14 / 86
第1章 ゴーレム大地に立つ
第14話 ゴーレムと満月の夜
しおりを挟む
その後、崩れていた外塀などを立て直し、裏庭での作業は終了した。
次にやったことは、昨日中断してしまった見張り台の設置だ。
東の門の近くには設置したけど、そこでメルフィさんが帰還して作業が止まっていた。
残りの西、南、北方面にも見張り台を設置し、街の四方を見渡せるようにしておく。
ちなみに満月の夜、魔獣は大体ジャングルのある東方面から来るらしい。
凶暴化した魔獣がジャングルを飛び出し、勢いそのまま街までやって来るんだ。
「防壁、門、見張り台……ここまでは問題なしだな」
時間はすでに正午過ぎ――
作業に没頭していると、時間が過ぎるのも早いな。
日が落ちて、満月が空に昇るまで、やれることはやっておこう。
「ガンジョーさん、いざという時は私も戦いますよ!」
マホロは東の見張り台の上に、せっせと石を運んでいる。
彼女は見張り台から石を投げて魔獣と戦おうというのだ。
確かに投石は立派な戦法だ。
実際に戦争で使われたという歴史もある。
しかし、見張り台から防壁の外にいる魔獣に石を投げ、ダメージを与えられるほどの肩はマホロにはないだろう。
その気持ちだけ受け取っておこう。
「ガンジョーさんは何か武器を使わないんですか?」
「それなんだが……一応作ってみた」
俺はそこらに落ちていた金属製の物干し竿に、細かな屑鉄を組み合わせて剣を作った。
その全長は俺の身長と同等の3メートルほどで、重量もかなりのものになる。
肝心の出来栄えはと言うと……正直、剣のような形をした金属の塊だ。
刃の表面はガタガタで、物を切断出来そうな鋭さはない。
今の究極大地魔法じゃ金属の加工は難しいから、この出来栄えも仕方ないというか想定内だ。
魔法は使い続けることで馴染んだり、成長したりするものらしく、未熟だからといって出し惜しみしていては、いつまで経っても変わらない。
この屑鉄の大剣も、畑と同じように今の自分に出来ることを確認するためのものなんだ。
それに斬れ味は悪くたって重量はある。
ぶっ叩くための鈍器にはなるさ。
「うわーっ! カッコいいですっ! 私もでっかい剣が欲しいですっ!」
「そ、そうかい? でも、マホロに危ない物は持たせられないよ。前に作ったショベルで我慢してくれないかな」
大人として、守護者として、マホロに武器を持たせて戦わせる気はさらさらない。
「むぅぅぅ……! わかりました。私にはこの『ガンジョーショベル』がありますものね!」
マホロはショベルを高々と掲げる。
なんか名前までついているけど……大事にしてくれてるなら嬉しい限りだ。
◇ ◇ ◇
そんなこんなで時は流れ……夕日が瓦礫の街を染め上げる。
満月の夜が来るまで、残り数十分といったところだろうか。
俺とマホロは東の門の近くから赤く染まった地平線を見つめていた。
防壁の手前には、土を盛って俺専用の足場を作っておいた。
これに乗ることで見張り台を使えない俺でも、防壁の向こうの景色を拝むことが出来る。
何もない荒野を眺めていると、まるですべてが滅んだ後の世界にいる気分になってくる。
でも、北の荒野の先には他の街がある。
その向こうには、もっと広い世界が広がっているらしい。
この瓦礫の街だけが、世の中から切り離されているんだ。
夕日に照らされているからか、何だか寂しい想像ばかりしてしまう。
「ガンジョーさん、私こんなに穏やかな気持ちで満月の夜を迎えるのは初めてです」
手ごろなサイズの石を握りしめながらマホロが言う。
「防壁、見張り台、武器……そして何より、ガンジョーさんがいてくれるおかげです。私とってもとっても感謝してます!」
「感謝するのは俺の方さ。マホロがいなければ、ただ消えるだけの命だった。だからこそ、与えられた今をマホロやこの街の人々のために使う」
マホロと話している間に、夕日の赤さはピークに達していた。
この世界でも太陽は東から昇り、西に沈んでいく。
だから、東側の地平線から魔獣がやって来るとしたら、その姿は血のような赤に染まる。
それを実演するかのように今、地平線から一つの影がこちらに向かって来ていた――
「あれは……人か?」
最初、その姿は人間のように見えた。
東にはジャングルがあるから、食べ物を求めて向かった人が数日かけて生還した可能性はある。
しかし、しばらくして俺の考えは間違いだと気づいた。
それは確かに人型ではあったが……大きさは人間の何倍もあった。
「トロールです……!」
マホロが叫ぶ。
太った人間のような姿だが、その全長は俺と同等以上。
濃い緑色の肌に、毛髪のない大きな頭部。顔のパーツは目と口が大きめだ。
太い腕には丸太を不器用に削って作ったような棍棒が握られている。
あれで防壁を殴られたら……崩れるかもしれない。
「マホロは絶対に出て来ちゃダメだよ! 石も投げない方がいい! あいつの興味がそっちに向くかもしれないから!」
「わ、わかりました!」
俺は門をくぐって防壁の外へと飛び出す。
門のかんぬきはメルフィさんが閉めてくれるはずだ。
「さて、いきなり真剣勝負だな……!」
ちなみに格闘技の経験なんてないし、誰かと殴り合いの喧嘩をしたこともない。
争いとは無縁……至って平穏な人生を送って来た男だ。
それでも、マホロと一緒に作った防壁を壊させるわけにはいかない!
「俺が相手だ」
ゴーレム対トロールの戦いが幕を上げる……!
「……あっ」
慌てて出て来たから、屑鉄の大剣を防壁の中に置いて来てしまった……。
次にやったことは、昨日中断してしまった見張り台の設置だ。
東の門の近くには設置したけど、そこでメルフィさんが帰還して作業が止まっていた。
残りの西、南、北方面にも見張り台を設置し、街の四方を見渡せるようにしておく。
ちなみに満月の夜、魔獣は大体ジャングルのある東方面から来るらしい。
凶暴化した魔獣がジャングルを飛び出し、勢いそのまま街までやって来るんだ。
「防壁、門、見張り台……ここまでは問題なしだな」
時間はすでに正午過ぎ――
作業に没頭していると、時間が過ぎるのも早いな。
日が落ちて、満月が空に昇るまで、やれることはやっておこう。
「ガンジョーさん、いざという時は私も戦いますよ!」
マホロは東の見張り台の上に、せっせと石を運んでいる。
彼女は見張り台から石を投げて魔獣と戦おうというのだ。
確かに投石は立派な戦法だ。
実際に戦争で使われたという歴史もある。
しかし、見張り台から防壁の外にいる魔獣に石を投げ、ダメージを与えられるほどの肩はマホロにはないだろう。
その気持ちだけ受け取っておこう。
「ガンジョーさんは何か武器を使わないんですか?」
「それなんだが……一応作ってみた」
俺はそこらに落ちていた金属製の物干し竿に、細かな屑鉄を組み合わせて剣を作った。
その全長は俺の身長と同等の3メートルほどで、重量もかなりのものになる。
肝心の出来栄えはと言うと……正直、剣のような形をした金属の塊だ。
刃の表面はガタガタで、物を切断出来そうな鋭さはない。
今の究極大地魔法じゃ金属の加工は難しいから、この出来栄えも仕方ないというか想定内だ。
魔法は使い続けることで馴染んだり、成長したりするものらしく、未熟だからといって出し惜しみしていては、いつまで経っても変わらない。
この屑鉄の大剣も、畑と同じように今の自分に出来ることを確認するためのものなんだ。
それに斬れ味は悪くたって重量はある。
ぶっ叩くための鈍器にはなるさ。
「うわーっ! カッコいいですっ! 私もでっかい剣が欲しいですっ!」
「そ、そうかい? でも、マホロに危ない物は持たせられないよ。前に作ったショベルで我慢してくれないかな」
大人として、守護者として、マホロに武器を持たせて戦わせる気はさらさらない。
「むぅぅぅ……! わかりました。私にはこの『ガンジョーショベル』がありますものね!」
マホロはショベルを高々と掲げる。
なんか名前までついているけど……大事にしてくれてるなら嬉しい限りだ。
◇ ◇ ◇
そんなこんなで時は流れ……夕日が瓦礫の街を染め上げる。
満月の夜が来るまで、残り数十分といったところだろうか。
俺とマホロは東の門の近くから赤く染まった地平線を見つめていた。
防壁の手前には、土を盛って俺専用の足場を作っておいた。
これに乗ることで見張り台を使えない俺でも、防壁の向こうの景色を拝むことが出来る。
何もない荒野を眺めていると、まるですべてが滅んだ後の世界にいる気分になってくる。
でも、北の荒野の先には他の街がある。
その向こうには、もっと広い世界が広がっているらしい。
この瓦礫の街だけが、世の中から切り離されているんだ。
夕日に照らされているからか、何だか寂しい想像ばかりしてしまう。
「ガンジョーさん、私こんなに穏やかな気持ちで満月の夜を迎えるのは初めてです」
手ごろなサイズの石を握りしめながらマホロが言う。
「防壁、見張り台、武器……そして何より、ガンジョーさんがいてくれるおかげです。私とってもとっても感謝してます!」
「感謝するのは俺の方さ。マホロがいなければ、ただ消えるだけの命だった。だからこそ、与えられた今をマホロやこの街の人々のために使う」
マホロと話している間に、夕日の赤さはピークに達していた。
この世界でも太陽は東から昇り、西に沈んでいく。
だから、東側の地平線から魔獣がやって来るとしたら、その姿は血のような赤に染まる。
それを実演するかのように今、地平線から一つの影がこちらに向かって来ていた――
「あれは……人か?」
最初、その姿は人間のように見えた。
東にはジャングルがあるから、食べ物を求めて向かった人が数日かけて生還した可能性はある。
しかし、しばらくして俺の考えは間違いだと気づいた。
それは確かに人型ではあったが……大きさは人間の何倍もあった。
「トロールです……!」
マホロが叫ぶ。
太った人間のような姿だが、その全長は俺と同等以上。
濃い緑色の肌に、毛髪のない大きな頭部。顔のパーツは目と口が大きめだ。
太い腕には丸太を不器用に削って作ったような棍棒が握られている。
あれで防壁を殴られたら……崩れるかもしれない。
「マホロは絶対に出て来ちゃダメだよ! 石も投げない方がいい! あいつの興味がそっちに向くかもしれないから!」
「わ、わかりました!」
俺は門をくぐって防壁の外へと飛び出す。
門のかんぬきはメルフィさんが閉めてくれるはずだ。
「さて、いきなり真剣勝負だな……!」
ちなみに格闘技の経験なんてないし、誰かと殴り合いの喧嘩をしたこともない。
争いとは無縁……至って平穏な人生を送って来た男だ。
それでも、マホロと一緒に作った防壁を壊させるわけにはいかない!
「俺が相手だ」
ゴーレム対トロールの戦いが幕を上げる……!
「……あっ」
慌てて出て来たから、屑鉄の大剣を防壁の中に置いて来てしまった……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
99
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる