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第5章

第164話 盟友様と大賢者?

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「盟友様……? バニラちゃんとユートさんは何か特別な関係なんですか?」

 ポーラさんが首をかしげる。
 他の研究員たちも同じことが気になっている様子だ……。

「いやぁ、ははっ……! 俺は今年の『クライム・オブ・ヒーメル』の優勝者ですからね! それに来年からはいろいろ『クライム・オブ・ヒーメル』のやり方を変えるみたいなので、その相談に乗ったりもしてるから盟友様なんだと思います……!」

 それっぽいことを言ってみる俺。
 みんなは「ふ~ん」といった様子で、まだ少し納得出来ていない雰囲気がある……。

 そんな空気の中、助け舟を出してくれたのはシウルさんだった。

「それだけじゃないわよ、ユート。なんてったって、私たちのギルドではジューネの族長の娘を預かってるんだからね。彼らの未来を託される関係性……盟友という肩書きに相応しいわ」

 シウルさんの言葉を聞いて、みんなが「お~」とつぶやいた。
 説得力を補強するためにフゥのことを持ち出すのは理にかなっている。
 『クライム・オブ・ヒーメル』の優勝者は毎年生まれているが、族長の娘を預かっているギルドはうちくらいのものだからな。

「いや、僕が言いたいのは……むぐっ!?」

 バニラさん……いや、これからはバニラと呼ぶ心の準備をしておかないと、毎回トラブルの元になりそうだな。
 今、シウルさんが背後からバニラさんの口を塞いだ。
 周りに人がいる以上、口で理由を説明するわけにもいかず実力行使に出た形だ。

「あ~! とりあえずバニラとも合流出来たことだし、男女に別れて宿舎に荷物を置いて来ましょ~! あ……っ! でも、私たちは族長の娘さんのことで少し話があるから、みんなは先に行って行って~!」

 それっぽい言葉でガンバーラボの研究員たちを動かすシウルさん。
 こういう場面では本当に頼りになる人だ。

「では、手短にお話を済ませて追いついてくださいね」

「うんうん! 本当にすぐ終わる話だから!」

 男女に分かれてそれぞれの宿舎へ向かう研究員たち。
 彼らが声の聞こえない距離まで離れたところで、シウルさんはバニラを解放した。

「……ぷはっ! いきなり酷いじゃないですか!」

「ごめんごめん! どうしてもしゃべってもらうわけにはいかなかったのよ」

「いくらシウル殿どのとはいえ、許可もなく女子おなごの唇に触れるとは……! すぐに謝っていただけたので僕は許しますけど、他の人にやったらいけませんからね!」

「いやぁ、本当にごめんなさい!」

 平謝りのシウルさん……。
 彼女にだけ謝らせてはおけないな。

「ごめん、バニラさ……バニラ」

「うわっ!? ユート様が謝らないでください!」

「いやっ、そういう前に聞いてほしいんだ!」

「あ……はい」

 また話がこじれそうだったところをゴリ押して事情を話す。
 ジューネ族の内乱の話はごく一部――『キルトのギルド』のメンバーにしか知られていないことを。
 それを聞いたバニラの顔はみるみる青ざめていった。

「も、申し訳ございませぬ! てっきり、そのごく一部にガンバーラボの皆々様みなみなさまも含まれているとばかり……! 今までは運良く我がジューネ族の恥とも言える事件の話題を出す機会がなかっただけで、その機会さえあれば危うく機密を明かしてしまうところでした……!」

「バニラはジューネ族の研究機関で得られたデータをガンバーラボと共有するのが主な仕事で、そんなに長々と世間話をする機会は今までなかったものね。会えば研究の話ばっかだったし」

 そもそも研究に関係ない話題について話す機会が少なく、その機会があったとしてもわざわざ身内で起こった不祥事の話をしたくはない。
 その不祥事の解決に一役買った俺とロックに会うまでは……ということか。

あやまちをおかす前の僕を止めていただいたのに、責めるようなことを言って申し訳ございませぬ! なんとおびをしたらよいか……!」

「いいの、いいの。私もそこのところ確認が足りていなかったわ。結果的に誰にもバレてはいないし、これからも普段通り過ごせばいいのよ。盟友様って呼び方にもみんな納得してくれたしね」

「流石はシウル殿! 頭が回って心も広いっ! このご恩は一生忘れませぬ!」

「いやぁ……これくらい忘れてくれてもいいんだけど、とりあえず世間でユートはただの『クライム・オブ・ヒーメル』優勝者で、同じギルドに族長の娘がいるだけの関係だってことは忘れないでね」

「はいっ!」

 シウルさんのおかげで危機は乗り切った……。
 俺とロックは改めてバニラに挨拶をする。

「えっと、改めてユート・ドライグです。こっちは相棒でドラゴンのロックです」

「クゥ!」

 俺の右肩に乗っかったロックが前脚を上げて挨拶をする。

「ああ……! ロック様、ユート様……! 光栄です……!」

 ロックの姿をバニラさんは目を輝かせながら見ていた。
 目は口ほどに物を言う。強い目の輝きはバニラさんと俺たちにただならぬ関係があるように思われそうだが……。

 いや、それは魔獣の研究に関わる者として、初めて本物のドラゴンを見たから……ということでごまかせそうだな。

「さあ、挨拶も終わったことだし、ポーラたちに追いつくわよ! ユートたちもジェナスの言うことを聞いておけば間違いはないからね。彼、たまに暴走するけど根っこは真面目な研究者だから」

「わかりました。では、またのちほど」

「クゥ~!」

 女性陣と一度別れ、荷物を置いてからミーティングルームで合流する。
 完全にバニラと距離を取るまで、すごい背中に視線を感じたけど……いや、彼女だって賢い人のはずだ。きっと上手くごまかしてくれる。

「時間があれば、あの乗り物について尋ねたんだけどなぁ」

 あれは明らかに魔鋼兵の技術を取り入れた乗り物だった。
 ジューネ族はどこまで古代技術を実用化しているのか、また暇があったら教えてもらおう。
 今はとにかくシンポジウムを無事乗り切ることを第一に考えよう。
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