上 下
75 / 86
第4章 ゴーレム大地を駆ける

第75話 ゴーレムとエルフの隣人

しおりを挟む
「ああ、任せてくれ!」

 お隣さんにしてくれ――シルフィアの願いを叶えるべく、すぐに行動を開始する。

 まずは十分に景色を楽しみ、シルフィアの両親の話も聞くことが出来た灯台から降りる。
 そして、リニアトレインに積まれたままの木のところまで戻って来た。

「マホロは防壁の中に戻って、街の人たちにしばらく家の中に入ってるように伝えてくれ。木を運んでいる最中に踏んでしまうなんてことがないようにね」

「わかりました!」

「メルフィさんにも事情を話して協力してもらうんだよ」

 しばらくマホロが戻ってくるのを待つ。
 住人の数はそう多くない。メルフィさんと一緒に動けばすぐに全体に伝わるはずだ。

「ただいま戻りました!」

 俺の予想通り、マホロは十分もしないうちに防壁の外へ出て来た。

「よし! それじゃあ気合を入れて運ぼうか! マホロとシルフィアも俺がまた小さくなるまでは離れてるんだぞ」

「了解です!」

「よろしく頼む、ガンジョー」

 まずはレール敷設のために廃鉱山から取って来た鉄鉱石の残りを体に取り込む。
 土をたくさん取り込んだ巨大化ビッグボディは強度が足りなかったが、取り込む素材が金属になれば大きくなっても硬さは維持される。

 それと今回の巨大化は木を運べるギリギリの大きさに抑え、大きく伸ばすのは脚だけにする。
 脚長メタルゴーレムとなって防壁をまたぎ、建物にぶつからないよう教会の隣の土地を目指す。

「スリムでスマートな脚にチェンジだ」

 約三メートルの防壁を超えるために足の長さは四メートル以上に。
 それでいて太さは普段とあまり変えない。
 太くなればそれだけ何かにぶつかる確率が上がるからな。

「おおーっ! ガンジョーさん誰もがうらやむ美脚です!」

 離れたところからマホロのお褒めの言葉が届く。

「う、うむ……! 私も美しいと……思う……?」

 マホロに釣られてシルフィアも俺を褒めようとするが、おそらく本心では美しいと思っていないのがわかる。
 それもそのはず、俺だって今の脚長ゴーレムはバランスが悪いと思ってるからな!

 普段のメタルゴーレムの体型が一番バランスがいい。
 脚が四メートル近くに伸びている今の状態を見て、すぐさま褒める言葉が思いつくのはマホロくらいだろう。
 ボディビル大会の掛け声を任せれば、会場を盛り上げてくれること間違いなしだな。

「これから運搬を開始する! マホロたちも動かないように!」

 両手で木をガッチリとホールドし、頭の中で足を置く場所を考えて動く。
 建物と建物の間、道を歩いて教会へと向かう。

 ここは元いた世界のような住宅密集地ではない。
 想像していたよりも運搬は窮屈きゅうくつではなかった。

「後はここに木を降ろして……!」

 倒れないようにしっかりと根っこを土に埋める。
 あっという間に木はラブルピアに根差ねざした。
 どっしりと揺らぐことがなさそうなその姿は、まるでずっと昔からこの街を見守って来たかのような風格がある。

「手で押してみても、まったくグラグラしない。これならツリーハウスに人を入れても倒れるなんてことはないだろう」

 シルフィアのお引越しはこれで完了だ。
 自分の体を元のサイズに戻し、マホロたちや街の人々に作業完了を知らせる。

「なんだか、街の中にあるとより一層木が立派に見えますね!」

 そう言ったのはマホロだ。
 同じような木が何本も生えているジャングルや、比較対象がなかった荒野では感じなかったけど、木よりも低い建物がある防壁の中では木の大きさをより実感出来る。

「それにこの木は緑が少ない街に爽やかさをもたらしてくれると思う」

 そう付け加えたのは俺だ。
 まだ成長途中の植物ばかりの街にとって、立派に緑の葉が生い茂るこの木は目をく。
 そして、きっと街の人々の心に爽やかな風を届けてくれるはずさ。

「か、かなり目立つな、私の家……。いや、それでも今はこの防壁の中に木を植えて良かったと思っている。上手く言葉に出来ないんだが、この木がここにあることが誰かの救いになるような……。そんな気がしているんだ」

 目を細めてシルフィアは木を見つめる。
 その後、くるりと俺の方に向き直り、深々と頭を下げた。

「改めてありがとう、ガンジョー、マホロ。お隣さんとしてこれからよろしく頼む。世間知らずの半端者だが、この街のために出来ることをするつもりだ」

 そう言ってシルフィアは右手を差し出す。

「こちらこそよろしく頼む、シルフィア。完璧な人なんていない……みんな半端者だからこそ、助け合って暮らしていこうじゃないか」

 差し出された右手を金属の手で優しく握り返す。
 俺のひんやりとした手に、シルフィアの手のぬくもりが伝わる。

「シルフィアさん! 私も握手です!」

 俺の次に握手を求めるマホロ。
 シルフィアとマホロの手が固く握られる。

「困ったことがあったら、遠慮せずに相談してくださいね。一人で我慢するより、みんなで解決を目指すのがこの街の理念です!」

「ああ、承知した。心配せずとも、私はマホロに隠し事が出来ないようなのでな。これからはずけずけと言いたいことを言わせてもらうつもりだ」

「望むところです! ただし、『親しき仲にも礼儀あり』ですよ、シルフィアさん!」

「そ、そんなことわかっている! 世間知らずとは言ったが、そういう最低限のことはだな……! いや、確かにそのぉ……多くの人と暮らした経験はないのだが……。問題はない……はず!」

 またまたシルフィアはマホロにたじたじの様子。
 こうして人を振り回すというか、巻き込んでいくのがマホロの魅力であり才能だろう。
 おかげでこれからも街が賑やかになりそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

処理中です...