イカロスの探求者

多田羅 和成

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異端な医者11

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 一方、テントに潜ったベルとソフィアは無言の空気が漂っていた。ソフィアに背を向けているベルに対して彼女は何も言わず薬を調合していた。無言を打ち破ったのは意外にもベルの方からであった。

「……アンタなんで、さすらいの医者なんかしているの?」

「私のことに興味を抱いてくれたのかい? 嬉しいね。そうだね。私ね、母がケラー教で父がイグニス教の生まれなの。両親も村にはいられなくてさ、私と同じようにさすらいの医者をしながら生計を立ててた。だけど、ある日機械に殺されちゃったわけ。どうしようかなーと思っていたところに、幼いローちゃんを見つけてな。あぁ、自分と同じだと思って死ぬのやめて、今の医者をしているわけ」

「……フーン」

「貴方はどうして二人と旅しているの?」

 ソフィアは優しい眼差しで見てくるものだからか、ベルは縮こまるように身体を丸くした。

「アタシは、ルフについていっただけよ。ルフは危なっかしい所があるから。最初はあの男のせいでルフが可笑しくなったんだって思ってた。もし、帰りたくなったら私が意地でも連れて帰るんだって。でもね、ルフ全然言わないの。むしろ、村にいるときよりもイキイキしてる。だんだんとあの男にルフを奪われたと思って、馬鹿みたいに当たっていたの。……本当は分かっていた。私が思っている以上にルフは大人だし、あの男は悪い奴じゃないって。馬鹿よね私。二人に迷惑しかかけてないの」

 ベルは肩を震わせていた。所々言葉を詰まらせながら紡いだ本音に、ソフィアはそっと頭を撫でた。

「大丈夫だよ。ベルちゃんはね、まだ若いし、ルフくんを思う気持ちが強いのはあの兄さんにも伝わってる。それにね、魔法の言葉があるよ」

「魔法の言葉?」

 ベルがソフィアの言ったことが気になったのか聞き返すとソフィアは、にっこりと微笑みながら告げるだろう。

「悪いことをしたらごめんなさいって謝ればいいの。それだけでいいの。きっとあのお兄さんなら分かってくれる。だから、今は風邪を治すのに専念しよ?」

 そう言い、ソフィアは煎じて作った風邪薬をベルに差し出す。ベルは何も言わなかった。ただ小さくこくりと頷いて、漸くソフィアの方に顔を向ければ涙でグチャグチャの顔を晒すことだろう。

「今は幾らでも泣いていいからね?ソフィアちゃんがぜーんぶ受け止めてあげる。だから、生きよう。生きて二人に会おう」

「うん」

 ベルはきっと忘れない。ソフィアに背中をさすられながら、吐き出したくなるほど苦い薬を飲んだことを。本当は捨てていいとか言っておきながら捨てられることが怖かったのとソフィアに話したことを。生きたいのと泣いたことを。ずっとずっと忘れない。
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