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第1章 ゴーレム大地に立つ
第2話 ゴーレムと瓦礫の街
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今見えている街には、完全な状態の建物なんて1つもない。
どれもこれも朽ち果て、どれもこれも崩れている。
だが、建物と判断出来る原型が残っているだけマシだ。
何がそこにあったのかわからないような、ただの瓦礫の山もそこかしこにある。
道と言える道もなく、細かな瓦礫がどこにでも転がっている。
なのに……こんな環境なのに人がいる。
それも1人や2人じゃない。見える範囲だけでも10人以上の人々が生活している。
だから、ここは瓦礫だらけでも街なんだ……。
体調を崩したあの子のために、飲み水でも確保出来ればと思っていたが……この乾いた砂と土と瓦礫だけの街では難しいかもしれない。
しかし、簡単に諦めては何も始まらない。
まずはこの街の住人に話を聞いてみよう。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
ちょうど教会の前に座り込んでいた白髪交じりのおじさんに話しかける。
「うわっ!? ゴーレムがしゃべった!?」
おじさんは飛び跳ねて驚く。
ゴーレムそのものには驚かないが、しゃべることには驚く世界らしい。
「まさかマホロの奴、本当に心を持ったゴーレムを作っちまったのか……?」
「マホロってあの金髪の女の子の名前ですか?」
「なんだ。自己紹介もまだなのかい?」
「ええ、なんか疲れているみたいで……」
「そうか……。ゴーレムの創成に魔力を使いすぎたんだな」
このおじさん、なかなかの事情通だ。
いきなりこの人と出会えたのは運が良いぞ。
「彼女のために飲み水を探しているんですが、どこかにありませんか? それと栄養のある食べ物でもあれば……」
「水と栄養のある食べ物……か」
おじさんは渋い顔をする。
「この瓦礫の街にそんなもんはないさ。あっても人に譲る余裕がある人間はいねぇ。もし仮に譲ってくれる人間がいたら、そん時は腐ってるか毒が入ってるかを疑わなきゃならねぇ」
「そう……ですか」
「見た目通りの街なんだ。ここは……全部ぶっ壊れてる。その中でも一番ぶっ壊れてるのは人間さ。ほとんどが社会から不条理に弾き出されたかわいそうな奴らで、元々は良い奴だったかもしれないが……ここに長くいればみんな腐っちまう」
おじさんは自嘲気味に語る。
この街にいると、心が荒んで腐っていく……。
でも、マホロの瞳は光を失っていなかった。
それはこのおじさんも同じだ。
この人は腐ってなんかいないと、俺はなぜか確信していた。
「まあ、魔力の枯渇は時間が経てば回復する。マホロはやせてはいるが健康な方だ。そう深刻に考えることはない」
「そうなんですね。教えていただいてありがとうございます」
「いいってことよ。お前さんも今日からこの街の仲間なんだからな」
この街の仲間……か。
明らかに俺が元いた世界とは違うが、元の世界に戻れる気はしない。
というか、明らかに落石で頭潰れてたしなぁ……俺。
むしろ違う世界でも命があることを感謝すべきなのかもしれない。
そんなことを考えながら教会に戻る。
「……よく見ると本当にボロボロだな、この教会」
自分が巨大かつ重量のあるゴーレムだと自覚すると、このボロボロの教会の中を歩き回ることがためらわれる。
一歩踏み出すたびに振動が伝わって、今にも全壊するんじゃないかとひやひやする……!
「何とかこの教会を直せたらなぁ……」
〈命令:教会の修復〉
「ん? 誰だ……?」
中性的で無機質な声が聞こえた。
マホロの高い声とは全然違うし、この教会の中にまだ誰かいるのか……?
〈精査――――〉
また声が聞こえたと思ったら、今度は教会の壁や床を光が駆け抜けていく。
そう、まるで水の波紋のように光の波が広がって……消えた。
〈結果:約90%まで修復可能。実行しますか?〉
この声は俺の頭の中に直接語りかけているんだ……!
えっと、冷静に内容だけを考えると、この声は教会を直していくれると言っている。
しかし、得体の知れない声に従うのは……。
「あの……あなたは誰ですか?」
とりあえず、単刀直入に聞いてみた。
すると、声は素直に返事をした。
〈私はガイアゴーレム。大地に平和と豊穣をもたらす守護神なり〉
ガイアゴーレム……俺の中に別のゴーレムがいるってことか?
いや、違う違う! むしろ逆だ!
俺がゴーレムの中にお邪魔してるんだ!
このゴーレムの体の本来の持ち主がガイアゴーレムで、俺はなぜかそこに入り込んじゃった異物と考えるのが自然な流れ……!
かといって、「お邪魔しました!」と体から出て行ったら、俺の魂というか心は行き場を失う。
その時は本当の死……なんだろうな。
「すいません、これからもお世話になります……」
俺は思わず頭を下げる。
まあ、この頭の中にもガイアゴーレムがいるわけだが……。
〈最初の命令は心を持ったゴーレムとしての誕生。それを実行するため、私は行き場を失った魂を呼び寄せました。結果は100%――完璧に実行されました〉
マホロの「心を持ったゴーレム」の命令に応えるため、死んだ俺の魂を拾い上げたということか?
ならば、ゴーレムの中に俺が入っちゃってる状況も正しいと言える。
この体から無理やり追い出されることはないと見ても良さそうだ。
「教えてくれてありがとう、ガイア……さん」
〈どういたしまして、岩定剛様〉
流石は同じ体の同居人……俺の本名もお見通しか。
ただ、会話が通じるというだけで、これからも上手くやっていけそうな気がした。
〈では、改めて『命令:教会の修復』を実行しますか?〉
「あ、はい。お願いします」
ガイアさんは信頼出来そうなのでお願いしてみる。
〈命令実行――――〉
それは数秒の出来事だった。
俺の体から何かエネルギーが流れ出すような喪失感を覚えると同時に、そこらへんに転がっている瓦礫がひとりでに動き出し……ひび割れた床や壁の穴を塞ぎ始めた。
しかも、瓦礫は塞いだ跡がまったくわからないくらい綺麗に溶け込んでいる。
「これがゴーレムの力……!」
ゴーレムは頑丈さとパワーだけが取り柄というイメージがあったが、これはまるで魔法だ。
教会は瞬く間に元の姿を取り戻した。
どれもこれも朽ち果て、どれもこれも崩れている。
だが、建物と判断出来る原型が残っているだけマシだ。
何がそこにあったのかわからないような、ただの瓦礫の山もそこかしこにある。
道と言える道もなく、細かな瓦礫がどこにでも転がっている。
なのに……こんな環境なのに人がいる。
それも1人や2人じゃない。見える範囲だけでも10人以上の人々が生活している。
だから、ここは瓦礫だらけでも街なんだ……。
体調を崩したあの子のために、飲み水でも確保出来ればと思っていたが……この乾いた砂と土と瓦礫だけの街では難しいかもしれない。
しかし、簡単に諦めては何も始まらない。
まずはこの街の住人に話を聞いてみよう。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
ちょうど教会の前に座り込んでいた白髪交じりのおじさんに話しかける。
「うわっ!? ゴーレムがしゃべった!?」
おじさんは飛び跳ねて驚く。
ゴーレムそのものには驚かないが、しゃべることには驚く世界らしい。
「まさかマホロの奴、本当に心を持ったゴーレムを作っちまったのか……?」
「マホロってあの金髪の女の子の名前ですか?」
「なんだ。自己紹介もまだなのかい?」
「ええ、なんか疲れているみたいで……」
「そうか……。ゴーレムの創成に魔力を使いすぎたんだな」
このおじさん、なかなかの事情通だ。
いきなりこの人と出会えたのは運が良いぞ。
「彼女のために飲み水を探しているんですが、どこかにありませんか? それと栄養のある食べ物でもあれば……」
「水と栄養のある食べ物……か」
おじさんは渋い顔をする。
「この瓦礫の街にそんなもんはないさ。あっても人に譲る余裕がある人間はいねぇ。もし仮に譲ってくれる人間がいたら、そん時は腐ってるか毒が入ってるかを疑わなきゃならねぇ」
「そう……ですか」
「見た目通りの街なんだ。ここは……全部ぶっ壊れてる。その中でも一番ぶっ壊れてるのは人間さ。ほとんどが社会から不条理に弾き出されたかわいそうな奴らで、元々は良い奴だったかもしれないが……ここに長くいればみんな腐っちまう」
おじさんは自嘲気味に語る。
この街にいると、心が荒んで腐っていく……。
でも、マホロの瞳は光を失っていなかった。
それはこのおじさんも同じだ。
この人は腐ってなんかいないと、俺はなぜか確信していた。
「まあ、魔力の枯渇は時間が経てば回復する。マホロはやせてはいるが健康な方だ。そう深刻に考えることはない」
「そうなんですね。教えていただいてありがとうございます」
「いいってことよ。お前さんも今日からこの街の仲間なんだからな」
この街の仲間……か。
明らかに俺が元いた世界とは違うが、元の世界に戻れる気はしない。
というか、明らかに落石で頭潰れてたしなぁ……俺。
むしろ違う世界でも命があることを感謝すべきなのかもしれない。
そんなことを考えながら教会に戻る。
「……よく見ると本当にボロボロだな、この教会」
自分が巨大かつ重量のあるゴーレムだと自覚すると、このボロボロの教会の中を歩き回ることがためらわれる。
一歩踏み出すたびに振動が伝わって、今にも全壊するんじゃないかとひやひやする……!
「何とかこの教会を直せたらなぁ……」
〈命令:教会の修復〉
「ん? 誰だ……?」
中性的で無機質な声が聞こえた。
マホロの高い声とは全然違うし、この教会の中にまだ誰かいるのか……?
〈精査――――〉
また声が聞こえたと思ったら、今度は教会の壁や床を光が駆け抜けていく。
そう、まるで水の波紋のように光の波が広がって……消えた。
〈結果:約90%まで修復可能。実行しますか?〉
この声は俺の頭の中に直接語りかけているんだ……!
えっと、冷静に内容だけを考えると、この声は教会を直していくれると言っている。
しかし、得体の知れない声に従うのは……。
「あの……あなたは誰ですか?」
とりあえず、単刀直入に聞いてみた。
すると、声は素直に返事をした。
〈私はガイアゴーレム。大地に平和と豊穣をもたらす守護神なり〉
ガイアゴーレム……俺の中に別のゴーレムがいるってことか?
いや、違う違う! むしろ逆だ!
俺がゴーレムの中にお邪魔してるんだ!
このゴーレムの体の本来の持ち主がガイアゴーレムで、俺はなぜかそこに入り込んじゃった異物と考えるのが自然な流れ……!
かといって、「お邪魔しました!」と体から出て行ったら、俺の魂というか心は行き場を失う。
その時は本当の死……なんだろうな。
「すいません、これからもお世話になります……」
俺は思わず頭を下げる。
まあ、この頭の中にもガイアゴーレムがいるわけだが……。
〈最初の命令は心を持ったゴーレムとしての誕生。それを実行するため、私は行き場を失った魂を呼び寄せました。結果は100%――完璧に実行されました〉
マホロの「心を持ったゴーレム」の命令に応えるため、死んだ俺の魂を拾い上げたということか?
ならば、ゴーレムの中に俺が入っちゃってる状況も正しいと言える。
この体から無理やり追い出されることはないと見ても良さそうだ。
「教えてくれてありがとう、ガイア……さん」
〈どういたしまして、岩定剛様〉
流石は同じ体の同居人……俺の本名もお見通しか。
ただ、会話が通じるというだけで、これからも上手くやっていけそうな気がした。
〈では、改めて『命令:教会の修復』を実行しますか?〉
「あ、はい。お願いします」
ガイアさんは信頼出来そうなのでお願いしてみる。
〈命令実行――――〉
それは数秒の出来事だった。
俺の体から何かエネルギーが流れ出すような喪失感を覚えると同時に、そこらへんに転がっている瓦礫がひとりでに動き出し……ひび割れた床や壁の穴を塞ぎ始めた。
しかも、瓦礫は塞いだ跡がまったくわからないくらい綺麗に溶け込んでいる。
「これがゴーレムの力……!」
ゴーレムは頑丈さとパワーだけが取り柄というイメージがあったが、これはまるで魔法だ。
教会は瞬く間に元の姿を取り戻した。
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