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第3章 ゴーレム大地を照らす

第41話 ゴーレムと埋葬

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 二度目ともなると正座してレールの上を走るのにも慣れて来る。
 廃鉱山に到着したら、まずは亡骸を街まで運搬するためのトロッコ……それも一枚板に車輪を取り付けたような台車タイプのトロッコを探して、あらかじめ帰りのレールの上に何台も乗せておく。

 次に坑道の中へと入って行き、地面を照らしながら亡骸を探す。
 効率的な探し方や運び出す順番なんて考えない。
 見つけたかたから徹底的に外へ運んでいく。

 長い年月を経て亡骸は白骨化していて、衣服はほとんど朽ちている。
 でも、金属製の装飾品なんかは形を残している物が多い。
 それらは亡骸が誰なのかを判断する材料になる。
 文字通り一つも残さず、骨と一緒に運び出す。

 亡骸が横たわっている地面をそのまま底面ていめんにした石の棺を魔法で作り出し、その上にフタもしっかりと被せる。
 ゴーレムの大きな手じゃ小さな骨や遺品を拾い切れないから、地面ごと街まで持って帰ろうという寸法だ。
 重いフタを被せることで、運搬中に中身が飛んで行くことも防げる。

 せっかく坑道の外に出れたのにまた窮屈な思いをさせてしまうが、これも正しい埋葬のためだと思ってもう少しだけ我慢してもらおう。

 担いで運び出した石の棺は台車にどんどん載せていく。
 そして、廃鉱山に放置されていた錆びた鎖を修繕して台車にガッチリ固定する。
 レールの上を走っている最中に振り落としたら大変だからな。

 ゴーレムの巨体でも、石の棺を一度に何個も坑道の中から運び出すことは出来ない。
 それだけ運搬にも時間と根気を要するが……必ず全員街に連れて帰ってみせる。
 今日で終わらなくても明日、明日で終わらなくても明後日……最後まで探し続ける。

「……よし、今回はここまでにしよう」

 俺のお尻に連結する台車は10台。載せた石の棺は20個になった。
 骨と遺品を取り逃さないための石の棺は、どうしても大きい物になる。

 ゆえに1台の台車に2個しか載せられないけど……上に重ねるのは安定性を欠くし、何だか申し訳ない気がする。
 これでいいんだ。俺が何度でも街と廃鉱山を往復すればいい。

「連結は問題ない……じゃあ、出発!」

 ……俺の体はすぐには動かなかった。
 この連結された台車の重量が半端ないから、動き出すまでに相当な運動エネルギーが必要なんだ。

「ふん……ふんぬっ!!」

 腹とお尻に力を入れてすねの車輪を回し、何とか俺の体は前へと進み出した。
 車輪の回転にも、光魔鉱石の点灯にも、石の棺の作成にも魔力を使う。
 無理して魔力が枯渇し、動けなくなることだけは避けないとな。

 何はともあれ、これで一回目の運搬は無事に完了しそうだ。

 ◇ ◇ ◇

 街に帰って来た俺は、石の棺を出来たばかりの霊園へと運ぶ。
 この作業も相当に力がいるので、マホロには任せられない。

 また、棺のフタを開ける時もマホロを遠ざけておいた。
 坑道の中でフタをして密封したので、棺の中にはガスが入っているからな。

「フタを開けてしばらく経ったし、もうガスは薄まって流れたと思うけど……。マホロ、本当に大丈夫なんだね?」

「はい! 問題ありません!」

 すでに白骨化していてあまりグロテスクではないとはいえ、やっぱり子どもに人の亡骸をいくつも見せ続けるのには抵抗があった。
 それでもマホロには現実を直視する勇気があるようだ。

「じゃあ……こっちにおいで」

 マホロを石の棺の近くに呼び、その中身を見せる。

「…………」

 顔をしかめることも、おびえることもなく、マホロは静かに数秒目を閉じた。

「埋葬を始めましょう、ガンジョーさん」

 開かれたマホロの目には、変わらぬ覚悟が宿っていた。

「ああ、やろう」

 最初は……そうだ。この亡骸が誰なのか判別する物を探さないといけない。
 衣服は朽ちているし、金属製の装飾品にヒントを求めるしかないな。

「このネックレスっぽい物に名前が刻んであればいいんだけど……」

「あっ! 人の名前っぽい文字が刻んでありますよ!」

 マホロがネックレスに取り付けられていた金属製のタグを見て言った。
 所持品に刻まれた名前なら、本人のものである可能性が高い。
 さらに探してはみたが、他に名前らしきものが刻まれた遺品は見つからなかった。

「よし、この名前を墓石に刻んでおこう」

 正しいか、間違っているかを判断する材料がない以上、見つかったものを暫定ざんてい的に刻んでいくのがベターだろう。
 間違いを指摘してくれる人が見つかったら、また刻み直せばいい。

 そうして墓石に名前を刻んだら、ネックレスを含めた遺品を石の小箱に収納し、墓石の前の地面に埋め込んでおく。
 その後、石の棺の中に残った骨と朽ちた衣服などを焼いて清める。

「廃鉱山で純度高めの火魔鉱石を拾って来たよ」

「ガンジョーさん……!」

 マホロが不安そうな顔をするので、俺は慌ててフォローする。

「大丈夫! ちゃんと帰ってくる前に試しで使ってるからさ! 爆発したりしないよ……!」

 石の純度が高いので、試した時はかなり込める魔力を減らしたつもりがすさまじい炎が出た。
 魔獣との戦闘では相当役に立ちそうな火力だったけど、清めの炎にはやり過ぎだ。
 ちゃんと事前に練習した火力で骨を焼いていく。

 魔力の炎が石の棺の中に満ち、数分で綺麗な白い骨だけが残った。
 ここまで来たら後は石の棺の形を変えて、そのまま適切な大きさの骨壺にする。
 運搬から埋葬まで骨の一つも取り逃さない、我ながら上手いやり方だと思う。

「後は壺にフタをして……」

「あの、ガンジョーさん……少しの間だけでも、フタを開けたままにしておきませんか? 骨を狙う飛行魔獣もいるので、ずっと外には出しておけませんけど、暗い坑道の中から出て来たばかりの今くらいは空の下に……」

「そうだね、マホロの言う通りだ。何なら今晩は俺がここで夜が明けるまで、骨を魔獣から守り続けてもいいくらいさ」

「ありがとうございます、ガンジョーさん!」

 これくらいのことしか俺には出来ない。
 でも、そうすることで俺の気持ちも救われる……そんな気がした。

「次の人も骨を清めて骨壺に収めるまではやっておこう」

「はい!」

 一度手順を覚えたら、埋葬の一歩手前までの作業はとどこおりなく進んだ。
 特に今回運んで来た亡骸はみんな金属製のタグを身につけていて、すぐに名前が判明したのが嬉しい誤算だった。
 鉱山での仕事に従事する人たちには、タグの所持が義務付けられていたのかもしれない。

 ただ、大人数の埋葬はやはり精神的に来るものがあったのも事実……。
 ペンダントの中に残っていた誰かとの写真を見たり、金属のタグに後から刻み込んだであろう他の人の名前を見たり……。

 それでも俺とマホロは折れずに役目を果たし、ついに二十人目の埋葬に取りかかった。

「このお方、赤い宝石付きの腕輪をしていたようですね。こちらにも名前が刻まれています」

「どれどれ……あれ? 名前がタグに刻まれたものと違っているような……」

 マホロが持つ宝石のついた腕輪と俺が持つ金属製のタグ。
 刻まれている名前の家名は一緒だが、名前が違っているようだ。
 まあ、この場合は金属製のタグを信用するべきだろうな。

「えっと、ヘンリック・エーデルシュタインさん……か」

「ヘンリック……ッ!」

 突然、俺とマホロの背後から声をかけてきたのは……教会の前に住むおじさんだった。
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