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第1部 第2章
小国の王太子、美人の選帝公令嬢に尋ねられる。(上)
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午前の政務が終わったアルベルトは、アリシアと昼食を取る。
今夜はリューベック貴族を集めた夜会を予定しているので、会食にしては質素だが、まあやむを得ない事でもあった。
「殿下に一つお尋ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
アリシアは真剣な表情で尋ねてくるため、アルベルトは内心焦ったが顔には出さなかった。
「何でしょう?」
「殿下は政務、軍務等に口を出す女性がおられればどう思われますか?」
「へっ……」
意外過ぎる質問にアルベルトは一瞬呆然とする。
しかし、アリシアの青い瞳に見つめられ、すぐにリューベック王国の王太子は我に戻る。
「そうですね。一般常識で言うならばそれは問題ではありますが、私自身は問題ないと思います。大国はともかく小国は良い意見の出所を気にしている余裕はありませんので……」
ためになる意見なら助かるが、それが程度が低い物であれば、止めて欲しいと言うのがアルベルトの本音である。
まあ、この質問でアリシアの性格や何故婚約破棄されたのかはアルベルトはだいたい理解出来たが、ピルイン家選帝公令嬢が今このような事を言い出した意図が彼にはわからなかった。
「しかし、何故そのような事をお尋ねになるので?」
「理由は二つあります。一つは殿下が探られていた答えをお教えするために。こんな事で腹の探り合いをしても無意味ですから。」
「ばれてましたか?」
流石に露骨過ぎたか……とアルベルトは反省していた。
リューベック王国の王太子は苦笑いを浮かべるとアリシアも上品な笑みを浮かべる。
「ええ、少々態度に出すぎでした。その辺の、着飾ることにしか興味のない令嬢相手ならば気づかれなかったかもしれませんが……」
(言っている言葉は一見プライドが高そうな言葉であるけど……しかし、これは忠告してくれているのだろうな。その辺の令嬢相手でも、普通だったら思惑を見抜かれるぐらい俺が露骨だったと言う事か。)
内心反省するアルベルトに対し
「もう一つは殿下がどのような結婚相手を……いえ、妃を望んでいるのか、確認するためです」
アリシアはさらに続ける。
「確認……ですか?」
どういうこと?とアルベルトは首を傾げる。
その様子を見てアリシアは苦笑を浮かべて続ける。
「ええ。殿下のお望みに合わせるつもりでしたので……。今回の話が破談となれば、私は修道院に入らねばならなくなる以上、贅沢を言える立場ではありませんので……」
「なるほど……」
アルベルトは頷いて顎に右手を当てる。
(婚約を破棄され、小国とは言え王妃になれるチャンスも潰したとなると、そうなるのはおかしい流れではない。選帝公のご令嬢が流石に下級貴族や有力商人に嫁ぐという事はピルイン家としては許容出来ないのだろう……ただ老齢の大貴族の後妻とかなら需要があると思うんだけどな。)とアルベルトはそう考えた。
(まあ良い。とりあえず彼女の識見を試してみるか…)
アルベルトはそう心の中で呟いた後、口を開いた。
「簒奪王フェリオルの台頭に対してどのような対策を取るべきですか?」
アルベルトが尋ねると、アリシアは白くて綺麗な手を顎に当てて、
「フェリオル王を確実に打倒するには今しかありません。ロアーヌ帝国はただちに軍を起こすべきでした。ですが帝国は恐らく勢力均衡という愚策を取ろうとするでしょう」
と答える。
「愚策、ですか。しかし、フラリン王国という豊かな領土を手に入れた以上、アストゥリウ王国の国力はロアーヌ帝国の国力を上回ります。それならば異教徒や異端と手を組んででも力の結集を図るというのも間違ってはいないと思いますが……まあ教皇庁との対立をどう対処するかという新たな問題が発生しますけどね」
アルベルトもそう言いながらも、ロアーヌ帝国はすぐに軍を起こし、簒奪王に決戦を挑むべきだったと思っている。
「確かにフラリン王国を手に入れたアストゥリウ王国の国力は数字の上ではロアーヌ帝国を上回るでしょう。しかし、思い出してください。フェリオル王はラーンベルク戦まではアストゥリウ王国全土すら平定していた訳ではないのです」
アリシアは一息ついて続ける。
「フェリオル王に降伏したザマー教諸国、アストゥリウ諸侯の大半、それに征服されたばかりのフラリン諸侯。それらすべてが不穏分子です。それを従わせているのはフェリオル王の武威であり、それを支えているのがかの精鋭黒旗軍です。言い換えれば黒旗軍さえどうにか出来ればフェリオル政権は崩壊します。今ならば、アストゥリウ内戦、ラーンベルク戦、そしてフラリン本土への電撃的な侵攻で黒旗軍は大きく消耗しているのです」
「今叩くしかないという事ですね。黒旗軍が回復する前に……」
とアルベルトが口にするとアリシアは頷き、蒼い瞳をリューベック王国王太子に向ける。
アリシアの聡明さは本物であるとアルベルトも認めざるを得なかった。最低でも彼女の意見を聞いておく事は無駄にはならないと。
今夜はリューベック貴族を集めた夜会を予定しているので、会食にしては質素だが、まあやむを得ない事でもあった。
「殿下に一つお尋ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
アリシアは真剣な表情で尋ねてくるため、アルベルトは内心焦ったが顔には出さなかった。
「何でしょう?」
「殿下は政務、軍務等に口を出す女性がおられればどう思われますか?」
「へっ……」
意外過ぎる質問にアルベルトは一瞬呆然とする。
しかし、アリシアの青い瞳に見つめられ、すぐにリューベック王国の王太子は我に戻る。
「そうですね。一般常識で言うならばそれは問題ではありますが、私自身は問題ないと思います。大国はともかく小国は良い意見の出所を気にしている余裕はありませんので……」
ためになる意見なら助かるが、それが程度が低い物であれば、止めて欲しいと言うのがアルベルトの本音である。
まあ、この質問でアリシアの性格や何故婚約破棄されたのかはアルベルトはだいたい理解出来たが、ピルイン家選帝公令嬢が今このような事を言い出した意図が彼にはわからなかった。
「しかし、何故そのような事をお尋ねになるので?」
「理由は二つあります。一つは殿下が探られていた答えをお教えするために。こんな事で腹の探り合いをしても無意味ですから。」
「ばれてましたか?」
流石に露骨過ぎたか……とアルベルトは反省していた。
リューベック王国の王太子は苦笑いを浮かべるとアリシアも上品な笑みを浮かべる。
「ええ、少々態度に出すぎでした。その辺の、着飾ることにしか興味のない令嬢相手ならば気づかれなかったかもしれませんが……」
(言っている言葉は一見プライドが高そうな言葉であるけど……しかし、これは忠告してくれているのだろうな。その辺の令嬢相手でも、普通だったら思惑を見抜かれるぐらい俺が露骨だったと言う事か。)
内心反省するアルベルトに対し
「もう一つは殿下がどのような結婚相手を……いえ、妃を望んでいるのか、確認するためです」
アリシアはさらに続ける。
「確認……ですか?」
どういうこと?とアルベルトは首を傾げる。
その様子を見てアリシアは苦笑を浮かべて続ける。
「ええ。殿下のお望みに合わせるつもりでしたので……。今回の話が破談となれば、私は修道院に入らねばならなくなる以上、贅沢を言える立場ではありませんので……」
「なるほど……」
アルベルトは頷いて顎に右手を当てる。
(婚約を破棄され、小国とは言え王妃になれるチャンスも潰したとなると、そうなるのはおかしい流れではない。選帝公のご令嬢が流石に下級貴族や有力商人に嫁ぐという事はピルイン家としては許容出来ないのだろう……ただ老齢の大貴族の後妻とかなら需要があると思うんだけどな。)とアルベルトはそう考えた。
(まあ良い。とりあえず彼女の識見を試してみるか…)
アルベルトはそう心の中で呟いた後、口を開いた。
「簒奪王フェリオルの台頭に対してどのような対策を取るべきですか?」
アルベルトが尋ねると、アリシアは白くて綺麗な手を顎に当てて、
「フェリオル王を確実に打倒するには今しかありません。ロアーヌ帝国はただちに軍を起こすべきでした。ですが帝国は恐らく勢力均衡という愚策を取ろうとするでしょう」
と答える。
「愚策、ですか。しかし、フラリン王国という豊かな領土を手に入れた以上、アストゥリウ王国の国力はロアーヌ帝国の国力を上回ります。それならば異教徒や異端と手を組んででも力の結集を図るというのも間違ってはいないと思いますが……まあ教皇庁との対立をどう対処するかという新たな問題が発生しますけどね」
アルベルトもそう言いながらも、ロアーヌ帝国はすぐに軍を起こし、簒奪王に決戦を挑むべきだったと思っている。
「確かにフラリン王国を手に入れたアストゥリウ王国の国力は数字の上ではロアーヌ帝国を上回るでしょう。しかし、思い出してください。フェリオル王はラーンベルク戦まではアストゥリウ王国全土すら平定していた訳ではないのです」
アリシアは一息ついて続ける。
「フェリオル王に降伏したザマー教諸国、アストゥリウ諸侯の大半、それに征服されたばかりのフラリン諸侯。それらすべてが不穏分子です。それを従わせているのはフェリオル王の武威であり、それを支えているのがかの精鋭黒旗軍です。言い換えれば黒旗軍さえどうにか出来ればフェリオル政権は崩壊します。今ならば、アストゥリウ内戦、ラーンベルク戦、そしてフラリン本土への電撃的な侵攻で黒旗軍は大きく消耗しているのです」
「今叩くしかないという事ですね。黒旗軍が回復する前に……」
とアルベルトが口にするとアリシアは頷き、蒼い瞳をリューベック王国王太子に向ける。
アリシアの聡明さは本物であるとアルベルトも認めざるを得なかった。最低でも彼女の意見を聞いておく事は無駄にはならないと。
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