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第4章 ゴーレム大地を駆ける
第63話 ゴーレムと発進前
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それから3日後の朝――
俺は東のプラットホームにリニアトレインの乗客たちを集めた。
集まったのはヘルガさん、マホロ、ノルン、そしてメルフィさんだ。
おじさんにも声をかけてみたが、やはり危険な場所という認識があるようで丁重に断られた。
まあ、俺も特に用事もなく足を踏み入れる場所ではないと思っている。
ジャングルは大地そのものから妙な熱気を感じるし、棲息している魔獣も強い。
それでも、乾いた荒野では手に入らない物が確かに存在する……!
「お、おお……っ! アタシのためにこんな物まで用意してくれるなんて……っ!」
ヘルガさんは目の前にあるリニアトレインを見て、感動とも驚愕とも取れる表情をする。
俺にジャングル行きを願ってからの数日間、ヘルガさんは革職人として今出来る仕事に没頭していて、このプラットホームやリニアトレインを見ていなかったらしい。
「ガンジョー神には何とお礼を言ったらいいものか……! 嬢ちゃんの革ジャンを作るってだけじゃ、ちょっと足りなさ過ぎるよな……?」
ヘルガさんは上目遣いでこちらにお伺いを立てて来る。
「いえいえ、このリニアトレインはジャングルからの物資運搬を効率化する役目もありますんで、ヘルガさんのためだけに作ったわけではありません。なので、あまり気にしなくてもいいですよ」
「そうかい……? なら気にしないようにするよ!」
ヘルガさんはすぐに普段の様子に戻った。
このカラッとした素直さが彼女の魅力だな。
「リニアトレインの発進前に、皆さんに配る物があります」
そう言って俺はみんなを近くに呼び寄せる。
「これから配るのは、ジャングルで危険な魔獣から身を守るための道具です。ジャングルにいる間は、これを肌身離さず持っていてください」
一人で荒野を歩き、リニアレールを敷設している間……ずっと考えていた。
どうすればみんなの身の安全を確実に守れるだろうかと。
ガチガチに全身を固める鎧、体を隠せるほどでっかい盾、いっそのことジャングルにリニアトレインで突っ込む……どれもパッとしないアイデアだった。
鎧や盾は動きを鈍らせるし、マホロやヘルガさんに扱えるとは思えない。
起伏に富んだ地面を持つジャングルの中までレールを敷くのも現実的ではない。
というか、乗り物から降りて『なめし剤』の素材となる植物を探すのが目的なので、リニアトレインでジャングルの中まで入れたとしても根本的な解決にはならないんだ。
悩みに悩んで最終的に俺が出した答えは――風だ。
風の魔法をまとわせて、みんなの身を守る!
「ヘルガさんには風の杖を」
「お、おう……!」
先端にエメラルドを思わせる鮮やかな緑色の石が取り付けられた杖を手渡す。
この石は風魔鉱石。それも等級はA。
廃鉱山でもそう多くは入手出来ない貴重な魔鉱石だ。
なぜヘルガさんに杖を選んだかというと、その方が魔法使いっぽいから……ではない。
運動能力に自信がないヘルガさんが歩き疲れた時、体を支えられるように軽くて頑丈な杖を作ったんだ。
「ノルンには風の首輪を」
「ニャ~!」
これは事前にノルンから預かっていた首輪に風魔鉱石を合成した物だ。
マホロとの思い出のネームタグはそのままに、輪っかの部分が深い緑色になった。
「メルフィさんには風の腕輪を」
「私にまで……! ありがとうございます、ガンジョー様」
淡い緑色の腕輪もまた風魔鉱石を素材に使っている。
魔力を込めることで多少伸縮し、腕のサイズに合わせることが出来る。
もっとオシャレなアクセサリーにしても良かったんだけど……そういうセンスはないし、とりあえずカタナを振るうメルフィさんの邪魔にならないような物を選んだ。
「そして、マホロには……ガンジョーショベルをアップグレードした『ウィンドショベル』だ!」
「わぁ……!」
マホロに新たなるショベルを手渡す。
ベースは前に作ってあげたショベルだが、あの頃はまだ金属加工能力が未熟で、形状にも強度にも問題点がたくさんあった。
その問題を解決し、風魔鉱石を素材に追加したのがウィンドショベル!
表面は光沢のある深い緑色で高級感があり、ところどころ宝石のように散りばめられた風魔鉱石が良いアクセントになっている……と思う。
マホロの手に馴染むように持ち手や軸の部分は細く、それでいて強度は以前の数倍はある。
「お渡しした風の装具たちは危険を感じた瞬間オートで魔法を発動し、皆さんの身を守ります。それだけじゃなく、慣れてくれば任意で簡単な風魔法を使うことも出来るはずです」
風は守りに優れた属性だとガイアさんが言っていた。
最初は電気の力でみんなを守ろうと考えたけど、一歩間違えれば自分や仲間を感電させてしまう。
それに比べたら、風圧で身の回りに壁を作り出す風の力の方が安全だと思ったんだ。
「……素晴らしい魔法道具だと思います、ガンジョー様」
戦いの心得があるメルフィさんは早速風の力を試している。
だけど、その表情は少し険しい。
「A級の魔鉱石の力は確かに強く、ジャングルの魔獣にも対抗出来るでしょう。しかし、等級の高い魔鉱石の力を引き出すには、それだけ多くの魔力を消費します。私やノルンはともかくとして、マホロ様やヘルガ様が等級Aの魔力消費に耐えられると思えません」
流石はメルフィさんだ。その問題点にすぐに気づけるのだから。
「その対策は打ってあります。皆さんは自分の魔力を消費することなく魔法を使いたい放題です」
「「「えっ!?」」」
「ニャア!?」
ノルンを含めてその場にいる全員が目を見開いて驚く。
その方法は単純で、なおかつ力業なんだ。
俺は東のプラットホームにリニアトレインの乗客たちを集めた。
集まったのはヘルガさん、マホロ、ノルン、そしてメルフィさんだ。
おじさんにも声をかけてみたが、やはり危険な場所という認識があるようで丁重に断られた。
まあ、俺も特に用事もなく足を踏み入れる場所ではないと思っている。
ジャングルは大地そのものから妙な熱気を感じるし、棲息している魔獣も強い。
それでも、乾いた荒野では手に入らない物が確かに存在する……!
「お、おお……っ! アタシのためにこんな物まで用意してくれるなんて……っ!」
ヘルガさんは目の前にあるリニアトレインを見て、感動とも驚愕とも取れる表情をする。
俺にジャングル行きを願ってからの数日間、ヘルガさんは革職人として今出来る仕事に没頭していて、このプラットホームやリニアトレインを見ていなかったらしい。
「ガンジョー神には何とお礼を言ったらいいものか……! 嬢ちゃんの革ジャンを作るってだけじゃ、ちょっと足りなさ過ぎるよな……?」
ヘルガさんは上目遣いでこちらにお伺いを立てて来る。
「いえいえ、このリニアトレインはジャングルからの物資運搬を効率化する役目もありますんで、ヘルガさんのためだけに作ったわけではありません。なので、あまり気にしなくてもいいですよ」
「そうかい……? なら気にしないようにするよ!」
ヘルガさんはすぐに普段の様子に戻った。
このカラッとした素直さが彼女の魅力だな。
「リニアトレインの発進前に、皆さんに配る物があります」
そう言って俺はみんなを近くに呼び寄せる。
「これから配るのは、ジャングルで危険な魔獣から身を守るための道具です。ジャングルにいる間は、これを肌身離さず持っていてください」
一人で荒野を歩き、リニアレールを敷設している間……ずっと考えていた。
どうすればみんなの身の安全を確実に守れるだろうかと。
ガチガチに全身を固める鎧、体を隠せるほどでっかい盾、いっそのことジャングルにリニアトレインで突っ込む……どれもパッとしないアイデアだった。
鎧や盾は動きを鈍らせるし、マホロやヘルガさんに扱えるとは思えない。
起伏に富んだ地面を持つジャングルの中までレールを敷くのも現実的ではない。
というか、乗り物から降りて『なめし剤』の素材となる植物を探すのが目的なので、リニアトレインでジャングルの中まで入れたとしても根本的な解決にはならないんだ。
悩みに悩んで最終的に俺が出した答えは――風だ。
風の魔法をまとわせて、みんなの身を守る!
「ヘルガさんには風の杖を」
「お、おう……!」
先端にエメラルドを思わせる鮮やかな緑色の石が取り付けられた杖を手渡す。
この石は風魔鉱石。それも等級はA。
廃鉱山でもそう多くは入手出来ない貴重な魔鉱石だ。
なぜヘルガさんに杖を選んだかというと、その方が魔法使いっぽいから……ではない。
運動能力に自信がないヘルガさんが歩き疲れた時、体を支えられるように軽くて頑丈な杖を作ったんだ。
「ノルンには風の首輪を」
「ニャ~!」
これは事前にノルンから預かっていた首輪に風魔鉱石を合成した物だ。
マホロとの思い出のネームタグはそのままに、輪っかの部分が深い緑色になった。
「メルフィさんには風の腕輪を」
「私にまで……! ありがとうございます、ガンジョー様」
淡い緑色の腕輪もまた風魔鉱石を素材に使っている。
魔力を込めることで多少伸縮し、腕のサイズに合わせることが出来る。
もっとオシャレなアクセサリーにしても良かったんだけど……そういうセンスはないし、とりあえずカタナを振るうメルフィさんの邪魔にならないような物を選んだ。
「そして、マホロには……ガンジョーショベルをアップグレードした『ウィンドショベル』だ!」
「わぁ……!」
マホロに新たなるショベルを手渡す。
ベースは前に作ってあげたショベルだが、あの頃はまだ金属加工能力が未熟で、形状にも強度にも問題点がたくさんあった。
その問題を解決し、風魔鉱石を素材に追加したのがウィンドショベル!
表面は光沢のある深い緑色で高級感があり、ところどころ宝石のように散りばめられた風魔鉱石が良いアクセントになっている……と思う。
マホロの手に馴染むように持ち手や軸の部分は細く、それでいて強度は以前の数倍はある。
「お渡しした風の装具たちは危険を感じた瞬間オートで魔法を発動し、皆さんの身を守ります。それだけじゃなく、慣れてくれば任意で簡単な風魔法を使うことも出来るはずです」
風は守りに優れた属性だとガイアさんが言っていた。
最初は電気の力でみんなを守ろうと考えたけど、一歩間違えれば自分や仲間を感電させてしまう。
それに比べたら、風圧で身の回りに壁を作り出す風の力の方が安全だと思ったんだ。
「……素晴らしい魔法道具だと思います、ガンジョー様」
戦いの心得があるメルフィさんは早速風の力を試している。
だけど、その表情は少し険しい。
「A級の魔鉱石の力は確かに強く、ジャングルの魔獣にも対抗出来るでしょう。しかし、等級の高い魔鉱石の力を引き出すには、それだけ多くの魔力を消費します。私やノルンはともかくとして、マホロ様やヘルガ様が等級Aの魔力消費に耐えられると思えません」
流石はメルフィさんだ。その問題点にすぐに気づけるのだから。
「その対策は打ってあります。皆さんは自分の魔力を消費することなく魔法を使いたい放題です」
「「「えっ!?」」」
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