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第5章

第183話 ギルドベースにて〈1〉

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 一方その頃――『キルトのギルド』のギルドベースにて。

「むぅ……」

 ギルドベースの前の通りに出て、左右をきょろきょろと見渡すフゥの姿があった。

「おっ、フゥちゃんじゃ~ん! 久しぶり~! 元気してた?」

 そこへ現れたのはキルトの友人のA級冒険者ターナー・ネクスタリアだ。
 両手で抱えたバスケットの中には、毒々しい色合いの果物が入っている。

「おおっ、ターナー殿か。うむ、私は元気にしておるぞ。ターナー殿も変わりないようで何よりだ」

「まっ、大怪我するような仕事も選ばないのも、フリーランスの冒険者に求められる資質ってね!」

 Vサインを見せつけるターナー。
 しかし、フゥは相変わらず周囲を気にしているようだった。

「どしたの? まさか……フゥちゃんがかわい過ぎて、つけまわしてくる変質者がいるとか!?」

 ターナーも周囲を見渡してみるが、どうやら変質者はいないようだ。
 昔の下町なら割と見かけたおかしな奴らも、治安の向上と共に見かけることが少なくなった。

「変質者ではないし、つけまわされているというのも……違う。私が気にしているのは、父様が送り付けて来るプレゼントのことだ」

「プレゼント? なるほど、それなら今か今かと到着を待ってるのも納得っ!」

「……それはそれとして、ターナー殿は私たちのギルドに何か御用か?」

「もちろんっ! これこれ、見てよこれっ!」

 ターナーはバスケットに入っていた紫色の果物を見せつける。
 まるで「私には毒があります」と主張しているとしか思えない代物だ。

「見ての通りこれは猛毒の果物なんだけど、キルトの体は特別だから程よい刺激のデザートとして結構好きなんだってさ! でも、かなりのレアもので当然市場には出回ってないというか、大っぴらに売ったら掴まっちゃうんだよね。それを仕事先のジャングルで見つけたから、これ幸いと持って帰って来たわけ!」

 そこまでまくし立てた後、ターナーは「あ、単純所持は違法じゃないから!」と付け加えた。

「猛毒の果実が程よいデザートか……。相変わらずキルトは底知れぬ戦士だな。キルトの友人であるターナー殿は、そのい立ちも聞かされているのか?」

 フゥはふと頭に浮かんだ疑問を尋ねる。
 ターナーは少しだけ沈黙した後、微笑んで答えた。

「うん、私はキルトが何者なのか聞いてるよ。でも、私の口からフゥちゃんたちに真実を伝えることは出来ない。それはあの子が自分自身の口から言うべきことさ」

「……うむ、そうなのだろうな。わかってはいるのだが、ふと気になってしまった」

「まっ、少なくとも人類を滅ぼすような存在ではないから、安心して待っててあげてよ!」

 そこまで話したところで、ターナーはハッと目を見開く。

「ギルドベースの前でこんな話になっても出て来ないってことは……もしかしてキルト不在?」

「言うのが遅れてすまぬが、その通りだ。今はユートとシウルが魔獣学会のシンポジウムでベータポリスにいるから、その分の仕事をキルトが補っている形だ。私は今が偶然空き時間になっているが、明日以降はそれなりに仕事が詰め込んである」

「おおぅ……! ユーくんにシウルっちもいないのか……。フゥちゃん、寂しいだろうね……」

「否定はせんが、受付の2人もいるからな。孤独に震えることはない」

「確かにクリム先輩とアズアズがいるなら賑やかなもんだね。ただ、この果物はどうしよっかなぁ~。新鮮なうちに食べないと美味しくないらしいし、かといって他の人に食べてもらうわけにもいかないし……」

 キーッ……キーッ……キーッ……!
 突如として下町に響いたのは、甲高い鳥の鳴き声……。
 紫の果物を見つめていたターナーが、呼ばれたようにバッと顔を上げて空をにらむ。

「ふぅん、北の方角から謎の飛行物体か……。王都の防壁を越えて来そうってことは、叩き落してしまった方がヘンゼル王国民として正しいのかな……?」

 ターナーの視線の先には、まだそれが何なのかも判断出来ないほど小さな飛行物体の影があった。
 なぜターナーはそれを察知出来たのか……それよりもフゥには気になることがあった。

「北の方角からの飛行物体……。ま、まさか父様は……っ! ターナー殿、その飛行物体はどうか落とさないように頼む!」

「え、どういうこと?」

「恥ずかしながら……それが父様からのプレゼントの可能性が高いのだ……!」

「……マジ?」

 フゥの予想は正しかった。
 数分後、北から来た飛行物体はジューネ族が作った物資運搬用の飛行機械『ヴィート』であったことが判明した。

 ヴィート本体はほぼ正方形の板のようなもので、飛行を実現させているのは本体の四隅に取り付けられたプロペラである。
 数枚の金属の羽が軸を中心にぐるぐると回転し、下へ吹く気流を生み出す。
 それにより重い物体をも浮かび上がらせる力が発生するのだ。

「父様め、ヴィートを完成させていたのか。しかしながら、それをいきなり王都の上空へ飛ばしてくるとは……。今の女王がリィナ殿でなかったら、敵対行動とも取られかねないぞ」

 口では苦言をていしているが、フゥもまたジューネ族の技術者だ。
 ヒーメル山内部の古代遺跡に試作機だけが残されていたヴィートが、実際に空を飛んでいる姿を見たのだから心はおどっている。

 このヴィートがフゥへのプレゼント……ではない。
 ヴィートの用途は物資運搬。重量軽減のため武器は装備されていない。
 支援兵器ではあるが、これを「新開発した武器」と言うには少々名前負けしている。

 本命は今まさにヴィートが運搬して来た物資である。

「あれはまさか……魔鋼兵なのかっ!?」

 ヴィートの下部に固定されていたのは、まるで赤子のように身を丸めた人型の機械。
 雪のように真っ白なボディを持つそれが、ヴィートに揺られてゆっくりと降下してくる。
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