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第3章 ゴーレム大地を照らす

第43話 ゴーレムと驚きの提案

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 火の魔宝石の炎で骨を清め終えた後は、石の棺を骨壺に変える作業を行う。
 そうして出来た骨壺を、俺はおじさんに手渡した。

「ありがとう、ゴーレムの旦那……。しばらくは家で一緒に過ごして……その後はここの立派な墓で眠らせてやってくれ」

「よろしければ小さい骨壺を作って、お墓と家で遺骨を分けるということも……」

 俺がそう言うと、おじさんはしばらく骨壺を見つめて押し黙った。
 その後、微笑みながら俺に言った。

「いや、全部墓に収めようと思う。家に置いとくと、ずっと息子のことばっか考えちまいそうで……。一生忘れることはないが、それを理由にいつまでも立ち止まってるようじゃ、ガッカリされちまうからな……! 願いは叶ったんだ。普段は少しだけ距離を置いて、自分のこれからを考えることにする」

「この霊園には街の人がいつでも入れるようにする予定です。埋葬した後も会いたくなった時には、いつでもここに来てあげてください」

「何から何までありがとう、ゴーレムの旦那……いや、ガンジョー殿! 俺はこんな男だが、いろいろかじって生きて来たから、それなりの知識はある。体だってまだ動く。必要とあらば、遠慮せずにいつでも使ってくれ! それが俺に出来る精一杯の礼だ!」

「こちらこそ、これからもお世話になります。クラウスさん」

「へへ……クラウスさんなんて久しぶりに呼ばれたから、何だかむずがゆいな……! これからも気軽におじさんって呼んでくれても構わないからな!」

 そう言って、クラウスさん……おじさんは骨壺を大事に抱えて街の方へ帰って行った。
 霊園には俺とマホロだけが残っている。

「ガンジョーさん……灯台を作りましょう」

「ああ……えっ、灯台?」

 マホロの謎の発言……!
 おじさんの背中を見送っていた俺は生返事をしてしまったが、すぐに違和感を覚えて聞き直す。

「灯台って、あの海を進む船を導く……あの灯台?」

「はい、その灯台です! 魔宝石の炎を見て、思いついたんです!」

 海も船もなく、周りを殺風景な荒野に囲まれている瓦礫の街に……灯台?
 なぜマホロがそんなことを言い出したのか、俺は検討もつかなかった。

「どうして、灯台を作ろうと思うんだい?」

 わからないので素直に尋ねる。
 俺の問いに対して、マホロは真剣なまなざしで答えた。

「この瓦礫の街には、行き場を失った人たちが流れ着いて来ます。ですが、あの何もない荒野を通ってこの街までやって来るのは、本来とっても困難なことなんです」

「それは確かに……」

 俺もジャングル帰りに日没後の荒野を走ったことがあるからわかる……。

 あの時は傷ついたノルンを抱えていたから、孤独を感じている余裕がなかった。
 しかし、もし一人であの闇の中に放り出されたのなら……ゴーレムの頑丈な体と方角を知る方位磁石コンパスをもってしても、街に帰ることが出来るか不安になっていただろう。

「私はこの土地を治める領主の娘なので、荒野の先に瓦礫の街があること自体は知っていました。そして何より、不安と恐怖で震える私をメルフィがいつも励ましてくれたから、諦めずにここまで来ることが出来ました。ですが、確かなことを知らないまま、孤独に荒野をさまよう人は……」

「……きっと、そのほとんどが歩みを止めて、いずれ魔獣の餌食えじきになってしまう」

「はい……。だから、私は暗闇の荒野に光を灯したいんです。行き場を失いさまよう人に、この街の存在を伝えたい。その人にとって、ここが新しい居場所になるかもしれないから……」

 瓦礫の街への道しるべ、人々を導く光……灯台。
 それがあれば、瓦礫の街に無事たどり着ける人は増えるだろう。

 流石はマホロだ。
 今、ここにいない人のことまで考えて動こうとしている。

「それと灯台には鎮魂の意味もあるんです。鉱山で、荒野で、この街で……倒れてしまった人たちの魂を天へと導くために、消えない炎を灯したいって思ったんです」

「生きている人も、亡くなった人も、ひとしく導く消えない炎の灯台……すごく素敵だ。この腕輪の魔宝石の使い道としてピッタリだと思う」

 火の魔宝石の燃やしたい物だけを燃やす炎は、戦いでも日常生活でも便利に使えるだろう。
 でも、何かを燃やすだけなら火の魔鉱石で事足りる場面も多いと思う。

 等級の高い魔宝石から生み出される炎の輝きは、きっと遠くまで届く。
 荒野を照らし、人々を導く役目は、子どもの無事を願って作られたこの腕輪にこそふさわしい。

「みんなで作ろう、この街に消えない炎の灯台を」

「はい! 微力びりょくながら私もお手伝いします!」

「マホロにもおじさんにも手伝ってもらうよ。俺だけじゃ灯台なんて大きな建造物は作れないからね」

「おじさんにも……ですか?」

 マホロが不思議そうに首をかしげる。

「俺が今までやって来たのは、まだギリギリ原型と留めている建物の修復や、防壁みたいなシンプルな建造物の作成だ。でも、灯台みたいな元々この街に存在しない上に、内部構造まで一から考える必要のある複雑な建造物は……魔法はあっても知識のない俺には作れない」

 人間だった頃、建築関係の仕事をしたことは一度もないからな。
 灯台と言われてその姿は思い浮かぶけど、それがどのように建てられているかはまったくわからない。

「だからこそ、建築業をかじってると言っていたおじさんの力が必要なんだ。おじさんに設計図を作ってもらって、それを3Dモデルに反映、それから素材を集めて、魔法で作り上げることになる」

「おお……! 何だか一大プロジェクトです……!」

「マホロにはデザイン面で意見を出してもらうよ。どんな雰囲気の灯台にしたいか、マホロのセンスを存分に発揮してくれ」

「はい! 私の思う最高の灯台を考えます!」

 マホロは右手をおでこに当て、ビシッと敬礼する。

「ただ……おじさんにこの話をするのはもう少し後にしよう。しばらくして、また向こうから話しかけてくれるくらい元気になったら、このプロジェクトを話して進めていこう」

「はい、今は二人きりの時間が必要だと思いますから……」

「その間、俺たちは亡骸を埋葬することに集中しよう。まだまだ先は長そうだからね」

 おじさんは強い人だ。必ず前に進める。
 俺たちはそれまで、やるべきことをやって待とう。
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