんが、まずお伺いいたしましょう」
と答える。
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