上 下
63 / 86
第4章 ゴーレム大地を駆ける

第63話 ゴーレムと発進前

しおりを挟む
 それから3日後の朝――
 俺は東のプラットホームにリニアトレインの乗客たちを集めた。

 集まったのはヘルガさん、マホロ、ノルン、そしてメルフィさんだ。
 おじさんにも声をかけてみたが、やはり危険な場所という認識があるようで丁重に断られた。

 まあ、俺も特に用事もなく足を踏み入れる場所ではないと思っている。
 ジャングルは大地そのものから妙な熱気を感じるし、棲息せいそくしている魔獣も強い。
 それでも、乾いた荒野では手に入らない物が確かに存在する……!

「お、おお……っ! アタシのためにこんな物まで用意してくれるなんて……っ!」

 ヘルガさんは目の前にあるリニアトレインを見て、感動とも驚愕きょうがくとも取れる表情をする。
 俺にジャングル行きを願ってからの数日間、ヘルガさんは革職人として今出来る仕事に没頭していて、このプラットホームやリニアトレインを見ていなかったらしい。

「ガンジョーしんには何とお礼を言ったらいいものか……! 嬢ちゃんの革ジャンを作るってだけじゃ、ちょっと足りなさ過ぎるよな……?」

 ヘルガさんは上目遣うわめづかいでこちらにおうかがいを立てて来る。

「いえいえ、このリニアトレインはジャングルからの物資運搬を効率化する役目もありますんで、ヘルガさんのためだけに作ったわけではありません。なので、あまり気にしなくてもいいですよ」

「そうかい……? なら気にしないようにするよ!」

 ヘルガさんはすぐに普段の様子に戻った。
 このカラッとした素直さが彼女の魅力だな。

「リニアトレインの発進前に、皆さんに配る物があります」

 そう言って俺はみんなを近くに呼び寄せる。

「これから配るのは、ジャングルで危険な魔獣から身を守るための道具です。ジャングルにいる間は、これを肌身離さず持っていてください」

 一人で荒野を歩き、リニアレールを敷設ふせつしている間……ずっと考えていた。
 どうすればみんなの身の安全を確実に守れるだろうかと。

 ガチガチに全身を固める鎧、体を隠せるほどでっかい盾、いっそのことジャングルにリニアトレインで突っ込む……どれもパッとしないアイデアだった。

 鎧や盾は動きを鈍らせるし、マホロやヘルガさんに扱えるとは思えない。
 起伏きふくに富んだ地面を持つジャングルの中までレールを敷くのも現実的ではない。

 というか、乗り物から降りて『なめし剤』の素材となる植物を探すのが目的なので、リニアトレインでジャングルの中まで入れたとしても根本的な解決にはならないんだ。

 悩みに悩んで最終的に俺が出した答えは――風だ。
 風の魔法をまとわせて、みんなの身を守る!

「ヘルガさんには風の杖を」

「お、おう……!」

 先端にエメラルドを思わせる鮮やかな緑色の石が取り付けられた杖を手渡す。
 この石は風魔鉱石。それも等級はA。
 廃鉱山でもそう多くは入手出来ない貴重な魔鉱石だ。

 なぜヘルガさんに杖を選んだかというと、その方が魔法使いっぽいから……ではない。
 運動能力に自信がないヘルガさんが歩き疲れた時、体を支えられるように軽くて頑丈な杖を作ったんだ。

「ノルンには風の首輪を」

「ニャ~!」

 これは事前にノルンから預かっていた首輪に風魔鉱石を合成した物だ。
 マホロとの思い出のネームタグはそのままに、輪っかの部分が深い緑色になった。

「メルフィさんには風の腕輪を」

「私にまで……! ありがとうございます、ガンジョー様」

 淡い緑色の腕輪もまた風魔鉱石を素材に使っている。
 魔力を込めることで多少伸縮しんしゅくし、腕のサイズに合わせることが出来る。

 もっとオシャレなアクセサリーにしても良かったんだけど……そういうセンスはないし、とりあえずカタナを振るうメルフィさんの邪魔にならないような物を選んだ。

「そして、マホロには……ガンジョーショベルをアップグレードした『ウィンドショベル』だ!」

「わぁ……!」

 マホロに新たなるショベルを手渡す。
 ベースは前に作ってあげたショベルだが、あの頃はまだ金属加工能力が未熟で、形状にも強度にも問題点がたくさんあった。
 その問題を解決し、風魔鉱石を素材に追加したのがウィンドショベル!

 表面は光沢のある深い緑色で高級感があり、ところどころ宝石のように散りばめられた風魔鉱石が良いアクセントになっている……と思う。
 マホロの手に馴染むように持ち手や軸の部分は細く、それでいて強度は以前の数倍はある。

「お渡しした風の装具たちは危険を感じた瞬間オートで魔法を発動し、皆さんの身を守ります。それだけじゃなく、慣れてくれば任意で簡単な風魔法を使うことも出来るはずです」

 風は守りに優れた属性だとガイアさんが言っていた。
 最初は電気の力でみんなを守ろうと考えたけど、一歩間違えれば自分や仲間を感電させてしまう。
 それに比べたら、風圧で身の回りに壁を作り出す風の力の方が安全だと思ったんだ。

「……素晴らしい魔法道具だと思います、ガンジョー様」

 戦いの心得があるメルフィさんは早速風の力を試している。
 だけど、その表情は少しけわしい。

「A級の魔鉱石の力は確かに強く、ジャングルの魔獣にも対抗出来るでしょう。しかし、等級の高い魔鉱石の力を引き出すには、それだけ多くの魔力を消費します。私やノルンはともかくとして、マホロ様やヘルガ様が等級Aの魔力消費に耐えられると思えません」

 流石はメルフィさんだ。その問題点にすぐに気づけるのだから。

「その対策は打ってあります。皆さんは自分の魔力を消費することなく魔法を使いたい放題です」 

「「「えっ!?」」」
「ニャア!?」

 ノルンを含めてその場にいる全員が目を見開いて驚く。
 その方法は単純で、なおかつ力業ちからわざなんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...