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第3章 ゴーレム大地を照らす
第50話 ゴーレムとマホロの本心
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灯台が完成してから、しばらくは誰も言葉を発することが出来なかった。
ほんの少し前まで何もなかった場所に、まるでずっとここにあったかのようにそびえ立つ灯台。
マホロの発想、おじさんの設計、そしてガイアさんの究極大地魔法……。
俺も素材集めにはかなり尽力させてもらった。
みんなの願いと力の結晶がこの灯台なんだ。
入口扉は金属製だけど、これは瓦礫の海に転がっていた物ではなく、俺がおじさんの設計通りに金属を加工して作った新品だ。
扉以外にも新たな金属の加工を行い、灯台を設計図通りに作り上げることに成功している。
これまで苦手ながらも、幾度となく金属と触れ合って来た結果がここに実を結んだ。
複雑な機械とかでなければ、これからも金属製品を作っていける!
「……みんな、ありがとう。みんなのおかげで完成した灯台だ」
最初に俺が沈黙を破って、みんなにお礼を言った。
お世辞とか、気遣いではなく、本気でみんなのおかげだと思っているんだ。
俺だけではこんな立派な建造物のアイデアが頭の中でまとまらない。
それはつまり、決して作り出すことは出来ないということだ。
「こちらこそ、ありがとうございます! 私の願いを形にしていただいて……!」
マホロはすでに目が潤んでいる。
これから展望台に上って、高さ百メートルの景色を見ることになるんだ。
まだ泣くまいと、こらえているのが伝わって来る。
「正直、実感が湧かねぇ……。あの設計図の建物が、こんなすぐに完成品になるなんて、なかなか頭が受け入れねぇんだ……。でも、嬉しいって気持ちは湧き上がって来る……! 俺を頼ってくれてありがとうよ、マホロ嬢ちゃん、ガンジョーの旦那!」
おじさんはニィッと笑ってみせた。
責任を持って仕事をまっとうしてくれる、本当に頼れる人だ。
だが、灯台として完全な完成にはまだ一仕事残っている。
レンズの中の火の魔宝石が、まだ炎を灯していないようなのだ。
最初の点火は灯台の建造とはまた別ということで、ガイアさんがあえてやらなかったんだろう。
点火の役目はマホロかおじさんがふさわしい。
俺は展望台まで登ることは出来ないし、点火の命令権を誰かに譲渡出来るように、ガイアさんにお願いしてみよう。
「さあ、みんなは灯台に上って展望台からの景色を楽しんで来てください。俺はここで待っていますから」
正直な気持ちを言えば、俺も灯台に上って展望台からの景色が見たかった。
だが、俺を受け入れられるサイズの灯台は、規模が数倍大きい建物になってしまう。
必要な素材の数が増え、設計もさらに大掛かりになるだろう……。
それに細さというか、建物としてのスマートさも失われる。
個人的に灯台というのは、闇夜にシュッとそびえ立つ白く細身のシルエットがいいと思っている。
今のこの形状がベストで、これ以上はないんだ。
「……嫌です」
「マホロ……?」
「やっぱり、ガンジョーさんも一緒に上ってくれないと嫌です! ガンジョーさんも頑張ったのに、置いてけぼりで景色なんて楽しめません!」
俺が上れないのは最初からわかっていただろうに、マホロは珍しくわがままを言い出した。
完成した実物を見て、気持ちが変わったのだろうか……。
「マホロ様……それは灯台のサイズ的に難しいと、聡明なあなたならわかっているはずです」
メルフィさんが落ち着かせるように諭すが、今回のマホロは止まらない。
「それでも……私はガンジョーさんと一緒がいいんです! 何とか出来ないんですか……? 体を小さくするとか……!」
体を小さく……か。
それを考えたことがなかったわけではない。
だが、実現出来ない事情はちゃんとある。
〈この体を構成する岩石のすべてがガイアゴーレムなのです。体内収納に地属性物質を溜め込むことで見かけ上は大きくなれますが、小さくはなれません。存在を維持するために必要な分の岩石を切り離せば、定着している魂『ガンジョー』やガイアの力『究極大地魔法』を失う恐れがあります〉
マホロに召喚された時のガイアゴーレム……それがガイアゴーレムとして最小の姿なんだ。
それ以上に小さくなるというのは、人間で言うなら内臓をごっそり抜く行為に近い。
体の機能を失うリスクを負ってまで、小さくなろうと俺は思えなかった。
マホロは賢い子だ。今のガイアさんの説明で、小さくなれない理由を十分理解して……。
いや、別に説明なんてされなくたって、俺がどうしても小さくなれないってマホロは十分にわかっていたはずだ。
それでも、俺と一緒に展望台からの景色を見たかったから……。
俺がすぐに諦めてしまったから、マホロにわがままを言わせてしまった……。
「マホロ……。ガイアさんはこう言ってるけど、俺はもう少し頑張ってみようと思うよ」
「えっ……!?」
〈言葉の意味が理解出来ません〉
マホロにもガイアさんにも困惑される。
でも、俺だってこの岩石の体の持ち主なんだ。
この体でこの世界に触れ、魔法を使っていろんなことをして来た。
「俺にいい考えがある!」
自分で考えた自分なりのアイデア。
それを実行してみる価値はあるはずだ。
〈警告:岩石の分離による小型化は今すぐ中止してください〉
「分離はしませんよ、ガイアさん。重量だって減らさない。何かを取り除いて小型化はしません」
〈……!?〉
「ガイアゴーレムという存在が持つ情報を圧縮する。体の密度を高め、体積を減らす」
要するにガイアゴーレムを構成するために必要な情報が失われなければいいんだ。
世の中に密度の高い物質が存在するように、この岩石の体をより密度の高い物質へと変えることが出来れば……!
「ぐぬぬぬぬぬぬ…………ッ!」
〈存在を構成する情報を圧縮……体を構成する岩石の密度が急上昇……魂を中心としてガイアゴーレムがより高密度かつ高機能な存在へと変質……!?〉
戸惑うガイアさんの声が響く中、俺の体がまばゆい光を放つ。
そして――新たなゴーレムが誕生する。
〈FOAM_CHANGE______METAL〉
三メートル強あった身長が二メートル以下となり、巨大だった胴体や腕、肩幅が人間のサイズに近くなった。
相対的に脚が伸び、頭部は小型化、そのシルエットはスマートなものになる。
そして何より……体を構成する物質が岩石から鋼鉄に変わっているんだ。
「これが新たな姿……メタルゴーレム!」
ほんの少し前まで何もなかった場所に、まるでずっとここにあったかのようにそびえ立つ灯台。
マホロの発想、おじさんの設計、そしてガイアさんの究極大地魔法……。
俺も素材集めにはかなり尽力させてもらった。
みんなの願いと力の結晶がこの灯台なんだ。
入口扉は金属製だけど、これは瓦礫の海に転がっていた物ではなく、俺がおじさんの設計通りに金属を加工して作った新品だ。
扉以外にも新たな金属の加工を行い、灯台を設計図通りに作り上げることに成功している。
これまで苦手ながらも、幾度となく金属と触れ合って来た結果がここに実を結んだ。
複雑な機械とかでなければ、これからも金属製品を作っていける!
「……みんな、ありがとう。みんなのおかげで完成した灯台だ」
最初に俺が沈黙を破って、みんなにお礼を言った。
お世辞とか、気遣いではなく、本気でみんなのおかげだと思っているんだ。
俺だけではこんな立派な建造物のアイデアが頭の中でまとまらない。
それはつまり、決して作り出すことは出来ないということだ。
「こちらこそ、ありがとうございます! 私の願いを形にしていただいて……!」
マホロはすでに目が潤んでいる。
これから展望台に上って、高さ百メートルの景色を見ることになるんだ。
まだ泣くまいと、こらえているのが伝わって来る。
「正直、実感が湧かねぇ……。あの設計図の建物が、こんなすぐに完成品になるなんて、なかなか頭が受け入れねぇんだ……。でも、嬉しいって気持ちは湧き上がって来る……! 俺を頼ってくれてありがとうよ、マホロ嬢ちゃん、ガンジョーの旦那!」
おじさんはニィッと笑ってみせた。
責任を持って仕事をまっとうしてくれる、本当に頼れる人だ。
だが、灯台として完全な完成にはまだ一仕事残っている。
レンズの中の火の魔宝石が、まだ炎を灯していないようなのだ。
最初の点火は灯台の建造とはまた別ということで、ガイアさんがあえてやらなかったんだろう。
点火の役目はマホロかおじさんがふさわしい。
俺は展望台まで登ることは出来ないし、点火の命令権を誰かに譲渡出来るように、ガイアさんにお願いしてみよう。
「さあ、みんなは灯台に上って展望台からの景色を楽しんで来てください。俺はここで待っていますから」
正直な気持ちを言えば、俺も灯台に上って展望台からの景色が見たかった。
だが、俺を受け入れられるサイズの灯台は、規模が数倍大きい建物になってしまう。
必要な素材の数が増え、設計もさらに大掛かりになるだろう……。
それに細さというか、建物としてのスマートさも失われる。
個人的に灯台というのは、闇夜にシュッとそびえ立つ白く細身のシルエットがいいと思っている。
今のこの形状がベストで、これ以上はないんだ。
「……嫌です」
「マホロ……?」
「やっぱり、ガンジョーさんも一緒に上ってくれないと嫌です! ガンジョーさんも頑張ったのに、置いてけぼりで景色なんて楽しめません!」
俺が上れないのは最初からわかっていただろうに、マホロは珍しくわがままを言い出した。
完成した実物を見て、気持ちが変わったのだろうか……。
「マホロ様……それは灯台のサイズ的に難しいと、聡明なあなたならわかっているはずです」
メルフィさんが落ち着かせるように諭すが、今回のマホロは止まらない。
「それでも……私はガンジョーさんと一緒がいいんです! 何とか出来ないんですか……? 体を小さくするとか……!」
体を小さく……か。
それを考えたことがなかったわけではない。
だが、実現出来ない事情はちゃんとある。
〈この体を構成する岩石のすべてがガイアゴーレムなのです。体内収納に地属性物質を溜め込むことで見かけ上は大きくなれますが、小さくはなれません。存在を維持するために必要な分の岩石を切り離せば、定着している魂『ガンジョー』やガイアの力『究極大地魔法』を失う恐れがあります〉
マホロに召喚された時のガイアゴーレム……それがガイアゴーレムとして最小の姿なんだ。
それ以上に小さくなるというのは、人間で言うなら内臓をごっそり抜く行為に近い。
体の機能を失うリスクを負ってまで、小さくなろうと俺は思えなかった。
マホロは賢い子だ。今のガイアさんの説明で、小さくなれない理由を十分理解して……。
いや、別に説明なんてされなくたって、俺がどうしても小さくなれないってマホロは十分にわかっていたはずだ。
それでも、俺と一緒に展望台からの景色を見たかったから……。
俺がすぐに諦めてしまったから、マホロにわがままを言わせてしまった……。
「マホロ……。ガイアさんはこう言ってるけど、俺はもう少し頑張ってみようと思うよ」
「えっ……!?」
〈言葉の意味が理解出来ません〉
マホロにもガイアさんにも困惑される。
でも、俺だってこの岩石の体の持ち主なんだ。
この体でこの世界に触れ、魔法を使っていろんなことをして来た。
「俺にいい考えがある!」
自分で考えた自分なりのアイデア。
それを実行してみる価値はあるはずだ。
〈警告:岩石の分離による小型化は今すぐ中止してください〉
「分離はしませんよ、ガイアさん。重量だって減らさない。何かを取り除いて小型化はしません」
〈……!?〉
「ガイアゴーレムという存在が持つ情報を圧縮する。体の密度を高め、体積を減らす」
要するにガイアゴーレムを構成するために必要な情報が失われなければいいんだ。
世の中に密度の高い物質が存在するように、この岩石の体をより密度の高い物質へと変えることが出来れば……!
「ぐぬぬぬぬぬぬ…………ッ!」
〈存在を構成する情報を圧縮……体を構成する岩石の密度が急上昇……魂を中心としてガイアゴーレムがより高密度かつ高機能な存在へと変質……!?〉
戸惑うガイアさんの声が響く中、俺の体がまばゆい光を放つ。
そして――新たなゴーレムが誕生する。
〈FOAM_CHANGE______METAL〉
三メートル強あった身長が二メートル以下となり、巨大だった胴体や腕、肩幅が人間のサイズに近くなった。
相対的に脚が伸び、頭部は小型化、そのシルエットはスマートなものになる。
そして何より……体を構成する物質が岩石から鋼鉄に変わっているんだ。
「これが新たな姿……メタルゴーレム!」
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