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第1部 第1章
リューベック王国従属同盟を決める
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ナーロッパ歴1056年10月27日夜
ロアーヌ帝国ローン大使との会談を終えたアルベルト王子はリューベック王国の重臣達を集め、その結果をまず報告すると、リューベック王国の重臣の意見は主に2つに分かれた。
「良い事ではありませんか」とまず述べたのは親ロアーヌ帝国派の重臣達であった。
王侯貴族の婚姻とは基本的に政治である。テンプレ教の到来以前、ナーロッパがまだ未開の蛮人の地だった時代からそれは変わってはいない。族長達が同盟や和平の手段として婚姻を使っていた時代と同様に、今でも婚姻は強力な外交手段として使われているのである。そのため、ピルイン公選帝公ご令嬢の婚姻となれば帝国との結びつきが盤石になるのは間違いなく親ロアーヌ帝国派にとって申し分もない。
そして、それに賛同したのは大多数の反レーベン伯派の貴族達である。彼らからすればレーベン伯爵ご令嬢であるエミリアと王太子であるアルベルトの婚姻はレーベン伯爵の権勢拡大を食い止めるためにも絶対阻止しなければならず、それを阻止できるのであればピルイン選帝公ご令嬢との婚姻に賛成する理由はあっても、反対する理由はないと言うわけだ。
「しかし、そうなれば我が国はフラリン王国と完全に敵対する事になりかねませんぞ。」
と親フラリン王国派が反対し、さらに
「ロアーヌ帝国と同盟を結べば我が国の西方交易は崩壊致します。」
と内務卿アメルン伯が続く。内政、財政を預かる者としてこれは言っておかねばならなかった。実際西方交易が崩壊すればリューベック王国の収益も大幅に落ち込むし、自分らの商人らから得られている利益等にも大きく影響してしまうからだ。
「しかし、これを拒めば帝国は我が国に侵攻して来る事は疑いようがない。フラリン王国がアストゥリウ王国内戦の介入で手一杯で大きく動けない以上、帝国の侵攻を受ければ我が国には勝ち目はないぞ」
と親帝国派から反論を受け、内務卿一派や親フラリン王国派も黙らざるを得なかった。
「それに西方交易と言いますが、フラリン王国がアストゥリウ王国を平定し、東方進出を図ればロアーヌ帝国とフラリン王国は戦端を開くでしょう。そうなればナーロッパ西部や中部、北方の一部を巻き込んだ大戦となります。そうなった時に我が国は中立を維持できるとお思いですか?」
「それは……」
西方交易の悪影響を主張した内務卿アメルン伯もリューベック軍の老将アイザック・ロブェネル将軍の言葉に反論出来なかった。
こうなって来るとリューベック王国はナーロッパ北方の要所である以上中立を維持できる訳がない。帝国につくか、フラリン王国のどちらにつくかを選ばざるを得ないのだ。この期に及んで中立だと寝言を言っていたら滅ぼされる未来しかないと言う事である。
「帝国につくか、フラリン王国のどちらかにつくしかないと言う事だな。」
アルベルトの言葉にロブェネル将軍は頷く。
「御意」
(どちらかにつくとなれば帝国がマシであるが……さて、どうしたものかな)
リューベック王国とフラリン王国本国は離れているが、帝国とは国境を接しており、その分リューベックが受ける圧力は帝国の方が強い。
アルベルトが思考を進めようとした時ノックがなる。
「入れ」
アルベルトが促すと文官の1人が入ってきた。
「会議中の所を申し訳ありません。殿下」
「前置きは良い。緊急事態なのだろう?」
「フェリオル王とフラリン王国の戦いは決着がつきました」
「思ったより早かったですな。簒奪王もあっけない。実は噂程大した事なかったのかな」
会議参加者のレッフラー将軍が軽口を叩くと他の参加者からも笑いが起きる。誰も彼もフラリン王国の勝利は確実と思っていたからだ。
しかし、文官は首を横に振り否定する。
「それがフェリオル王の大勝利です。まだこれは確認中ですがメンデル2世を初め従軍した重臣らの大半が討ち取られた可能性が高いと」
「はあ?」
アルベルトを始めとした会議参加者は余りの驚きで固まってしまった。
(三倍以上の兵力差で勝つっておい、そんなの反則じゃないか。しかも国王を討ち取る程の大勝利って。しかし、こうなって来ると帝国につくしかないが、そうなると上手くフリーランス王国を抑えねばならなくなる……)
アルベルトはため息をつきながら心の中でそう呟いた。
フラリン国王メンデル2世の戦死を完全に確認していないとは言えそこまでの大敗を喫したフラリン王国に対しロアーヌ帝国が黙っている訳がなく、ほぼ確実に侵攻を開始するであろう。
そうなった時、アストゥリウ王国遠征にて大敗に喫し疲弊したフラリン王国に勝ち目がない。
であるのであれば、帝国につき分け前をもらった方が得と言う物である。
(まあ俺に出来るのは上手く立ち回って最大の利益を追求するのみ)
親フラリン派もここは勝ち馬に乗る方が得と鞍替えして帝国との同盟を主張し始め、それによりリューベック王国はロアーヌ帝国との同盟(事実上の従属同盟)を決めたのである。
ロアーヌ帝国ローン大使との会談を終えたアルベルト王子はリューベック王国の重臣達を集め、その結果をまず報告すると、リューベック王国の重臣の意見は主に2つに分かれた。
「良い事ではありませんか」とまず述べたのは親ロアーヌ帝国派の重臣達であった。
王侯貴族の婚姻とは基本的に政治である。テンプレ教の到来以前、ナーロッパがまだ未開の蛮人の地だった時代からそれは変わってはいない。族長達が同盟や和平の手段として婚姻を使っていた時代と同様に、今でも婚姻は強力な外交手段として使われているのである。そのため、ピルイン公選帝公ご令嬢の婚姻となれば帝国との結びつきが盤石になるのは間違いなく親ロアーヌ帝国派にとって申し分もない。
そして、それに賛同したのは大多数の反レーベン伯派の貴族達である。彼らからすればレーベン伯爵ご令嬢であるエミリアと王太子であるアルベルトの婚姻はレーベン伯爵の権勢拡大を食い止めるためにも絶対阻止しなければならず、それを阻止できるのであればピルイン選帝公ご令嬢との婚姻に賛成する理由はあっても、反対する理由はないと言うわけだ。
「しかし、そうなれば我が国はフラリン王国と完全に敵対する事になりかねませんぞ。」
と親フラリン王国派が反対し、さらに
「ロアーヌ帝国と同盟を結べば我が国の西方交易は崩壊致します。」
と内務卿アメルン伯が続く。内政、財政を預かる者としてこれは言っておかねばならなかった。実際西方交易が崩壊すればリューベック王国の収益も大幅に落ち込むし、自分らの商人らから得られている利益等にも大きく影響してしまうからだ。
「しかし、これを拒めば帝国は我が国に侵攻して来る事は疑いようがない。フラリン王国がアストゥリウ王国内戦の介入で手一杯で大きく動けない以上、帝国の侵攻を受ければ我が国には勝ち目はないぞ」
と親帝国派から反論を受け、内務卿一派や親フラリン王国派も黙らざるを得なかった。
「それに西方交易と言いますが、フラリン王国がアストゥリウ王国を平定し、東方進出を図ればロアーヌ帝国とフラリン王国は戦端を開くでしょう。そうなればナーロッパ西部や中部、北方の一部を巻き込んだ大戦となります。そうなった時に我が国は中立を維持できるとお思いですか?」
「それは……」
西方交易の悪影響を主張した内務卿アメルン伯もリューベック軍の老将アイザック・ロブェネル将軍の言葉に反論出来なかった。
こうなって来るとリューベック王国はナーロッパ北方の要所である以上中立を維持できる訳がない。帝国につくか、フラリン王国のどちらにつくかを選ばざるを得ないのだ。この期に及んで中立だと寝言を言っていたら滅ぼされる未来しかないと言う事である。
「帝国につくか、フラリン王国のどちらかにつくしかないと言う事だな。」
アルベルトの言葉にロブェネル将軍は頷く。
「御意」
(どちらかにつくとなれば帝国がマシであるが……さて、どうしたものかな)
リューベック王国とフラリン王国本国は離れているが、帝国とは国境を接しており、その分リューベックが受ける圧力は帝国の方が強い。
アルベルトが思考を進めようとした時ノックがなる。
「入れ」
アルベルトが促すと文官の1人が入ってきた。
「会議中の所を申し訳ありません。殿下」
「前置きは良い。緊急事態なのだろう?」
「フェリオル王とフラリン王国の戦いは決着がつきました」
「思ったより早かったですな。簒奪王もあっけない。実は噂程大した事なかったのかな」
会議参加者のレッフラー将軍が軽口を叩くと他の参加者からも笑いが起きる。誰も彼もフラリン王国の勝利は確実と思っていたからだ。
しかし、文官は首を横に振り否定する。
「それがフェリオル王の大勝利です。まだこれは確認中ですがメンデル2世を初め従軍した重臣らの大半が討ち取られた可能性が高いと」
「はあ?」
アルベルトを始めとした会議参加者は余りの驚きで固まってしまった。
(三倍以上の兵力差で勝つっておい、そんなの反則じゃないか。しかも国王を討ち取る程の大勝利って。しかし、こうなって来ると帝国につくしかないが、そうなると上手くフリーランス王国を抑えねばならなくなる……)
アルベルトはため息をつきながら心の中でそう呟いた。
フラリン国王メンデル2世の戦死を完全に確認していないとは言えそこまでの大敗を喫したフラリン王国に対しロアーヌ帝国が黙っている訳がなく、ほぼ確実に侵攻を開始するであろう。
そうなった時、アストゥリウ王国遠征にて大敗に喫し疲弊したフラリン王国に勝ち目がない。
であるのであれば、帝国につき分け前をもらった方が得と言う物である。
(まあ俺に出来るのは上手く立ち回って最大の利益を追求するのみ)
親フラリン派もここは勝ち馬に乗る方が得と鞍替えして帝国との同盟を主張し始め、それによりリューベック王国はロアーヌ帝国との同盟(事実上の従属同盟)を決めたのである。
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