19 / 20
異端な医者11
しおりを挟む
一方、テントに潜ったベルとソフィアは無言の空気が漂っていた。ソフィアに背を向けているベルに対して彼女は何も言わず薬を調合していた。無言を打ち破ったのは意外にもベルの方からであった。
「……アンタなんで、さすらいの医者なんかしているの?」
「私のことに興味を抱いてくれたのかい? 嬉しいね。そうだね。私ね、母がケラー教で父がイグニス教の生まれなの。両親も村にはいられなくてさ、私と同じようにさすらいの医者をしながら生計を立ててた。だけど、ある日機械に殺されちゃったわけ。どうしようかなーと思っていたところに、幼いローちゃんを見つけてな。あぁ、自分と同じだと思って死ぬのやめて、今の医者をしているわけ」
「……フーン」
「貴方はどうして二人と旅しているの?」
ソフィアは優しい眼差しで見てくるものだからか、ベルは縮こまるように身体を丸くした。
「アタシは、ルフについていっただけよ。ルフは危なっかしい所があるから。最初はあの男のせいでルフが可笑しくなったんだって思ってた。もし、帰りたくなったら私が意地でも連れて帰るんだって。でもね、ルフ全然言わないの。むしろ、村にいるときよりもイキイキしてる。だんだんとあの男にルフを奪われたと思って、馬鹿みたいに当たっていたの。……本当は分かっていた。私が思っている以上にルフは大人だし、あの男は悪い奴じゃないって。馬鹿よね私。二人に迷惑しかかけてないの」
ベルは肩を震わせていた。所々言葉を詰まらせながら紡いだ本音に、ソフィアはそっと頭を撫でた。
「大丈夫だよ。ベルちゃんはね、まだ若いし、ルフくんを思う気持ちが強いのはあの兄さんにも伝わってる。それにね、魔法の言葉があるよ」
「魔法の言葉?」
ベルがソフィアの言ったことが気になったのか聞き返すとソフィアは、にっこりと微笑みながら告げるだろう。
「悪いことをしたらごめんなさいって謝ればいいの。それだけでいいの。きっとあのお兄さんなら分かってくれる。だから、今は風邪を治すのに専念しよ?」
そう言い、ソフィアは煎じて作った風邪薬をベルに差し出す。ベルは何も言わなかった。ただ小さくこくりと頷いて、漸くソフィアの方に顔を向ければ涙でグチャグチャの顔を晒すことだろう。
「今は幾らでも泣いていいからね?ソフィアちゃんがぜーんぶ受け止めてあげる。だから、生きよう。生きて二人に会おう」
「うん」
ベルはきっと忘れない。ソフィアに背中をさすられながら、吐き出したくなるほど苦い薬を飲んだことを。本当は捨てていいとか言っておきながら捨てられることが怖かったのとソフィアに話したことを。生きたいのと泣いたことを。ずっとずっと忘れない。
「……アンタなんで、さすらいの医者なんかしているの?」
「私のことに興味を抱いてくれたのかい? 嬉しいね。そうだね。私ね、母がケラー教で父がイグニス教の生まれなの。両親も村にはいられなくてさ、私と同じようにさすらいの医者をしながら生計を立ててた。だけど、ある日機械に殺されちゃったわけ。どうしようかなーと思っていたところに、幼いローちゃんを見つけてな。あぁ、自分と同じだと思って死ぬのやめて、今の医者をしているわけ」
「……フーン」
「貴方はどうして二人と旅しているの?」
ソフィアは優しい眼差しで見てくるものだからか、ベルは縮こまるように身体を丸くした。
「アタシは、ルフについていっただけよ。ルフは危なっかしい所があるから。最初はあの男のせいでルフが可笑しくなったんだって思ってた。もし、帰りたくなったら私が意地でも連れて帰るんだって。でもね、ルフ全然言わないの。むしろ、村にいるときよりもイキイキしてる。だんだんとあの男にルフを奪われたと思って、馬鹿みたいに当たっていたの。……本当は分かっていた。私が思っている以上にルフは大人だし、あの男は悪い奴じゃないって。馬鹿よね私。二人に迷惑しかかけてないの」
ベルは肩を震わせていた。所々言葉を詰まらせながら紡いだ本音に、ソフィアはそっと頭を撫でた。
「大丈夫だよ。ベルちゃんはね、まだ若いし、ルフくんを思う気持ちが強いのはあの兄さんにも伝わってる。それにね、魔法の言葉があるよ」
「魔法の言葉?」
ベルがソフィアの言ったことが気になったのか聞き返すとソフィアは、にっこりと微笑みながら告げるだろう。
「悪いことをしたらごめんなさいって謝ればいいの。それだけでいいの。きっとあのお兄さんなら分かってくれる。だから、今は風邪を治すのに専念しよ?」
そう言い、ソフィアは煎じて作った風邪薬をベルに差し出す。ベルは何も言わなかった。ただ小さくこくりと頷いて、漸くソフィアの方に顔を向ければ涙でグチャグチャの顔を晒すことだろう。
「今は幾らでも泣いていいからね?ソフィアちゃんがぜーんぶ受け止めてあげる。だから、生きよう。生きて二人に会おう」
「うん」
ベルはきっと忘れない。ソフィアに背中をさすられながら、吐き出したくなるほど苦い薬を飲んだことを。本当は捨てていいとか言っておきながら捨てられることが怖かったのとソフィアに話したことを。生きたいのと泣いたことを。ずっとずっと忘れない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
コラテラルダメージ~楽園11~
志賀雅基
SF
◆感情付加/不可/負荷/犠牲無き最適解が欲しいか/我は鏡ぞ/貴様が作った◆
惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart10[全36話]
双子惑星の片方に小惑星が衝突し死の星になった。だが本当はもうひとつの惑星にその災厄は訪れる筈だった。命運を分けたのは『巨大テラ連邦の利』を追求した特殊戦略コンピュータ・SSCⅡテンダネスの最適解。家族をコンピュータの言いなりに殺されたと知った男は復讐心を抱き、テラに挑む。――途方もない数の犠牲者が出ると知りながら。
▼▼▼
【シリーズ中、何処からでもどうぞ】
【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる