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第5章 ゴーレム大地を育む

第79話 ゴーレムと街のシンボル

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「ふっふっふっ……! これこそが私たちの街ラブルピアの象徴! 守護神の像ですっ!」

 マホロが自慢気に指さすのは守護神――つまり、俺のほぼ等身大立像!
 三時間ごとに天に掲げた右の手のひらから水を噴き出す噴水としての側面もある。

 ここは絶対に紹介されると思っていた。
 ポジションとしてはラブルピアのマーライオンだからな。
 いうほど派手なギミックはないが、象徴であることも間違いない。特にマホロの中では……。

「シルフィアさん、どうですか!? カッコいいでしょう!?」

 マホロが食い気味にシルフィアへと迫る。
 この像をカッコいいと思うかどうかは個人差があると思う。
 ゆえに期待を膨らませたシルフィアのお眼鏡に叶うかどうか……!

「こ、これは……う、うむ……」

 ああ……やっぱりダメか……?

「カッコいいではないか……っ! うむうむっ、とってもよく出来ている! この街のシンボルにふさわしい雄々おおしき守護神の姿だ!」

 体を揺らして興奮を隠さないシルフィア。
 これはかなりの好印象なのでは……!?

「そうでしょう、そうでしょう! しかも、この像には噴水としての機能もあるんですよ! 普段は三時間おきに水が噴き出すんですが……今は時間じゃありませんでした……」

 スゥゥゥ……とテンションが下がるマホロ。

「大丈夫だよ、マホロ。動かそうと思えばいつでも動かせる。こんな風にね!」

 ビュウウウッと俺の像から水が吹き出す。
 天に向かって突き出された手のひらからは、一際ひときわ高いところまで水の柱が伸びる。

「おおっ、何と力強い! それでいて不思議と心が安らぐものがあるな……」

 シルフィアの言うこと、俺にもわかる。
 噴水って華やかだけど、見ていると心が落ち着く感覚もあるんだ。

「私のためにわざわざありがとう、ガンジョー。またこの街の良いところが見られた」

「これくらいお安い御用さ。見たくなったらいつでもどうぞ」

 噴水の水を止める。これで守護神の像のギミックも見せられた。
 さて、次の名所はどこかな……と思っていた時、シルフィアが一つの疑問をべた。

「あの灯台の電磁魔動式エレベーターや防壁の門もそうなのだが、すべてガンジョーの魔力で動かしているのか?」

「いや、そこらへんはこの噴水の下に埋められている地の魔宝石の魔力を使っているんだ」

「なんとっ! 魔宝石を活用しているのか……! 確かにこの街の大地からは、包み込まれるような温かな魔力を感じる」

「ちなみに灯台の消えない炎は火の魔宝石によって灯されているんだ。そっちは地の魔宝石ほど大きくないから、炎を灯す以外には使ってないけどね」

「複数の魔宝石を手に入れて管理しているとは、流石は大地の守護神ガイアゴーレムだな」

「すべては街の南にある廃鉱山のめぐみさ。地と火のどちらも廃鉱山から採掘された物だからね」

 火の魔宝石を掘り起こしたのは俺じゃなくておじさんの息子さんなわけだが、それでも産出地さんしゅつちがあの廃鉱山であることに間違いはないからな。

「そういえば、この街は鉱山採掘で栄えた街だったな。だが、廃れてしまったということは資源のほとんどを掘りつくしてしまったのか?」

「いや、資源はまだ残ってたんだけど、ガスが大量に噴出しちゃってね……。逃げ遅れてしまった人たちの亡骸を残して、あの鉱山は閉じられてしまったんだ」

「それは……なんとも……」

「俺はゴーレムだから呼吸の必要がない。ガスだってへっちゃらだから今でも採掘が出来る。それに逃げ遅れてしまった人たちの亡骸も街に連れて帰れた」

「その彼らが眠るのが、灯台の前に並んだ墓石か……」

「うん……。機会があればまた一緒に行こう」

「ああ、私もこの街の住人となったのだ。先人せんじんたちに哀悼あいとうの意を表しよう」

「そう言ってくれると俺も嬉しいよ」

 この守護神の像の前に来ることで、大事なことを伝える機会に恵まれた。
 マホロの名所巡りを最初は疑ってしまったけど、とても意味のある行動だったな。

「シルフィアさん、ここまで街を見て回ってどうですか? 何か気になる点とか、もっとこうした方がいいってところはありませんか?」

「えっ、改善点を私に聞くのか!?」

「はい! 街の外から来た人の客観的な意見が欲しいです!」

「う~ん、そうだなぁ……。しいて言うなら、緑が少ないと思ったかな……」

「やっぱり、そこになりますよね……。ガンジョーさんが地の魔宝石を持って来てくれるまで、この街の大地は魔力が含まれていないカラカラの土だったんです。そこから野菜や作物、木々やお花を育てようとしているのですが……」

「地の魔宝石の力をもってしても、生命である植物の成長は直接的にどうこう出来ないんだ」

 俺はマホロの説明に付け加えるように言う。
 地の魔宝石は大地から魔力が流出することを防ぎ、土に栄養を含ませることは出来る。

 しかし、命に直接触れられるわけではない。
 あくまでも育つ環境を整えて待つことしか出来ないんだ。今のところは……。

「そうか……。まあ、植物の成長を見守るには根気も必要だ。大木たいぼくならいざ知らず、野菜や草花くさばなくらいなら数か月もすれば育つだろう」

「でも、それだと毎日街で採れた野菜を食べる……なんてことは出来ませんよね。あ~、植物をグングン成長させる方法があればいいんですけどねぇ~」

〈それを可能とする方法が一つあります〉

 突然聞こえたガイアさんの声にみんなビクッとする。
 しかしその後、俺とマホロは口を揃えて叫んだ。

「「それって本当ですか!?」」
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