風花の竜

多田羅 和成

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一年目の春(3)

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それからオスカーは毎日エルピスの所へと足を運んでは外の話についての話をしてくれた。エルピスはオスカーの話を聞いては、見たことのない外の世界について想像を膨らませていく。そんな日々が過ぎ去り、季節は夏に変わっていった。

「エルピス。今日は祭りがあるそうだ。あんさんに感謝を伝える祭りだとよ」

「ほう、そうなのか」

「変な話だけどな。主役であるあんさんが出れないってのは」

「仕方があるまい。。我が地へと降り立てばたちまち騒ぎになる」

「ふーん……」

 エルピスは慣れているのか祭りに出られないことに不満を抱いてはいないようだが、オスカーは納得をしていないようで何かを考えていた。

「そうだ! 祭りの最後には花火が打ちあがるってきたぜ。神殿の外に出れば見れるんじゃね?」

「ふむ? 花火とはなんだ」

「花火っていうのは何て言えばいいんだ? 空に咲く花だな花。一瞬しか咲かないが綺麗だぜ」

「神殿の外か。もう何百年と出ていないな」

「おいおい、引きこもりか? せっかくだし今夜の花火見ようぜ。主役なんだし出ても怒られないだろう。バレなきゃセーフ」

「ふむ、そうするか」

 何百年と外に出ていないと聞くとオスカーは信じられないという顔でエルピスを見た。もしかしたら王族の誰かに出るなと言われているのかもしれないが、自分なら見張りもないなら、外に顔を覗かせるぐらいしてしまう。真面目というかある種の怠け者というべきか、王族の誰か自分みたいに誘えば良かったのになんて思ってしまう。最もいないとオスカーは友達になれなかっただろうなと思い、ある意味で王族に感謝をした。

 夜になるまでお話をしたりしていたが、オスカーは気付いたことがある。

「エルピスはご飯食べないのか?」

「あぁ、別に食べなくとも魔素でエネルギーに変えている」

「へー、初めて聞いた。でも、食べれない訳じゃないんだろ?王族の奴らエルピスのお陰で儲けてるのに、貢物もしないのな。ケチくさ」

 不貞腐れるように唇を尖らせるオスカーに、エルピスは分からないというように首をかしげる。その様子を見てまたオスカーは王族に対する不満を募らせるのであった。

「時々報告みたいなのは聞くがな。我の胃を満たす肉となると国規模になるからではないか?」

「だとしても祭りの時ぐらいは食い物寄こせってんだ。エルピスはもっと我儘いうべきだな」

「ふむぅ、我儘か。我はオスカーと花火とやらが見えるだけで満足だがな」

「おいおい、そんなこと言われたら照れちまうだろう。しっかたないなぁ! そろそろ花火の時間だし、外に出るか!」

 純粋で混じりっけのない言葉にフツフツとこみ上げてくる感情がオスカーの顔を赤くしていく。エルピスに見られないように深くカーボーイハットを被れば、早口で外に行こうと促した。エルピスはというと、オスカーが照れたことに気付いていないのか、重たい身体を持ち上げて小さなオスカーを踏みつぶさないようにのっそりのっそりと歩き出した。オスカーも踏まれないように進んでいくと打ち上げられる音が聞こえてくる。

「やべ、もう始まってやがるぞ」

 ゆっくりしすぎたと反省しつつ入り口から眺めるとちょうど大きな花火が打ちあがっていた。赤色、黄色、緑に、青色と様々な色が夜空に彩られていく。初めて見る花火にエルピスは心を奪われていた。昔は空の星や月を眺めていたが、神殿を作られて以降外すら出なかったのだ。外の世界はここまで発展していただなんて、かつての友は頑張ったのだろうと感心をしていた。

「な? 綺麗だろ」

 空に魅了されているエルピスに嬉しそうに笑う今の友であるオスカーの声に、反応するようにエルピスは頷く。

「あぁ、綺麗だ。花火とやらは美しい。ここから見えるが近くで見たらもっと綺麗なのだろうな」

「じゃあ、来年は町に降りれるように考えようぜ」

 エルピスの体格では町に降り立てば家などを壊してしまうだろう。何かいい方法があればいいにだが、竜に魔法が効くのか聞いたことがない。亜人の研究は進んでいるが、竜は数も少ないということもあり研究が遅れていると聞いたことがある。オスカーは次の旅の目標ができたなと思っていた。その様子に気付かずにエルピスは、終わるまで花火を見続けた。
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