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第4章 ゴーレム大地を駆ける
第66話 ゴーレムと樹の上の少女
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「のわっ……!?」
少女は俺たちの姿を見るとサッと家の中に引っ込んでしまった。
「お前たちは何者だっ!?」
玄関からそーっと顔を覗かせ、こちらに問いかけて来る。
右は緑色の髪、左は金髪、その境目は二つの色のグラデーションのようになっている。
染めてああなるとは思えない、何とも不思議な髪色だ。
瞳の色は右がオレンジ、左が青。
こちらも元々こういう色なのだろうか。
「答えろ……! お前たちは何者だっ!」
手に持ったピンク色の……ブーメラン?
『く』の字の形をした武器をちらつかせてこちらを威嚇してくる。
どこもかしこも奇抜な配色だ……。
「私たちはジャングル探検隊です! そして、ノルンの飼い主でもあります!」
代表してマホロが質問に答える。
「ノルンの……飼い主だと!?」
「ニャ~~~!」
ノルンが同意するように鳴く。
これでマホロの言葉が真実だと証明出来ただろう。
「私はマホロ・ロックハートです! あなたはこのジャングルでノルンのお世話をしてくれていたんですか?」
「世話……と言うほどのことはしていない。たまにジャングルで見かけて、果物を分けたり遊んだりしていたくらいだ」
「そのことをノルンはとっても感謝してるみたいです! このジャングルで大怪我をしたのに、それでもまた戻って来てあなたに会いに来たんですから!」
「ノルンが大怪我を……!? 道理で最近見かけないと思ったら、元の飼い主のところに戻っていたのか……。無事で良かった……!」
「ノルンに食べ物を分けたり、遊んでくれたりしてありがとうございます!」
「れ、礼を言われるようなことは……していない!」
少女はノルンのことを気にかけていてくれたんだ。
そして、ノルンもまた彼女のことを気にかけていた。
だから、怖い思い出のあるジャングルにもまた戻って来たんだ。
「あなたはノルンの恩人です! よろしければ、お名前を聞かせてくれませんか?」
「私は……ふんっ、お前たちに名乗る名前などない! お前たち、このジャングルの東にある人間の街から来たのだろう? 鉱山採掘で栄えたそれはそれは豊かな街だと聞く。そんなところに住んでいながら、ノルンだけジャングルに追いやるなど……許せんっ!」
この子は今の街の状況を知らないようだ。
それにマホロの過去のことも知るはずがない。
早めに誤解を解かないと話がこじれそうだな……。
「それは誤解です! ちょっと事情が複雑なので何から話していいかわかりませんが、とりあえずあなたの言う街はとっくの昔に廃れています! それはもう廃墟と瓦礫だらけでした!」
「何っ!? いつの間にそんなことに……。いや、それならばなぜお前たちはここにいる? 廃墟と瓦礫だらけの街に住んで、ジャングルまで食べ物でも探しに来たというわけか?」
「大体合ってますが、今の街は少しずつ復興を始めているんです! このガンジョーさんのおかげで!」
おっと……マホロが俺を話に混ぜて来た。
ただでさえ複雑な話の最中だから、あえて存在感を消して少しでも話をわかりやすくしようと思っていたのだが……。
「そもそも、それは一体何なのだ!? 人間でも魔獣でもないそれは!」
まあ……そういう流れになるよね。
「ガイアゴーレムのガンジョーさんです! 今はメタル化していますが、ガイアゴーレムであることには変わりありません! それと一緒にガイアさんっていう……」
「ま、待つんだマホロ! 俺の詳しい話は後回しにした方がいい。今はマホロとノルンの関係を彼女に知ってもらうんだ」
「そいつしゃべったぞ……!? ゴーレムがしゃべるはずがない!」
そうそう、これこれ。この懐かしい反応。
魔法があるこの世界でも、ゴーレムがしゃべらないというのは共通認識なんだ。
「わかりました。ガンジョーさんの話は一旦置いておきます! 私とノルンは……確かに一度お別れをしました。それは私の一方的で身勝手な行いでしたが、ノルンを想っての決断でもあったんです」
マホロは語った――ロックハート家のことを。
貴族であり複数の領地を抱える領主ロックハート伯爵……その家系は地属性魔法の名門でもあった。
そんな伯爵の娘として生まれながらマホロは魔法が不得意。母も幼くして亡くしている。
当然一族の中で発言力などなく、後継者候補からも実質除外されていた。
しかしながら、最果ての地ファーゼス領の領主代行に命じられ、一応は貴族に連なる者としての立場を与えられていた。
それを良く思わなかった兄弟から刺客を差し向けられ、命の危険を感じたマホロとメルフィさんは自分たちの領地であるファーゼス領――瓦礫の街に逃れて来た。
衣食住すべてが保証されない地への逃避行にノルンを連れて行けないと判断したマホロは、ノルンだけをロックハート家のお屋敷に残して来た。
ノルンはコクヨウヤマネコというとても珍しい品種だから、悪く扱われることはないだろう……と。
だが、ノルンはマホロを追って家を飛び出した。
そして、ファーゼス領の中で唯一食べ物が手に入るジャングルに居着いたんだ。
「……ジャングルで魔獣にやられて傷ついたノルンを、ガンジョーさんが助けて街まで連れて来てくれたんです。それからはずっと一緒に暮らしています」
自分の身の上話を終えたマホロ。
ツリーハウスの中の少女はしばらく黙っていたが、耳を澄ますと小さく鼻をすするような音が聞こえて来る。
こちらから声をかけずに、彼女の返事を待つ俺たち。
しばらくして……少女は顔を見せないまま言った。
「私の名前はシルフィア・フェスタ……人間とエルフの血を引く者だ」
少女は俺たちの姿を見るとサッと家の中に引っ込んでしまった。
「お前たちは何者だっ!?」
玄関からそーっと顔を覗かせ、こちらに問いかけて来る。
右は緑色の髪、左は金髪、その境目は二つの色のグラデーションのようになっている。
染めてああなるとは思えない、何とも不思議な髪色だ。
瞳の色は右がオレンジ、左が青。
こちらも元々こういう色なのだろうか。
「答えろ……! お前たちは何者だっ!」
手に持ったピンク色の……ブーメラン?
『く』の字の形をした武器をちらつかせてこちらを威嚇してくる。
どこもかしこも奇抜な配色だ……。
「私たちはジャングル探検隊です! そして、ノルンの飼い主でもあります!」
代表してマホロが質問に答える。
「ノルンの……飼い主だと!?」
「ニャ~~~!」
ノルンが同意するように鳴く。
これでマホロの言葉が真実だと証明出来ただろう。
「私はマホロ・ロックハートです! あなたはこのジャングルでノルンのお世話をしてくれていたんですか?」
「世話……と言うほどのことはしていない。たまにジャングルで見かけて、果物を分けたり遊んだりしていたくらいだ」
「そのことをノルンはとっても感謝してるみたいです! このジャングルで大怪我をしたのに、それでもまた戻って来てあなたに会いに来たんですから!」
「ノルンが大怪我を……!? 道理で最近見かけないと思ったら、元の飼い主のところに戻っていたのか……。無事で良かった……!」
「ノルンに食べ物を分けたり、遊んでくれたりしてありがとうございます!」
「れ、礼を言われるようなことは……していない!」
少女はノルンのことを気にかけていてくれたんだ。
そして、ノルンもまた彼女のことを気にかけていた。
だから、怖い思い出のあるジャングルにもまた戻って来たんだ。
「あなたはノルンの恩人です! よろしければ、お名前を聞かせてくれませんか?」
「私は……ふんっ、お前たちに名乗る名前などない! お前たち、このジャングルの東にある人間の街から来たのだろう? 鉱山採掘で栄えたそれはそれは豊かな街だと聞く。そんなところに住んでいながら、ノルンだけジャングルに追いやるなど……許せんっ!」
この子は今の街の状況を知らないようだ。
それにマホロの過去のことも知るはずがない。
早めに誤解を解かないと話がこじれそうだな……。
「それは誤解です! ちょっと事情が複雑なので何から話していいかわかりませんが、とりあえずあなたの言う街はとっくの昔に廃れています! それはもう廃墟と瓦礫だらけでした!」
「何っ!? いつの間にそんなことに……。いや、それならばなぜお前たちはここにいる? 廃墟と瓦礫だらけの街に住んで、ジャングルまで食べ物でも探しに来たというわけか?」
「大体合ってますが、今の街は少しずつ復興を始めているんです! このガンジョーさんのおかげで!」
おっと……マホロが俺を話に混ぜて来た。
ただでさえ複雑な話の最中だから、あえて存在感を消して少しでも話をわかりやすくしようと思っていたのだが……。
「そもそも、それは一体何なのだ!? 人間でも魔獣でもないそれは!」
まあ……そういう流れになるよね。
「ガイアゴーレムのガンジョーさんです! 今はメタル化していますが、ガイアゴーレムであることには変わりありません! それと一緒にガイアさんっていう……」
「ま、待つんだマホロ! 俺の詳しい話は後回しにした方がいい。今はマホロとノルンの関係を彼女に知ってもらうんだ」
「そいつしゃべったぞ……!? ゴーレムがしゃべるはずがない!」
そうそう、これこれ。この懐かしい反応。
魔法があるこの世界でも、ゴーレムがしゃべらないというのは共通認識なんだ。
「わかりました。ガンジョーさんの話は一旦置いておきます! 私とノルンは……確かに一度お別れをしました。それは私の一方的で身勝手な行いでしたが、ノルンを想っての決断でもあったんです」
マホロは語った――ロックハート家のことを。
貴族であり複数の領地を抱える領主ロックハート伯爵……その家系は地属性魔法の名門でもあった。
そんな伯爵の娘として生まれながらマホロは魔法が不得意。母も幼くして亡くしている。
当然一族の中で発言力などなく、後継者候補からも実質除外されていた。
しかしながら、最果ての地ファーゼス領の領主代行に命じられ、一応は貴族に連なる者としての立場を与えられていた。
それを良く思わなかった兄弟から刺客を差し向けられ、命の危険を感じたマホロとメルフィさんは自分たちの領地であるファーゼス領――瓦礫の街に逃れて来た。
衣食住すべてが保証されない地への逃避行にノルンを連れて行けないと判断したマホロは、ノルンだけをロックハート家のお屋敷に残して来た。
ノルンはコクヨウヤマネコというとても珍しい品種だから、悪く扱われることはないだろう……と。
だが、ノルンはマホロを追って家を飛び出した。
そして、ファーゼス領の中で唯一食べ物が手に入るジャングルに居着いたんだ。
「……ジャングルで魔獣にやられて傷ついたノルンを、ガンジョーさんが助けて街まで連れて来てくれたんです。それからはずっと一緒に暮らしています」
自分の身の上話を終えたマホロ。
ツリーハウスの中の少女はしばらく黙っていたが、耳を澄ますと小さく鼻をすするような音が聞こえて来る。
こちらから声をかけずに、彼女の返事を待つ俺たち。
しばらくして……少女は顔を見せないまま言った。
「私の名前はシルフィア・フェスタ……人間とエルフの血を引く者だ」
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