イカロスの探求者

多田羅 和成

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異端な医者9

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「アラン。今日は俺がベルを背負いたい」

「……分かった」

 ルフはアランに真っすぐに見つめて伝える。アランは何かを察したのか拒否をせずに、ルフにベルを託して前に出て歩き出す。ルフはベルを背負うと熱さと重さに驚いた。この重さで今までアランは長い道のりを歩いてきたのかと気付かされた。それでも背負うと決めたのだ。巻き込んでしまったベルの人生の全てを。一歩、力強く地面を踏みしめた。

 今日も長い道のりを歩いていくが、人の気配はなさそうだ。汗をかきながら、ベルを背負うルフはそれでも諦めなかった。絶対にベルを助けるんだと心に決めたのだから。すると、アランは立ち止まって槍を構え始めた。

「誰かが機械に襲われている。オレは助けにいくから待っている」

 そう言い電源を入れて、二又の槍の間から三十センチの高出力プラズマから構成された刃が現れた。駆け抜けていくアランは、二人組を確認した。目を凝らさないと見えない細い糸が、機械の周りに張り巡らされていることに気が付く。イグニスかは分からないが、医者の情報を持つ貴重な存在だ。今にも千切れそうな糸よりも先に、縦に真っ二つに切り裂く。機械はまるで紙のように斬れて壊れてしまった。

 中に見えるコアを回収した後、アランは二人組を確認する。一人は水色のショートヘアーにやる気なさげなサーモンピンクの瞳を持ったアランと同じ年の女性と、赤茶色の癖のある髪に茶色のまん丸目と眼鏡とそばかすが特徴のルフ達よりも若い男の子が後ろから顔を覗かせていた。
 二人とも不思議な刺繍をされた着物みたいな服を着ており、ここら辺の村出身者ではなさそうだとアランは分析をする。

「助けてくれてありがとう。貴方のお陰で助かったよ」

女性はへらぁと笑いながら軽くお辞儀をしてお礼を言う。後ろにいる少年も不安そうにしながらも深々とお辞儀をした。

「いい。気にするな。オマエラに聞きたいことがあって助けたのだからな。ここら辺で旅をしている医者を探している。仲間が熱を出した」

「それってソフィアくんのことじゃないかな」

「あぁ、確かに私のことだね」

「なんだと」

 後ろにいる少年がひょっこり顔を出して、女性をソフィアと呼んだ。そして、呼ばれたソフィアはなんともなさそうに自分が医者だと明かすと、アランは驚きをながらも自分を落ち着かせる。

「今、近くに仲間がいるんだ。見てくれないか。対価は払う」

「そうだね。早く見せてもらった方がよさそうだ。命の恩人の仲間が死んじゃうのは見たくないし」

 少年の手を握り、ソフィアは行くよといえば早足でルフのとこまで行く。遠くからでしか見れなかったルフは、無事に帰ってきたことに安堵の表情を見せる。

「アラン、無事だったか。隣にいる人が助けた人だね。そちらも無事で何よりだ」

「あぁ、たまたま助けたのが噂の医者らしい」

「えぇ! そうだったの!」

「はーい、噂の医者ちゃんだよ。……あら、これはまずいね。熱が悪化している。今すぐ安静にして薬を飲ませないと。安全そうな場所にテント張ろうか」

「ぼくも手伝う」

「ありがとうなローちゃん。お兄さん達も一緒にテント張ってな」

 ソフィアの呼びかけに三人が頷けば、安全そうな場所を探し、テントを張っていく。ソフィアというと背中に背負っている大きな箱の中身を確認したり、ベルの容態を見たりしていた。10分も立たないうちに二つのテントが立っていた。
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