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第5章 ゴーレム大地を育む

第80話 ゴーレムと命のブーメラン

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〈本当です〉

「「それってどうやるんですか!?」」

 俺とマホロの叫びが再びハモる。
 今まではそんなこと出来なかったのに……。

 ガイアさんが突然こんなことを言い出すのには必ず理由がある。
 少し前と今現在……ラブルピアで変わったことといえば……。

〈シルフィアが所持している命の魔宝石とラブルピアの地の魔宝石を魔力回路接続サーキットリンクし、命の魔力を植物に注ぎ込みます〉

「えっ!? 私が命の魔宝石を持っている……!?」

 シルフィア自身とても驚いた顔をしている。
 本人も自覚がないまま、命の魔宝石を持ち歩いているというのか?

「シルフィアさん、何か心当たりはありませんか? ガイアさんは地属性物質の専門家……近くにある魔宝石を見逃すことはありません。絶対どこかに持っているんですよ!」

 マホロが力説りきせつする。
 俺も同じくガイアさんの言葉は正しいと思っている。鉱石関係は特にだ。

「そう言われても、私は石など持ち歩いていないし……あっ! もしかして、これのことか!?」

 シルフィアが懐から取り出したのは、ジャングルにいた時も見たことがあるピンク色のブーメランだった。
 蛍光けいこうピンクに近い色合いのそれは、太陽の光を受けてキラキラ輝く。

「このピンクのキラキラ感……魔宝石の輝きに近いような、そうでもないような……」

 少なくとも俺の目はピンクのブーメランを魔宝石と認識することが出来なかった。
 ただ、その輝きが塗料によるものとは違うということはわかる。

〈細かな魔鉱石を粒子になるまで砕き、物体の表面にコーティングする技術が使われています。魔鉱石はどれもサイズが小さくなるほど力が弱まりますが、この魔鉱粒子コーティング技術はコーティングを施した物体を一つの魔鉱石として扱えるようです〉

 つまり、本来は小さくなるほど発揮出来る能力が弱まる魔鉱石を、逆に細かく砕きまくって何かの物体にコーティングすることで、実質的に一つの魔鉱石に出来るってことか。

 これ、かなりすごい技術じゃないか?
 小さすぎてそれだけでは大した効果を発揮出来ない魔宝石の欠片を砂のようにかき集めてコーティングに使えば、一つの大きな魔宝石が手に入る。
 というか、ガイアさんはこのピンクのブーメランがそうやって作られたものだと言っているんだ。

〈この魔鉱粒子コーティング技術は、ガイアゴーレムの知識データベースにも入っていませんでした。新しく生み出された、または一部で秘匿された特殊技術だと思われます〉

「ガイアさんも知らなかったんだ……」

〈ラブルピアの魔力圏ゾーンにブーメランが入ったことで、今しがた技術の解析が終わったところです。魔鉱粒子コーティング技術の再現は可能と思われます〉

「いつもありがとうございます、ガイアさん。この技術はまた使いどころがありそうです」

 今度廃鉱山に行ったら、今まではスルーして来た小さな魔鉱石も集めないとな。
 もしかしたらその中に、レアな魔鉱石が混じっているかもしれない。

「あ、もう一つ気になることがあるんですけど……命の魔宝石ってなんですか? この世界には命属性があるということですか?」

 火属性、水属性、雷属性、風属性、地属性――
 どれも元いた世界で聞き覚えがあるけど、命属性はあまり聞いたことがないな。

〈はい、あります〉

 ガイアさんからの返答は至ってシンプルなものだった。

「それについては私が説明します!」

 マホロも「はい! はい!」と元気よく手を挙げて話に参加してくる。

「じゃあ、マホロにお願いしようかな」

「はい! 命属性は命に触れる属性……最もわかりやすい例は回復魔法です。傷を癒したり、病を治したり出来る回復魔法は命属性の魔法です。また、植物を操る植物魔法も命を操っていると言えますので、命属性に分類されます」

「なるほど、イメージとしてはむしろ掴みやすい属性だな」

「ただし、命属性の魔法を扱える人はとても希少です。大きな傷を治せるほどの練度れんどがあれば、一生食べていくのに困らないほどです。同じく命属性の魔鉱石もとっても希少なんです。見つかれば他の魔鉱石とは比べ物にならないほど高値で取引されます」

 そりゃ、時には誰かの命を救える属性だ。
 希少であればあるほど、その価値は高まるだろう。

 それに直接的に人の体を治すだけじゃない。
 植物魔法も命属性の範疇はんちゅうだから、植物を魔力で育てて野菜や果物などを素早く作り出すことも、ガイアさんの発言を聞く限り可能なんだろうな。

 癒しの力で命を守り、植物を育てて命を支える。
 まさに命をつかさどる属性……!

 俺は廃鉱山に何度も足を運んでいるが、命属性の魔鉱石を一つも見つけていない。
 高額で売れるがゆえにすべて掘り尽されてしまったのか、数の少なさゆえにあの廃鉱山にそもそも存在していなかったのか……。
 どちらにせよ、その貴重さはすでに体感していたということだな。

「シルフィア、このブーメランはどこで手に入れたんだい?」

「これは……両親から貰った物だったと思う」

 シルフィアの声のトーンが下がる。
 あまりいい思い出がない両親から貰った特別過ぎる贈り物……。

 それにどういう想いが込められていたのか、他人である俺には察することも出来ない。
 どんなにすごい贈り物をしたって、両親は我が子であるシルフィアを捨てているのだ。
 実は心のどこかで愛していた……なんて虫のいい話は通らない。

「ロクでもない両親からの贈り物だが、私がジャングルで生きていくのには大変役に立った。だが、だからといって私のことを愛してくれていたとは思わないし、許せもしない」

 怒りの言葉だが、その口調は冷静なものだ。
 今のシルフィアは過去にとらわれていない。

「とはいえ、このブーメラン自体は素晴らしい物のようだ。これが街のみんなの役に立つなら……ぜひ使ってくれ! それが今の私の願いだ!」

 そう言ってシルフィアは俺にブーメランを差し出した。

「ありがとう、シルフィア。みんなのために……もちろん、そのみんなの中にシルフィアも入っているよ。一緒にこの街を豊かにしよう、この命のブーメランで」

「ああ!」

 笑顔のシルフィアから俺はブーメランを受け取った。
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