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第2章 ゴーレム大地を潤す
第25話 ゴーレムとジャングル
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翌日――俺はマホロとメルフィさんに送り出され、ジャングルに来ていた。
目的は主に二つ。
ジャングルに自生する野菜や果物、薬草などの調達。
そして、おじさんに教えてもらったジャングルを流れる大河の確認だ。
前者は食料の確保と同時に、裏庭の畑で育てる植物を増やす意味もある。
メルフィさんが持っていた植物図鑑の内容はある程度インプットしてあるから、食べられる物、食べられない物の区別はつく。
日没までにどれだけ背中のコンテナに詰め込めるかが勝負だな。
後者は水路を作るために必要な作業になる。
街から真っすぐ東に進んで、最初に川にぶつかる地点に向かい、そこまで水路を引けるかどうかを考える。
ジャングルは俺が思い描くジャングルそのままで、平坦な地面などほとんどない。
鬱蒼と草木が茂っていたり、大木の太い根が地表まで盛り上がっていたりする。
俺としてはこれらを除去しながら、地下に水路を走らせたいなと思っている。
地上に設置するといろんな物が水路の中に入って、詰まってしまいそうだからな。
まあ、地下は地下で根っこの除去とか苦労しそうだが、作ってしまえば後は楽だ。
今日のところは工事予定地の視察だけで実際の作業には移らないけど、いざという時のためのシミュレーションは欠かせない。
「大変な土地ではあるけど、この生命エネルギーにあふれる雰囲気は、一度マホロにも感じてほしいかもなぁ」
オアシスと違い、ジャングルにはマホロを連れて来ていない。
本人はとても行きたがっていたが、魔獣が『来るかもしれない』で済んだオアシスと違って、ジャングルは明確な魔獣の生息地だ。
汗をかかないゴーレムの体だと不快感は薄いが、空気もべったりとベタつく湿気がある。
あのカラッと爽やかなオアシスと違って、人間はいるだけで体力を奪われるだろう。
だから、今回は俺一人で探索を行う。
その代わり、マホロが好きなリンゴはたくさん持って帰る約束だ。
「さて、メルフィさんから欲しいと言われていた物は手に入りつつあるけど、おじさんの言っていた川にはまだ着かないな」
俺は瓦礫の街からずっと東に直進している。
体の方位磁石も正確に方角を示し続けている。
ジャングルに入って数時間――
珍しい物の数々に目移りしながら楽しく歩いているとはいえ、そろそろ川に出会いたいところだ。
なんてことを考えながら歩いていると……ふいに視界が開けた。
木々の間を抜け、ついに川を見渡せる小高い崖の上にたどり着いたんだ。
「これは……俺の頭の中のアマゾン川そのものって感じだな……!」
実際のアマゾン川がどんな川か知らないが、こう……大多数の人が思い描くジャングルの川が目の前に広々と横たわっていた。
流れは結構速く、水は茶色く濁り、運悪く川に落ちてしまった魔獣が鋭い牙を持つ魚に食べられている様子など、まさに弱肉強食のジャングルだ。
「確かにここになら水を流しても問題なさそうだな」
ジャングルの水を逆流させない工夫や、凶暴な魚がさかのぼって来ないような対策は必要になるけど、それを解決出来るアイデアはすでにある。
後はとにかく魔法と手を動かして実物を造り上げるだけだな。
「これで一つ目的は達成……っと」
残るは背中のコンテナ一杯にジャングルの恵みを持ち帰るだけだ。
マホロが大好きなリンゴに関しては、移動中に運良くたくさん生えている場所を発見し、すでに結構な量を確保してある。
それ以外も必要な物は大体手に入っているが、1つだけまだ確保出来ていないものがある。
それはジャングルの象徴とも言える果物……バナナだ。
美味しいだけでなく栄養も豊富で、何より果物なのに主食のようにお腹に溜まる。
忙しい朝なんかはバナナを食べて牛乳を飲むだけで、十分な栄養を確保出来た気分になる。
食料が魔獣の肉頼りの瓦礫の街に、これほどまでに適した果物はないだろう。
木は成長してもそこまで巨大にはならず、一つの房にたくさんの実がなる。
葉っぱすらも料理の道具として活用出来るし、本当に無駄がない。
問題は苗から育てたとしても、実がなるまで普通は1年以上かかること。
そして、このジャングルのバナナは凶暴なサルの魔獣の縄張りにしか生えていないということだ。
実がなるまでに関しては、これは元いた世界のバナナの話だ。
メルフィさんの持つ植物図鑑はいわゆるサバイバル向きで、各植物の栽培方法までは書かれていなかった。
この世界のバナナはもっと早く成長し、早く実が取れることを期待したい。
もし、実がなるまでに時間がかかったとしても……それはそれで構わない。
俺はこれからずっとこの世界で暮らしていくんだ。
年単位で果物を栽培するくらい、当然と言えば当然だからな。
となると、本当の問題はこのジャングルでバナナが生えている場所だ。
メルフィさんでも近寄ろうとは思わない狂暴なサルたちが、バナナの木々を守っているらしい。
正直、こちらから縄張りに踏み込んで魔獣を全滅させるというのはいい気がしない。
だから、何とか隙を見てバナナの房と苗木をコソッといただいてくつもりだ。
いわゆるスニーキングミッション……!
ゴーレムの巨体でそれをやるのは難易度が高いが、やるしかあるまい。
「……あれ? バナナの周りにサルたちの姿がないな」
川の近くで見つけたバナナの木々には、黄色く熟した房がいくつもぶら下がっていた。
しかし、その周りにサルの姿はない。
罠かと思ってしばらく警戒したけど……気配も何も感じない。
群れ全体で狩りにでも出かけているんだろうか?
まあ、サルだってたまにはバナナ以外も食べたいもんな。
「いただいていきます……!」
バナナの房をいくつか背中のコンテナに入れ、苗木として持ち運べそうな小さな木は根っこから掘り起こして持って行く。
後は無事に瓦礫の街に帰れば、ジャングル探検は大成功だ。
マホロとメルフィさんの喜ぶ顔が目に浮かぶ!
「十分すぎるくらいの成果だ。これ以上欲をかかずに帰るとしよう」
方位磁石で瓦礫の街の方角を確認し、そちらへ真っすぐ進む。
そして、あと少しでジャングルを出れそうなところで……甲高い魔獣の鳴き声が聞こえて来た。
それはいつかテレビで聞いたサルの威嚇する声にそっくりだった。
「そう簡単には帰してくれないか……!」
戦闘を覚悟して鳴き声のした方向を警戒する。
今にもあの茂みからサルが飛び出してくる……と思いきや、俺の前に現れたのはまったく予想外の魔獣だった。
「ニャー……!」
「えっ!? クロネコ!?」
それは大きなクロネコだった!
イエネコより体は大きいが、トラとかヒョウとかジャガーとは違うような……。
一番近いのはヤマネコか?
そいつは体中に怪我を負っていて、まだ乾いていない血が毛からしたたっている。
俺の方を見て一瞬ビクッと怯えるような素振りを見せたが、なぜかすぐに警戒を解いて俺の体の匂いを嗅ぎに来た。
そして、甘えるように体を擦り付け始めたんだ。
俺は人間時代も動物に好かれた経験があまりない。
それなのに明らかな岩石のバケモノであるゴーレムに野生の魔獣が甘える理由は……?
「……ん? お前、首輪をつけてるのか?」
クロネコの首輪をよく見ると、文字が刻まれた金属のプレートがぶら下がっていた。
刻まれた文字は……ノルン・ロックハート。
「ロックハート……マホロの家名と同じだ! じゃあ、まさかお前……」
「ニャー……」
鳴き声に力がなくなっている……。
怪我は何かを勢いよくぶつけられた打撲痕のようだが、外から見た感じだと深い傷ではない。
ただ、内臓に影響が出ている可能性も……。
「……よし! お前の瓦礫の街まで連れて行く。薬草はあっても、ここじゃ調合出来ないからな」
葉をすり潰して塗り込むだけで傷が癒えるような薬草は……残念ながらない。
だが、複数の薬草を組み合わせて清潔な水で溶かしたポーションなら、単純な外傷はすぐに治せるとメルフィさんが言っていた。
とにかく、一刻も早くこの場を去らなければ……。
バナナの木の周りにサルがいなかったのも、サルの鳴き声が聞こえると同時にこのクロネコが飛び出して来たのも……すべては繋がっている。
《キイイイィィィィィィーーーーーーーーーッ!!》
ジャングルの木々の合間を縫って、その手に石を握ったサルが続々と飛び出して来た!
このクロネコにトドメを刺すために……。
目的は主に二つ。
ジャングルに自生する野菜や果物、薬草などの調達。
そして、おじさんに教えてもらったジャングルを流れる大河の確認だ。
前者は食料の確保と同時に、裏庭の畑で育てる植物を増やす意味もある。
メルフィさんが持っていた植物図鑑の内容はある程度インプットしてあるから、食べられる物、食べられない物の区別はつく。
日没までにどれだけ背中のコンテナに詰め込めるかが勝負だな。
後者は水路を作るために必要な作業になる。
街から真っすぐ東に進んで、最初に川にぶつかる地点に向かい、そこまで水路を引けるかどうかを考える。
ジャングルは俺が思い描くジャングルそのままで、平坦な地面などほとんどない。
鬱蒼と草木が茂っていたり、大木の太い根が地表まで盛り上がっていたりする。
俺としてはこれらを除去しながら、地下に水路を走らせたいなと思っている。
地上に設置するといろんな物が水路の中に入って、詰まってしまいそうだからな。
まあ、地下は地下で根っこの除去とか苦労しそうだが、作ってしまえば後は楽だ。
今日のところは工事予定地の視察だけで実際の作業には移らないけど、いざという時のためのシミュレーションは欠かせない。
「大変な土地ではあるけど、この生命エネルギーにあふれる雰囲気は、一度マホロにも感じてほしいかもなぁ」
オアシスと違い、ジャングルにはマホロを連れて来ていない。
本人はとても行きたがっていたが、魔獣が『来るかもしれない』で済んだオアシスと違って、ジャングルは明確な魔獣の生息地だ。
汗をかかないゴーレムの体だと不快感は薄いが、空気もべったりとベタつく湿気がある。
あのカラッと爽やかなオアシスと違って、人間はいるだけで体力を奪われるだろう。
だから、今回は俺一人で探索を行う。
その代わり、マホロが好きなリンゴはたくさん持って帰る約束だ。
「さて、メルフィさんから欲しいと言われていた物は手に入りつつあるけど、おじさんの言っていた川にはまだ着かないな」
俺は瓦礫の街からずっと東に直進している。
体の方位磁石も正確に方角を示し続けている。
ジャングルに入って数時間――
珍しい物の数々に目移りしながら楽しく歩いているとはいえ、そろそろ川に出会いたいところだ。
なんてことを考えながら歩いていると……ふいに視界が開けた。
木々の間を抜け、ついに川を見渡せる小高い崖の上にたどり着いたんだ。
「これは……俺の頭の中のアマゾン川そのものって感じだな……!」
実際のアマゾン川がどんな川か知らないが、こう……大多数の人が思い描くジャングルの川が目の前に広々と横たわっていた。
流れは結構速く、水は茶色く濁り、運悪く川に落ちてしまった魔獣が鋭い牙を持つ魚に食べられている様子など、まさに弱肉強食のジャングルだ。
「確かにここになら水を流しても問題なさそうだな」
ジャングルの水を逆流させない工夫や、凶暴な魚がさかのぼって来ないような対策は必要になるけど、それを解決出来るアイデアはすでにある。
後はとにかく魔法と手を動かして実物を造り上げるだけだな。
「これで一つ目的は達成……っと」
残るは背中のコンテナ一杯にジャングルの恵みを持ち帰るだけだ。
マホロが大好きなリンゴに関しては、移動中に運良くたくさん生えている場所を発見し、すでに結構な量を確保してある。
それ以外も必要な物は大体手に入っているが、1つだけまだ確保出来ていないものがある。
それはジャングルの象徴とも言える果物……バナナだ。
美味しいだけでなく栄養も豊富で、何より果物なのに主食のようにお腹に溜まる。
忙しい朝なんかはバナナを食べて牛乳を飲むだけで、十分な栄養を確保出来た気分になる。
食料が魔獣の肉頼りの瓦礫の街に、これほどまでに適した果物はないだろう。
木は成長してもそこまで巨大にはならず、一つの房にたくさんの実がなる。
葉っぱすらも料理の道具として活用出来るし、本当に無駄がない。
問題は苗から育てたとしても、実がなるまで普通は1年以上かかること。
そして、このジャングルのバナナは凶暴なサルの魔獣の縄張りにしか生えていないということだ。
実がなるまでに関しては、これは元いた世界のバナナの話だ。
メルフィさんの持つ植物図鑑はいわゆるサバイバル向きで、各植物の栽培方法までは書かれていなかった。
この世界のバナナはもっと早く成長し、早く実が取れることを期待したい。
もし、実がなるまでに時間がかかったとしても……それはそれで構わない。
俺はこれからずっとこの世界で暮らしていくんだ。
年単位で果物を栽培するくらい、当然と言えば当然だからな。
となると、本当の問題はこのジャングルでバナナが生えている場所だ。
メルフィさんでも近寄ろうとは思わない狂暴なサルたちが、バナナの木々を守っているらしい。
正直、こちらから縄張りに踏み込んで魔獣を全滅させるというのはいい気がしない。
だから、何とか隙を見てバナナの房と苗木をコソッといただいてくつもりだ。
いわゆるスニーキングミッション……!
ゴーレムの巨体でそれをやるのは難易度が高いが、やるしかあるまい。
「……あれ? バナナの周りにサルたちの姿がないな」
川の近くで見つけたバナナの木々には、黄色く熟した房がいくつもぶら下がっていた。
しかし、その周りにサルの姿はない。
罠かと思ってしばらく警戒したけど……気配も何も感じない。
群れ全体で狩りにでも出かけているんだろうか?
まあ、サルだってたまにはバナナ以外も食べたいもんな。
「いただいていきます……!」
バナナの房をいくつか背中のコンテナに入れ、苗木として持ち運べそうな小さな木は根っこから掘り起こして持って行く。
後は無事に瓦礫の街に帰れば、ジャングル探検は大成功だ。
マホロとメルフィさんの喜ぶ顔が目に浮かぶ!
「十分すぎるくらいの成果だ。これ以上欲をかかずに帰るとしよう」
方位磁石で瓦礫の街の方角を確認し、そちらへ真っすぐ進む。
そして、あと少しでジャングルを出れそうなところで……甲高い魔獣の鳴き声が聞こえて来た。
それはいつかテレビで聞いたサルの威嚇する声にそっくりだった。
「そう簡単には帰してくれないか……!」
戦闘を覚悟して鳴き声のした方向を警戒する。
今にもあの茂みからサルが飛び出してくる……と思いきや、俺の前に現れたのはまったく予想外の魔獣だった。
「ニャー……!」
「えっ!? クロネコ!?」
それは大きなクロネコだった!
イエネコより体は大きいが、トラとかヒョウとかジャガーとは違うような……。
一番近いのはヤマネコか?
そいつは体中に怪我を負っていて、まだ乾いていない血が毛からしたたっている。
俺の方を見て一瞬ビクッと怯えるような素振りを見せたが、なぜかすぐに警戒を解いて俺の体の匂いを嗅ぎに来た。
そして、甘えるように体を擦り付け始めたんだ。
俺は人間時代も動物に好かれた経験があまりない。
それなのに明らかな岩石のバケモノであるゴーレムに野生の魔獣が甘える理由は……?
「……ん? お前、首輪をつけてるのか?」
クロネコの首輪をよく見ると、文字が刻まれた金属のプレートがぶら下がっていた。
刻まれた文字は……ノルン・ロックハート。
「ロックハート……マホロの家名と同じだ! じゃあ、まさかお前……」
「ニャー……」
鳴き声に力がなくなっている……。
怪我は何かを勢いよくぶつけられた打撲痕のようだが、外から見た感じだと深い傷ではない。
ただ、内臓に影響が出ている可能性も……。
「……よし! お前の瓦礫の街まで連れて行く。薬草はあっても、ここじゃ調合出来ないからな」
葉をすり潰して塗り込むだけで傷が癒えるような薬草は……残念ながらない。
だが、複数の薬草を組み合わせて清潔な水で溶かしたポーションなら、単純な外傷はすぐに治せるとメルフィさんが言っていた。
とにかく、一刻も早くこの場を去らなければ……。
バナナの木の周りにサルがいなかったのも、サルの鳴き声が聞こえると同時にこのクロネコが飛び出して来たのも……すべては繋がっている。
《キイイイィィィィィィーーーーーーーーーッ!!》
ジャングルの木々の合間を縫って、その手に石を握ったサルが続々と飛び出して来た!
このクロネコにトドメを刺すために……。
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