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第3章 ゴーレム大地を照らす
第52話 ゴーレムと地平線
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「すごい……! すごいです……っ!」
マホロは展望台に出ると、落下防止の柵を掴んで遠くを見つめる。
柵はとびきり頑丈に作ってあるし、高さはマホロの身長を優に超える。
景色に感動しているマホロがいくら体重をかけたって、落下することはない。
「ああ……本当にすごいな……!」
俺もマホロを追って外に出て、どこまでも広がる世界を見つめる。
人間だった頃、特に高所恐怖症ではなかったが、バンジージャンプとかスカイダイビングなんかはごめんな小市民だった。
だが、今は高所にいる恐怖よりも感動が圧倒的に勝つ。
落下してもおそらく死にはしないゴーレムの体というのもあるだろうけど、それにしたって展望台から見える景色は素晴らしいんだ。
何か目に見えて目立つ物が見えるわけではない。
百メートルの高さをもってしても、広い広い荒野の向こうにある物はほとんど見えない。
それゆえに綺麗な地平線が見えるんだ。
マホロと一緒に、柵に沿ってぐるりと展望台を一周する。
どこまでもどこまでも荒野は広がり、ほぼ三百六十度の地平線がそこにある。
そして、空もどこまでも広がっている。
太陽が地平線に沈みつつあるこの時間は、空が明るい赤と深い青で二分されいる。
昼と夜の境界、そのちょうど真ん中にいるような感覚……。
月も見え、東の地平線近くには星も現れ始めている。
何ともノスタルジーというか、少し悲しくて懐かしい気持ちになる時間帯だ。
「ガンジョーさん、南の方には廃鉱山がある山々が見えますね!」
「流石にあの規模の山は、ここからでも見ることが出来るみたいだな。ジャングルやオアシスに比べて、街からの距離も近いからね」
逆に言えば、それ以外の物は本当に見えない。
北にあるというここから一番近い街も見えないし、ジャングルやオアシスも見えない。
これはこの世界が球体状の物体……星の上にある世界だという証拠だ。
地面が丸みを帯びているから、遠くにある物ほど地平線に隠れてしまう。
それは光も同じだ。この地平線の向こうまでは光も届かない。
だが、今見えている範囲……こんなに広い世界に光が届くとも言える。
この灯台の光が必ず、誰かの道しるべになるはずだ。
俺とマホロは太陽が地平線に沈むまで、ずっと景色を眺めていた。
空が暗くなり、満天の星明りが俺たちを照らし始めた頃……他のみんなが展望台に出て来ていないことに気づいた。
「メルフィにノルンにおじさん……どうして、こっちに来ないんですか?」
2人と1匹は扉付近で四つん這いになりながら震えていた。
「マ、マホロ様……! 私はどうやら……高いところが苦手のようです……!」
「ニャ……! ニャアア……!」
四つん這いのメルフィさんはノルンと身を寄せ合い、まるでネコのようだった。
「い、いやぁ……俺は高いところも案外平気なんじゃないかって思ってたんだけどなぁ……! そもそも百メートルの灯台の話をしたのは俺だし、俺がこの高さを恐れるわけにはいかないと思ってたが……やっぱりこの高さは怖い……ッ! 高すぎる……ッ!」
おじさんは勇気を出して立とうとしているが、脚が震えて立てないようだ。
まるで生まれたての小鹿……と思っても、流石に口には出さなかった。
「ごめんなさい、無理やり連れてくるような形になってしまって……」
マホロがそう謝ると、メルフィさんは震える脚で立ち上がった。
「いえ……! 私は自分の意志で、マホロ様が夢見た景色を一緒に見たいと思ったまでです……! それに自分が住んでいる場所を俯瞰するというのは、貴重な経験ですから……!」
そうだ……俺たちは遠くばかり見て、真下にある瓦礫の街をあまり見ていない。
振り返って街の方を見下ろすと、夜の街は灯籠の温かな光に包まれていた。
「美しい……」
俺の口から自然と言葉が漏れた。
小さな小さな街の夜景だけど、それを作り上げるまでにいろんなことをやって来たものだ。
この場所からなら、自分たちの軌跡を一目で振り返ることが出来る。
そして、広い広い荒野の中にこの街がある意味を再認識出来る。
「遠くだけじゃなくて、自分たちが今どこにいるのかも、この灯台から見渡すことが出来るんですね」
「本当にこの灯台を作って良かった。この街の象徴にふさわしい物だと思う」
「ガンジョーさん、この街に新しい名前を付けませんか?」
「新しい名前?」
「元々街があった場所ですから、元の街の名前は存在すると思うんです。でも、今はもう別物になって来ています。だから、私たちで考えた新しい名前が必要だと思ったんです!」
なるほど、マホロの主張はもっともだ。
瓦礫がたくさんあるから『瓦礫の街』と呼称しているけど、これからさらに発展していけば瓦礫は減っていくし、そもそも今でさえ防壁の中にはほとんど瓦礫は存在しない。
「いいね。新しい名前、俺も必要だと思う。でも、俺はネーミングセンスに自信がなくって……」
「その……私、もうアイデアがあるんです。聞いてくれますか?」
「もちろん!」
「えっと、瓦礫の中からよみがえった街ですから瓦礫の要素は残したくって、それでいて今の住みやすくなった街のことも伝えるつもりで……」
マホロは少しの間もじもじした後、意を決して言った。
「瓦礫の楽園……『ラブルピア』です」
マホロは展望台に出ると、落下防止の柵を掴んで遠くを見つめる。
柵はとびきり頑丈に作ってあるし、高さはマホロの身長を優に超える。
景色に感動しているマホロがいくら体重をかけたって、落下することはない。
「ああ……本当にすごいな……!」
俺もマホロを追って外に出て、どこまでも広がる世界を見つめる。
人間だった頃、特に高所恐怖症ではなかったが、バンジージャンプとかスカイダイビングなんかはごめんな小市民だった。
だが、今は高所にいる恐怖よりも感動が圧倒的に勝つ。
落下してもおそらく死にはしないゴーレムの体というのもあるだろうけど、それにしたって展望台から見える景色は素晴らしいんだ。
何か目に見えて目立つ物が見えるわけではない。
百メートルの高さをもってしても、広い広い荒野の向こうにある物はほとんど見えない。
それゆえに綺麗な地平線が見えるんだ。
マホロと一緒に、柵に沿ってぐるりと展望台を一周する。
どこまでもどこまでも荒野は広がり、ほぼ三百六十度の地平線がそこにある。
そして、空もどこまでも広がっている。
太陽が地平線に沈みつつあるこの時間は、空が明るい赤と深い青で二分されいる。
昼と夜の境界、そのちょうど真ん中にいるような感覚……。
月も見え、東の地平線近くには星も現れ始めている。
何ともノスタルジーというか、少し悲しくて懐かしい気持ちになる時間帯だ。
「ガンジョーさん、南の方には廃鉱山がある山々が見えますね!」
「流石にあの規模の山は、ここからでも見ることが出来るみたいだな。ジャングルやオアシスに比べて、街からの距離も近いからね」
逆に言えば、それ以外の物は本当に見えない。
北にあるというここから一番近い街も見えないし、ジャングルやオアシスも見えない。
これはこの世界が球体状の物体……星の上にある世界だという証拠だ。
地面が丸みを帯びているから、遠くにある物ほど地平線に隠れてしまう。
それは光も同じだ。この地平線の向こうまでは光も届かない。
だが、今見えている範囲……こんなに広い世界に光が届くとも言える。
この灯台の光が必ず、誰かの道しるべになるはずだ。
俺とマホロは太陽が地平線に沈むまで、ずっと景色を眺めていた。
空が暗くなり、満天の星明りが俺たちを照らし始めた頃……他のみんなが展望台に出て来ていないことに気づいた。
「メルフィにノルンにおじさん……どうして、こっちに来ないんですか?」
2人と1匹は扉付近で四つん這いになりながら震えていた。
「マ、マホロ様……! 私はどうやら……高いところが苦手のようです……!」
「ニャ……! ニャアア……!」
四つん這いのメルフィさんはノルンと身を寄せ合い、まるでネコのようだった。
「い、いやぁ……俺は高いところも案外平気なんじゃないかって思ってたんだけどなぁ……! そもそも百メートルの灯台の話をしたのは俺だし、俺がこの高さを恐れるわけにはいかないと思ってたが……やっぱりこの高さは怖い……ッ! 高すぎる……ッ!」
おじさんは勇気を出して立とうとしているが、脚が震えて立てないようだ。
まるで生まれたての小鹿……と思っても、流石に口には出さなかった。
「ごめんなさい、無理やり連れてくるような形になってしまって……」
マホロがそう謝ると、メルフィさんは震える脚で立ち上がった。
「いえ……! 私は自分の意志で、マホロ様が夢見た景色を一緒に見たいと思ったまでです……! それに自分が住んでいる場所を俯瞰するというのは、貴重な経験ですから……!」
そうだ……俺たちは遠くばかり見て、真下にある瓦礫の街をあまり見ていない。
振り返って街の方を見下ろすと、夜の街は灯籠の温かな光に包まれていた。
「美しい……」
俺の口から自然と言葉が漏れた。
小さな小さな街の夜景だけど、それを作り上げるまでにいろんなことをやって来たものだ。
この場所からなら、自分たちの軌跡を一目で振り返ることが出来る。
そして、広い広い荒野の中にこの街がある意味を再認識出来る。
「遠くだけじゃなくて、自分たちが今どこにいるのかも、この灯台から見渡すことが出来るんですね」
「本当にこの灯台を作って良かった。この街の象徴にふさわしい物だと思う」
「ガンジョーさん、この街に新しい名前を付けませんか?」
「新しい名前?」
「元々街があった場所ですから、元の街の名前は存在すると思うんです。でも、今はもう別物になって来ています。だから、私たちで考えた新しい名前が必要だと思ったんです!」
なるほど、マホロの主張はもっともだ。
瓦礫がたくさんあるから『瓦礫の街』と呼称しているけど、これからさらに発展していけば瓦礫は減っていくし、そもそも今でさえ防壁の中にはほとんど瓦礫は存在しない。
「いいね。新しい名前、俺も必要だと思う。でも、俺はネーミングセンスに自信がなくって……」
「その……私、もうアイデアがあるんです。聞いてくれますか?」
「もちろん!」
「えっと、瓦礫の中からよみがえった街ですから瓦礫の要素は残したくって、それでいて今の住みやすくなった街のことも伝えるつもりで……」
マホロは少しの間もじもじした後、意を決して言った。
「瓦礫の楽園……『ラブルピア』です」
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