上 下
50 / 86
第3章 ゴーレム大地を照らす

第50話 ゴーレムとマホロの本心

しおりを挟む
 灯台が完成してから、しばらくは誰も言葉を発することが出来なかった。
 ほんの少し前まで何もなかった場所に、まるでずっとここにあったかのようにそびえ立つ灯台。

 マホロの発想、おじさんの設計、そしてガイアさんの究極大地魔法……。
 俺も素材集めにはかなり尽力じんりょくさせてもらった。
 みんなの願いと力の結晶がこの灯台なんだ。

 入口扉は金属製だけど、これは瓦礫の海に転がっていた物ではなく、俺がおじさんの設計通りに金属を加工して作った新品だ。
 扉以外にも新たな金属の加工を行い、灯台を設計図通りに作り上げることに成功している。

 これまで苦手ながらも、幾度いくどとなく金属と触れ合って来た結果がここに実を結んだ。
 複雑な機械とかでなければ、これからも金属製品を作っていける!

「……みんな、ありがとう。みんなのおかげで完成した灯台だ」

 最初に俺が沈黙を破って、みんなにお礼を言った。
 お世辞とか、気遣いではなく、本気でみんなのおかげだと思っているんだ。

 俺だけではこんな立派な建造物のアイデアが頭の中でまとまらない。
 それはつまり、決して作り出すことは出来ないということだ。

「こちらこそ、ありがとうございます! 私の願いを形にしていただいて……!」

 マホロはすでに目が潤んでいる。
 これから展望台に上って、高さ百メートルの景色を見ることになるんだ。
 まだ泣くまいと、こらえているのが伝わって来る。

「正直、実感が湧かねぇ……。あの設計図の建物が、こんなすぐに完成品になるなんて、なかなか頭が受け入れねぇんだ……。でも、嬉しいって気持ちは湧き上がって来る……! 俺を頼ってくれてありがとうよ、マホロ嬢ちゃん、ガンジョーの旦那!」

 おじさんはニィッと笑ってみせた。
 責任を持って仕事をまっとうしてくれる、本当に頼れる人だ。

 だが、灯台として完全な完成にはまだ一仕事残っている。
 レンズの中の火の魔宝石が、まだ炎を灯していないようなのだ。
 最初の点火は灯台の建造とはまた別ということで、ガイアさんがあえてやらなかったんだろう。

 点火の役目はマホロかおじさんがふさわしい。
 俺は展望台まで登ることは出来ないし、点火の命令権を誰かに譲渡じょうと出来るように、ガイアさんにお願いしてみよう。

「さあ、みんなは灯台に上って展望台からの景色を楽しんで来てください。俺はここで待っていますから」

 正直な気持ちを言えば、俺も灯台に上って展望台からの景色が見たかった。
 だが、俺を受け入れられるサイズの灯台は、規模が数倍大きい建物になってしまう。
 必要な素材の数が増え、設計もさらに大掛かりになるだろう……。

 それに細さというか、建物としてのスマートさも失われる。
 個人的に灯台というのは、闇夜にシュッとそびえ立つ白く細身のシルエットがいいと思っている。
 今のこの形状がベストで、これ以上はないんだ。

「……嫌です」

「マホロ……?」

「やっぱり、ガンジョーさんも一緒に上ってくれないと嫌です! ガンジョーさんも頑張ったのに、置いてけぼりで景色なんて楽しめません!」

 俺が上れないのは最初からわかっていただろうに、マホロは珍しくわがままを言い出した。
 完成した実物を見て、気持ちが変わったのだろうか……。

「マホロ様……それは灯台のサイズ的に難しいと、聡明そうめいなあなたならわかっているはずです」

 メルフィさんが落ち着かせるようにさとすが、今回のマホロは止まらない。

「それでも……私はガンジョーさんと一緒がいいんです! 何とか出来ないんですか……? 体を小さくするとか……!」

 体を小さく……か。
 それを考えたことがなかったわけではない。
 だが、実現出来ない事情はちゃんとある。

〈この体を構成する岩石のすべてがガイアゴーレムなのです。体内収納ストレージに地属性物質を溜め込むことで見かけ上は大きくなれますが、小さくはなれません。存在を維持するために必要な分の岩石を切り離せば、定着している魂『ガンジョー』やガイアの力『究極大地魔法』を失う恐れがあります〉

 マホロに召喚された時のガイアゴーレム……それがガイアゴーレムとして最小の姿なんだ。
 それ以上に小さくなるというのは、人間で言うなら内臓をごっそり抜く行為に近い。
 体の機能を失うリスクをってまで、小さくなろうと俺は思えなかった。

 マホロは賢い子だ。今のガイアさんの説明で、小さくなれない理由を十分理解して……。
 いや、別に説明なんてされなくたって、俺がどうしても小さくなれないってマホロは十分にわかっていたはずだ。

 それでも、俺と一緒に展望台からの景色を見たかったから……。
 俺がすぐに諦めてしまったから、マホロにわがままを言わせてしまった……。

「マホロ……。ガイアさんはこう言ってるけど、俺はもう少し頑張ってみようと思うよ」

「えっ……!?」

〈言葉の意味が理解出来ません〉

 マホロにもガイアさんにも困惑される。
 でも、俺だってこの岩石の体の持ち主なんだ。
 この体でこの世界に触れ、魔法を使っていろんなことをして来た。

「俺にいい考えがある!」

 自分で考えた自分なりのアイデア。
 それを実行してみる価値はあるはずだ。

〈警告:岩石の分離による小型化は今すぐ中止してください〉

「分離はしませんよ、ガイアさん。重量だって減らさない。何かを取り除いて小型化はしません」

〈……!?〉

「ガイアゴーレムという存在が持つ情報を圧縮する。体の密度を高め、体積を減らす」

 要するにガイアゴーレムを構成するために必要な情報が失われなければいいんだ。
 世の中に密度の高い物質が存在するように、この岩石の体をより密度の高い物質へと変えることが出来れば……!

「ぐぬぬぬぬぬぬ…………ッ!」

〈存在を構成する情報を圧縮……体を構成する岩石の密度が急上昇……魂を中心としてガイアゴーレムがより高密度かつ高機能な存在へと変質……!?〉

 戸惑うガイアさんの声が響く中、俺の体がまばゆい光を放つ。
 そして――新たなゴーレムが誕生する。

FOAMフォーム_CHANGEチェンジ______METALメタル

 三メートル強あった身長が二メートル以下となり、巨大だった胴体や腕、肩幅が人間のサイズに近くなった。
 相対的に脚が伸び、頭部は小型化、そのシルエットはスマートなものになる。

 そして何より……体を構成する物質が岩石から鋼鉄に変わっているんだ。

「これが新たな姿……メタルゴーレム!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...