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第5章

第175話 竜種大系

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「ずばりっ、ロック氏はグランドラゴンである可能性が非常に高いと思われます!」

 古めかしい文献ぶんけんを手に、その学者は高らかと宣言する。
 それを聞いた他の学者たちは、近くの者で集まってひそひそと会話を始める。

「グランドラゴンか……」
「ウロコの色的にフレアドラゴンかどちらかというのは確かでしょうな」
「もう少しウロコの色がくすんでいるべきではありませんかな?」
「古い文献の塗料が経年けいねん劣化でくすんだとも……」

 あぁ、わかっている人たちの会話だ。
 みんな基礎知識としてドラゴンの種くらいは把握しているということか。

「グランドラゴンは地属性のドラゴンと言われています! 他種のドラゴンと比べて体が大きくウロコの強度に優れ、気性は穏やかで知能も高い! 反面、炎の息吹の熱量は低く、動きは鈍く、飛行も得意ではないといくつもの文献に記されています!」

 う~む、ロックに当てはまっているような、そうでないような……。
 どの特徴も他種のドラゴンとの比較なんだろうけど、俺はロック以外のドラゴンを知らない。

 飛ぶのは確かに苦手というか、結構練習が必要だったのは事実。
 でも、炎の息吹の熱量が低いとか、動きが鈍いとか思ったことはないな。

「ロックはグランドラゴンらしいけど……自覚はあるかな?」

「クゥ?」

 ロックはまたもや首をかしげる。
 どうやら、その名を聞いても自覚はないらしい。
 まあ、人間が勝手につけた種の名前だもんな。

「ロック氏は魔法を使えますでしょうか? その魔法の属性を見れば、よりハッキリと種を見分けることが出来ます!」

「なるほど、それは確かに……」

 火属性のドラゴンなら火の魔法を使うだろうし、水属性なら水の魔法、地属性なら地の魔法を使うということか。
 でも、ロックの魔法は――とりあえず見せてみようか。

「ロック、竜魔装ドラゴアームドを見せてくれるかい?」

「クゥ!」

 ロックは自分の魔法を発動し、両方の前脚に金色のガントレットを装着した。
 竜魔装ドラゴアームド――竜籠手ガントレットだ。

「ク~! ク~!」

 ロックが竜籠手ガントレットを見せびらかすように手を振ると、会場から一際大きな歓声が上がった。

「ロック曰く、この竜魔装ドラゴアームドという魔法は自分の未発達な身体能力を補うために生み出されたものらしいです。アイデアは見たまんま人間が扱う防具ですね。人間と共に生きるロックだからこそ生まれた独自の魔法だと思われます」

 竜魔装ドラゴアームドを作る時に放たれる金色の光は光属性っぽいけど、完成した防具を見るとその捉え方も正しいとは思えない。
 どの属性にも区分出来ない魔法な気はする。

 そんな俺の考えとは裏腹に、グランドラゴン説を提唱する学者の目はキラリと光っていた。

「むむむっ! やはりグランドラゴンという私の予想は間違いなさそうです! ガントレットの素材は当然金属が主なわけですから、属性で言えば地属性なわけです! ロック氏の魔法は地属性なのです!」

 ……言われてみれば一理ある。
 竜魔装ドラゴアームドの大きな特徴は硬さだ。
 そして、地属性魔法の優れている点もまた硬さなんだ。

 ロックは金属の体を持つ魔鋼兵や、岩石の体を持つゴーレムを操るガルゴと戦い、その頑丈さの前に悔しい思いもして来た。
 だからこそ、自分もあの硬さを手に入れようと思っても不思議ではない。

「ロック、竜魔装ドラゴアームドは地属性魔法だったのか?」

「ク……クゥ~?」

 否定はしないがすべてに納得は出来ないという微妙な返事だ。
 そう言う俺の竜魔法ドラゴスペルもどの属性とも言い切れない微妙な立ち位置だしな。

「えっと、ロックには自分がどんな種のドラゴンかという自覚はないみたいです。俺もロック以外のドラゴンを知らないので、他と比べて能力がどうともこうとも言い切れません。ただ、グランドラゴン説は大いに参考にさせてもらおうと思います」

「はい! 私もさらなる説の裏付けを探究しようと思います!」

 グランドラゴン説を提唱した学者は満足げに着席した。
 良かった、変にこじれることなくやんわりと話を着地させることが出来た。

 それにしても、ガンバーラボのみんなから言われたことは本当だったな。
 誰も本物のドラゴンと出会ったことがないから、厳しい質問や指摘が飛んで来るはずがない……と。

 この場においては俺が一番の有識者で、お偉い学者先生でも純粋に学ぶ立場になる。
 だから、会場は妙な熱気を帯びているし、年齢や実績に関係なく全学者がぺちゃくちゃしゃべったり、うろうろ歩き回ったりしている。

 これはまるで言うことを聞かない生徒ばかりの学校だな。
 明確に違うところがあるとすれば、ここには勉強嫌いの悪ガキはいないこと。
 真摯に学ぼうとした結果、学級が崩壊しているという点だ。

 その後も少し騒がしい中で俺の話は続いた。
 大きな声を出すことも苦ではなくなり、突然ぶっ込まれる質問もスマートに返す。

 俺の言葉やロックの行動がざわめきを生む。
 打てば響くとはこのことだ。リアクションを貰えるとやってる方も面白くなる。

 冷めない熱を持ったシンポジウムは、司会進行の人が正気を取り戻して現在時刻を確認したことで終わりを迎えた。
 とっくに終了時間は過ぎていたようだけど、学者たちは物足りなさそうに愚痴を言っていた。

 無事に発表をこなすことだけを望んでいた俺も、終わりとわかった瞬間には少し寂しさを感じた。
 自分の発言を求め、その度に反応を返してくれる場というのは何とも居心地がいい。

 でも、時間は守らないといけないよな。
 というか、このままじゃ日付が変わるまでに終われる気がしなかった。

「長々と話してしまいましたが、本日は私たちの発表を聞いていただきありがとうございました」

「クゥッ! クゥクゥ~!」

 俺とロックがぺこりと頭を下げると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
 自慢じゃないが、今日一番大きな拍手だったと思う。

 俺たちはいっぱいの達成感を胸に舞台袖へと下がった。
 ドラゴンが現れた伝説の発表は、名前負けしないほどに大成功だ!
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