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第4章 ゴーレム大地を駆ける
第56話 ゴーレムとロマン
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「どうだい? アタシのお願いは聞き入れてもらえそうかい? もちろん、タダでとは言わない! 作業環境が整った暁には、そこの嬢ちゃんにイカした革ジャンを作ってやる! 風を通しにくいから、冬が来ても温かいぞ~!」
ヘルガさんはマホロに微笑みかける。
「革ジャン……というのはよくわかりませんけど、今の服だと肌寒い夜もありますから、新しい服を作ってくださるならとっても嬉しいです!」
マホロは目を輝かせて喜ぶ。
街に水が流れてからマホロは定期的に服を洗っているし、持っている数着の服を上手くやりくりして日々を過ごしている。
しかし、どんなに丁寧に扱っていても、服は着れば着るほどダメージを負う。
破れることがあれば、穴が空くことだってある。
この世界でも人間が服を着て生きている以上、これから先絶対に新しい服が必要になる時が来る。
その新しい服を作れる人材がヘルガさんというわけだ。
……それにしても、ヘルガさんの言う『革ジャン』というのは、俺の認識と同じなんだろうか?
「お嬢ちゃん、革ジャンを知らないのか? まあ、そのまんま革を使ったジャケットなわけだが、使えば使うほど深みを増す人生のような存在なのさ。だから、これを着るだけでかわいいお嬢ちゃんもカッコいい大人の女になれる!」
「うわぁ~! やっぱりよくわかりませんけど、革ジャンがすごい存在だってことだけはわかりました! 私も革ジャンを着てカッコいい大人の女性になりたいです!」
思ったよりマホロが革ジャンに食いついている。
やっぱり、オシャレに興味があるお年頃か……。
まあ、何にせよヘルガさんのお願いへの答えは決まっている。
「そのご依頼引き受けます、ヘルガさん。これからも俺はジャングルに行くことが何度もありますし、食糧確保のついでになりますが、なめし剤に必要な植物も探してこようと思います」
「おおっ、ありがたい! 流石はこの街の守護神様っ! 心の広いゴーレムだねぇ!」
ヘルガさんは身振り手振りで感謝の気持ちを表現する。
これだけ喜んでくれるなら、引き受ける甲斐もあるというものだ。
「では、取って来る植物の特徴を口頭でお伝えいただくか、羊皮紙にメモして俺に渡してください。あと、教会には植物図鑑がありますから、そこから探してもらっても……」
「植物図鑑には載ってないさ……。アタシが探しているのは、このファーゼス領の枯れた大地にもかかわらず、青々と木々が生い茂る謎のジャングル……そこに群生する幻の植物だからねぇ」
東のジャングルにだけ生える幻の植物……?
まさか、ヘルガさんの言う『取って来てほしい』っていうのは、お宝探し的な意味が含まれているのか……!?
「これがその幻の植物の特徴が記された羊皮紙さ。アタシがこの街に流れ着いた理由の一つは、この地方でしか手に入らないとされる素材を手に入れるためなのさ」
ヘルガさんが俺に手渡した数枚の羊皮紙。
そこに描かれているいくつかの植物は、確かに見覚えのない物ばかりだ。
定期的にジャングルに通っている俺が見たことがないということは、よほど目につかない場所か、さらに奥地の方に生えているのかも……。
「絶対に見つけるとは言い切れませんけど、頑張って探してみます。幻の植物を探すなんて、俺も少しワクワクして来ましたから!」
伝説やら幻やら、そんな存在を追い求めて大自然の中をさまよう……。
それは男のロマンではあるが、現実問題それに人生を捧げることが出来る人間は少ない。
人間だった頃の俺もそうだった。
ロマンを追い求め、新たな発見をして歴史に名を残す人物に憧れつつも、それは遠い世界の話と割り切って普通の人生を送っていた。
だが、今の俺は実際に遥か遠い異世界に来てしまった。
それも怪我だの病気だのを気にしなくていいゴーレムの体で。
ここまで来たら追い求めてもいいだろう……ロマン!
メタルゴーレムとなった今なら、視線も低くなってより細かい場所を探せる。
帰りが遅くなったって、灯台の光が俺を導いてくれる。
これからはジャングルに通うのがより楽しくなりそうだ。
「アンタがいい奴だってことは前からわかってたけど……ここまでいい奴だとは思わなかったよ! 私の夢を理解してくれてありがとうっ!」
諸手を挙げて喜ぶヘルガさん。
しかし、その後すぐに体をもじもじさせ、視線も左右にせわしなく動き始めた。
これは……言いたいことがあるけど、言っていいのかわからない時の仕草だ。
「あのさ……ついでにお願いなんだが、アタシをジャングルに連れて行くことは出来るかい? こう見えてインドア派でさ、あんまり外を出歩くのが得意じゃないんだよね……。でも、この荒野にあるっていうジャングルを、自分の目で見てみたい気持ちがあるんだ」
ヘルガさんが上目遣いで俺の顔を見る。
確かにこのカラカラに枯れた荒野に、ジャングルと呼べるほど植物が集まった場所があると聞いたら、自分の目で確かめてみたくなるだろう。
ただ、広い広い荒野を横切ってジャングルに向かい、無事に帰って来られるのはメルフィさんみたいな特殊な訓練を受けた人だけだ。
さらにジャングルには荒野に棲む魔獣とは比べ物にならないほど強い魔獣も生息している。
それらを追い払いながら自分も植物探しを手伝おうと思っているのなら……残念ながら無謀だと言わざるを得ない。
俺は自分の身を守れるが、人の身の安全までは保証出来ない。
あのジャングルとはそういう場所……。
ここはキッパリと断って、諦めてもらうのが正解だ。
「……少し時間をください。そのための手段を考えてみます」
思考とは裏腹に、俺の口からはそんな言葉が出た。
俺はヘルガさんのことをまだよく知らない。
この街に流れ着いた理由もハッキリしない。
ほとんど出会ったばかりの俺たちには、まだ話せないこともあるんだろう。
でも、職人としての情熱は本物だ。
彼女とこれからもこの街で暮らしていくのなら、その願いを叶えることでもっと深く関わっていけるような……そんな気がするんだ。
「あ、ありがとう……! すっごい嬉しいっ! これからはガンジョー神と呼ばせてくれ!」
「いや、それはちょっと大仰過ぎるような……」
「ガンジョー神、万歳っ! ガンジョー神、最高っ!」
まだジャングルに行けることが確定していないのに、すごい喜びようだ……!
こりゃ、後から「その手段は見つかりませんでした……」なんて言えない。
絶対に何かしらのアイデアを出さなければ!
ヘルガさんはマホロに微笑みかける。
「革ジャン……というのはよくわかりませんけど、今の服だと肌寒い夜もありますから、新しい服を作ってくださるならとっても嬉しいです!」
マホロは目を輝かせて喜ぶ。
街に水が流れてからマホロは定期的に服を洗っているし、持っている数着の服を上手くやりくりして日々を過ごしている。
しかし、どんなに丁寧に扱っていても、服は着れば着るほどダメージを負う。
破れることがあれば、穴が空くことだってある。
この世界でも人間が服を着て生きている以上、これから先絶対に新しい服が必要になる時が来る。
その新しい服を作れる人材がヘルガさんというわけだ。
……それにしても、ヘルガさんの言う『革ジャン』というのは、俺の認識と同じなんだろうか?
「お嬢ちゃん、革ジャンを知らないのか? まあ、そのまんま革を使ったジャケットなわけだが、使えば使うほど深みを増す人生のような存在なのさ。だから、これを着るだけでかわいいお嬢ちゃんもカッコいい大人の女になれる!」
「うわぁ~! やっぱりよくわかりませんけど、革ジャンがすごい存在だってことだけはわかりました! 私も革ジャンを着てカッコいい大人の女性になりたいです!」
思ったよりマホロが革ジャンに食いついている。
やっぱり、オシャレに興味があるお年頃か……。
まあ、何にせよヘルガさんのお願いへの答えは決まっている。
「そのご依頼引き受けます、ヘルガさん。これからも俺はジャングルに行くことが何度もありますし、食糧確保のついでになりますが、なめし剤に必要な植物も探してこようと思います」
「おおっ、ありがたい! 流石はこの街の守護神様っ! 心の広いゴーレムだねぇ!」
ヘルガさんは身振り手振りで感謝の気持ちを表現する。
これだけ喜んでくれるなら、引き受ける甲斐もあるというものだ。
「では、取って来る植物の特徴を口頭でお伝えいただくか、羊皮紙にメモして俺に渡してください。あと、教会には植物図鑑がありますから、そこから探してもらっても……」
「植物図鑑には載ってないさ……。アタシが探しているのは、このファーゼス領の枯れた大地にもかかわらず、青々と木々が生い茂る謎のジャングル……そこに群生する幻の植物だからねぇ」
東のジャングルにだけ生える幻の植物……?
まさか、ヘルガさんの言う『取って来てほしい』っていうのは、お宝探し的な意味が含まれているのか……!?
「これがその幻の植物の特徴が記された羊皮紙さ。アタシがこの街に流れ着いた理由の一つは、この地方でしか手に入らないとされる素材を手に入れるためなのさ」
ヘルガさんが俺に手渡した数枚の羊皮紙。
そこに描かれているいくつかの植物は、確かに見覚えのない物ばかりだ。
定期的にジャングルに通っている俺が見たことがないということは、よほど目につかない場所か、さらに奥地の方に生えているのかも……。
「絶対に見つけるとは言い切れませんけど、頑張って探してみます。幻の植物を探すなんて、俺も少しワクワクして来ましたから!」
伝説やら幻やら、そんな存在を追い求めて大自然の中をさまよう……。
それは男のロマンではあるが、現実問題それに人生を捧げることが出来る人間は少ない。
人間だった頃の俺もそうだった。
ロマンを追い求め、新たな発見をして歴史に名を残す人物に憧れつつも、それは遠い世界の話と割り切って普通の人生を送っていた。
だが、今の俺は実際に遥か遠い異世界に来てしまった。
それも怪我だの病気だのを気にしなくていいゴーレムの体で。
ここまで来たら追い求めてもいいだろう……ロマン!
メタルゴーレムとなった今なら、視線も低くなってより細かい場所を探せる。
帰りが遅くなったって、灯台の光が俺を導いてくれる。
これからはジャングルに通うのがより楽しくなりそうだ。
「アンタがいい奴だってことは前からわかってたけど……ここまでいい奴だとは思わなかったよ! 私の夢を理解してくれてありがとうっ!」
諸手を挙げて喜ぶヘルガさん。
しかし、その後すぐに体をもじもじさせ、視線も左右にせわしなく動き始めた。
これは……言いたいことがあるけど、言っていいのかわからない時の仕草だ。
「あのさ……ついでにお願いなんだが、アタシをジャングルに連れて行くことは出来るかい? こう見えてインドア派でさ、あんまり外を出歩くのが得意じゃないんだよね……。でも、この荒野にあるっていうジャングルを、自分の目で見てみたい気持ちがあるんだ」
ヘルガさんが上目遣いで俺の顔を見る。
確かにこのカラカラに枯れた荒野に、ジャングルと呼べるほど植物が集まった場所があると聞いたら、自分の目で確かめてみたくなるだろう。
ただ、広い広い荒野を横切ってジャングルに向かい、無事に帰って来られるのはメルフィさんみたいな特殊な訓練を受けた人だけだ。
さらにジャングルには荒野に棲む魔獣とは比べ物にならないほど強い魔獣も生息している。
それらを追い払いながら自分も植物探しを手伝おうと思っているのなら……残念ながら無謀だと言わざるを得ない。
俺は自分の身を守れるが、人の身の安全までは保証出来ない。
あのジャングルとはそういう場所……。
ここはキッパリと断って、諦めてもらうのが正解だ。
「……少し時間をください。そのための手段を考えてみます」
思考とは裏腹に、俺の口からはそんな言葉が出た。
俺はヘルガさんのことをまだよく知らない。
この街に流れ着いた理由もハッキリしない。
ほとんど出会ったばかりの俺たちには、まだ話せないこともあるんだろう。
でも、職人としての情熱は本物だ。
彼女とこれからもこの街で暮らしていくのなら、その願いを叶えることでもっと深く関わっていけるような……そんな気がするんだ。
「あ、ありがとう……! すっごい嬉しいっ! これからはガンジョー神と呼ばせてくれ!」
「いや、それはちょっと大仰過ぎるような……」
「ガンジョー神、万歳っ! ガンジョー神、最高っ!」
まだジャングルに行けることが確定していないのに、すごい喜びようだ……!
こりゃ、後から「その手段は見つかりませんでした……」なんて言えない。
絶対に何かしらのアイデアを出さなければ!
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