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一年目の春(1)
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オレンジの香りとウミネコの鳴き声、ほんの少しの金貨と偉大な夢を抱いた冒険者達を乗せた船は、ブルノス共和国の港に到着した。ぞろぞろと出てくる人々は期待を胸に地へと降り立つ。
「いやー、春はいいねぇ。おいらワクワクしちゃうよ」
灰色かかった白いぼさぼさ頭に、夜明け空を連想させる黄赤色の瞳を細める男が一人。褐色に焼けた肌が見えるが、歯は白くきらりと光る。灰色のカーボーイハットが海風に飛ばされないように抑え込みながら町の中へと入っていくのである。
「とりあえず腹ごしらえしよっかなっと」
「そこの男前なお兄ちゃん! ブルノス共和国名物サカムはいかが!」
「おっ、可愛い姉ちゃん見る目あるね。じゃあ、姉ちゃんのとこにしようかな」
「もー! やあねぇ。そんなこと言われてもエールしか出ないわよ」
男の言葉にすっかり機嫌が良くなった中年の女店主は顔を赤くしながら、席を案内する。そして、トマトソースとホワイトソースで煮込んだラムの挽肉と揚げたナスとジャガイモを交互に重ねた料理とサービスのエールを机に置いた。
「お! すごく美味しそうじゃないか。ありがとうな!」
「ふふっ、ブルノスじゃ旅人は大事なお客さんだからね。沢山食べてよね」
ご機嫌のまま女店主はお金を受け取った後、次のお客さんの相手をしに行った。フォークとナイフを使い、サカムを一口大にして食べるとトマトのうま味やホワイトソースのコク、ラム肉のほんのりとした臭みさえ旨さとなり絶品だ。これは当たりを引いたなと喜んでいると、隣の席に座っているおじいちゃんが話しかけてきた。
「お兄さんいい食べっぷりだな! 名前はなんていうんだい!」
「おいらかい? おいらはオスカーっていうぜ」
「オスカーか。いい名前だ。ブルノスには初めてきたのかい」
「あぁ、そうだぜ。なんか面白そうな話とかないかな」
「そうだねぇ。ここには守護竜がいることを知っているかい?」
「守護竜?聞いたことないな」
初めて聞く単語にオスカーが興味深そうにしていると、おじいさんも気分が良くなったのか舌が廻りだす。
「ここにはエルピス様という竜がいるんだよ。ほら、東に一番大きな山があるだろ? あそこにエルピス様が住まわれている」
「へぇ、おじいさんは見たことあるのかい?」
「まさか! 王族じゃないと見れないって噂だ お土産にも竜をモチーフにしたものもあるから旅のお供にどうだい」
「そうだな。いい話を聞かせてもらった。ありがとさん」
おじいさんは気分がよいままエールのおかわりをしに行った。オスカーも料理をエールで流し込みながら東にある高い山を眺めていた。
「守護竜な」
果たしてどんな竜が住んでいるのだろうか。大きさは? 翼はあるのか? 交流的なのか? 浮かんでくる疑問はそこを尽きない。オスカーは旅人だ。ここにいる誰よりも自由で、自分に素直な性格をしているからこそ答えは決まっていた。
「登るか」
目指すはオリン山にいる竜。今回の旅プランも決まったところで、エールを飲み干して店を後にした。
「いやー、春はいいねぇ。おいらワクワクしちゃうよ」
灰色かかった白いぼさぼさ頭に、夜明け空を連想させる黄赤色の瞳を細める男が一人。褐色に焼けた肌が見えるが、歯は白くきらりと光る。灰色のカーボーイハットが海風に飛ばされないように抑え込みながら町の中へと入っていくのである。
「とりあえず腹ごしらえしよっかなっと」
「そこの男前なお兄ちゃん! ブルノス共和国名物サカムはいかが!」
「おっ、可愛い姉ちゃん見る目あるね。じゃあ、姉ちゃんのとこにしようかな」
「もー! やあねぇ。そんなこと言われてもエールしか出ないわよ」
男の言葉にすっかり機嫌が良くなった中年の女店主は顔を赤くしながら、席を案内する。そして、トマトソースとホワイトソースで煮込んだラムの挽肉と揚げたナスとジャガイモを交互に重ねた料理とサービスのエールを机に置いた。
「お! すごく美味しそうじゃないか。ありがとうな!」
「ふふっ、ブルノスじゃ旅人は大事なお客さんだからね。沢山食べてよね」
ご機嫌のまま女店主はお金を受け取った後、次のお客さんの相手をしに行った。フォークとナイフを使い、サカムを一口大にして食べるとトマトのうま味やホワイトソースのコク、ラム肉のほんのりとした臭みさえ旨さとなり絶品だ。これは当たりを引いたなと喜んでいると、隣の席に座っているおじいちゃんが話しかけてきた。
「お兄さんいい食べっぷりだな! 名前はなんていうんだい!」
「おいらかい? おいらはオスカーっていうぜ」
「オスカーか。いい名前だ。ブルノスには初めてきたのかい」
「あぁ、そうだぜ。なんか面白そうな話とかないかな」
「そうだねぇ。ここには守護竜がいることを知っているかい?」
「守護竜?聞いたことないな」
初めて聞く単語にオスカーが興味深そうにしていると、おじいさんも気分が良くなったのか舌が廻りだす。
「ここにはエルピス様という竜がいるんだよ。ほら、東に一番大きな山があるだろ? あそこにエルピス様が住まわれている」
「へぇ、おじいさんは見たことあるのかい?」
「まさか! 王族じゃないと見れないって噂だ お土産にも竜をモチーフにしたものもあるから旅のお供にどうだい」
「そうだな。いい話を聞かせてもらった。ありがとさん」
おじいさんは気分がよいままエールのおかわりをしに行った。オスカーも料理をエールで流し込みながら東にある高い山を眺めていた。
「守護竜な」
果たしてどんな竜が住んでいるのだろうか。大きさは? 翼はあるのか? 交流的なのか? 浮かんでくる疑問はそこを尽きない。オスカーは旅人だ。ここにいる誰よりも自由で、自分に素直な性格をしているからこそ答えは決まっていた。
「登るか」
目指すはオリン山にいる竜。今回の旅プランも決まったところで、エールを飲み干して店を後にした。
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